アルデンヌクラシックと同じ坂を用いた第2ステージは、雨で集団が大落車を起こす波乱。序盤から逃げに乗ったシルヴァン・シャヴァネル(フランス、クイックステップ)が独走で優勝し、マイヨジョーヌも同時に獲得した。

スタート前に集中力を高める新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム)スタート前に集中力を高める新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム) photo:Kei Tsujiこの日もまた落車によってレースが決定づけられた。リエージュ〜バストーニュ〜リエージュで用いられる坂が後半に登場する第2ステージは、クラシックレーサーの活躍が期待されたが、雨に濡れた狭い道はツールの集団には酷すぎた。

レースは序盤10kmアタックがかかり、8名の選手が抜け出し先頭グループを形成。シルヴァン・シャヴァネル(フランス、クイックステップ)、ジェローム・ピノー(フランス、クイックステップ)、マシュー・ロイド(オーストラリア、オメガファーマ・ロット)、ユルゲン・ルーランズ(ベルギー、オメガファーマ・ロット)、レイン・ターラマエ(エストニア、コフィディス)、セバスティアン・テュルゴー(フランス、Bboxブイグテレコム)、フランチェスコ・ガヴァッツィ(イタリア、ランプレ・ファルネーゼヴィーニ)と脚のある選手が揃った。

シルヴァン・シャヴァネル(フランス、クイックステップ)率いる逃げグループシルヴァン・シャヴァネル(フランス、クイックステップ)率いる逃げグループ photo:Kei Tsujiこの8人は差を広げたものの、メイン集団も強豪選手を警戒。77km地点で差は4分10秒と逃げにはやや厳しいタイム差でレース前半を終える。

201kmのコースの後半100kmからレースは始まる。6つ控える山岳ポイントは、4級と3級が3つずつ。登っては下りを繰り返すそのレイアウトはまさにアルデンヌクラシックのそれ。今ツールで最初に山岳ポイントが設定されるとあって、逃げの中には山岳賞獲得に意欲的な選手も。

スチュアート・オグレディ(オーストラリア、サクソバンク)が牽くメイン集団スチュアート・オグレディ(オーストラリア、サクソバンク)が牽くメイン集団 photo:Kei Tsuji最も積極的だったのはピノー。なんと6つある山岳ポイントの前4つを先頭通過する強さを見せ、登りを2つ残して山岳賞ジャージの獲得を決定。対抗したターラマエとロイドはそれぞれ2位と3位通過を分け合ったが、ピノーの強さに屈した。

しかし集団も逃げる8人を捕まえようとペースを上げる。マイヨジョーヌのファビアン・カンチェラーラ(スイス)擁するサクソバンクがスピードを上げると差はみるみる詰まり始める。4つめの山岳ポイント、161.5km地点のコート・ド・アルソモンで集団は45秒差までにじり寄る。

落車したアンディ・シュレクの集団復帰を試みるサクソバンク。フランク・シュレクが引く落車したアンディ・シュレクの集団復帰を試みるサクソバンク。フランク・シュレクが引く photo:Cor Vosこれを嫌って下りでルーランズがアタック。単独で先頭に立ち、5つめの登りコート・ド・ストッコイに差しかかる。これを追ったのはシャヴァネル。登りでたちまちルーランズを置き去りにして単独先頭に。

シャヴァネルはコート・ド・ストッコイを単独で先頭通過。ルーランズは30秒の遅れ。そしてメイン集団は50秒遅れでこの山頂を通過。そしてゴールまで30kmを残すここの下りで悲劇は起きた。

落車に巻き込まれたアレッサンドロ・ペタッキ(イタリア、ランプレ・ファルネーゼヴィニ)落車に巻き込まれたアレッサンドロ・ペタッキ(イタリア、ランプレ・ファルネーゼヴィニ) photo:Cor Vos狭い道と雨で濡れスリッピーな路面がメイン集団前方の落車を誘発。多くの有力選手がこれに巻き込まれたが、中でも大きくダメージを受けたのはアンディ・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)。手首をしきりに気にし、痛みに顔をしかめなかなか再スタートを切れない。

ようやく再スタートを切ったものの、マッティ・ブレシェル(デンマーク、サクソバンク)のバイクが大きすぎてペースが上がらない。バイク交換をし、集団復帰の態勢が整った時には集団は4分以上前方という厳しい状況に追い込まれた。

独走を開始したシルヴァン・シャヴァネル(フランス、クイックステップ)独走を開始したシルヴァン・シャヴァネル(フランス、クイックステップ) photo:Cor Vosこの落車にはタイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・トランジションズ)、マイヨヴェールを着るアレッサンドロ・ペタッキ(イタリア、ランプレ・ファルネーゼヴィニ)もひどく巻き込まれ再スタートが遅れる事態に。

逃げる選手以外の最前方のメイン集団に残ったカンチェラーラは、集団のペースダウンを提案。自らのマイヨを失うことよりも、アンディの復帰のためにレース全体をコントロールする。この動きのおかげで第2集団に取り残されていたランス・アームストロング(アメリカ、レディオシャック)、アルベルト・コンタドール(スペイン、アスタナ)らもメイン集団に復帰。

ガッツポーズでゴールに向かうシルヴァン・シャヴァネル(フランス、クイックステップ)ガッツポーズでゴールに向かうシルヴァン・シャヴァネル(フランス、クイックステップ) photo:Kei Tsujiサクソバンク懸命の牽引もあって、残り15km地点でアンディはなんとか集団に戻った。最後は兄フランクともども全開の引きで集団に追いついた。アンディの復帰後もメイン集団はペースがあがらず、道路横いっぱいにひろがったままスローペースで進んでいく。

思わぬ形で幸運なチャンスにめぐり合わせたのは単独で先頭を走るシャヴァネルだ。一時は1分を切ったタイム差も、残り12km地点のロジエ峠山頂で2分48秒にひろがった。本日最後のこの峠を越えて、シャヴァネルは区間優勝を目指してただペダルを踏み込む。

ファビアン・カンチェラーラ(スイス、サクソバンク)が先導してメイン集団は横一列でゴールファビアン・カンチェラーラ(スイス、サクソバンク)が先導してメイン集団は横一列でゴール photo:Cor Vos下りでもメイン集団のペースは上がらない。マイヨジョーヌのカンチェラーラはオーガナイザーの車まで下がり、今日のステージで集団スプリントをしないことを提示。度重なる落車で士気の下がった集団全体の意志を尊重するよう求める。

最後まで踏み込んだシャヴァネルがゴール。ネックレスにキスをし、2008年以来2度目となるステージ優勝を遂げた。横一列でやってきたメイン集団は、カンチェラーラが「横一列で」というジェスチャーをしながらゴール。シャヴァネルから遅れること実に3分56秒。

マイヨジョーヌに袖を通すシルヴァン・シャヴァネル(フランス、クイックステップ)マイヨジョーヌに袖を通すシルヴァン・シャヴァネル(フランス、クイックステップ) photo:Kei Tsujiこれによりマイヨジョーヌはシャヴァネルの手に。フランス人にとって誰もが夢見るマイヨにキャリアで初めて袖を通すことになった。シャヴァネルは今春リエージュ〜バストーニュ〜リエージュでゴール前で落車し、脳しんとうで病院へ搬送。ツール出場は絶望視されていた。しかし、ツールへ脅威の意志を見せ復帰、ベルギーステージのこの日、美しすぎるリベンジを達成した。

総合上位を狙う選手たちはシュレク兄弟を含め全員集団内でゴール。新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム)もこの中で111位でゴールしている。

翌第3ステージは今大会最注目ステージのひとつ。パリ〜ルーベに捧げられるパヴェが登場する。クラシックのコースにツールの方法論を適用するとひずみが生じることが判明したこの日のステージを受けて、各チームともより戦略を練って臨んでくるだろう。果たして選手の総合優勝の夢を砕くパヴェとなるか。

ツール・ド・フランス2010第2ステージ結果
1位 シルヴァン・シャヴァネル(フランス、クイックステップ)  4h40'48"
2位 マキシム・ブエ(フランス、アージェードゥーゼル)      +3'56"
3位 ファビアン・ウェーグマン(ドイツ、チームミルラム)
4位 ロビー・マキュアン(オーストラリア、カチューシャ)
5位 クリスティアン・クネース(ドイツ、ミルラム)
6位 ユルゲン・ルーランズ(ベルギー、オメガファーマ・ロット)
7位 トル・フースホフト(ノルウェー、サーヴェロ・テストチーム)
8位 リーナス・ゲルデマン(ドイツ、チームミルラム)
9位 マチュー・ラダニュ(フランス、フランセーズデジュー)
10位 ベルンハルト・アイゼル(オーストリア、チームHTC・コロンビア)
111位 新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム)           

マイヨジョーヌ(個人総合成績)
1位 シルヴァン・シャヴァネル(フランス、クイックステップ)   10h01'25"
2位 ファビアン・カンチェラーラ(スイス、サクソバンク)      +2'57"
3位 トニ・マルティン(ドイツ、チームHTCコロンビア)       +3'07"
4位 デーヴィット・ミラー(イギリス、ガーミン・トランジションズ) +3'17"
5位 ランス・アームストロング(アメリカ、レディオシャック)    +3'19"
6位 ジェレイント・トーマス(イギリス、チームスカイ)       +3'20"
7位 アルベルト・コンタドール(スペイン、アスタナ)        +3'24"
8位 リーヴァイ・ライプハイマー(アメリカ、レディオシャック)   +3'25"
9位 エドヴァルド・ボアッソン(ノルウェー、チームスカイ)     +3'29"
10位 リーナス・ゲルデマン(ドイツ、チームミルラム)       +3'32"
112位 新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム)            +4'19"

マイヨヴェール(ポイント賞)
1位 シルヴァン・シャヴァネル(フランス、クイックステップ)44pts
2位 アレッサンドロ・ペタッキ(イタリア、ランプレ・ファルネーゼヴィニ)35pts
3位 ユルゲン・ルーランズ(ベルギー、オメガファーマ・ロット)34pts

マイヨアポワ(山岳賞)
1位 ジェローム・ピノー(フランス、クイックステップ)13pts
2位 シルヴァン・シャヴァネル(フランス、クイックステップ)8pts
3位 レイン・ターラマエ(エストニア、コフィディス)8pt

マイヨブラン(新人賞)
1位 トニ・マルティン(ドイツ、チームコロンビア・HTC)10h04'32"
2位 ジェレイント・トーマス(イギリス、チームスカイ)+13"
3位 エドヴァルド・ボアッソン(ノルウェー、チームスカイ)+22"

チーム総合成績
1位 クイックステップ 30h11'40"
2位 レディオシャック   +2'51"
3位 チームHTCコロンビア +2'52"


text:Yufta Omata
photo:Kei Tsuji,Cor Vos