誰もが「ワンミスが命取りになる」と口を揃えた高速コースのシクロクロスW杯第10戦。エリ・イゼルビット(ベルギー、パウェルスサウゼン・ビンゴール)を最後の最後で逆転したトーマス・ピドコック(イギリス、イネオス・グレナディアーズ)が自身初のW杯勝利を掴み取った。



雪のイタリアラウンドから1週間。主戦場であるベルギー/オランダに戻ったUCIシクロクロスワールドカップは、土曜日に第10戦ルクフェン(オランダ)、日曜日に第11戦ナミュールと2連戦の週末へ。バロワーズ・トレック・ライオンズ勢などイタリアをスキップした面々も再集結し、まずはルクフェンのセミウェットコースでハイスピードバトルを繰り広げた。

ルクフェンの陸上トラック周辺の平坦区間を使ったコース長は1周3,000m。小さなキャンバーの上り下りや細かいターンが連続するコースはうっすらと雨に濡れ、男女レースともワンミスが命取りになる緊張感溢れるマッチレースを演出することとなる。



フォスがブラントとの一騎打ちを制する

先頭争いを繰り広げるルシンダ・ブラント(オランダ、バロワーズ・トレック・ライオンズ)とマリアンヌ・フォス(オランダ、ユンボ・ヴィスマ)	先頭争いを繰り広げるルシンダ・ブラント(オランダ、バロワーズ・トレック・ライオンズ)とマリアンヌ・フォス(オランダ、ユンボ・ヴィスマ) photo:CorVos
アメリカ選手権を2連覇し欧州にとんぼ返りしたクララ・ホンシンガー(キャノンデール/シクロクロスワールド)が最前列に並んだ女子エリートレースは。マリアンヌ・フォス(オランダ、ユンボ・ヴィスマ)が抜群のダッシュで先行。飛ばしに飛ばす元女王には、元女王ルシンダ・ブラント(オランダ、バロワーズ・トレック・ライオンズ)が食らいついた。

やがてフェム・ファンエンペル(オランダ、パウェルスサウゼン・ビンゴール)とパック・ピーテルス(オランダ、アルペシン・フェニックス)が約2周半をかけて新旧女王コンビを捉え、ペースが落ちたことでデニセ・ベッツェマ(オランダ、パウェルスサウゼン・ビンゴール)とアンマリー・ワースト(オランダ、777)も合流。オランダ勢ばかり6名が先頭グループを組む中、ペースを上げたのはベッツィマだった。

ベッツィマのペースアップで隊列が縦に伸び、全7周回中の6周目には抜け出しを試みる。しかしそれを冷静に潰し、カウンターで仕掛けたのはフォス。この動きでは先頭グループはブラント、フォス、そしてベッツィマという3人に絞られ、そのまま最終周回の勝負所へ。ベッツィマを振り落としたブラントとフォスが、互いに加速を続けながらフィニッシュまでの距離を減らしていった。

スプリントで勝利したマリアンヌ・フォス(オランダ、ユンボ・ヴィスマ)スプリントで勝利したマリアンヌ・フォス(オランダ、ユンボ・ヴィスマ) photo:CorVos
UCIシクロクロスワールドカップ2021-2022第11戦 女子表彰台UCIシクロクロスワールドカップ2021-2022第11戦 女子表彰台 photo:CorVos
コース終盤にある2連シケインはフォスが先頭で抜け再乗車したものの、ブラントも直後の右コーナーで強引に先頭を奪い戻す。ラインを潰されたフォスがペダルキャッチに失敗し勝負あったかに思われたものの、最終ストレート上のスプリントでブラントを捉え、そのままパス。うなだれるアルカンシエルの目前で、フォスがつから強く両手を振り上げた。

短いオフを挟み、重要レースが続くCXシーズン後半戦に向け再始動した女王が勝利。「最後はルシンダだけを見て全力だった。ワンミスで勝負が決する高速レース。幸い勝てるだけの脚が残っていてよかった」とフォスは話している。



手に汗握る逆転劇 ピドコックが8年ぶりの非ベルギー/オランダ勢によるW杯勝利

ホールショットを決めたラース・ファンデルハール(オランダ、バロワーズ・トレック・ライオンズ)ホールショットを決めたラース・ファンデルハール(オランダ、バロワーズ・トレック・ライオンズ) photo:CorVos
ラース・ファンデルハール(オランダ、バロワーズ・トレック・ライオンズ)のホールショットが決まった男子エリートは、ファンデルハールとマチューの兄デーヴィッド・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・フェニックス)が先行。世界選手権制覇を見据えるトーマス・ピドコック(イギリス、イネオス・グレナディアーズ)が出場した男子エリートは序盤遅れていたものの、全9周回中の4周目に入るタイミングで複数名の先頭グループに追いついた。

ピドコックは続けざまにペースアップを行い、クィンティン・ヘルマンス(ベルギー、トルマンス・サーカスCXチーム)らと共に主導権を奪い取る。決まりどころに欠く高速コースのため、大人数の先頭グループが後半戦まで保たれた。

10番手以降から追い上げるトーマス・ピドコック(イギリス、イネオス・グレナディアーズ)10番手以降から追い上げるトーマス・ピドコック(イギリス、イネオス・グレナディアーズ) photo:CorVos降車区間で足を滑らせたエリ・イゼルビット(ベルギー、パウェルスサウゼン・ビンゴール)降車区間で足を滑らせたエリ・イゼルビット(ベルギー、パウェルスサウゼン・ビンゴール) photo:CorVos

アタックし、数秒のリードを稼いだエリ・イゼルビット(ベルギー、パウェルスサウゼン・ビンゴール)アタックし、数秒のリードを稼いだエリ・イゼルビット(ベルギー、パウェルスサウゼン・ビンゴール) photo:CorVos
全9周回中の6周目に入るとランキングリーダーのエリ・イゼルビット(ベルギー、パウェルスサウゼン・ビンゴール)が加速して2,3秒のリードを得たものの、深く柔らかいサンドセクションで失速し追走していたピドコックに捉えられる。ペースの上げ下げが繰り返される中、8周目にはイゼルビットとチームメイトのマイケル・ファントーレンハウト(ベルギー、パウェルスサウゼン・ビンゴール)が飛び出した。

逃げる2人と、追走を率いるピドコックの差は3秒から4秒。最終周回後半区間に入ってもなお先行する2人が勝利を引き寄せたかに思えたものの、ピドコックは得意のテクニカルセクションでファントーレンハウトを抜き、そしてイゼルビットの背中をキャッチ。鮮やかなライン取りで連続コーナー区間でスピードを乗せ、続く2連シケインのバニーホップでイゼルビッドをパス。ピドコックが「僕の背後にいると思ったのに、突然横に現れて驚いた」と言うライバルを大きな速度差で抜き、そのままフィニッシュラインまで逃げ切った。

イゼルビッドを退け、自身初のW杯勝利を遂げたトーマス・ピドコック(イギリス、イネオス・グレナディアーズ)イゼルビッドを退け、自身初のW杯勝利を遂げたトーマス・ピドコック(イギリス、イネオス・グレナディアーズ) photo:CorVos
UCIシクロクロスワールドカップ2021-2022第11戦 男子表彰台UCIシクロクロスワールドカップ2021-2022第11戦 男子表彰台 photo:CorVos
CXシーズンインのスーパープレスティージュ・ボームで7位、続く雪のイタリアで3位表彰台に入っていたピドコックがシーズン3戦目にして、自身初のUCIワールドカップ勝利。2013年12月にフランシス・ムレー(フランス)が勝利して以降、8年近くベルギー/オランダ勢だけが支配していたW杯表彰台の頂点を、ユニオンジャックを纏うオリンピックMTBチャンピオンが奪取した。

「コーナーでたくさんミスをしていたので追い上げるのが難しかった。毎周回マイケルとエリに対して追走してキツかったけれど、諦めずに追い、最後のシケインでエリがミスを出した。僕は最終周回に集中を切らさずミスを出さなかったんだ。初めてで、エリートで初のW杯勝利。いい日になったよ。今日の疲れから早くリカバリーして明日(のW杯第11戦)に備えたい」とピドコックは話している。
UCIシクロクロスワールドカップ2021-2022第10戦 女子結果
UCIシクロクロスワールドカップ2021-2022第10戦 男子結果
text:So Isobe
photo:CorVos