Jツアー第8戦に優勝した野寺秀徳(シマノレーシング)に、2002年のジロ・デ・イタリアの完走から今に至るまで、そして1週間後の全日本に向けての考えを聞いた。唐見実世子、ブリヂストンアンカーコーチの久保信人氏の話も合わせて掲載する。

最後の実業団レースに臨む野寺秀徳(シマノレーシング)最後の実業団レースに臨む野寺秀徳(シマノレーシング) photo:Hideaki.TAKAGI最後の実業団レースで優勝の野寺秀徳(シマノレーシング)
―今日はどういう走りをしようと?
「今日最後ということで、もし勝てたら最高だけどそれは難しいし、チームメイトも強いし。まずはチームが勝つことを考えてスタートしました。実業団での最後のレースなので、今日は今までよりも集中力が凄く出た。もしアシストの立場でも全力で終えたかった。だから前へ出ました」

スプリントができるだけの脚を残していた
―決まった逃げにはチームメイトはあと一人だけでしたね
「2回目の逃げが決まったとき、ブリヂストンアンカーが圧倒的にいたので人数的には不利だけど、08年に全日本で勝ったときもそうだったけれど、人数が少ないからこそ落ち着いていくしかないという走りができた。上りでの彼らの脚を見てて、もしかしたら自分に勝つチャンスが巡ってくるかもと思いました。上りで少し踏んだらきつい顔をしている人がたくさんいた。次の周回にアタックしたらばらけたので、そして本気のアタックをしました」

「他選手のアタックに対しては落ち着いて対応して、アタックした選手が消耗する走りにした。ユー・キホンとはアジアツアーとかで回っていて知っています。地脚がある選手なので、共に逃げるならばこの上ない選手。お互い気心も知っているし。アタックしたら彼は離れたけれども、ゴールまではまだ数キロあるので安心はできなかった。後を見たら畑中が来たのでもう大丈夫だと思った。来るとしたらシマノの選手だと思ったし、そうでなくてもボクはスプリントができるだけの脚を残していた。スプリントになれば負ける選手は今回の参加選手の中では思いつかなかったです」

8周目上り、野寺秀徳(シマノレーシング)がアタック8周目上り、野寺秀徳(シマノレーシング)がアタック photo:Hideaki.TAKAGIこの2年間、アシストに徹してきた
―2年前の全日本選手権に勝ったその後、自分が勝てるチャンスをあえて若手に託していたのでは?
「確かにここ最近実業団レースで自分から勝ちに行くことはありませんでした。良く言えばそうだし、若手も強くなって勝てるようになったので、アシストとしての走りに徹していました」
「自分が勝つ力がなくなってきているのかな、と感じていました。勝ちに対する執着心が徐々になくなっているのかなとも。そしてチームのために走る喜びも感じていました。もちろんどんなレースでも勝ちたいと思っていたし、ボク以外にチームで勝てる選手がいればそれでもいいです」

08年の全日本選手権ロード。2度目のチャンピオンになった野寺秀徳(シマノレーシング)08年の全日本選手権ロード。2度目のチャンピオンになった野寺秀徳(シマノレーシング) photo:HIdeaki.TAKAGIジロのあと、つぶれた状態で帰国した
―ジロに2回出ていますね
「ジロに出たときはもちろん全力で世界にぶつかっていって、つぶれてもいいと思ってトレーニングもレースもしました。そして本当につぶれたような状態になって日本に帰ってきました」
「自分が夢描いていた場所から下の段階に戻って、プライドなどが邪魔をして、なかなか日本のレースを楽しみきれないところがありました。体も動かないし、早めに引退と言う言葉もちらついた時もありました。でもその後に吹っ切れました。この日本を中心としたレース活動の素晴らしさを感じました。成長途中の選手と一緒にやる素晴らしさ、みんな純粋に強くなりたい、ドーピングの問題もないし。日本のファンもどんどん増えてきて、ここまで続けてきて本当に良かったです」

「ボクほど幸せな自転車人生を送ってこれた人もなかなかいない」野寺秀徳(シマノレーシング)「ボクほど幸せな自転車人生を送ってこれた人もなかなかいない」野寺秀徳(シマノレーシング) photo:HIdeaki.TAKAGIプレッシャーを楽しめるのはあと1回
―あとレースは1回だけですね
「今日のレース終盤で、周りを見てこれは僕が勝ちに行くしかないと考えました。重責・プレッシャーをここで味わえたのは素晴らしいこと。このプレッシャーはレースを終えたら味わえないんです。プレッシャーを楽しめるようになったのは年がいってから。今日それを味わえたのは嬉しい。あと1回ですね」

「ボクほど幸せな自転車人生を送ってこれた人もなかなかいないと思う、と自分で思っています。こういう状態で終われて嬉しい。みんなから声をかけていただけて。自分が夢描いていたような選手生活を送れて本当に良かったです」
「全日本はそれこそ何百何千通りの展開があると思うので、あまり深く考えず、今のチームの持っている力を集中すれば勝つチャンスは見えてくる。僕自身も調子が上がっているので、最後まであきらめない集中力を出し切って、選手生活の集大成としてレースを走りたい。その前に今日1勝できて最高です。本当に嬉しかった。ちょっと涙が出ました」


今日はごまかしながら走りました
FR優勝の唐見実世子(MUUR ZERO)
―優勝は久しぶりですね
「レースで走るのは去年の全日本以来では、5月の広島県ロード、そして熊野です。今日はごまかしながらで結果優勝ですね。萩原選手などが来るとスピードが上がってごまかせなくなる」
「今日は3周だったのでよかったですが、全日本は7周ですからね。3月末頃から乗り出して1日最大で3時間程度です。実業団のレースは確か勝ったことがないんです。今日は勝てるとも表彰台に乗れるとも思っていなかった。熊野では集団にさえつけなかったです。レースで刺激が入ったので走れましたね」

ワン・ツー・スリーを考えていた
チームブリヂストン・アンカー(ブリヂストン・エスポワール)の久保信人コーチ
―今日の走りは?
「勝つことができたので最低限はいいかと思います。事前のミーティングでは最低でもワンツースリーを指示していましたが。序盤にメンバー5人が入った逃げがあったときに、ほかを気にせず自分達だけで先頭交代をして逃げ続ければよかった。それが課題ですね。フランスでいい走りをしてきたのでその走りを見せないといけない」
―ゴール直後は厳しい声をかけていましたが?
「もったいないんです。せっかく力があるのに無駄にしている。もっといい走りをすればいい結果も出ます。」
―全日本選手権は?
「全日本は5名がU23で走ります。もちろん目標は優勝。力を出し切ればいい結果がおのずと出ると思います。今日の反省材料を糧にして、臆病な走りをせずに思い切り走らせたいです」

photo&text:高木秀彰