2010年6月20日、ツール・ド・スイス(UCIプロツアー)第9ステージ個人タイムトライアルが行なわれ、優勝候補カンチェラーラを17秒差で下したトニ・マルティン(ドイツ、チームHTC・コロンビア)がステージ優勝。苦手なTTで13位に入る健闘を見せたフランク・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)が逆転総合優勝に輝いた。

ステージ2位のファビアン・カンチェラーラ(スイス、サクソバンク)ステージ2位のファビアン・カンチェラーラ(スイス、サクソバンク) photo:Cor Vosツール・ド・スイス最終日は、前日のゴール地点リースタルを舞台にした個人タイムトライアル。コース全長は26.9kmで、中盤に標高差200mほどの上りを越える。ツール・ド・フランス前の重要な「脚試し」として、オールラウンダーたちの走りに注目が集まった。

全日程を通して天候に恵まれなかった今年のツール・ド・スイス。最終日も例外ではなく、一日を通して厚い雲が空を覆った。気まぐれな雨によって濡れた路面を、選手たちはグリップを確かめながら慎重に走ることになる。

スタート台を駆け下りるフランク・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)スタート台を駆け下りるフランク・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク) photo:Cor Vosレース中盤に暫定トップタイムを叩き出したのは、すでに総合で30分以上遅れていたファビアン・カンチェラーラ(スイス、サクソバンク)。昨年の最終個人TTで優勝し、逆転総合優勝に輝いたカンチェラーラのタイムは32分38秒。地元の期待を背負う本命は、後続の走りを待った。

アメリカチャンピオンのデーヴィット・ザブリスキー(アメリカ、ガーミン・トランジションズ)やグスタフエリック・ラーション(スウェーデン、サクソバンク)も好走したが、カンチェラーラのタイムには届かず。

リーダージャージを着るロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク)がスタートリーダージャージを着るロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク)がスタート photo:Cor Vos前半抑え気味にスタートした総合14位のマルティンは、後半の下り&平坦区間で猛烈なスパート。マルティンはビッグギアを踏み抜き、カンチェラーラを17秒上回るトップタイムでゴールに飛び込む。平均スピードは49.89km/h。見事ステージ優勝に輝いた。

マルティンはチームHTC・コロンビア公式サイトの中で「この勝利は予想していなかった。ここ数日は体調が思わしくなくて、今日も天候が悪かったから、ステージ優勝のチャンスは小さいと思っていた。でもモチヴェーションは高くて、出来る限りの走りをしたいと願っていたんだ。後半の追い込みが、ライバルたちとの差になって現れたんだと思う」とコメント。

今年マルティンはツアー・オブ・カリフォルニアの33.6km個人タイムトライアルでも優勝している。今回のコースはカリフォルニアのコースと似ていたとマルティンは振り返る。「前回も今回も、直線基調でコーナーが少なく、一定ペースで走り続けることが出来るコースだった。前半の上り区間では少しタイムを失ったけど、そこで力をセーブして、後半に全てをぶつける。その戦略が功を奏したんだ」。マルティンは最終的に総合6位でレースを終えた。

トップタイムを叩き出したトニ・マルティン(ドイツ、チームHTC・コロンビア)トップタイムを叩き出したトニ・マルティン(ドイツ、チームHTC・コロンビア) photo:Cor Vos逆転総合優勝を懸けて走るランス・アームストロング(アメリカ、レディオシャック)逆転総合優勝を懸けて走るランス・アームストロング(アメリカ、レディオシャック) photo:Cor Vosステージ13位の好走で逆転総合優勝に輝いたフランク・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)ステージ13位の好走で逆転総合優勝に輝いたフランク・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク) photo:Cor Vos


そして、白熱したのが総合争い。リーダージャージのヘーシンクから1分以内に7名がひしめく混戦状態であり、しかもTTを得意とするランス・アームストロング(アメリカ、レディオシャック)が55秒遅れの総合7位。どの選手も総合逆転or総合ジャンプアップを懸け、全力で26.9kmを駆け抜けた。

アームストロングは前半少し出遅れたが、後半にかけて盛り返し、トップから1分09秒遅れとまずまずのタイムでゴール。逆転総合優勝に望みを繋いだ。

逆転総合優勝に輝いたフランク・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)逆転総合優勝に輝いたフランク・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク) photo:www.tourdesuisse.chしかしそのアームストロングの望みを打ち砕いたのは、1分14秒の好タイムでゴールしたフランク・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)だ。決して得意ではない個人TTでアームストロングから僅か5秒遅れに入ったシュレクは、暫定で総合トップに立つ。

リーダージャージキープに意気込みを見せていたヘーシンクだったが、上りで苦しみ、平地でタイムを伸ばせない。結局最後までペースを上げることが出来ず、トップのマルティンから2分19秒遅れでゴール。総合でシュレク、アームストロング、フグルサング、モラビートに抜かれ、総合5位に陥落してしまった。

表彰台、左から2位ランス・アームストロング(アメリカ、レディオシャック)、優勝フランク・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)、3位ヤコブ・フグルサング(デンマーク、サクソバンク)表彰台、左から2位ランス・アームストロング(アメリカ、レディオシャック)、優勝フランク・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)、3位ヤコブ・フグルサング(デンマーク、サクソバンク) photo:Cor Vosこれによりシュレクの逆転総合優勝が決まった。サクソバンクは前年のカンチェラーラに続く大会2連覇を達成。シュレクはルクセンブルク人として初の総合優勝に輝いた。

「これほど良い走りが出来たことに少し驚いているよ。同じにチームファビアン・カンチェラーラというスペシャリストがいるので、彼からいつもタイムトライアルの秘訣を知ることが出来る。スタート前に彼は僕に(総合逆転は)可能だと言ってくれたんだ。ツール・ド・フランス直前の時期の勝利は大きな意味が有る」。今回の勝利でサクソバンクの士気は高まっていることだろう。

また、シュレクは、2日前に心臓発作の疑いで倒れ、病院に搬送されたキム・キルシェン(ルクセンブルク、カチューシャ)を心配するコメントを残している。「総合優勝は嬉しい。でも(同じルクセンブルク出身の)キム・キルシェンとその家族のことが気がかりで仕方が無い」。キルシェンは搬送先の病院で麻酔による昏睡状態に置かれている。妻は双子を妊娠中で、6月24日が出産予定日。キルシェンの一刻も早い回復を祈りたい。

選手コメントは各チーム公式サイトより。


ツール・ド・スイス2010第9ステージ結果
1位 トニ・マルティン(ドイツ、チームHTC・コロンビア)32'21"
2位 ファビアン・カンチェラーラ(スイス、サクソバンク)+17"
3位 デーヴィット・ザブリスキー(アメリカ、ガーミン・トランジションズ)+28"
4位 グスタフエリック・ラーション(スウェーデン、サクソバンク)+47"
5位 リーヴァイ・ライプハイマー(アメリカ、レディオシャック)+48"
6位 アンドレアス・クレーデン(ドイツ、レディオシャック)+52"
7位 ヤコブ・フグルサング(デンマーク、サクソバンク)+1'02"
8位 マキシム・モンフォール(ベルギー、チームHTC・コロンビア)
9位 ワウテル・ポエルス(オランダ、 ヴァカンソレイユ)
10位 ステイン・デヴォルデル(ベルギー、クイックステップ)+1'07"
11位 ランス・アームストロング(アメリカ、レディオシャック)+1'09"
13位 フランク・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)+1'14"
20位 ロマン・クロイツィゲル(チェコ、リクイガス)+1'33"
21位 スティーブ・モラビート(スイス、BMCレーシングチーム)+1'39"
24位 トーマス・ロヴクヴィスト(スウェーデン、チームスカイ)+1'52"
28位 リゴベルト・ウラン(コロンビア、ケースデパーニュ)+1'56"
31位 アンディ・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)+2'09"
40位 ロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク)+2'19"

個人総合成績
1位 フランク・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)35h02'00"
2位 ランス・アームストロング(アメリカ、レディオシャック)+12"
3位 ヤコブ・フグルサング(デンマーク、サクソバンク)+17"
4位 スティーブ・モラビート(スイス、BMCレーシングチーム)+23"
5位 ロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク)+27"
6位 トニ・マルティン(ドイツ、チームHTC・コロンビア)
7位 リゴベルト・ウラン(コロンビア、ケースデパーニュ)+33"
8位 アンドレアス・クレーデン(ドイツ、レディオシャック)+48"
9位 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)+1'09"
10位 リーヴァイ・ライプハイマー(アメリカ、レディオシャック)+1'14"
11位 グスタフエリック・ラーション(スウェーデン、サクソバンク)+1'20"
12位 トーマス・ロヴクヴィスト(スウェーデン、チームスカイ)+1'38"
13位 オリバー・ザウグ(スイス、リクイガス)+1'46"
14位 アンディ・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)+1'57"
15位 マッテーオ・カラーラ(イタリア、ヴァカンソレイユ)
16位 ロマン・クロイツィゲル(チェコ、リクイガス)+2'05"
17位 ステイン・デヴォルデル(ベルギー、クイックステップ)+2'12"
18位 マキシム・モンフォール(ベルギー、チームHTC・コロンビア)+3'13"
19位 ニコラス・ロッシュ(アイルランド、アージェードゥーゼル)+4'36"
20位 セルゲイ・ラグティン(ウズベキスタン、ヴァカンソレイユ)+4'47"

スプリント賞
マティアス・フランク(スイス、BMCレーシングチーム)

山岳賞
マティアス・フランク(スイス、BMCレーシングチーム)

ポイント賞
マークス・ブルグハート(ドイツ、BMCレーシングチーム)

チーム総合成績
サクソバンク

text:Kei Tsuji
photo:Cor Vos

最新ニュース(全ジャンル)