イタリアンアルプスのスキーリゾートであるヴァル・ディ・ソーレにてMTB世界選手権が開幕した。MTB大国フランスとスイスの総力戦や、次世代の選手たちの台頭。日本勢も参加するクロスカントリー種目のレースプレビューをお伝えする。



2021年の世界選手権からXCCが正式種目化

ヴァル・ディ・ソーレバイクパークで開幕したMTB世界選手権ヴァル・ディ・ソーレバイクパークで開幕したMTB世界選手権 photo:Val di Sole 2021
本大会からは公式種目としてXCショートトラック(XCC)が開催されることとなった。これまでのワールドカップイベントではXCOレースのスタート順を決定する為のレースという色合いの濃かった同種目だが、アルカンシェルが取得できる独立した種目となった点が、前年までとの大きな変更点である。これを以て、XC部門ではXCO、XCC、XCリレー、E-MTBの3カテゴリーのレースが実施される。

XCC男子では既に予選が2ヒート実施されており、本日26日(木)に40人での決勝が実施される。XCOが28日(土)に開催されることもあり、フランスやスイスのエース選手は参加を見送っている状況ではあるが、決勝のスタートリストにはヘンリケ・アバンチーニ(ブラジル)、アントン・クーパーとサムエル・ゲイズ(共にニュージーランド)、アラン・ハースリー(南アフリカ)、オンドレイ・シンク(チェコ)等のトップライダーがスタートリストに名を連ねており、初代チャンピオンを争う。

女子のXCCは本番一発勝負でレースが実施される。殆どのトップライダーがスタートリストに名を連ねている事から、ワールドカップイベント同様に戦略的かつハイスピードな集団レースが展開される事が予想される。

本命のXCOのコースレイアウト

会場となるヴァル・ディ・ソーレはMTBパークが常設されているスキーリゾートであり、メイン会場が急峻なスキー場のゲレンデ下部に設定されている。その為、自然の地形をフルに活かしたレイアウトがなされており、パワーを要求される急斜面のヒルクライムとゲレンデを横切るハイスピード区間、MTBパークにセットされているロックセクションやジャンプセクションがバランスよく配置されている。

ゲレンデに設置された下りセクション。複数のラインチョイスが用意されているゲレンデに設置された下りセクション。複数のラインチョイスが用意されている photo:Val di Sole 2021
トップライダーのSNSやコメントを見ると、「クラッシックなMTBレーストラック」との評であり、ワールドカップレースが例年実施されていることから、近年の世界レベルの中では平均的なコースであるという。優勝候補の1人と目されるマティアス・フルッキガーは「世界チャンピオンを決める上で最高のコースだ」とコメントしている。

ワールドカップと本大会は細かな部分のレイアウトは異なるが、2019年までのワールドカップでの傾向から見れば、ヒルクライム能力に長けた選手とテクニックに利がある選手の双方がそれぞれの得意なセクションでリードを奪い合い、最終局面まで勝負の行方が読めない展開のレースとなる事が多い。ロックセクションは複数のライン選択が可能であり、観戦者としてはスリリングかつエキサイティングなレースが繰広げられる事が予想される。

クロスカントリーコースのレイアウトと高低差クロスカントリーコースのレイアウトと高低差 photo:Val di Sole 2021
なお、同コースで行われた2019年のワールドカップは、男子エリートのトップ3はマチュー・ファンデルプール、マティアス・フルッキガー、ニノ・シューター。女子エリートは、ポリーヌ・フェランプレヴォ、ヨランダ・ネフ、ジェニー・リズベッツと言った面々であり、特に女子レースではフェランプレヴォとネフがそれぞれ得意なパートでアタックを繰り返し、最終的にゴールスプリントでフェランプレヴォが優勝をするという接戦が展開された。

そう言った面で、「テクニカル&ショートクライム」と言った色合いが強かった東京五輪よりも各選手の実力がよりフェアに反映される、総合的な走力を競う「クラシック(定番)」なコースであると思われる。

男子はファン待望の本命2名が不在 熾烈を極めるであろうアルカンシェル争い

フランスはXCCの優勝記録を7に伸ばし、タイ記録だったスイスを上回ったフランスはXCCの優勝記録を7に伸ばし、タイ記録だったスイスを上回った photo:Val di Sole 2021
東京五輪で話題を奪った金メダリストのトーマス・ピドコックとマチュー・ファンデルプールというスター選手2人は今回の世界選手権参加を見送った。ピドコックはブエルタ・ア・エスパーニャへの参戦を優先し、マチューは東京五輪の落車の影響から完全復調とは至らず、シーズン終盤のロード世界選やパリ~ルーベ、シクロクロスシーズンに備えるという。

この、ある意味チャンスと言えるアルカンシェル争いは例年にも増して激しく、多くの選手が積極的なチャレンジをしてくるレースとなるであろう。特に2020年の世界選手権でチームとして圧倒的な結果を残すも、東京五輪では不本意なメダル無しに終わったフランス勢は挽回に燃えている。男子エリートにはジョーダン・サルー、ヴィクトール・コレツキー、マキシム・マロッテと言ったエースメンバーを中心に8名でのエントリーをしている。

ワールドカップリーダー、五輪銀メダリストのマティアス・フルッキガー(スイス)ワールドカップリーダー、五輪銀メダリストのマティアス・フルッキガー(スイス) (c)UCI
誰よりも勝ち方を知るニノ・シューター(スイス)誰よりも勝ち方を知るニノ・シューター(スイス) photo:Nobuhiko Tanabe今季フルッキガーとライバル関係にあるオンドレイ・シンク(チェコ)今季フルッキガーとライバル関係にあるオンドレイ・シンク(チェコ) (c)UCI


対抗するは、ニノ、マティアスのダブルエースを擁するスイス勢と、登坂での強さが際立つオンドレイ・シンクやアントン・クーパーらの表彰台常連メンバーと言ったところか。

チームリレーではこれまでフランスとスイスが互いに優勝記録を6ずつ分け合っていたものの、昨日開催されたレースではフランスが勝利。勝利数を7に伸ばしてスイスを一つ上回り、アルカンシエルと金メダルを奪取済み。弾みをつけて五輪リベンジと世界選連覇を狙う。

東京五輪の表彰台を独占したスイス。選手層の厚さは随一東京五輪の表彰台を独占したスイス。選手層の厚さは随一 photo:CorVos
3連覇に挑むポリーヌ・フェランプレヴォ(フランス)3連覇に挑むポリーヌ・フェランプレヴォ(フランス) (c)UCIW杯第3戦で2位のラウラ・スティッガー(オーストリア)。ルコント不在の中で結果を出せるかW杯第3戦で2位のラウラ・スティッガー(オーストリア)。ルコント不在の中で結果を出せるか (c)UCI


女子エリートは、2019年、2020年と世界選連覇中のフェランプレヴォと、東京五輪金メダリストのネフとの再戦を軸とした戦いとなるだろう。東京五輪では転倒とパンクに見舞われたフェランプレヴォだったが、五輪後もセルビアで合宿を行い、キャリア最高のコンディションを維持しているとのこと。持ち味である圧倒的な登坂力を武器に世界選3連覇の期待が掛かる。

五輪で活躍出来なかったジェニー・リズベッツ、ケイト・コートニー、ラウラ・スティガー、レベッカ・マッコーネルら、総合能力の高い選手達がどのようにレースに絡んでくるのかに注目したい。なお、フランス期待の星であり、現U23世界チャンピオンのロアナ・ルコントはコンディション不良により本大会をスキップ。ワールドカップの連続優勝を狙うという。

レースの鍵となるポイント:登坂区間でのポジショニングが後半の体力に影響する

登坂区間でのポジショニングが鍵登坂区間でのポジショニングが鍵 photo:Val di Sole 2021
ヴァル・ディ・ソーレのコースは全体的にナローなコース設定であり、急峻な登坂区間にはスキー場特有の岩や根のギャップが連続するエリアが多い為、レース前半の集団内で自身や前走車のミスなどで引っ掛かってしまうと、不利な流れに引きずりこまれてしまいがち。そのため、登坂区間をスムースに走破出来るポジショニングと登坂でのテクニックの巧拙がレース展開に大きな影響を与え、後半のアタック合戦を左右するだろう。ダウンヒルのテクニックだけでなく、各選手のレース展開の上手さにも注目したい。

日本選手団は中長期的な強化方針を見据えU23を中心の選手編成

北林力(Dream Seeker MTB Racing Team)北林力(Dream Seeker MTB Racing Team)
女子は小林あか里(中央、CMC/Aigle)と川口うらら(右、日本体育大学)の2名が参加女子は小林あか里(中央、CMC/Aigle)と川口うらら(右、日本体育大学)の2名が参加 photo:Makoto AYANO
日本からは男女U23カテゴリに北林力(Dream Seaker MTB Racing Team)、小林あか里(信州大学)、川口うらら(日本体育大学)の3名が参加する。JCFのリリースによれば、今回の派遣目的は「現状の若手選手との差を選手団として認識することで、2024年、2028年のオリンピックを見据えたマウンテンバイク強化方針を再考する一つの大きな指標になると考えている」との事である。東京五輪で力走した山本幸平、今井美穂の両名の次世代を担う代表選手達の「五輪レガシーの創造・継承」と言った新たな出発地点からの挑戦が始まる。若きチャレンジャー等の力走に心からの声援を日本から届けよう。

text:Yoshinori Suzuki

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