トップMTB選手へのインタビュー、そしてメッセージを紹介する連載企画の第4弾は、アルカンシエルと共に東京五輪に挑むポリーヌ・フェランプレヴォ。ロード、MTB、シクロクロスで世界チャンピオンに輝くも長いスランプに悩み、トップ選手としてのカムバックを果たした世界女王に話を聞いた。



昨年の世界選手権で2年連続3度めのアルカンシエルを射止めたポリーヌ・フェランプレヴォ(フランス)昨年の世界選手権で2年連続3度めのアルカンシエルを射止めたポリーヌ・フェランプレヴォ(フランス) photo:UCI/MoritzAblinger
オリンピックや世界選手権のメダルを獲得してきたトップアスリートがどのようにMTBに出会い、どんな気持ちを大切にしてプロ選手になったのか。

東京オリンピックでのレース観戦を楽しみにする方々、これから世界に挑戦するキッズ・ジュニアのアスリート、そして彼等をサポートするご家族の方々へのメッセージになればと、オリンピックMTBアスリートに協力を頂き、インタビューを行った。

これからチャレンジをするみんなに大事にして欲しいことを含め、アスリートからのメッセージをお届けする。インタビュアー:鈴木禄徳 (PAXPROJECT所属)



ポリーヌ・フェランプレヴォ(フランス、アブソリュートアブサロン・BMC)ポリーヌ・フェランプレヴォ(フランス、アブソリュートアブサロン・BMC) (c)3 SO L'Agence/Paul Foulonneauポリーヌ・フェランプレヴォ プロフィール

世界でただ一人ロード、シクロクロス、MTBクロスカントリーの3種目で世界チャンピオンを獲得しているフランスの英雄。2014年、閃光の様に女子エリートの世界に現れた彼女だったが、チャンピオンに対する周囲の期待とプレッシャーからの体調不良と脚の故障が重なった事で、一時は競技からの引退を考えるまでになる。休養期間を経て、レースの舞台に復帰し、再び2019年・2020年に2年連続のMTBXCOでのアルカンシェルを獲得。今シーズンもMTBワールドカップで先頭集団でバトルを展開する女子エリートの中心選手だ。

日本の若い選手達に向けて、彼女からの心こもったメッセージをお届けする。

フランス出身、1992年生まれ29歳
アブソリュートアブサロン・BMC所属
東京オリンピックフランス代表

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Q1: どのようにしてMTBと出会いましたか?

私の家はサイクリング一家で、父はランスという街で自転車店を経営しており、地域のロードレースのチャンピオンでした。母も兄もロードバイクに乗っていました。

でも、母は自転車に乗る私の姿を見て「女の子らしくない!」と思っていたらしく、レースではなくて、アイススケートをすすめられました。母の言う通りにアイススケートも挑戦してもみたのですが、頑固だった私は人に決められた事をするのが苦手で、「自転車に乗りたい!これが私の好きな事なの!」と母を説得して、7、8歳の頃に自転車競技に参加し始めました。

12歳の頃。レースが大好きで「レースに飢えていた」との本人談12歳の頃。レースが大好きで「レースに飢えていた」との本人談 (c)3 SO L'Agence/Paul Foulonneauカメラにおどけるポーリーン。リラックスタイムにはいつもチームを明るくする存在だカメラにおどけるポーリーン。リラックスタイムにはいつもチームを明るくする存在だ (c)3 SO L'Agence/Paul Foulonneau


Q2: 子供の頃憧れた選手は?

自転車に乗り始めた頃は兄を追いかけて走り回ってました。「兄みたいに自転車に乗りたい!」そう思って走ってたと思います。

競技を真剣に取り組み始めてから目標であり、今でも尊敬する選手はオランダのマリアンヌ・フォス選手で、彼女は私にとても大きな影響を与えてくれました。彼女は自転車競技が強いだけでなく、とても広い心を持っていて、レースの集団やチームのみんなに頼られる素晴らしい人間性の本当のチャンピオンだと思います。彼女は今も本当に輝いていている選手だと思います。

最近活躍している選手では、ロード、CX、MTBの3種目で活躍しているマチュー・ファンデルポールの姿にはとても刺激を受けています。人間は一度自分の得意分野で成功を収めてしまうと、そこにとどまりたくなってしまうものです。たとえ新しい自分の可能性や才能を追求するチャンスがあったとしても、その一歩を踏み出すのは勇気がいる事ですし、そこで結果を出す難しさは私はよく理解しているつもりです。その点で今のマチューの活躍には、私だけでなく、沢山のサイクリストが勇気を与えられていると思います。マチューも私が敬愛するサイクリストの一人です。

Q3:ジュニア時代はどのように練習しましたか?

子供の時からとにかくレースが好きで、いつもレースを走りたがっていました。その気持ちは今でも変わりませんね。夏のMTBのシーズンが終わったらすぐにシクロクロス、それが終わったらロードレースという感じでレース中心の生活でした。幼少期からプロ入りまでずっと種目を掛け持ちして、その時々で目標とするレースに応じたトレーニングを行っていました。

それが高いレベルで上手くいっていた2015年頃には、3種目で世界チャンピオンを獲得する事もできました。ただ、その後レースとトレーニングを詰め込み過ぎて、長い間、体調を崩してしまったという失敗もありました。この時期は苦しい思いもしましたが、この経験はシーズンの過ごし方と私生活、そして自転車競技への情熱とのバランスを考え直すのに必要な時間だったと思っています。

失敗をしないためには、多くの経験を積むことが必要。その経験が自分がより強くなるための教訓に変わっていきます。だから、毎回の練習、レース、シーズンから学んでいきましょう。

レース日は朝からローラーを回し、柔軟体操をしてからレース会場でウォームアップ。ジュニア時代から準備を入念に行うのが彼女流だレース日は朝からローラーを回し、柔軟体操をしてからレース会場でウォームアップ。ジュニア時代から準備を入念に行うのが彼女流だ (c)3 SO L'Agence/Paul Foulonneau
Q4:どのようにMTBのテクニックを学んだのですか? 何かオススメのトレーニング方法はありますか?

私からのアドバイスは「経験を積むことが全て」という事です。

現在のXCレースのコースは楽しいけれども、どんどん難しくなってなってきています。ですので、コーチのジュリアン・アブサロン(アテネ・北京五輪金メダリスト、元世界チャンピオン)とフランスの北東部の山のトレイルやダウンヒルコースなど色々な場所で走り込んで、テクニック面のトレーニングを集中的に取組んでいます。

チーム監督でパートナーのアブサロンと一緒にコース試走を行うチーム監督でパートナーのアブサロンと一緒にコース試走を行う (c)3 SO L'Agence/Paul Foulonneau
Q5:ジュニアや子供の時を思い返してみて、どんな気持ちでトレーニングに取組んで欲しいですか?

いつもハートに火をつけて、情熱を燃やしてトレーニングやレースに向かいましょう。もし、やる気が起きなかったり、練習をしてても気持ちが乗らない日がずっと続くようなら、あなたが本当に好きだと思える他のことを探すべきサインかもしれません。それは自転車競技の違う種目かもしれないし、違うスポーツなのかもしれない。

でも、もしあなたが自転車が本当に好きだったら、真剣に自転車競技に取組んで、その気持ちを大きく育てましょう。そして、自分が好きな自転車に一生懸命取り組める環境、家族、友人への感謝の気持ちを持って、走れる喜びを心と身体で味わいましょう。

「ハートに火をつけて、情熱を燃やして走る」いくつもの勝利と苦難を乗り越えたそのパワーの原動力は心の中にあるという「ハートに火をつけて、情熱を燃やして走る」いくつもの勝利と苦難を乗り越えたそのパワーの原動力は心の中にあるという (c)3 SO L'Agence/Paul Foulonneau
「これは私が本当に好きな事なんだ」と、自分に言い聞かせる事は、厳しいトレーニングを乗り越える時のパワーになります。怪我からカムバックする時や、上手くいかない時など、競技生活をやっていく中で我慢が必要な時を乗り越える時の心の支えになってくれると信じています。

私も2015年に世界チャンピオンを獲得した後に、自転車競技に気持ちが入らない時期が少しだけありました。その時に一度、自転車から少し離れて、マラソンを走ったり、違うスポーツを取組んで、自分がやりたいこと、好きなことを見つめ直しました。その結果、私はやっぱり自転車競技が好きなんだと気付いて、再スタートできましたし、以前より強くなれたと思います。自分が好きな事を真剣にできるのはとても幸せで、とても大きなパワーを与えてくれます。その気持ちを大切にしてください。

Q6:学生時代はどのように過ごしましたか?

学校の授業も友達と一緒に過ごすのも大好きでした。好きなように自転車に乗って、周囲のみんなから自転車競技を応援してもらうためには、他の生徒のお手本でいる必要があると思っていたので、自分なりに優等生でいられるようがんばりました。

「成績が悪いんじゃ、自転車に乗る資格なんてない!」と自分に言い聞かせて、勉強もがんばりましたね。学校から帰ったら、まず宿題をすぐに終わらせて、それから自転車の練習をしました。宿題が終わらないと練習の時間が短くなってしまうので、そこは必死でしたね。

大変だったけど、やるべきことをしっかりやって、自転車の練習もすると言う習慣を身体に覚えさせられたので、学校生活は今でも大好きですね。

Q7:レースで勝つ為に大事だと思うことを3つ教えてください。

1.目標に向かって練習を続けること。決して下を向かない。
私はスポーツは人生の学校だと思ってます。その学校では、一生懸命取り組めば、良い成績を残せます。何か目標に向けて決意すること、一貫して取り組むこと、謙虚でありつつ勇気を持つことなど、スポーツに取り組む事で得られる経験や教訓は、世界チャンピオンにはなれなかったとしても、その後の人生で間違いなく役に立ちます。それは誰にも奪えないし、失ってしまうものでもありません。また、自分が思ってもいなかった結果や学びを得られるかもしれません。だから、どんな事があっても、下を向かず、目標に向かって前向きに練習に取り組みましょう。

W杯フランス大会、XCCでは余裕の走りでカメラにポーズ。このあと独走で優勝W杯フランス大会、XCCでは余裕の走りでカメラにポーズ。このあと独走で優勝 (c)3 SO L'Agence/Paul Foulonneau
2.楽しむこと。
もしあなたが自転車に乗ることを楽しめれば、よりパワフルに走れると思います。ハッピーという感情は、自分への最高のプレゼントなの。だから、いつでも楽しむ事を忘れないでください。

3.常に心の中の自分に質問する。
どうして勝てたのか、負けたのか、を自分に質問することで、改善策を探せます。それを繰り返すことで、自分がやるべき事に集中できます。これをずっと続けようとすると、反省ばかりで、気持ちよくないかもしれません。振り返りたくないこともあるかもしれませんが、前に進む為にはとても大事な事です。常に自分を見つめましょう。

最近飼い始めたペットとの2ショット。競技と私生活共に充実した毎日を送っているという最近飼い始めたペットとの2ショット。競技と私生活共に充実した毎日を送っているという (c)3 SO L'Agence/Paul FoulonneauQ8:どの様にプロ選手への道が開けたのでしょうか?

2012年にラボバンク・リブチームと契約して、憧れのマリアンヌ・フォスとチームメイトになった事が、私の人生を大きく変えました。最初はロードレースの選手としてチームに加入しましたが、チームは私にMTBやシクロクロスへの参戦を認めてくれたので、自転車選手としての夢だった生活を送ることができました。

Q9: 今現在プロ選手としてどのように生活を楽しんでいますか?

私は今の自分の置かれている環境と今の生活に本当に感謝しています。
今は昔よりちょっとだけ年齢を重ねた事で、自分がこの先どういう風になりたいか、なりたくないかなどを考える時間が増えました。自分自身がどういう人間なのか、深くわかるようになってきたと思います。その結果、自転車競技は自分には一番大事だと実感し、今までよりも大きな情熱と強い気持ちを持って、真剣にトレーニングできています。

一方で、将来を考えた時に、この時間は一生続くものでもないとも感じています。
少し寂しいかもしれませんが、現役生活がずっと続くものではないと意識するからこそ、その時その時を大切に過ごせますし、調子が良くない時も周囲に感謝して前を向けると思っています。本当に私は幸せな現役生活を過ごしている恵まれた選手だと、毎日みんなに感謝しています。

Q10:マイバイクの気に入っているポイントを教えてください。

BMCのTwo Stroke。彼女の真っ直ぐな生き方を表現したデザインだというBMCのTwo Stroke。彼女の真っ直ぐな生き方を表現したデザインだという (c)3 SO L'Agence/Paul Foulonneau
五輪仕様のバイクにはフランス国旗のカラーリングが施される五輪仕様のバイクにはフランス国旗のカラーリングが施される (c)3 SO L'Agence/Paul Foulonneau
BMCのハードテールバイク、Two Stroke とフルサスバイクのFour Strokeをコースによって使い分けています。コンポーネントはスラムAXSのドライブトレイン、ロックショックスのサスペンション、ヴィットリアのタイヤ、デュークのホイールを使っていて、どれも素晴らしいパフォーマンスを実現してくれます。

みんなに「見て見て!」と自慢したいのは私の専用デザインのフレームのカラーです。アートデザイナーと一緒に私の競技生活をイメージしたカラーリングをデザインしました。バイクをデザインするのは初めての経験だったのでとても楽しめましたし、仕上がりも最高にクールです。

機材の面での特徴は、私は股関節周りの血管を傷めたことがあり、サドルとポジションには細心の注意を払っていること。プロロゴと共同で私専用のサドルを用意してもらっています。




自転車競技大国フランスを代表する英雄的なアスリートであり、アイドルであり、模範ともなっているであるポリーヌ。人生で大事にして欲しいこと、自転車競技を通じて学べることを若いみんなに伝えようと、このプロジェクトに協力してくれた。彼女の言葉の通り、スポーツは人生の学校なのだ。

MTB、シクロクロス、ロードと3種目で世界チャンピオンを獲得したことのあるポーリーンは、東京五輪での金メダル獲得を競技人生最大の目標と語っている。チームのビデオでは彼女がオリンピックに向けて真剣に準備をする過程と、それを楽しむ姿を観ることができるので、東京五輪のレース観戦前にぜひ是非ともチェックして欲しい。

フランス代表の後輩、ロアーナ・レコムテをリードする。世界チャンピオンとワールドカップリーダーの二人がチームメイトとして走る五輪本番の作戦はいかにフランス代表の後輩、ロアーナ・レコムテをリードする。世界チャンピオンとワールドカップリーダーの二人がチームメイトとして走る五輪本番の作戦はいかに (c)3 SO L'Agence/Paul Foulonneau
彼女が言うように、自分が好きで始めた事も、年齢を重ねたり、環境が変わったり、良い時と悪い時の波を繰り返す中で、壁や課題を乗り越えるのが苦しくなってしまうこともあるだろう。これは彼女だけでなく、みんなにも起きることなのかもしれない。

苦しい時、上手く行かない時こそ、自分を追い詰めないで、自分はなんでバイクに乗っているんだっけ、と自分の心に問いかけてみよう。そして彼女のメッセージを思い出して欲しい。「これは私が本当に好きな事なんだ」と思うことが出来れば、今までより少しだけ強くペダルを踏めるはずだから。



筆者プロフィール:鈴木禄徳(PAXPROJECT)

鈴木禄徳(PAXPROJECT)鈴木禄徳(PAXPROJECT) オフロードが特に大好きな雑食系アマチュアサイクリスト。幼少期からMTBを中心に、アニメ聖地巡礼から海外レース遠征まで幅広い自転車の楽しみ方を経験。

現在はアマチュアMTB/CXチーム「PAXPROJECT」のキャプテンとして、「明るく、楽しく、でも競技はガチで」をモットーにレース参戦と仲間と一緒にレベルアップすることに没頭。誰も観ていないジャンプで、数少ない観客(ほぼ友人のみ)を魅了する走りが信条。

PAXPROJECT
Notes

Special Thanks Koichiro Nakamura

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