2年前に雹と土砂崩れでプロトンがたどり着かなかったティーニュに最初に現れたのはフランスチームのオーストラリア人オコーナー。ポガチャルの黄色い竜巻は今日もライバルたちの望みを吹き飛ばした。そして近づく東京五輪に様々な思惑が絡みだす。

スタートの街クリューズは朝から雨模様だスタートの街クリューズは朝から雨模様だ photo:ASO Charly Lopez
第1週のハイライト、もっとも厳しい難関山岳ステージに向かうというのにスタートの街クリューズは朝から雨模様。しかも一日降り続く予報で、始まる前から過酷なステージになることがわかりきっていた。

一昨年はティーニュでマイヨジョーヌを失ったジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ)一昨年はティーニュでマイヨジョーヌを失ったジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ) photo:ASO Pauline Balletマイヨヴェールを着てスタートを待つマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、ドゥクーニンク・クイックステップ)マイヨヴェールを着てスタートを待つマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、ドゥクーニンク・クイックステップ) photo:ASO Pauline Ballet


「ほぼ山頂フィニッシュ」のティーニュは2年前に突然おびただしい雹が降り、土石流がコースを塞いでレース中止となった忘れられない出来事が起こったステージのフィニッシュ地点。フィニッシュにたどり着けなかったステージでエガン・ベルナルのマイヨジョーヌが決まったスキーリゾートだ。

対して一昨年はティーニュでマイヨジョーヌを失うことになったジュリアン・アラフィリップにとっては忘れ物を取りに行く日。そしてマーク・カヴェンディッシュにとってはマイヨヴェールをパリで着るために耐える試練の日。「タイムオーバー」失格の恐怖は山岳ステージで常につきまとうが、とくにこのステージはたった145kmの短さに5つのカテゴリー山岳・獲得標高4,500mが詰め込まれ、タイムカット失格の発生しやすい危険なプロフィールだ。

東京五輪のためにDNSを決めたマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・フェニックス)東京五輪のためにDNSを決めたマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・フェニックス) photo:ASO Charly Lopez
ティーニュをスキージャンプ時代に合宿場所に選んでいたプリモシュ・ログリッチは、朝スタートしないことを発表。そして続いてチームウェアに着替えて乗る準備を済ませながらもスタート地点でミニ会見を開きスタートしないことを発表したマチュー・ファンデルプール。2人の理由は違えど、ツールを去って東京オリンピックの準備に入ることを決めた。

いつもなら別のレースの準備のためにツール(ならびにグランツール)を途中で去ることは「リスペクトがない」と批判されるもの。しかしパンデミック下の状況で、かつ近年重要度を増す五輪となればそうした批判は起こらないようだ。しかしマチューは雨の降るなか濡れながらTVカメラの前に立ち、十分なメディア対応をした。

「ログリッチが去って、マチューが去って、でも君は残る。なぜ?」と訊かれたゲラント・トーマス(も五輪組)は、「I don't know!」と笑って応えた。怪我の回復がこの先見込めるからまだ走るというニュアンスも。

昨ステージで大活躍したバーレーン・ヴィクトリアスがチーム表彰を受ける昨ステージで大活躍したバーレーン・ヴィクトリアスがチーム表彰を受ける photo:ASO Pauline Ballet
山岳賞のワウト・プールス(オランダ、バーレーン・ヴィクトリアス)とタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)山岳賞のワウト・プールス(オランダ、バーレーン・ヴィクトリアス)とタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ) photo:ASO Pauline Ballet
スタートして最初のドマンシー峠でのアラフィリップの動きをきっかけにアタックは頻発。中間スプリントポイントを取るためにスプリンターたちも逃げに乗ろうと追いかけるという展開。一方で「登れない」ピュアスプリンターは早々とグルペット送りに。ポイントを取ったコルブレッリが、40人の逃げグループを作り上げた立役者となり、まさか難関山岳ステージでそのままティーニュまで逃げ続けて行くことになるとは。

ワウト・プールス(オランダ、バーレーン・ヴィクトリアス)がマイヨアポアを確実にするために動くワウト・プールス(オランダ、バーレーン・ヴィクトリアス)がマイヨアポアを確実にするために動く photo:ASO Pauline Ballet
プロトンは雨の山岳地帯へと駒を進めていくプロトンは雨の山岳地帯へと駒を進めていく photo:ASO Pauline Ballet
山岳の頂上ではハンドルを投げあって激しいポイント争いを繰り広げたワウト・プールスとナイロ・キンタナ。水玉ジャージを着たプールスとコロンビアのベテランクライマーが激しく争った。2日連続で山岳ポイント獲得にトライするプールスにとって、山岳賞にフォーカスして狙ってくるキンタナは相手が悪かった。

しかもこの日キンタナは同郷コロンビアのセルジオ・イギータとも協調した。キンタナが1位通過すると2位のポイントをイギータがさらい、他の選手に対して蓋さえした。
 
山岳でイニシアティブを取るナイロ・キンタナ(コロンビア、アルケア・サムシック)山岳でイニシアティブを取るナイロ・キンタナ(コロンビア、アルケア・サムシック) photo:ASO Pauline Ballet
積極的に逃げを打ったセルジオ・イギータ(コロンビア、EFエデュケーション・NIPPO)積極的に逃げを打ったセルジオ・イギータ(コロンビア、EFエデュケーション・NIPPO) photo:Makoto AYANO
開幕前からこのツールでは総合を狙わず、山岳賞とステージ優勝を狙うと公言していたキンタナ。苦手な個人TTが2つあるこのツールは自分には不向きであり、現実的な目標としてその2つを狙うことをミッションに動き始めた。

2級山岳ロズラン峠を行くマイヨジョーヌ集団2級山岳ロズラン峠を行くマイヨジョーヌ集団 photo:ASO Pauline Ballet
ティーニュに詰めかけたコロンビア人の観客たちティーニュに詰めかけたコロンビア人の観客たち photo:Makoto AYANO
ティーニュの登りラスト4kmにかけてコロンビアのファンが大挙して詰めかけ、熱い応援を繰り広げていた。キンタナは最後のティーニュの登りでは寒さとハンガーノックで力尽きたが、山岳賞トップに。

キンタナがマイヨアポアを着るのは2013年のツールデビュー以来のこと。もっともその年はツールデビューを衝撃の総合2位で飾ったことで山岳賞を獲得したことは記憶に残らなくなってしまったが。

コロンビアの観客に囲まれてティーニュへ登るナイロ・キンタナ(コロンビア、アルケア・サムシック)コロンビアの観客に囲まれてティーニュへ登るナイロ・キンタナ(コロンビア、アルケア・サムシック) photo:Makoto AYANO
長い間8分以上のリードを許され、バーチャルマイヨジョーヌになっていたベン・オコーナー(アージェードゥーゼール・シトロエン)がコロンビア勢を振り切り、ティーニュへと逃げ切った。総合は14位から総合2位にジャンプアップ。

ティーニュへと単独駆け上がるベン・オコーナー(オーストラリア、アージェードゥーゼール・シトロエン)ティーニュへと単独駆け上がるベン・オコーナー(オーストラリア、アージェードゥーゼール・シトロエン) photo:Makoto AYANO
「ツール・ド・フランスという舞台に立つことだけでも夢のようだった。そしてこの勝利はフィアンセや家族、友人など僕を信じてくれたすべての人たちのおかげだ。ここまで決して楽な道のりではなかった。とにかく信じられないよ」と喜びを話すオコーナー。ポガチャルが後方から追い詰めてくるかとヒヤヒヤしたというが、足が攣らない限りタイム差をキープできればステージは勝たせてくれるとも考え、冷静にペースを保った。

フランスチームのオーストラリア人が見せた躍進。この総合2位が2011年にツールに優勝したカデル・エヴァンス以来10年ぶりのマイヨジョーヌにつながるかはオーストラリアにとって大きな関心ごとで、オコーナー調子の良さに対しては開幕前から期待の声が上がっていた。

ティーニュへと単独駆け上がるベン・オコーナー(オーストラリア、アージェードゥーゼール・シトロエン)ティーニュへと単独駆け上がるベン・オコーナー(オーストラリア、アージェードゥーゼール・シトロエン) photo:Makoto AYANO
9ヶ月前、昨年の秋のジロ・デ・イタリアではパンターニの山マドンナ・ディ・カンピーリオ山頂フィニッシュで逃げ切り勝利を果たしたオコーナー。そのとき所属したNTTプロサイクリングのスポンサー撤退に伴ってチーム探しに難儀していたところ、その勝利の結果をもってアージェードゥーゼールが受け入れてくれた。オコーナーの恩返しの勝利はチームの20勝目にあたる。

力強くティーニュへ登るソンニ・コルブレッリ(イタリア、バーレーン・ヴィクトリアス)力強くティーニュへ登るソンニ・コルブレッリ(イタリア、バーレーン・ヴィクトリアス) photo:Makoto AYANO
25歳のオーストラリア人の勝利に沸くティーニュの登りを続いて登ってきたのはイタリア人のマッティア・カッタネオ。そして「登れるスプリンター」ぶりに拍車をかけるソンニ・コルブレッリ(イタリア、バーレーン・ヴィクトリアス)が驚きの3位フィニッシュ。

コルブレッリが山岳フィニッシュで見せたこの走りにはチームメイトも驚きを隠さない。第7ステージで勝利したマティ・モホリッチは「コルブレッリは朝僕が雨と寒さ対策に腕と脚にワセリンを塗るのを見て笑い、真似をしたんだ(そのおかげだ)」とtwitterに投稿。ジャーナリストの間でもその豹変ぶりはちょっとした話題だ。

ティーニュ湖へとダウンヒルするマイヨジョーヌ集団ティーニュ湖へとダウンヒルするマイヨジョーヌ集団 photo:ASO Pauline Ballet
「もしかするとポガチャルとUAEチームエミレーツはオコーナーにマイヨジョーヌを譲るのかもしれない」という話も出ていたが、しかし今日もしっかりとライバルたちに差をつける走りを見せたポガチャル。最後のティーニュの登りはアシスト不要でひとりで対処できる。総合争いの有力集団の先頭でペースを上げるトーマス、カストロビエホ、カラパスのイネオス勢をアシストのように使い、カラパスのアタックに対処するとポガチャルはすぐさまアタックで返し、逆に差を広げた。

ライバルを突き放してティーニュへ登るタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)ライバルを突き放してティーニュへ登るタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ) photo:Makoto AYANO
ポガチャルは言う。「今日は本当に天気が悪かった。本当に寒かったけど明日は休息日だ! こんな(酷い)天気でのレースを本当に愛してるよ。それよりもこの後やってくるであろう暑いステージの方が不安なんだ。そこで僕が苦しむことをライバルたちは知っているだろう。だからこそこの2日で可能な限りタイム差を稼いだんだ。今日はオコーナーにマイヨジョーヌを奪われる心配もあったけど、守ることができて良かったよ」。

スロベニア国旗に囲まれたコーナーを行くタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)スロベニア国旗に囲まれたコーナーを行くタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ) photo:Makoto AYANO
この先もオコーナーのことは心配していないポガチャル。そしてカラパスらライバルたちにはまた差をつけ、安泰なまでのマージンに広げた。もはや総合を争うライバルは誰も居ないかのように。

昨日の遅れから回復し、調子を取り戻したゲラント・トーマス(イギリス、イネオス・グレナディアース)昨日の遅れから回復し、調子を取り戻したゲラント・トーマス(イギリス、イネオス・グレナディアース) photo:Makoto AYANO
カラパスを終盤まで助け、自身も19位でフィニッシュしたゲラント・トーマス。「(遅れた)昨日より10倍は調子いい!まだふらふらだから誤解しないで。スタートからハードだったけどなんとかもちこたえた。ここからは上げて行ける。もう昨日みたいな酷さじゃない。ここから修正していくよ。朝コーヒーを余計に一杯飲んだんだ。それが効いたね」と上がり調子の走りを喜ぶ。しかし寒さに苦しんだとも。

「下りは本当に苦しんだ。下っていたら皆が追い抜いていったね。前週の落車の後だから手の感覚が無く、ブレーキを握れないまま60km/hで下るのはナイスなことじゃないね」。

そしてGもやはり東京五輪のことが気になりだしている。怪我からの回復は良いサインだが、総合争いはすでに遠い夢。しかしカラパスを助ければチームにとってポディウムは可能性がある。トーマスは「ジレンマはさらに悪化したね。今夜か明日(休息日)、チームともよく話し合うよ」。

タイムカットを気にしながらティーニュへ登るメイン集団タイムカットを気にしながらティーニュへ登るメイン集団 photo:Makoto AYANO
ワウト・ファンアールトは32分遅れでフィニッシュ。総合争いをすでに諦めた走りだった。ワウトもまた東京五輪組。ベルギーチームのコーチを務めるスヴェン・ファントーレンハウト氏はベルギーメディアに対し次のように話した。

「総合2位につけながらも総合争いを諦めるというワウトの選択は、とても賢い決断だ。それは五輪のためだけでなく、残りシーズン後半のことを考えても」。
そしてツールでは次のタイムトライアルを狙うべきだと話す。
「最初のTTは成功とは言えないが、ワウトはまだ体調がピークにない状態でツールに来て、今調子を上げている状態。2度めのTT(第20ステージ)は良い状態で走れるだろう」。

リベンジの地ティニュでレースにならなかったジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ)リベンジの地ティニュでレースにならなかったジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ) photo:Makoto AYANOティーニュへ登るメイン集団。タイムカットはもうすぐだったティーニュへ登るメイン集団。タイムカットはもうすぐだった photo:Makoto AYANO


アシストが終わったダヴィデ・フォルモロ(イタリア)とルイ・コスタ(ポルトガル)アシストが終わったダヴィデ・フォルモロ(イタリア)とルイ・コスタ(ポルトガル) photo:Makoto AYANO
ティーニュへ登るメイン集団ティーニュへ登るメイン集団 photo:Makoto AYANO
この日厳しかったのは先頭や総合争いだけでなく、集団後方の生き残りをかけた戦いも過酷だった。この日ステージ優勝者のタイム+14%として設定された制限時間は「37分20秒遅れ」。

峠の下りでは先頭集団よりも速いスピードでダウンヒルしてリスクを冒したスプリンターたちを含むグルペット。長く辛いティーニュへの登りをこなす後方の選手たちの必死の形相は、はるか前方を走った選手たちのそれに比べても表情はより険しかった。

タイムアウトにならないようフィニッシュを急ぐマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、ドゥクーニンク・クイックステップ)タイムアウトにならないようフィニッシュを急ぐマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、ドゥクーニンク・クイックステップ) photo:Makoto AYANO
あまりに多くのOTL(タイムアウト)が出た場合は救済措置もありうるが、それはあてにできないし、すべきでない。今大会からはタイムアウト救済の場合はポイント剥奪のルールもできたことで、スプリンターたちは気が緩められない。

ドゥクーニンク・クイックステップのウルフパック・トレインはカヴェンディッシュを助け、無事タイム内にフィニッシュさせた。金のヘルメットのグレッグ・ファンアーヴェルマート(アージェードゥーゼール・シトロエン)らより早かったぐらいだ。

フィニッシュラインではまるでステージ優勝したかのようにミケル・モルコフとティム・デクレルク、ドリス・デヴェナインスと抱き合ったカヴ。
「最も恐れていたステージを乗り越えることができて感情的になっている。レースに残ることができてよかった...」と、また今日もマイヨヴェールを受け取った。

登りにあえぐアンドレ・グライペル(ドイツ、イスラエル・スタートアップネイション)登りにあえぐアンドレ・グライペル(ドイツ、イスラエル・スタートアップネイション) photo:Makoto AYANOタイムカットになったステファン・デボッド(南アフリカ、アスタナ・プレミアテック)タイムカットになったステファン・デボッド(南アフリカ、アスタナ・プレミアテック) photo:Makoto AYANO


一人で登ったアンドレ・グライペルも、ナセル・ブアニも間に合った。しかしアルノー・デマールやブライアン・コカールを含む7人がタイムアウト失格を告げられた。

タイムアウトで失格になったブライアン・コカール(フランス、B&Bホテルズ・KTM)タイムアウトで失格になったブライアン・コカール(フランス、B&Bホテルズ・KTM) photo:Makoto AYANO
アルノー・デマール(フランス、グルパマFDJ)は時間制限オーバーアルノー・デマール(フランス、グルパマFDJ)は時間制限オーバー photo:Makoto AYANO
カヴェンディッシュは言う。「この数年、遅れたスプリンターをチームで助ける姿をテレビで観ていてドゥクーニンク・クイックステップが羨ましかった」。と言うカヴ。2018年ツールではゲラント・トーマスがステージ優勝した山岳ステージで遅れて一人きりで走り、タイムアウトを喫した。クイックステップを離れてからのチーム(ディメンションデータやバーレーン)では、そんなアシスト体制は与えてもらえなかった。それがウルフパック再加入を熱望していた理由でもある。

1時間24分遅れで最終走者のニコラス・ドラミニ(南アフリカ、クベカ・ネクストハッシュ)はタイムアウトに1時間24分遅れで最終走者のニコラス・ドラミニ(南アフリカ、クベカ・ネクストハッシュ)はタイムアウトに photo:Makoto AYANO
この日の最終走者、ニコラス・ドラミニ(南アフリカ、クベカ・ネクストハッシュ)がティーニュのフィニッシュに現れたのは優勝したオコーナーからじつに1時間半が経とうとする頃。途中で落車したがツール出場選手としての名誉のために最後まで降りること無く走りきったドラミニは、南アフリカ最初の黒人ツール出場選手としての完走の夢は果たせなかった。

ドラミニがラスト1kmのティーニュ湖の入り口を通過するとき、表彰セレモニーと勝利者インタビュー、ドーピングコントロールなどすべてのタスクをこなした優勝者オコーナーは道に迷い、コース内で「チームの泊まるホテルはどこ?」と関係者に聞いていた。ドラミニの「(前例がないほどの)1時間24分01秒遅れ」というタイムは、それだけ大きなタイム差だった。観客もほとんど帰路につき、コースバリアの撤去を待つ人だけがドラミニの走りを見届け、拍手を送った。

フィニッシュでは泣き崩れ、スタッフに抱きしめられたドラミニ。「ツールは私の夢だった。尊敬し、私の夢を称えたいと思ったレース。残念だが、最も大切なことはたとえタイムカットに間に合わなくても最後まで脚を止めないことだった。だからこそバイクを降りてチームカーに乗る選択肢はなかった。優勝した選手から1時間半遅れであってもフィニッシュすることができて良かったよ。僕をサポートしてくれた全ての人に感謝を伝えたい」と離れることになったツールへの想いを話した。


text&photo:Makoto.AYANO in FRANCE

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