2010年6月14日、ツール・ド・スイス(UCIプロツアー)第3ステージはレース終盤にかけてアタックが止まない白熱した展開。ラスト2kmから始まる上りでアタックを成功させたフランク・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)が激戦を制した。

スタート前のハインリッヒ・ハウッスラー(ドイツ、サーヴェロ・テストチーム)とファビアン・カンチェラーラ(スイス、サクソバンク)スタート前のハインリッヒ・ハウッスラー(ドイツ、サーヴェロ・テストチーム)とファビアン・カンチェラーラ(スイス、サクソバンク) photo:www.tds.ch第3ステージは中盤に1級山岳モス峠(標高1400m)を越え、断続的にアップダウンが登場するレース後半の周回コースへ。3級山岳を含むこの起伏に富んだ周回をこなし、ラスト2kmから勾配10%ほどの上りをこなしてゴールに辿り着く。厳しいコースにこの日もスプリンターたちは苦戦した。

レース序盤から飛び出したのはアレクサンドル・プリウスチン(モルドバ、カチューシャ)、ユッシ・ヴェッカネン(フィンランド、フランセーズデジュー)、エルマーノ・カペッリ(イタリア、フットオン・セルヴェット)の3名。

第3ステージはスイス中部の山岳地帯を進む第3ステージはスイス中部の山岳地帯を進む photo:Cor Vos84km地点の1級山岳モス峠通過時で、逃げグループとメイン集団のタイム差は15分まで拡大。レース前半はリーダージャージ擁するサクソバンクがメイン集団のコントロールを担っていたが、レース後半にかけてステージ優勝狙いのオメガファーマ・ロットやサーヴェロ・テストチームが集団のスピードを上げた。

丘陵地帯をハイスピードで駆け抜けたメイン集団は、逃げグループのリードを着実に削り取り、ラスト30km地点でタイム差は1分台に。先頭ではプリウスチンが最後まで諦めずに逃げ続けたが、ゴール21km手前で敢え無く吸収された。

ウランを振り切ってゴールするフランク・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)ウランを振り切ってゴールするフランク・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク) photo:www.tds.chここからはアタックとカウンターアタックの応酬だ。ロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク)やミハエル・アルバジーニ(スイス、チームHTC・コロンビア)、ルイスレオン・サンチェス(スペイン、ケースデパーニュ)が矢継ぎ早に飛び出す展開で、ペースが上がったメイン集団からはスプリンターが脱落してしまう。

キム・キルシェン(ルクセンブルク、カチューシャ)やオスカル・フレイレ(スペイン、ラボバンク)もアタックに加わる積極性を見せたが、いずれのアタックも成功しないままラスト2kmからの上りに突入した。

ガッツポーズでゴールに飛び込んだフランク・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)ガッツポーズでゴールに飛び込んだフランク・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク) photo:www.tds.chこの上りで真っ先に動きを見せたは、総合3位につけていたトニ・マルティン(ドイツ、チームHTC・コロンビア)。リーダージャージのカンチェラーラはこの動きに反応出来ず、代わりにフランク・シュレクがマルティンの動きを封じた。

バラバラに分裂した集団からはアイルランドのナショナルチャンピオンジャージを着るニコラス・ロッシュ(アイルランド、アージェードゥーゼル)がアタック。これに反応するカタチで飛び出したFシュレクが先頭に立ち、独走でラスト1kmのアーチを走り抜けた。

後方ではリゴベルト・ウラン(コロンビア、ケースデパーニュ)が飛び出したが、先頭Fシュレクの独走が止まらない。ウランを振り切ったFシュレクは、マルティンやロッシュを含むグループを3秒、ランス・アームストロング(アメリカ、レディオシャック)やカンチェラーラを含むグループを7秒引き離してゴール。サクソバンクに今大会2勝目をもたらした。

過去にアムステル・ゴールドレースで優勝するなど、アップダウンコースを得意とするFシュレク。この日のレースを「終盤は信じられないぐらいタフで、まるでアルデンヌ・クラシックのようだった。最後の上り頂上の300m手前でアタックを仕掛けて、そこからゴールまでの1kmは今まで経験したことがないほど長く感じたよ」と振り返る。

上りで精彩を欠いたカンチェラーラはリーダージャージ喪失。しかも弟アンディ・シュレクはカンチェラーラのサポートに徹したため19秒遅れでゴール。しかしFシュレクは動じない。「サクソバンクはこのツール・ド・スイスにワールドクラスのラインナップを揃えていて、総合成績を狙える選手は一人ではない」。大会連覇に向けて自信を覗かせた。

チームに今大会2勝目をもたらしたフランク・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)チームに今大会2勝目をもたらしたフランク・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク) photo:Cor Vos大量に汗をかいてゴールしたファビアン・カンチェラーラ(スイス、サクソバンク)大量に汗をかいてゴールしたファビアン・カンチェラーラ(スイス、サクソバンク) photo:Cor Vosリーダージャージに袖を通したトニ・マルティン(ドイツ、チームHTC・コロンビア)リーダージャージに袖を通したトニ・マルティン(ドイツ、チームHTC・コロンビア) photo:Cor Vos


カンチェラーラに代わって、満面の笑みでリーダージャージに袖を通したのはマルティン。昨年大会で総合2位に入っている若きTTスペシャリストは、チームHTC・コロンビア公式サイトの中で「最後の上りで好調さを感じていたのでアタック。でも伸びなかったので後続を待った。(先行したFシュレクと)タイム差が大きくないことを確認して、今後のアタックに繋げるためにも力をセーブしてゴールしたんだ」と余裕のコメント。

「このツール・ド・スイスはツール・ド・フランスの準備レースという位置づけ。でもこんな栄誉あるレースで総合リーダーになれて嬉しいよ。簡単にこのジャージは手放したくない。総合争いの正念場は第6ステージだ」。マルティンは大会制覇に向けて意気込みを語った。

第1ステージの個人タイムトライアルで2位に入り、総合2位につけていたロマン・クロイツィゲル(チェコ、リクイガス)は2分04秒遅れでゴール。実質的に総合争いから脱落してしまった。クリスティアン・ヴァンデヴェルデ(アメリカ、ガーミン・トランジションズ)もこの日だけで6分14秒も失う結果に。

翌第4ステージは終盤にかけて2つの3級山岳が登場する比較的難易度の低いアップダウンコースで行なわれる。今度こそスプリンターにチャンスが回ってくる。カヴェンディッシュやボーネン、ペタッキらのスプリントバトルに注目だ。

選手コメントは各チーム公式サイトより。

ツール・ド・スイス2010第3ステージ結果
1位 フランク・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)5h02'21"
2位 リゴベルト・ウラン(コロンビア、ケースデパーニュ)
3位 バウク・モレマ(オランダ、ラボバンク)+03"
4位 スティーブ・モラビート(スイス、BMCレーシングチーム)
5位 マッテーオ・カラーラ(イタリア、ヴァカンソレイユ)
6位 フアンマヌエル・ガラーテ(スペイン、ラボバンク)
7位 ロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク)
8位 トーマス・ロヴクヴィスト(スウェーデン、チームスカイ)
9位 ニコラス・ロッシュ(アイルランド、アージェードゥーゼル)
10位 トニ・マルティン(ドイツ、チームHTC・コロンビア)

個人総合成績
1位 トニ・マルティン(ドイツ、チームHTC・コロンビア)     9h38'04"
2位 ファビアン・カンチェラーラ(スイス、サクソバンク)  +01"
3位 トーマス・ロヴクヴィスト(スウェーデン、チームスカイ)+09"
4位 リゴベルト・ウラン(コロンビア、ケースデパーニュ) +10"
5位 ドリス・デヴェナインス(ベルギー、クイックステップ) +11"
6位 フランク・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク) +13"
7位 ヤコブ・フグルサング(デンマーク、サクソバンク) +14"
8位 スティーブ・モラビート(スイス、BMCレーシングチーム)
9位 ヨナタン・カストロビエホ(スペイン、エウスカルテル)      +15"
10位 バウク・モレマ(オランダ、ラボバンク) +17"

スプリント賞
マティアス・ルス(ドイツ、チームミルラム)

山岳賞
アレクサンドル・プリウスチン(モルドバ、カチューシャ)

ポイント賞
ハインリッヒ・ハウッスラー(ドイツ、サーヴェロ・テストチーム)

チーム総合成績
サクソバンク

text:Kei Tsuji
photo:Cor Vos