マヴィックは2010年モデルでR-Sysを「R-Sys SL」、「R-Sys Premium」、「R-Sys」という3モデル展開とした。今回インプレしたのは、超軽量モデルのR-Sys SLだ。その軽快な上り性能は、我々の想像をはるかに超えるものだった。

マヴィック R-Sys SL フロントマヴィック R-Sys SL フロント マヴィック R-Sys SL リアマヴィック R-Sys SL リア



マヴィクのロード用ホイールのラインナップは、「エアロダイナミック」シリーズと「マルチパフォーマンス」シリーズに大別することができる。今回インプレしたR-Sys SLはパフォーマンスシリーズのトップに君臨するモデルだ。

「トラコンプ」と名づけられた中空カーボンスポークを持つR-Sysシリーズは、従来のホイールとは一線を画する素晴らしい特性を持っている。引っ張り(トラクション)に強く、突っ張り(コンプレッション)にも強いというそのスポークの両端は、リムとハブに固定されており、従来のホイールのようにトラクションのみならず、コンプレッションでも働くのだ。

中空カーボンスポーク トラコンプ中空カーボンスポーク トラコンプ 極限まで切削加工が施されたアルミリム極限まで切削加工が施されたアルミリム



その結果として、駆動時のパワー伝達効率が通常のホイールと比較して圧倒的に高くなっているのである。そして、超軽量ながら抜群の剛性を実現しているだけでなく、カーボンならではの振動減衰特性の高さが加わり、圧倒的な走行性能の高さを実現しているのだ。

リムは高い剛性を誇るマクスタル(マヴィック専用のアルミ合金)製だ。もちろん、キシリウムで培われたFOREテクノロジーが投入され、スポーク穴はリム表側だけにしか開けられていないので、軽量で剛性が高いのが特長だ。リムテープが不要になるのも、軽量化に大きく貢献している。

フロントはラジアル組フロントはラジアル組 リアはフリー側がタンジェント組、反フリー側はラジアル組となっているリアはフリー側がタンジェント組、反フリー側はラジアル組となっている



R-Sys SLはISM3Dテクノロジーを採用し、リム表面だけでなく、サイドまで削ることによって、さらなる軽量化を実現しているのが特徴だ。フロント545g、リア750gという軽さは、アルミリムを採用したホイールの中では究極の軽さを実現していると言えるだろう。カーボンリムのようにブレーキングに気を使うこともなく、ガンガン使えるのもアルミリムの大きなメリットだ。

ハブはFTS-Lを投入した。FTS-Lとはフォース・トランスファー・システム・ライトの略。ハブボディに装着された2つの爪に、効率的にペダリングパワーが伝達されるというマヴィック独自のシステムだ。構成部品が少なく、軽量なのも特長である。

タイヤが乗る部分に穴がないのでリムテープは不要タイヤが乗る部分に穴がないのでリムテープは不要 クイックリリースはチタン製だクイックリリースはチタン製だ



ハブのセンターチューブはカーボン製だ。もちろん、細部まで軽量化を追求した結果である。アルミのフランジ部はホワイト仕上げとなっており、そのカラーのコントラストも美しい。

今回のインプレでは「パナレーサー Closer 700×23C」タイヤを装着。使用バイクは、それぞれのインプレライダーが普段使用しているもので、戸津井はコルナゴ CX-1、仲沢はスコット ADDICT LTDである。マヴィック独自の技術がフルに投入されたR-Sys SL。さっそくインプレッションをお届けしよう!





―インプレッション

「ヒルクライムでガンガン使える実用性の高いホイールだ」 戸津井 俊介(OVER-DOバイカーズサポート)

「ヒルクライムでガンガン使える実用性の高いホイールだ」戸津井 俊介「ヒルクライムでガンガン使える実用性の高いホイールだ」戸津井 俊介 非常に踏み出しの軽いホイールだ。ペダルにちょっと力を加えるだけで、スーッと走り出す感覚は、本当に気持ちがよい。低速域から中速域への加速感もバツグンだ。

ロープロファイルのリム、円形断面のスポークのため、空気抵抗はそれなりにある。そのため、中速域から高速域への加速感は特に印象に残るものではない。しかし、もともと高速巡航をするためのホイールではないから、それは文句を言う部分ではないだろう。とにかく実用的な速度域での加速が良いので、使い勝手は非常に良い。

上りはとても軽快だ。極限まで切削加工されたリムが外周部を驚くほど軽くし、さらにカーボンスポークの軽さが加わるので、まさに「鬼に金棒」といったところだろう。この価格でカーボンスポークというのは、なかなかお買い得感が高い。

カーボンリムではブレーキングに気を使わなければならないが、R-Sys SLはアルミリムなので、普段使っているブレーキシューのまま気を使わずに使えるのも良い。ホイールを履き替えるたびにブレーキシューを交換するというのはかなり面倒なものだ。そこから解放されるだけでも、このホイールを買う価値があると言えるだろう。

振動吸収性も素晴らしい。カーボンスポークが路面からの不快な振動を、見事に吸収してくれるようだ。

あえて難点を挙げるとしたら、少々横剛性が低いことくらいだろうか。ハイスピードのコーナリングで、前輪がやや弱いような気がした。カーボンスポークは多少デリケートなので、体重が軽めの人が使った方が良いかもしれない。

ヒルクライム決戦用として高い性能を誇り、さらに普段の練習でガンガン使えるホイールというもそうあるものではない。実用性を考えると、最強のヒルクライム用ホイールと言えるだろう。


「ヒルクライムだけでなく、長距離ライドでも実力を発揮」 仲沢 隆(自転車ジャーナリスト)

「ヒルクライムだけでなく、長距離ライドでも実力を発揮」仲沢 隆「ヒルクライムだけでなく、長距離ライドでも実力を発揮」仲沢 隆 R-Sysは2010年モデルで「R-Sys SL」、「R-Sys Premium」、「R-Sys」と3グレード体制になった。自分の用途や購入予算に合わせて製品を選べるのがウレシイ。今回インプレしたR-Sys SLはシリーズ中、最も軽量なモデルで、ヒルクライム用としての性能が期待できる。

中空カーボンスポークを採用したR-Sysシリーズは。乗り心地がとても良いホイールだ。振動減衰特性の高いカーボンスポークが路面からの不快な振動を吸収してくれるのである。この振動吸収性の良さを生かして、荒れた路面を走るとこのホイールの実力がよくわかる。ホイールが跳ねてしまうような路面でも、R-Sysならフラットに走ることができるのだ。

上りの軽快さはR-Sys SLの大きな特徴だ。極限まで切削加工を施したアルミリムがホイール外周部を軽くし、慣性モーメントが極めて小さいのだ。また、絶対的な重量の軽さだけでなく、カーボンスポークの振動吸収性の高さによる接地性の良さが、この軽快な走りを生み出しているのだろう。

R-Sys SLはヒルクライムだけでなく、週末のロングライドに使うのにも良いだろう。上りが軽く、さらに振動吸収性が良いから、100km以上走った時など、硬いホイールと比べて疲労感がだいぶ違ってくるハズ。

このホイールに採用される中空カーボンスポークは丸断面である。さらにロープロファイルのリムであるから、このホイールにエアロ効果はあまり期待できない。だが。実際に乗ってみると、空気抵抗はほとんど気にならないレベルであった。

そもそも、30km/h以下の実用的な速度域では、スポークのエアロ効果などほとんど体感できるものではない。いうまでもなく、R-Sys SLが威力を発揮するヒルクライムでは、そんなに高速になることはないので、空気抵抗はデメリットにならないのだ。

デメリットといえば、カーボンスポークなので、取り扱いにはそれなりに慎重にならなければいけないということくらいだろうか。アルミリムなのでブレーキングは気にならないし、とにかくこのホイールは扱いやすい。「上りを誰よりも楽に走りたい」という人は、一度試してみることをオススメする。




マヴィック R-Sys SLマヴィック R-Sys SL

マヴィック R-Sys SL
リム
Fore SUP UB Control  カラー:ブラックアノダイズド、 バルブホール径:6.5mm
リムハイト:フロント22mm、 リヤ25mm左右非対称、素材:マクスタル
スポーク
カラー:カーボン/シルバーニップル&ヘッド(フロント、リヤ反フリー側)、ブラック(リヤフリー側)、
スポーク取り:ラジアル(フロント、リヤ反フリー側) 2クロス(リヤフリー側)、
スポーク数:フロント16、リヤ20、ニップル:M7アルミニウム、ドライスレッドロック、
形状:トラコンプチューブラー(フロント、リア反フリー側)、
素材:クロスユニディレクショナルカーボンファイバー(フロント、リア反フリー側)、ジクラル(リヤフリー側)
ハブ
FTS-L スチール、QRM SL、カラー:センターチューブ/カーボン、フランジ/ホワイト、
フロント&リアボディ素材:カーボンセンターチューブ+アルミニウムフランジ、カーボンエンドキャップ、
フロントアクスルサイズ:9×100mm、リアアクスルサイズ:9.5×130mm
互換性
ED10もしくはM10、 ETRTO:622×15C、 タイヤ:クリンチャーまたはチューブラー、
推奨タイヤサイズ:19-28C
付属品
BR601チタニウムクイックリリース、エアロスポークホルダー(リアホイール)、コンピューターマグネット(フロントホイール)、スポークレンチ(リアホイール)、トラコンプリングツール、ベアリング調整ツール(リアホイール)、ホイールバッグ、取扱説明書、保証書
重量
1295g(ED10、ペア)、 フロント545g、リア750g
カラー
ブラック
希望小売価格(税込み) 220,500円(FRペア)





インプレライダーのプロフィール

戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート) 戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)

1990年代から2000年代にかけて、日本を代表するマウンテンバイクライダーとして世界を舞台に活躍した経歴を持つ。1999年アジア大陸マウンテンバイク選手権チャンピオン。MTBレースと並行してロードでも活躍しており、2002年の3DAY CYCLE ROAD熊野BR-2 第3ステージ優勝など、数多くの優勝・入賞経験を持つ。現在はOVER-DOバイカーズサポート代表。ショップ経営のかたわら、お客さんとのトレーニングやツーリングなどで飛び回り、忙しい毎日を送っている。09年からは「キャノンデール・ジャパンMTBチーム」のメカニカルディレクターも務める。
最近埼玉県所沢市北秋津に2店舗目となるOVER DO所沢店を開店した(日常勤務も所沢店)。
OVER-DOバイカーズサポート


仲沢 隆(自転車ジャーナリスト)仲沢 隆(自転車ジャーナリスト) 仲沢 隆(自転車ジャーナリスト)

ツール・ド・フランスやジロ・デ・イタリアなどのロードレースの取材、選手が使用するロードバイクの取材、自転車工房の取材などを精力的に続けている自転車ジャーナリスト。ロードバイクのインプレッションも得意としており、乗り味だけでなく、そのバイクの文化的背景にまで言及できる数少ないジャーナリストだ。これまで試乗したロードバイクの数は、ゆうに500台を超える。2007年からは早稲田大学大学院博士後期課程(文化人類学専攻)に在学し、自転車文化に関する研究を数多く発表している。






text:Takashi.NAKAZAWA
photo:Makoto.AYANO