ジロ・デ・イタリア第11ステージは、序盤で56人の大人数の逃げが決まり、最後の登りで飛び出したエフゲニー・ペトロフ(ロシア、カチューシャ)がステージ勝利。ヴィノクロフ集団は12分遅れ、逃げ集団に入ったリッチー・ポルト(サクソバンク、オーストラリア)がマリアローザを獲得した。

険しい表情でスタートを待つアレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)険しい表情でスタートを待つアレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ) photo:Riccardo Scanferlaルチェーラ〜ラクイラ間の262kmに設定された第11ステージは今大会の最長ステージ。ゴール地点のラクイラは2009年4月のイタリア中部地震最大の被災地であり、被災者を励ますためにこのジロのゴール地点に選ばれた。

レース中盤に1級の山岳を越えてからは、2級の山岳をふたつ越えて最後に勾配11%の登りが待つという厳しいコースプロフィールの第11ステージ。総合争いでも何か変動が起こりうるとは思われていたが、予想外の展開が待ち構えていた。

34km地点で飛び出した56名の逃げ集団が雨の下りをこなす34km地点で飛び出した56名の逃げ集団が雨の下りをこなす photo:Riccardo Scanferla序盤から断続的なアタック合戦が繰り広げられる中、逃げグループが形成されたのが37km地点。逃げグループ、という表現よりも逃げ「集団」と呼ぶのが相応しい56人もの大人数の逃げが決まった。そしてこの逃げには多くの有力選手が乗った。

その中で最もポイントとなる選手は2分26秒遅れの総合6位につけているリッチー・ポルト(サクソバンク、オーストラリア)。マリアビアンカを着ながらこの逃げ集団に潜り込んだ。4分22秒遅れの総合11位につけるクライマー、ダビ・アローヨ(スペイン、ケスデパーニュ)、8分14秒遅れの総合21位につけるリーナス・ゲルデマン(ドイツ、チームミルラム)、9分59秒遅れの総合22位のカルロス・サストレ(スペイン、サーヴェロテストチーム)、そして10分54秒遅れのブラッドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ)までもがこの逃げに加わった。

逃げ集団に入ったマリアヴェルデのマシュー・ロイド(オーストラリア、オメガファーマ・ロット)とマリアビアンカのリッチー・ポルト(オーストラリア、サクソバンク)逃げ集団に入ったマリアヴェルデのマシュー・ロイド(オーストラリア、オメガファーマ・ロット)とマリアビアンカのリッチー・ポルト(オーストラリア、サクソバンク) photo:Kei Tsujiマリアローザを着るアレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)、総合2位のカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシング)、3位のヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス)、4位のイヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス)らはメイン集団に残り、この逃げを容認。すると、みるみると逃げ集団との差が開いていく。

75km地点で差は16分43秒と、今ジロで最大のタイム差がついても、メイン集団は静観。アスタナやBMCレーシングチームが集団のコントロールをするも、スピードはそれほど上がらず、タイム差がなかなか詰まらない。

アスタナやアンドローニ・ジョカトーリが15分遅れのメイン集団を牽引アスタナやアンドローニ・ジョカトーリが15分遅れのメイン集団を牽引 photo:Kei Tsuji逃げ集団のペースメイクに積極的なのは5人をこの逃げに送り込んだケスデパーニュ。アローヨの総合ジャンプアップのためにアシスト選手たちが献身的に逃げ集団をリードする。ポルトを擁するサクソバンクも、第8ステージで優勝したクリスアンケル・セレンセン(デンマーク、サクソバンク)が山で逃げ集団のペースをつくる。

136.2km地点の1級山岳1級山岳リオネーロ・サニティーコの山頂をトップで通過したのは、マリアヴェルデのマシュー・ロイド(オーストラリア、オメガファーマ・ロット)。きっちり逃げに乗ったロイドはきっちり山岳ポイントを加算。この登りで少し逃げ集団は人数を減らしたが、それでも49人が残る。157km地点の2級山岳もロイドが先頭通過。山岳ポイントを荒稼ぎする。

エヴァンス擁するBMCレーシングチームも集団牽引に参加エヴァンス擁するBMCレーシングチームも集団牽引に参加 photo:Riccardo Scanferla178km地点でその差は15分36秒。メイン集団はまだ追いを見せない。200kmを過ぎてようやくメイン集団ではアスタナやBMCがペースを上げ始める。219km地点、この日最後の2級山岳で逃げ集団はセレンセン、ヴァシル・キリエンカ(ベラルーシ、ケスデパーニュ)らがハイペースを刻み、山頂は飛び出したヤン・バケランツ(ベルギー、オメガファーマ・ロット)が先頭通過。

この日の山岳ポイントを全て終えて、逃げ集団は30人強、メイン集団も40人ほどと追わなくてはならないメイン集団の数的有利はまったく無い状況に。逃げ集団からリクイガス・ドイモのアシストが下がってきてメイン集団に合流、牽引を開始するが、その差を詰め切れない。

濡れた路面によって集団では落車が多発濡れた路面によって集団では落車が多発 photo:Riccardo Scanferla残り30km地点でアシストをほぼ使い果たしたメイン集団ではヴィノクロフ、エヴァンス、バッソ、ニーバリ、クネゴ、ガルゼッリ、スカルポーニら各チームのエースが自ら先頭を引く状況に。先頭交代こそ円滑なものの、ここで力を使いたくない総合上位陣たちのペースは上がらない。この時点で12分30秒差。

チームスカイ、サクソバンク、ケスデパーニュの3チームが主にペースをつくる逃げ集団ではステージ優勝を狙う動きがはじまる。残り8kmでのデーヴィット・ミラー(イギリス、ガーミン・トランジションズ)のペースアップに、ジェローム・ピノー(フランス、クイックステップ)がカウンターアタックで応戦。

何度もガッツポーズをしてゴールするエフゲニー・ペトロフ(ロシア、カチューシャ)何度もガッツポーズをしてゴールするエフゲニー・ペトロフ(ロシア、カチューシャ) photo:Riccardo Scanferla続いて飛び出したダリオ・カタルド(イタリア、クイックステップ)にバケランツ、リーナス・ゲルデマン(ドイツ、チームミルラム)が追いつき先頭は3人に。しかし残り1.8kmの雨に濡れた右コーナーでバケランツが落車。単独先頭になったゲルデマンがゴール前の登りに挑む。

しかし勾配のきつい坂にゲルデマンが減速すると、後ろから一気にペースを上げたエフゲニー・ペトロフ(ロシア、カチューシャ)が単独で先頭に立つ。数秒遅れて10名ほどの選手が続くが、残り600mからトップに立ったペトロフのペースは衰えること無く単独でゴールラインを切った。サングラスを外す余裕を見せて、ペトロフがステージ優勝を飾った。

メイン集団内でゴールしたマリアローザのアレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)メイン集団内でゴールしたマリアローザのアレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ) photo:Kei Tsuji5秒差の2位にカタルド、3位にはカルロス・サストレ(スペイン、サーヴェロテストチーム)が入る。7秒差の4位にウィギンズ、6位にゲルデマン、8位にアローヨが入り、それぞれ総合順位をジャンプアップし、総合争い戦線に浮上した。

誰も彼もが意気消沈した表情で登ってきたメイン集団からは、クネゴ、ガルゼッリ、スカルポーニ、ニーバリが12分42秒、バッソ、ヴィノクロフ、エヴァンス、カルペツが12分45秒遅れでゴール。みな一気に総合トップ10から陥落した。

マリアローザに袖を通したリッチー・ポルト(オーストラリア、サクソバンク)マリアローザに袖を通したリッチー・ポルト(オーストラリア、サクソバンク) photo:Kei Tsujiこの結果、21秒遅れの13位に入ったポルトがマリアローザを獲得。第1ステージの個人TTで好成績を叩き出し、新人賞ジャージを来たアップカマーが、ここでジロ最大の名誉をまとうことに成功。TTが走れ、登りにも強い若きオージーの今後の走りに注目が集まる。

そして総合2位にジャンプアップしたアローヨには総合優勝のチャンスが巡ってきた。アローヨは07、09ジロでいずれも総合10位に入っているクライマー。最終週の山岳ステージでも本来の走りができれば、ヴィノクロフやエヴァンスたち対するおよそ10分のリードは総合優勝に向けて大きな味方になることは間違いない。





ジロ・デ・イタリア2010第11ステージ結果
1位 エフゲニー・ペトロフ(ロシア、カチューシャ)         6h28'29"
2位 ダリオ・カタルド(イタリア、クイックステップ)           +5"
3位 カルロス・サストレ(スペイン、サーヴェロテストチーム)
4位 ブラッドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ)         +7"
5位 アレクサンドル・エフィムキン(ロシア、アージェードゥーゼル)
6位 リーナス・ゲルデマン(ドイツ、チームミルラム)
7位 ジェローム・ピノー(フランス、クイックステップ)
8位 ダビ・アローヨ(スペイン、ケスデパーニュ)
9位 シャビエル・トンド(スペイン、サーヴェロ・テストチーム)
10位 ヤン・バケランツ(ベルギー、オメガファーマ・ロット)


個人総合順位
1位 リッチー・ポルト(サクソバンク、オーストラリア)      45h30'16"
2位 ダビ・アローヨ(スペイン、ケスデパーニュ)           +1'42"
3位 ロベルト・キセロフスキー(クロアチア、リクイガス・ドイモ)   +1'56"
4位 シャビエル・トンド(スペイン、サーヴェロ・テストチーム)    +3'54"
5位 ヴァレリオ・アニョーリ(イタリア、リクイガス・ドイモ)     +4'41"
6位 アレクサンドル・エフィムキン(ロシア、アージェードゥーゼル)  +5'16"
7位 リーナス・ゲルデマン(ドイツ、チームミルラム)         +5'34"
8位 カルロス・サストレ(スペイン、サーヴェロテストチーム)     +7'09"
9位 ローラン・ディディエ(ルクセンブルク、サクソバンク)      +7'24"
10位 ブラッドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ)      +8'14"
12位 アレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)    +9'58"
13位 カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシング)     +11'10"
14位 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス)      +11'28"
15位 イヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス)           +11'49"

ポイント賞 マリアロッサ
タイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・トランジションズ)

山岳賞 マリアヴェルデ
マシュー・ロイド(オーストラリア、オメガファーマ・ロット)

新人賞 マリアビアンカ
リッチー・ポルト(サクソバンク、オーストラリア)

チーム総合成績
サクソバンク

敢闘賞
エフゲニー・ペトロフ(ロシア、カチューシャ)



text:Yufta Omata
photo:Kei Tsuji,Cor Vos