ベトナムで開催された女子の10日間ステージレース「BIWASE CUP」に唐見実世子、牧瀬翼、吉川美穂が参戦。ベトナム人のチームメイトたちと一緒に勝利を目指した。結果的にはチーム総合優勝を成し遂げるも、噛み合わない意思に苦しんだレースとなった。唐見の自筆レポートで全ステージを振り返る。

唐見実世子、牧瀬翼、吉川美穂がベトナムのビワセチームとして参戦唐見実世子、牧瀬翼、吉川美穂がベトナムのビワセチームとして参戦
2011年に6ステージ・走行距離548km・賞金総額2億ドン(約100万円)で始まったビワセカップ。女子のレースでこの規模のラインレースは数少ないので、各国のナショナルチーム、海外からの参加も多く、年々規模が大きくなった。そして10周年を迎えた今年は、10ステージ、1048kmで争われた。

日本からはビワセカップのホストチームであるビワセチームの一員として、私・唐見実世子、牧瀬翼選手、ビワセの下部チームではあるが、エーススプリンターとして、またレースをコントロールする中核として吉川美穂選手が参戦することとなった。既にハイシーズンを迎えているオーストラリアや東南アジアの選手たちに、日本人選手がどの位絡めるかも見どころとなる。

2チームで参戦したベトナムのビワセチーム2チームで参戦したベトナムのビワセチーム
注目選手としてはロット・スーダルで活躍しているティタ・アニョン(ベトナム)、今年からアレBTCリュブリャナに加入したスプリンターのジュタティブ(タイナショナルチーム)、オリンピック出場経験のあるソムラート(タイナショナルチーム)、昨年のアジア選手権個人タイムトライアルU23で優勝しているティンティン(台湾ウーマンサイクリングチーム)、2年前のビワセカップで個人総合時間賞を獲得したティト・アニョン(ベトナム)などが挙げられる。

2年前のビワセカップで個人総合時間賞を獲得したティト・アニョン(ベトナム)2年前のビワセカップで個人総合時間賞を獲得したティト・アニョン(ベトナム) アレBTCリュブリャナに加入したジュタティブ(タイナショナルチーム)アレBTCリュブリャナに加入したジュタティブ(タイナショナルチーム)


第1ステージ
2月28日開幕、10チーム56名の選手がスタート。今年のビワセカップは新型コロナウイルスの影響で多数の海外チームがキャンセルし、例年に比べ参加チームが減り盛り上がりに欠けるかと思われたが、スプリンターを擁するチームとそうでないチーム、それぞれの戦略のもと、序盤からアタックがかかる。

集団先頭に集結したビワセチームによるコントロールが始まった集団先頭に集結したビワセチームによるコントロールが始まった
第1ステージは平坦基調の22kmのコースを3周回、66kmで争われ、毎周回コントロールラインでスプリントポイントも設けられているため、逃げが決まりにくいコースとはいえ、スプリントポイント狙いでアタックする選手もいて、油断はできない。

積極的な動きを見せたのは地元のホーチミンチームや台湾チーム。逃げが決まり辛いコースではあるが、スプリントポイントを狙ってアタックをかけてくる選手もいる。集団ゴールにまとめたいビワセチーム、タイナショナルチーム、アニョンチームが主に集団をコントロール。結局決定的な逃げはなく、1回目のスプリントポイントを通過。2周回目に入ると大きな動きは少し減り、3周回目はほとんどなくなり、大きな集団のままゴールスプリントへ。

列車から大きく伸びたティタ(アニョン)が優勝した。2位は吉川選手(ファンボンドン)、3位ジュタティブ(タイナショナル)となった。

惜しくも2位だった吉川美穂惜しくも2位だった吉川美穂
第2ステージ
短いアップダウンはいくつかあるものの、ほぼフラットなループコースを1周、113kmで争われる第2ステージ。先日のレースでボーナスタイム15秒を稼いだアニョンチームが集団をコントロール。間もなくしてホーチミンチームの一人逃げが決まり、序盤は穏やかにレースが進行する。スプリントポイント手前10km辺りで集団が活性化し、アニョンチームが崩壊しかける場面もみられたが、翌日のクイーンステージに備えてか、決定的な逃げにはいたらず、終始アニョンチームのコントロールの元、集団スプリントへ。ティタ(アニョン)、ジュタティブ(タイナショナルチーム)、吉川(ファンボンドン)の順でゴールした。

第3ステージ
コースの終盤に9.5kmの登りが待ち構えているクイーンステージ。例年このステージで個人総合が決まると言っても過言ではない。コースはワンウェイ、距離は116kmで争われた。スタートしてすぐにリーダーを擁するアニョンチームのコントロールが入り、淡々と距離を重ねるが20kmを過ぎた辺りからアタックが始まり、40km付近でビワセチームのコイ、アニョン第2エース、ティトを含む8人の逃げが形成される。逃げが目視できなくなった辺りで急にアニョンチームのコントロールを止め、アジアのレースならではあるが、ペースがガクンと落ちる。

ベトナム交通事情の関係から機材や食料の補給はオートバイから受け取るベトナム交通事情の関係から機材や食料の補給はオートバイから受け取る
この動きを良しとしなかったビワセはアニョンに代わってコントロールを開始。登り口で逃げ集団との差を2分に詰めてレース最大の山場へ。メイン集団はペースを淡々と刻み、次第に10名を切る小集団になり、逃げ集団からドロップしてくる選手を一人ずつ抜いていく。登り始めて5km付近でリーダーのティタがドロップ。その頃には牧瀬、唐見含むビワセ4人、アニョン1人、ベトナムナショナル1人、タイナショナル1人の7人集団になっていた。

しばらくして牧瀬選手がアタック、勢いよく抜け出しを図る。まもなくして何故かティタが集団に復帰。集団から飛び出た牧瀬選手の姿を目視できる位置でKOMを超える。まだ逃げ続けているチームメイトのコイとティトの姿は見えない。

牧瀬選手は集団に吸収されるも、前を行く選手の情報が入ってこないためどうすることもできず、頭数を揃えているビワセチームはアタックをかけて集団を揺さぶろうとしているが、言葉も通じず、正直何が正解なのかわからない。

第3ステージでコイ(ビワセ)が優勝。その後第7ステージまでリーダージャージを着続けた第3ステージでコイ(ビワセ)が優勝。その後第7ステージまでリーダージャージを着続けた
私はラスト3kmを切ったところで後輪をパンクさせてしまいレースを終えたが、コイがツアーリーダーから2分6秒の差をつけて独走優勝した事をゴール後に聞かされ、胸を撫で下ろした。ビワセはトップ集団にチーム員全員を乗せる事ができ、結果としては圧倒的な登坂力を見せつけるレースとなったが、逆にコイに逃げ切れる実力がある事がわかっていれば、山の麓までリーダーチームを差し置いて集団コントロールをする必要もないし、的確な情報があればもっとタイム差を広げることも可能だったので、裏目に出たステージでもあった。

圧倒的な力の差を見せつけてリーダージャージを獲得したビワセだが、昨日までのリーダー、ティトはスプリント力を備えているため、ボーナスタイムでの逆転も不可能ではない。そのため、予断を許さない状況が続く。

第4ステージ
第3ステージほど決定的な登りはないものの、序盤から登り基調のアップダウン、終盤には7kmの登りが控えるとてもタフな第4ステージ。またビワセにとってはリーダーチームとして走る初めてのステージとなった。

スタートしてすぐにアニョンを中心にアタック合戦が始まり、対応に追われる厳しい時間が続くが、30km過ぎた辺りで牧瀬、コイ(ビワセ)、アニョン3名、タイナショナル1人、ベトナムナショナル1人、ベロフィット1人の絶好の逃げが決まる。

補給を受け取る唐見実世子補給を受け取る唐見実世子
このまま逃げを行かせることがチームにとって得策だと考えたが、チームからの指示は逃げを捕まえて振り出しに戻すことだった。走りながら何度も話し合ったが、意見が一致せず、リーダーが逃げに乗っているのにリーダーチームが追うという図が出来上がってしまい、2回目のスプリントポイント手前で、逃げ集団をキャッチ。

もちろん即座にアタック合戦が開始され、逃げ集団ができ、追う必要がないメンバーだと思われたが、また追いかけて、の繰り返し。最後にタイナショナルチームの選手を含む逃げを許してしまい、3分半の差を付けられてしまう。山の麓でタイム差2分まで持っていき、そのまま7kmの山岳へ。

前を行く選手を一人ずつパスし、山頂手前2kmのところで逃げを全員キャッチ。その頃にはビワセ5人、アニョン1人、ベトナムナショナル1人、タイナショナル1人の計8人。KOMはコイ(ビワセ)が獲得し、そのままなだれこんでゴールへ。際どいゴール勝負は写真では判断ができなかったらしく、優勝者が2名となった。

写真判定で判定できない同着で優勝者が2人誕生した写真判定で判定できない同着で優勝者が2人誕生した
ビワセとしては全員がトップ集団に残る事ができ、1位バイク、2位唐見、3位牧瀬となり、結果としてはとても良いステージとなった。しかし、10日間という長期間のステージレースという観点からしても、序盤にチーム力を使い過ぎているように思えるステージとなった。

第5ステージ
5kmの湖の周りを10周回、50kmで争われるステージ。毎年ハイスピードな展開になるものの、逃げは決まり辛く、集団ゴールになりやすい。

レースに備える吉川美穂。ビワセチームのエーススプリンターだレースに備える吉川美穂。ビワセチームのエーススプリンターだ
1周のローリングスタートの後にすぐにアタック合戦が開始され、ビワセが後追いする嫌なパターンになる。首脳陣からの指示なのか、ビワセチームの大半が集団後方に取り残されている。前にいる数名で何とか逃げを潰し、次の展開へ。

1回目のスプリント賞を超えた辺りでアニョン、台湾、タイラントナショナルが中心となり、新たな逃げグループが形成される。そこにはビワセから2人の選手がチェックに入る。強力な逃げは2回目のスプリント賞を超えたところでタイナショナル、アニョン、ベロフィット、ビワセの4人に絞られたが、そのまま逃げ切りを図るチームがタイとビワセしかなかったので、足を止めて、そのまま集団に吸収。集団をまとめてそのままゴールスプリントへ。優勝はジュタティブ(タイナショナル)2位吉川(ファンボンドン)、3位バイク(ビワセ)という大健闘を見せたステージとなった。

ジュタティブ(タイナショナルチーム)がスプリント勝負を制するジュタティブ(タイナショナルチーム)がスプリント勝負を制する
個人総合時間賞、山岳賞、チーム総合の3つを1位で折り返したビワセ。鍵を握るポイントには必ず日本人選手の存在が光っている。しかしまだまだ先は長く、リーダージャージを守る厳しい日々が続くのに違いはなかった。

第6〜10ステージの後半レポートに続く

text:唐見実世子/Miyoko.Karami