超重馬場のタフコンディションの中開催されたシクロクロス世界選手権男子エリートレースで、1周目からリードを築き上げたマチュー・ファンデルポール(オランダ)が圧倒的な力で2連覇。ベルギー勢を蹴散らしたトーマス・ピッドコック(イギリス)が2位、トーン・アールツ(ベルギー)が3位に入った。



コールアップからスタートラインに向かうマチュー・ファンデルポール(オランダ)コールアップからスタートラインに向かうマチュー・ファンデルポール(オランダ) (c)Nobuhiko.Tanabe表彰台獲得を胸にスタートに並ぶワウト・ファンアールト(ベルギー)表彰台獲得を胸にスタートに並ぶワウト・ファンアールト(ベルギー) (c)Nobuhiko.Tanabe

最終カテゴリーの男子エリートレースがスタート。マチュー・ファンデルポール(オランダ)が ホールショットを奪う最終カテゴリーの男子エリートレースがスタート。マチュー・ファンデルポール(オランダ)が ホールショットを奪う (c)Nobuhiko.Tanabe
スイス、デューベンドルフの空軍基地を舞台に2日間開催されてきたシクロクロス世界選手権のトリを飾るのは男子エリートレース。男子ジュニアと女子U23レースで耕された重馬場の泥コースはさらに過酷さを増し、世界トップクラスの選手たちのパワーを試した。

注目は、ここまで圧倒的な力を誇示してきたディフェンディングチャンピオン、マチュー・ファンデルポール(オランダ)の牙城をベルギー勢が崩せるかという点。ファンデルポールと対抗馬のトーン・アールツやエリ・イゼルビッド(共にベルギー)が最前列から、そして大怪我から復活を遂げた元世界王者ワウト・ファンアールト(ベルギー)が2列目から、号砲と共に飛び出した。

序盤からマチュー・ファンデルポール(オランダ)が猛烈なペースアップを行う序盤からマチュー・ファンデルポール(オランダ)が猛烈なペースアップを行う (c)Nobuhiko.Tanabe
トーン・アールツ(ベルギー)を振り払って走るマチュー・ファンデルポール(オランダ)トーン・アールツ(ベルギー)を振り払って走るマチュー・ファンデルポール(オランダ) (c)Nobuhiko.Tanabe重たい泥コースに沈んだエリ・イゼルビッド(ベルギー)重たい泥コースに沈んだエリ・イゼルビッド(ベルギー) (c)Nobuhiko.Tanabe

「今日は羽が生えたかのように走れた」と言うマチュー・ファンデルポール(オランダ)「今日は羽が生えたかのように走れた」と言うマチュー・ファンデルポール(オランダ) (c)Nobuhiko.Tanabe
最終的に1時間8分にも及んだ男子エリートレース。注目のマチュー・ファンデルポール(オランダ)はホールショットを決め、並み居るベルギー勢を従えながら猛烈なハイペースを刻む。肋骨骨折から復活した前ベルギー王者アールツが続いたものの、「このコースは強者しか生き残れない。途中雨が止んだことで粘度が上がり、後半はより厳しいコンディションだった。僕が今まで走って来たレースの中で最もタフな一つだ」と振り返るファンデルポールとの距離は徐々に、しかし確実に開いていく。アルカンシエル奪還を目指したベルギー勢の希望は1周目にして打ち砕かれた。

ファンデルポールから遅れたアールツはベルギーのチームメイトであるイゼルビッドやマイケル・ファントーレンハウト、そして世界選手権で初めてエリートレースを走るトーマス・ピッドコック(イギリス)らと合流して2番手パックを作り上げる。3周目に入るとファンアールトとベルギーナショナル王者のローレンス・スウィークが追いつき、ベルギー勢5名の中にピッドコックが入った大きな集団が生まれた。

ベルギー勢が中心となった2番手グループ。ここからトーマス・ピッドコック(イギリス)が加速したベルギー勢が中心となった2番手グループ。ここからトーマス・ピッドコック(イギリス)が加速した (c)Nobuhiko.Tanabe
「ものすごく調子が良かった」と言うトーマス・ピッドコック(イギリス)が単独2番手を走行「ものすごく調子が良かった」と言うトーマス・ピッドコック(イギリス)が単独2番手を走行 (c)Nobuhiko.Tanabeピッドコックを追うトーン・アールツ(ベルギー)ピッドコックを追うトーン・アールツ(ベルギー) (c)Nobuhiko.Tanabe

表彰台圏内を目指して加速するワウト・ファンアールト(ベルギー)表彰台圏内を目指して加速するワウト・ファンアールト(ベルギー) (c)Nobuhiko.Tanabe
3番手トーン・アールツ(ベルギー)にワウト・ファンアールト(ベルギー)が追いついたが、パンクで後退してしまう3番手トーン・アールツ(ベルギー)にワウト・ファンアールト(ベルギー)が追いついたが、パンクで後退してしまう (c)Nobuhiko.Tanabe
全7周回中の4周目に入ると2位グループからファンアールトやスウィークが遅れ、ベルギー勢に追い討ちをかけるようにピッドコックが加速する。「すごく脚の調子が良く"自分がペースアップしたらどうなるか確認しよう"と思った。まだ5周回も残していたものの、コンディションの良さゆえにペースを保つことができたんだ。ここまで1週間体調を崩していたのに、自分自身驚いたよ」と言うピッドコックがベルギー勢を蹴散らした。

この日、表彰台が期待されたイゼルビッドは重馬場の泥コースに沈んだ。「泥が厳しすぎた。もう少しイージーであれば良かったのに。序盤こそ調子よく走れたものの、ペースが速すぎて苦しんでしまった。フライオーバーなど登りでは脚が重く、階段も一段一段が遠い。全く休みどころの無いコースでとても難しかった」と悔やむイゼルビッドはコルヌ・ファンケッセル(オランダ)たちにもパスされ、最終的に10番手に甘んじている。

軽やかな走りを披露した2番手ピッドコックの後ろからはアールツが迫ったが、僅か数秒の距離が縮まらない。バイク交換必須の泥レースでピッドコックはペースを落とすことなく逃げ続けた。

雨が止み、粘度の上がった深い泥区間をマチュー・ファンデルポール(オランダ)が突き進む雨が止み、粘度の上がった深い泥区間をマチュー・ファンデルポール(オランダ)が突き進む (c)Nobuhiko.Tanabe
フィニッシュライン上でバイクをアピールするマチュー・ファンデルポール(オランダ)フィニッシュライン上でバイクをアピールするマチュー・ファンデルポール(オランダ) (c)Nobuhiko.Tanabe
「本当にキツいコースで、後半ではフライオーバーを駆け上がることすら厳しかった。序盤にリードを稼ぎ、そこからは羽が生えたようだった。パーフェクトなレースを披露することができた」と言うファンデルポールは、一度も独走態勢を脅かされることなく最終ストレートへ。フィニッシュライン上ではこの日のために準備されたスペシャルペイントのバイクを披露し、1時間8分に及ぶ過酷な大一番を締めくくった。

その1分20秒後には「もしU23レースに出ていれば絶対に勝てた。でもエリートカテゴリーで走りたかったし、1年目にして表彰台を獲得できた。ファンタスティックな結果になった」と言うピッドコックがフィニッシュし、昨年のU23優勝に続いてメダルを獲得。イギリス王者まで15秒届かなかったアールツが銅メダルを確保した。

2年連続のアルカンシエルを射止めたマチュー・ファンデルポール(オランダ)2年連続のアルカンシエルを射止めたマチュー・ファンデルポール(オランダ) (c)Nobuhiko.Tanabe
「序盤から全速力で逃げたマチューには追いつけず、その後暫くは回復に時間を充てなければならなかった。世界屈指のタレント選手たちとバトルできたのは幸せだったけれど、本当はもう少しマチューと一緒に走りたかった。(肋骨骨折した12月末の)ナミュールからコンディションを落としてしまったが、それは受け入れるしかない事実」と、表彰台で笑顔を見せたアールツは語っている。

最終周回でパンクしながらもポジションを維持したファンアールトは4位。「世界選手権で表彰台を逃したのはジュニア時代から数えても初めて。とても残念だ。実は9回目の世界選手権で9度目の表彰台を狙っていたんだ。この記録を伸ばすことを目指していたのに」と悔しさを露わにしている。

ファンアールト以降は5位スウィーク、6位ファントーレンハウト、7位ファンケッセルと続き、トップ12以内に入った非ベルギー/オランダ勢はピッドコックただ一人だった。
シクロクロス世界選手権2020 男子エリート結果
1位 マチュー・ファンデルポール(オランダ) 1:08:52
2位 トーマス・ピッドコック(イギリス) 1:20
3位 トーン・アールツ(ベルギー) 1:45
4位 ワウト・ファンアールト(ベルギー) 2:04
5位 ローレンス・スウィーク(ベルギー) 2:32
6位 マイケル・ファントーレンハウト(ベルギー) 3:12
7位 コルヌ・ファンケッセル(オランダ) 3:52
8位 ティム・メルリエ(ベルギー) 4:32
9位 クィンティン・ヘルマンス(ベルギー) 4:48
10位 エリ・イゼルビッド(ベルギー) 5:11
Text:So.Isobe
Photo:Nobuhiko.Tanabe