エディ・メルクスEMX1エディ・メルクスEMX1 (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp

エディ・メルクスはツール・ド・フランスとジロ・デ・イタリアをそれぞれ5回制覇し、その他、数々のヒストリックレースを制し、史上最強の輪聖と呼ばれた60~70年代の名選手エディ・メルクス氏が起ち上げたオウンメーカーで、彼の故郷ベルギーはブリュッセル近郊に本拠地を構える。

2010年はプロチーム クイックステップに機材供給していて、すでにトム・ボーネンらがエディ・メルクスを駆ってレースを戦っている。レースだけがバイクの性能を物語るものではないが、やはりメルクスにはレースがよく似合う。

プロチームに供給するほどの規模を持ちながら、ラインナップは至ってシンプル。1つ1つのカテゴリーに1台ずつ用意するといった感じだ。ヨーロピアンロードではまだ少数派の女性専用モデルも数タイプ用意しているところは、流石と言うべきか。

ボリューム感あふれる形状のヘッド部。ロワーベアリングのみ1-1/4を採用するボリューム感あふれる形状のヘッド部。ロワーベアリングのみ1-1/4を採用する ダウンチューブにもブランドロゴがプリントされているダウンチューブにもブランドロゴがプリントされている


EMX1は同社のトップグレードであるEシリーズのパフォーマンスカテゴリーに属する。Eシリーズはカーボンフレームを指す。パフォーマンスカテゴリーはスローピングトップチューブをもつジオメトリーが特徴だ。

レースにも使える性能を持ちながらも、ヘッドチューブを長く取ることで上半身の負担を軽減し、ライダーに優しい快適性の高いバイクに仕上がっている。

ヘッドチューブは長めに設計されているヘッドチューブは長めに設計されている ボリュームあるヘッド周りのブロックボリュームあるヘッド周りのブロック リアステーは細身でしなやかな印象リアステーは細身でしなやかな印象


カーボンでバイクを作るようになって、設計にはCAD(コンピュータ解析によるデザイン)が不可欠になった。メルクス社も、走っている応力に応じてフォークとフレームをコンピュータ設計している。特徴的なトップチューブは逆三角形の断面形状にして剛性と軽量性を両立している。

内蔵式ではないが『オーバーサイズBB』と名付けられたBB部は、カーボンフレームらしいボリューム感でねじれを排除し、ライダーの脚力を余すことなく車輪に伝える。

シートステーはモノタイプを採用。シートチューブの接合部は体積を大きくしてねじれを防ぐシートステーはモノタイプを採用。シートチューブの接合部は体積を大きくしてねじれを防ぐ エディ・メルクスのロゴがプリントされたオリジナルパーツはスマートな仕上がりエディ・メルクスのロゴがプリントされたオリジナルパーツはスマートな仕上がり


BB周りに続いて、近年増加しているのがヘッドチューブ周りの断面積だ。下ワンのスーパーオーバーサイズ化(1-1/4インチ)だけでなく、トップチューブとダウンチューブも巻き込んだ大きな部分になっている。金属であればガセット補強で行っていた工作をモノコックフレームの設計の自由度を生かし、一体で成し作り上げている。軽く丈夫で安定したハンドリングをもたらす。

このような工作は本来はマウンテンバイク用だった。ワンポイントファイブのヘッド規格も、MTBにおいてもっとも激しい走りをするダウンヒルやフリーライドといったジャンルのバイクのために生まれた新規格だった。
ロードバイクにはダウンヒルバイクと同じような強度は必要ない。より強く、より軽く、その為には新規格であっても貪欲に組み込んでいく姿勢が、メルクスバイクを進化させ続けている。あたかもメルクス氏の現役時代のあだ名『カニバル=人食い鬼』のように。

ダウンチューブ裏にもグラフィカルなロゴが入るダウンチューブ裏にもグラフィカルなロゴが入る シートチューブはオーソドックスシートチューブはオーソドックス エアロ形状のフロントフォークエアロ形状のフロントフォーク


下ワンの大口径化は最近のロードバイクのトレンドだが、アメリカ勢はワンポイントファイブ、ヨーロッパ勢はスーパーオーバーサイズといった傾向が見られる。どちらが優秀という訳ではないが、面白い傾向だ。EMX1はスーパーオーバーサイズを採用する。

インテグラルシートポストを採用していないのも、いかにもポジション確保のしやすさにこだわったメルクスらしい。またフロントフォークやシートステー、その他各部の造形にエアロ効果を意識している設計者の意図が伺える。






― インプレッション

「ベルジャンブランドを愛するロングライド派にすすめたい」
佐藤 成彦(SPACE BIKES



「ベルジャンブランドを愛するロングライド派にすすめたい」 佐藤 成彦(SPACE BIKES)「ベルジャンブランドを愛するロングライド派にすすめたい」 佐藤 成彦(SPACE BIKES) エディ・メルクスは2つのライン、EMXシリーズとAMXではスケルトンをきっちり分けて開発しているようですね。
レース志向のサイクリストに向けて作られているのがAMXシリーズであり、EMXシリーズはパフォーマンスやコンフォート系のサイクリスト向けで、スケルトンでしっかり走行性能の違いを生み出しています

今回はAMX-4と同時に試乗することができました。したがってAMXと比べるとヘッドチューブなどが長めに設計されているEMX-1は、どうしても腰高なイメージがぬぐい去れない感覚がありました。とはいえ、このバイクしか乗っていなければ問題のないレベルだと思います。
 
基本的な設計がコンフォート系のモデルなので、本格派のレーシングバイクのように尖った速さはこのモデルに求めるのは無理があります。剛性もレーシングモデルほどの高さはないので、大きなギヤをガンガン踏むようなパワーライドだとちょっと物足りなさがあり、一瞬の反応性はレーシングモデルと比べると若干劣る感があるのは仕方のないところ。

とはいえ、踏んだときにハンガー部の奥の方で踏ん張ってくれるような、フレームの芯を感じることはできるので、ロングライドをメーンとするようなライダーであれば満足できるレベルにあると思います。
 
コンフォートモデルというと乗り心地抜群というイメージもありますが、EMX-1はそこまでの快適性は与えられていません。フレーム自体の剛性はさほど高くないのですが、ロードインフォメーションはちゃんと伝えてくる。そういった部分はレーシングブランドならではなのかもしれません。

エディメルクスに乗るのは6、7年ぶりでした。史上最強のロード選手の名を冠したブランドだけに、以前は本格的なレーシングモデルだけを揃えていましたが、久しぶりに乗ってみると、こういうコンフォートモデルも作るようになったのか……、という時代の流れを感じると、感慨もひとしおですね。

コンフォートモデルは各社から登場しているが、それが必要かどうか分からなくなってきた部分もある。もちろんハイエンドのモデルではかなりの高剛性を持つモデルがあるとはいえ、ひと頃に比べるとレーシングバイクの快適性は、振動吸収性を含めかなりそのレベルに向上しているように思える。したがって、コンフォートモデルとレーシングモデルの棲み分けは、ジオメトリーの部分だけになってきているので、難しい部分はありますね。

EMX-1のキャラクターはその設計コンセプト通り、コンフォート向きと言えるでしょう。フレーム価格で22万6380円、シマノ・105仕様の完成車で31万8360円というのは、はじめてのカーボンバイクとして価格の面ではいい線をいっていると思いますが、欲を言えばもう少しインパクトのある性能が実現されていると、よりお得感があっていいのではないでしょうか。

ライバルメーカーのコンフォートバイクと乗り比べてみるとまた違った評価になるかもしれません。とはいえ、俺はベルギーのファンだ! パヴェを走るぜ!といった心意気のあるロングライド志向のサイクリストにぜひ乗ってほしいですね。メルクスは特別なブランドですから。



レースにも使える基本性能の高さと安定感
鈴木 祐一(Rise Ride)



コンフォート系のバイクにしては「走るなぁ」という第一印象です。スケルトンにしても剛性感にしても、「ノンビリ系のコンフォートバイク」というわけではなくて、ガンガン走れるグランツーリスモというところでしょうか。
伝統的なメルクスならではの硬派な感じこそないものの、決してフニャフニャなバイクではない。ロードバイクとしての運動性能をちゃんと発揮してくれるバイクです。

「レースにも使える基本性能の高さと安定感がある」 鈴木 祐一(Rise Ride)「レースにも使える基本性能の高さと安定感がある」 鈴木 祐一(Rise Ride) ダウンチューブとフロント周りが大口径な造りでしっかりしているので、見た目通りの安心感はあります。とくにコーナーでの安定感は高いですね。剛性の高いフロント周りが狙い通りの性能を出している。おそらくフォークもいいんでしょう。外観上は上級モデルに採用されているものとよく似ています。おそらく似た設計なのでしょう。

ブレーキング性能は全く問題なかったですね。ブレーキ(シマノ105)も良くて、フレーム剛性があるから何の不安も無かった。快適さはあるけれど、ロードインフォメーションをわかりやすく伝えてくれるので、好感を持ちました。ロードバイクならではのシビアさ、楽しさは十分残しつつ、ロングライド的な乗り方にも対応出来る。初心者系の入門者にもいいバイクでしょうね。

ヘッド下部とダウンチューブにかけてのボリュームが大きいことが外観上の特徴なんですが、まさにその部分が表現しているように安定感があります。その部分が走りにいい影響を大きく及ぼしている。

テストで同時に乗ったスカンジウムのAMX-4が金属以上に快適なバイクでした。このEMX-1は同じようなキャラクターをカーボンで表現しているので、好みで選ぶのもいいでしょうね。
マイルドさで言えばAMX-4のほうが上なので、快適さを追求するならそちら。でも剛性感ならこちらEMX-1でしょうか。このあたりは「アルミ=剛性が高い」「カーボン=振動吸収性に優れる」とは一概に言えないところで、面白いですね。単純に素材だけでは判断することができない。

ポジションがその人に合うかどうかはありますが、レースで十分使える走行感があったので、レースに使うのもいいかもしれません。上体の起きたポジションを好む人、ヒルクライムをメインに使う人など、ハマるケースはあると思います。

完成車はシマノ105で性能十分ですが、ホイールをグレードアップすれば非常に高性能なバイクになりますね。そのポテンシャルがフレームにある。ステムやハンドル、シートピラーなども高品質なエディメルクスオリジナルのマーキングロゴ入りで、まとまりとしてもいいですね。

フレームの素性がいいのでフレーム売で好きなパーツで組み上げるのもいいかもしれません。エディ・メルクスのブランドサイトでチェックしてみると、カラーバリエーションもポップで魅力的な感じのものが揃っているので、ハードな感じにも、キャンディな感じにも組める。垢抜けた新しいメルクスを味わうには最適なバイクですね。

エディ・メルクスEMX1エディ・メルクスEMX1 (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp

エディ・メルクスEMX1 
フレーム:カーボン24HM UDM
フォーク:カーボンUDM 1-1/4
フレームセット重量:1610g(カタログ値)
完成車重量:8.250㎏(カタログ値)
フレームサイズ:420、450、480㎜(スローピング形状)
カラー:グリーン、ブルー、ブラック、ブラック/レッド、ホワイト/グレー
メーンコンポ:シマノ・105
フレームセット価格:22万6380円
シマノ・105完成車価格:31万8360円




インプレライダーのプロフィール


佐藤 成彦佐藤 成彦 佐藤 成彦(SPACE BIKES)

千葉県松戸市の「バイクショップ・スペース」のオーナー。身長179cm、体重64kg。実業団のBR-1クラスを走る現役のレーサーでもあり、近所に住んでいるシマノレーシングの鈴木真理選手と共にトレーニングをこなすほどの実力を有している。2009年の戦歴は全日本実業団BR1クラス3位、実業団富士SW BR1クラス2位など。ハードなロードレースで自らが試して得た実戦的なパーツ選び、ポジションのアドバイスに定評がある。
SPACE BIKES


鈴木 祐一鈴木 祐一 鈴木 祐一(Rise Ride)

サイクルショップ・ライズライド代表。バイシクルトライアル、シクロクロス、MTB-XCの3つで世界選手権日本代表となった経歴を持つ。元ブリヂストン MTBクロスカントリーチーム選手としても活躍した。2007年春、神奈川県橋本市にショップをオープン。クラブ員ともにバイクライドを楽しみながらショップを経営中。各種レースにも参戦中。セルフディスカバリー王滝100Km覇者。
サイクルショップ・ライズライド


ウェア協力:Santini, Sportful(日直商会

text :Tsukasa.Yoshimoto
photo&edit:Makoto.AYANO

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