世界チャンピオンのカデル・エヴァンス(オーストラリア)がフレーシュ・ワロンヌで初優勝を飾り、大成功のクラシックシーズンを終えたBMCレーシングチーム。しかしジロ・デ・イタリアに向けて志気が上がるチームに、トーマス・フライ(スイス)のEPO陽性というニュースが飛び込んで来た。

禁止薬物EPOの使用を認めたトーマス・フライ(スイス)禁止薬物EPOの使用を認めたトーマス・フライ(スイス) photo:Cor VosBMCレーシングチームの所属選手にドーピングの疑いがもたれたのはこれが初めてではない。4月上旬には、イタリアのマントヴァに住む薬剤師グイード・ニグレッリ氏に関するドーピング捜査で、元世界チャンピオンのアレッサンドロ・バッラン(イタリア)とマウロ・サンタンブロジオ(イタリア)の名前が浮上した。

ともにランプレ所属時代の疑惑であり、BMCレーシングチームと直接的な関わりは無い。しかしチームの方針として、マントヴァのドーピング捜査での疑いが完全に晴れるまで、2人をレースから遠ざけた。その半月後、今度はフライのEPO陽性が発覚。本人がEPO摂取を認めたため、チームはフライを即刻解雇した。

ティレーノ〜アドリアティコに出場したアレッサンドロ・バッラン(イタリア、BMCレーシングチーム)ティレーノ〜アドリアティコに出場したアレッサンドロ・バッラン(イタリア、BMCレーシングチーム) photo:Cor Vosドーピングの抑止に向けて、チームが出来ることはもう無いのだろうか?

「完全にドーピングを無くす方法?それは簡単だ。同じ場所に住み、一緒に行動し、同じものを食べること。でもそれは非現実的すぎる。そのために選手たちは常に居場所を報告しているんだ。いつでもレース外ドーピング検査を受ける状態にある」。チーム代表のジム・オショウィッツ氏はそう語る。

ダウンアンダーに出場したBMCレーシングチーム 右端がフライ、2番目がサンタンブロジオダウンアンダーに出場したBMCレーシングチーム 右端がフライ、2番目がサンタンブロジオ photo:Kei Tsujiレース主催者や各国の自転車競技連盟、そしてUCI(国際自転車競技連合)によるドーピング検査を合計すると、選手たちは年間何十回も検査を受けている。UCIが導入したバイオロジカルパスポートは、血液サンプルと尿サンプルのデータを毎回蓄積することで、正常値と異常値の判別が可能になる。つい先日、バイオロジカルパスポートによってペッリツォッティ、ヴァリャベッチ、ロセンドの3名のドーピング疑惑が浮上したばかりだ。

BMCレーシングチームはエヴァンスのアシストとして、バッランとサンタンブロジオを獲得。日曜日(5月2日)になってサンタンブロジオの疑いが晴れたため、レース出場にGOサインを出している。しかしパリ〜ルーベの2日前にレース活動を中断したバッランは、依然としてレースを離れたままだ。

BMCレーシングチームのジョン・ルランゲ監督BMCレーシングチームのジョン・ルランゲ監督 photo:Kei Tsujiサンタンブロジオはガゼッタ・デッロ・スポルト紙の中で「弁護士のノルマ・ジモンディ(※フェリーチェの娘)とともにNAS(イタリアの麻薬撲滅局)のヒアリングに出席。そこで全ての質問に答え、潔白を証明した。自分が全くの無実であることに自信があったし、レース活動の自粛期間中もモチヴェーションを失わずにトレーニングを続けていた。どうして自分の名前が挙がったのか理解出来ない」と語っている。

「(自粛期間中も)チームは常に僕とコンタクトを取っていた。エヴァンスもずっと僕のことを気に懸けていてくれたよ。ジロ・デ・イタリアでは彼を最大限バックアップしたい」。

フライのEPO陽性に戦々恐々なのは、チームのジョン・ルランゲ監督と、チームオーナーのアンディ・リース氏だ。2人はドーピングスキャンダルによってプロチームを解散させてしまった経歴の持ち主だ。

フォナックに所属するフロイド・ランディス(アメリカ)のテストステロン陽性が発覚したのは2006年のツール・ド・フランスでのこと。パリでマイヨジョーヌを受け取った数日後に、ランディスのドーピング違反が判明した。チームはそれまでにもタイラー・ハミルトン(アメリカ)やサンティアゴ・ペレス(スペイン)の前例があり、ランディスのドーピングが決定打となって、チームは解散に追い込まれた。

チーム監督として1年目の2006年にランディス・スキャンダルを経験したルランゲ監督。今回のBMCレーシングチームにおける相次ぐドーピング疑惑については、まだじっと口を閉ざしたままだ。

text:Gregor Brown
photo:Kei Tsuji, Cor Vos
translation:Kei Tsuji