世界最古のロードレースとして知られ、「Doyenne(ドワイエンヌ=最古参)」の異名をもつリエージュ〜バストーニュ〜リエージュ(UCIヒストリカル)が、今年もベルギーのワロン地域を舞台に開催される。春のクラシックシーズンを締めくくるこの伝統の一戦を制するのは果たして誰だ?

今年で108年目のクラシック アルデンヌ最高のタイトル

リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ2010コースマップリエージュ〜バストーニュ〜リエージュ2010コースマップ image:A.S.O.今年で96回目を迎えるリエージュ〜バストーニュ〜リエージュが、4月25日、ベルギーのワロン地域を舞台に開催される。

歴史あるクラシックレースは数あれど、このリエージュほど長い歴史のあるレースは他に無い。リエージュの第1回大会が開催されたのは、なんと今から108年前の1892年。近代オリンピック(1896年〜)よりも歴史が長い。日本の箱根駅伝(1920年〜)なんて目じゃない。

今年で開催は95回目。「Doyenne(ドワイエンヌ=最古参)」は納得のネーミングだ。「モニュメント」と呼ばれる5大クラシック(サンレモ、ロンド、パリ〜ルーベ、リエージュ、ロンバルディア)の一つとして数えられており、アルデンヌ3連戦の中ではその存在感が際立って大きい。

レースの舞台となるのは、リエージュの南に広がる丘陵地帯。コースはレース名の通りリエージュとバストーニュの往復で、アルデンヌの丘陵地帯を逆回りに8の字を描き、リエージュ近郊の街アンスにゴールする。

「アップダウンを繰り返し、最後は短い坂を駆け上がってゴール」というコースの特性は、他のアルデンヌ2戦(アムステルとフレーシュ)と同じ。しかし上り一つ一つの距離が長いのがリエージュの特徴で、186km地点の「コル・ドゥ・ロジェ(平均勾配4%)」は登坂距離が6.4kmに及ぶ本格的な上りだ。コース全長も258kmと一番長く、難易度、距離、格式においてアルデンヌナンバーワンと呼ばれるのも頷ける。

リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ2010コースプロフィールリエージュ〜バストーニュ〜リエージュ2010コースプロフィール image:A.S.O.

登場する10カ所の上り坂
1 69.0km  コート・ド・ロッシュ・アン・アルデンヌ   長さ2.8km・平均勾配4.9%
2 116.0km コート・ド・サンロシュ          長さ0.8km・平均勾配12%
3 159.0km コート・ド・ワンヌ            長さ2.7km・平均勾配7%
4 166.0km コート・ド・ストック           長さ1.1km・平均勾配10.5%
5 186.0km コル・ドゥ・ロジェ            長さ6.4km・平均勾配4%
6 198.0km コル・ドゥ・マキサール          長さ2.8km・平均勾配4.5%
7 209.0km モン・トゥー               長さ2.7km・平均勾配5.2%
8 223.0km コート・ド・ラ・ルドゥット        長さ2.1km・平均勾配8.4%
9 238.0km コート・ド・ラ・ロッシュ・オ・フォーコン 長さ1.5km・平均勾配9.9%
10 252.0km コート・ド・サンニコラ         長さ1.0km・平均勾配11.1%

リエージュ名物の急勾配サンロシュリエージュ名物の急勾配サンロシュ photo:Cor Vos細かい上りを数え始めるとキリが無いようなアップダウンコース。そのうち、カテゴリーが付けられた上り坂は10カ所だ。中でも最も勾配のあり、選手たちが壁をよじ上っているような光景(右写真)が見られるのが、116km地点に登場する「コート・ド・サンロシュ(平均勾配12%)」。この難所を越え、ラスト100kmを切ってからは断続的に上り坂が襲いかかる。

今年は「コート・ド・ニー」「コート・ド・オートルヴェ」「コート・ド・ヴェキー」の3つが外され、「コル・ドゥ・マキサール」と「モン・トゥー」が追加された。

リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ2010ラスト5kmリエージュ〜バストーニュ〜リエージュ2010ラスト5km image:A.S.O.本格的な闘いのゴングが鳴らされるのが、ゴール35km手前の「コート・ド・ラ・ルドゥット(平均8.4%)」。フィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)の出身地に近いこのラ・ルドゥットは、最大勾配が17%に達する。

続いてゴール20km手前で「ラ・ロッシュ・オ・フォーコン(平均9.9%)」をクリア。昨年アンディ・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)は、このフォーコンでアタックを成功させ、ゴールまで独走した。今年もゴールの6km手前で最後の難関「コート・ド・サンニコラ(平均11.1%)」にアタック。連続するこれらの上りで集団の人数が絞られるのは間違いない。

ゴール地点は「カウベルグ」や「ユイ」ほど厳しくはなく、ラスト2kmから緩斜面がダラダラと続く。上りでアタックを成功させた選手が独走するか、それともこう配の緩い最終ストレートで小集団スプリント勝負に持ち込まれるか。強いものだけが勝負に残るサバイバルレースが繰り広げられるはずだ。

本命はシュレク兄弟 ベルギー勢の復権なるか?

優勝候補に挙げられるシュレク兄弟(ルクセンブルク、サクソバンク)兄フランクと弟アンディ優勝候補に挙げられるシュレク兄弟(ルクセンブルク、サクソバンク)兄フランクと弟アンディ photo:Cor Vosコースレイアウト的に、優勝候補は他のアルデンヌ2戦と大差ない。しかしそのステータスの高さから、先の2戦を前哨戦と捉え、「すべてはリエージュのため」と語る選手も多い。過去の優勝者リストを見てみると、アタック力&スプリント力のあるオールラウンダーが名を連ねている。

注目は、これまでの2戦で常に積極的なアタックを展開し、昨年の優勝者アンディ・シュレク(ルクセンブルク)擁するサクソバンク。兄フランクも過去に2回表彰台に登っている。このリエージュでも、兄フランク=弟アンディの兄弟タッグは健在だ。

直前のジロ・デル・トレンティーノで総合優勝に輝いたアレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)直前のジロ・デル・トレンティーノで総合優勝に輝いたアレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ) photo:www.girodeltrentino.comシュレク兄弟の弱点はスプリント力だろう。小集団のスプリント勝負に持ち込まれた場合は優勝の可能性がグンと下がる。そのためにも、サクソバンクはハードな展開に持ち込んでライバルたちを苦しめ、ゴールまで距離を残して早めに本命を解き放つ。そう、昨年アンディがゴール20km手前の「ラ・ロッシュ・オ・フォーコン」でアタックし、独走に持ち込んだように。

フレーシュ・ワロンヌ2位のアルベルト・コンタドール(スペイン、アスタナ)も同じく、登坂力に秀でているものの、スプリントでのパンチ力に欠ける。早めに動いてくるのは間違いない。

3度目の優勝を狙うアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、ケースデパーニュ)3度目の優勝を狙うアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、ケースデパーニュ) photo:Cor Vosアスタナは、2日前のジロ・デル・トレンティーノで総合優勝を飾ったばかりのアレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン)をエースに立てる可能性もある。ヴィノは2005年大会でイェンス・フォイクト(ドイツ)との一騎打ちを制して優勝。コンタドールとヴィノの見慣れないダブルエースは他チームの脅威になる。

登坂力とスプリント力をバランスよく兼ね備えているアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、ケースデパーニュ)は、2006年と2008年に優勝。いずれも上りでライバルたちのアタックを封じ込め、小集団でのスプリントを制しての勝利だった。スペイン人で唯一の優勝経験者であるバルベルデは、盟友ルイスレオン・サンチェス(スペイン)と3度目のモニュメント制覇に懸ける。

アムステル・ゴールドレースを制したフィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)アムステル・ゴールドレースを制したフィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット) photo:Cor Vosスペイン勢としては他にもホアキン・ロドリゲス(カチューシャ)、イゴール・アントン(エウスカルテル)、カルロス・サストレ(サーヴェロ・テストチーム)らに注目。いずれも登坂力に長けたクライマータイプの選手だ。

地元ベルギー勢は、1999年の故フランク・ヴァンデンブルック以降、ことごとく海外勢にタイトルを奪われている。それどころか、2000年以降、誰一人として表彰台に登っていない。

フレーシュ・ワロンヌで初優勝を飾ったカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)フレーシュ・ワロンヌで初優勝を飾ったカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム) photo:Cor Vosそんなベルギーの期待を背負うのが、アムステル・ゴールドレースで優勝したフィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)だ。地元を通過するレースだけに、特にジルベールのモチヴェーションは高い。

フレーシュ・ワロンヌでアルデンヌの初タイトルをオーストラリアにもたらしたカデル・エヴァンス(BMCレーシングチーム)も優勝候補の一角。リエージュでは2005年の5位が最高位。再びアルカンシェルの力走が見られるか?チームスカイ所属のサイモン・ジェランス(オーストラリア)もリエージュに懸ける想いは強い。

アウトサイダーとしてはロマン・クロイツィゲル(チェコ、リクイガス)、ライダー・ヘジダル(カナダ、ガーミン・トランジションズ)、ロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク)、アンドレアス・クレーデン(ドイツ、レディオシャック)らに注目。ここ数年、アルデンヌ・クラシックで何度も上位に絡みながらも、あと一歩届かないダミアーノ・クネゴ(イタリア、ランプレ)は、春のクラシックシーズンの締めくくりレースで一花咲かせたいところだ。

text:Kei Tsuji
photo:Cor Vos

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