下馬評通り、イタリアの圧勝に終わったオリンピックプレ大会。コースの厳しさと同時に厳しい現実も見せられたレースに出場した日本人選手、そしてイタリア代表監督のコメントを、プレ大会翌日のイベント「富士山チャレンジライド」で集めた。あわせて、プレ大会終了後に行われた五輪組織委員会の片山右京・自転車競技スポーツマネージャーと、森泰夫・大会運営次長の記者会見のコメントも紹介する。



富士山チャレンジライドに参加した選手達富士山チャレンジライドに参加した選手達 photo:Satoru Kato
プレ大会を走ったフランスチームも参加プレ大会を走ったフランスチームも参加 photo:Satoru Katoオリンピックコースの南富士エバーグリーンラインを登る参加者オリンピックコースの南富士エバーグリーンラインを登る参加者 photo:Satoru Kato

今回のプレ大会では、富士山麓の標高1451mのオリンピックコース最高点を通過する部分は外して行われた。プレ大会翌日に行われた「富士山チャレンジライド」は、その部分を走るイベントとして開催。プレ大会を走った国内チームとフランスチームなどが参加し、一般参加者と共に南富士エバーグリーンラインを走った。その後一般参加者は富士山麓のコースをサイクリング。あいにくの雨の中、オリンピックのコースを体験した。


新城雄大(キナンサイクリングチーム)「前待ちが正解なコース」

スタート直後から逃げた岡本隼人(愛三工業レーシング)や新城雄大(キナンサイクリングチーム)、横山航太(シマノレーシング)らスタート直後から逃げた岡本隼人(愛三工業レーシング)や新城雄大(キナンサイクリングチーム)、横山航太(シマノレーシング)ら photo:Gakuto.Fujiwara
アイルランドの選手が飛び出して横山(航太)選手と岡本(隼)選手がついて行ったので、僕も行こうとしたら後ろにいたイタリアの選手が「行け!」と言ってくれた。イタリアもいったん落ち着かせようと思っていたのか、スピードを落としてくれたので逃げが決まった。コース後半までは逃がしてくれると思っていたが、思いのほか早く追走が来たので焦った。追走が追いついてからはイタリアなど人数を揃えているところを中心にローテーションが回ってくれて、日本人選手は足を溜められた。

コース前半は思ったよりも登りがあって曲がりくねっていて、位置取りによってはキツくなりそうだと感じた。僕は逃げていたのでそれほどキツくなく、前待ちは正解だったと思う。道志みち以降の登りも思ったよりキツくなかったが、それでも消耗していたので富士スピードウェイのコース内でのアタック合戦にはついて行けなかった。三国峠は本当に厳しかった。

今のところオリンピック出場は厳しいが、チームとしてアジアツアーも回るので、来年の5月まで諦めずにポイントを稼いでいきたい。


横塚浩平(チーム右京)「ただ走るだけでも厳しいコース」

道志みちで追走集団の先頭を引く横塚浩平(チーム右京)道志みちで追走集団の先頭を引く横塚浩平(チーム右京) photo:Satoru Kato
道志みちに先頭集団に入りたかったので、4人の逃げを追う動きに乗った。宇都宮ブリッツェンの堀(孝明)さんの飛び出しについて行ったら何人かの外国人選手が追いついてきて、道志みちの中盤あたりでNIPPOの選手や増田(成幸)選手らが追いついてきた。日本人選手は逃がしてくれると思っていたが、海外チームが動きに乗って来たのは誤算だった。特にイタリアチームは自分達に有利なレース運びをしたいと思っていたのか、積極的に動いていた。

ただ走るだけでも厳しいコースで、終盤は他の選手と競うという感じではなくなっていた。道志みちで足を使ってしまったので、三国峠ではまったく残っていなかった。あそこで勝負するのは本当に力のある選手だと思う。

オリンピック代表選考には残れていない状態だが、チームとしてUCIポイント獲得が目標でもあるので、ひとつひとつのレースでポイントを重ねて代表選考に残れるようになれば良いと思う。


増田成幸(宇都宮ブリッツェン)「勝負どころにならない場所で勝負が決まりそう」

追走集団内で走る増田成幸(宇都宮ブリッツェン)追走集団内で走る増田成幸(宇都宮ブリッツェン) photo:Satoru Kato
序盤からの逃げの追走にイタリアチームが動いたので、チームとしても危ない動きはチェックしていくと話し合っていたので対応した。でも暑さにやられて辛いレースになってしまった。

コースはかなり厳しいけれど、オリンピックにふさわしい良いコースだと思う。勝負どころは三国峠など登りの厳しいところもあるけれど、今回は富士スピードウェイで先頭集団の人数が絞られたので、普段は勝負どころにならないような場所で勝負が決まりそうだと感じた。

オリンピック代表選考では現在1位だとよく言われるが、6月はケガのリハビリをしていてまだ不十分な状態。代表選考の順位にこだわることなく、選考対象レースを楽しめるようにしたい。
(ナショナルチーム遠征中につき、電話取材)


石橋学(チームブリヂストンサイクリング)「オリンピックでは集団がバラバラになる」

三国峠を登る石橋学(チームブリヂストンサイクリング)三国峠を登る石橋学(チームブリヂストンサイクリング) photo:Satoru Kato
実力のある外国人選手達が集団をある程度まとめて三国峠で勝負してくるという展開を想定し、自分はそこまで集団で待機し、他のメンバーが自分をサポートするという作戦で挑んだ。最初は予想通りの展開になって集団が落ち着いたが、その後逃げにブリッヂする動きに大本命のイタリアチームが動き出した。自分もそこに乗る動きをしたが、後半のことを考えると何回もいけないのでチームメイトに対応をお願いし、近谷選手と徳田選手が追走集団に入った。しかし追走のペースがとても速かったらしく、しばらくして2人が集団に戻ってきた。その時点で本命選手を含む逃げが行ってしまった。そこからはできるだけ追い上げるように走った。

事前の情報だけでもかなりハードなコースというのはわかっていたが、実際に走ってみてもハードだった。オリンピックではさらに登りが増えると考えると確実に集団がバラバラになるようなタフなレースになると感じた。

オリンピック代表選考に向けてUCIポイントを獲得することは大きな目標。しっかりと実力を伴う走り、攻めの走りで結果に結びつけたい。(ナショナルチーム遠征中につき、メール取材)



湊諒(シマノレーシング)「レースを積極的に動かそうとする国が多かった」

入部正太朗に続いて走る湊諒(シマノレーシング)入部正太朗に続いて走る湊諒(シマノレーシング) photo:Satoru Kato
レース序盤にジャンプアップしていった人達で勝負が決まった感じだった。強豪のイタリア勢がコントロールして小さな逃げを行かせて三国峠で勝負と予想していたが、序盤からふるい落とすような動きがずっと続いたのは誤算だった。テストイベントだからか、前に前に動いてレースを積極的に動かそうとする国が多かった。

自分自身は出来ればもう少し足をためて岡(篤志)選手や石橋(学)選手らと一緒にもう少し上位で走りたかったが力が足りなかった。コースの難易度は十分に高く、山岳が多いので力のある選手が残ることになるだろうから、オリンピックに相応しいと思う。

自分もここからの成績でまだオリンピック出場の可能性はあるので、望みを捨てずに頑張りたい。そして出ることが目標ではなく、何か結果を残せるような走りを出来るようにしたい。


小森亮平(マトリックスパワータグ)「前と後ろで別のレースをしているようだった」

三国峠を登る小森亮平(マトリックスパワータグ)三国峠を登る小森亮平(マトリックスパワータグ) photo:Satoru Kato
最初の逃げが決まっていったん落ち着き、イタリアチームやフランスチームは後半勝負という雰囲気を出していたが、それを良しとしないロシアチームなどがアタックして他のチームも便乗してペースが上がっていった。力のある選手の追走が出た後は、追わなければならないシマノやブリヂストン、マトリックスが強調してペースアップし、イギリスチームも加勢してくれた。でも前に行った選手が強すぎて、前と後ろの集団で別のレースをしているようだった。

三国峠が厳しいことは知っていたが、そこに至るまでのコースがハードで足を削られていたので、本当に厳しかった。三国峠だけ登るなら行けるが、こんな厳しいコースでのレースは今までに無かった経験。オリンピック本番は自力が試されると思う。代表選考は正直かなり厳しいが、まだチャンスはゼロではなにので、これからのレースで結果を出してオリンピックに繋げて行ければと思う。



ダヴィデ・カッサーニ イタリア代表監督 「ニーバリやモスコン向き」

チームプレゼンに臨む選手をスマホに収めるダヴィデ・カッサーニイタリア代表監督チームプレゼンに臨む選手をスマホに収めるダヴィデ・カッサーニイタリア代表監督 photo:So.Isobe
イタリアとしては予想通り、完璧な展開に持ち込むことができたので満足している。もちろん本番はより厳しい展開になるだろうが、同じように金メダルを目指していく。まだ各選手のスケジュールが明確ではないのでセレクションはしていないが、厳しい山岳を登り、かつパンチ力が必要なコースなのでヴィンチェンツォ・ニーバリ(バーレーン・メリダ)やジャンニ・モスコン(チームイネオス)にチャンスがあると思っている。



プレ大会のレースがフィニッシュした富士スピードウェイで、五輪組織委員会で自転車競技スポーツマネージャーを務める片山右京氏と、大会運営次長の森泰夫氏が報道陣の囲み取材に応じた。

片山右京氏(自転車競技スポーツマネージャー)「我々が次のステップに進める大会」

日本で実施できていなかった長距離のレースも開催できると証明できたと思います。レース直後に関係者から、コースサポートやコミッセール、警察、観客の皆さんを含めたオーガナイズに対してお褒めの言葉をいただくこともできました。これで我々は次のステップにようやく進むことができると思います。

囲み取材に応える片山右京氏(画面中央)と森泰夫氏(左)囲み取材に応える片山右京氏(画面中央)と森泰夫氏(左) photo:Gakuto Fujiwara
ヨーロッパではメジャーなスポーツですが、欧州にはスポーツの側面だけではなく自転車が根付いています。日本も自転車活用推進法が施行され、自転車が車両という認識に変わってきていると思います。その上で五輪を通じ正しい自転車の乗り方の啓蒙や、既に行っていることですが世界で活躍できる日本人選手を輩出できるような体制を作るために邁進していきます。

森泰夫氏(大会運営次長)「テストの目的であった安全な運営は達成できた」

今回のテスト大会は安全に運営できるかを確認することが第一の目的でありました。他にも周辺自治体や警察など別々の組織を統合した運営オペレーション、広域無線のテスト、コンボイに同行する医療体制など様々な要素をチェックしながらテスト大会を行いましたが、スムースに大会を終えることができました。そして、安全に運営を行えたのが大きな収穫です。

これからは観客の皆さんにどの様に楽しんでいただくか、何処で見ていただくかを一歩進めた形で検討を進めていきます。もちろんロードレースは安全な運営が大前提となりますので、そこを徹底的に追求した上で、観戦について様々な角度から検討を進めていこうと思います。今回のテストは、オリンピックを素晴らしいものにできるようするための、日本で同じ様なロードレースを開催するためのスタートとなったと感じています。

text&photo:Satoru Kato, Gakuto Fujiwara