ピレネー山脈の1級山岳が2つ組み込まれたツール・ド・フランス第12ステージは40名の巨大な逃げ集団が先行する『逃げの日』に。終盤の1級山岳ウルケット=ダンシザンで先行し、三つ巴スプリントを制したサイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット)が自身初のステージ優勝を飾った。



7月18日(木)第12ステージ
トゥールーズ〜バニェール・ド・ビゴール
距離:209.5km
獲得標高差:
天候:曇りのち晴れ
気温:15〜28度


7月18日(木)第12ステージ トゥールーズ〜バニェール・ド・ビゴール 209.5km7月18日(木)第12ステージ トゥールーズ〜バニェール・ド・ビゴール 209.5km photo:A.S.O.7月18日(木)第12ステージ トゥールーズ〜バニェール・ド・ビゴール 209.5km7月18日(木)第12ステージ トゥールーズ〜バニェール・ド・ビゴール 209.5km photo:A.S.O.
『ネルソン・マンデラ国際デー』を記念してスペシャルヘルメットをかぶるディメンションデータ『ネルソン・マンデラ国際デー』を記念してスペシャルヘルメットをかぶるディメンションデータ photo:Kei Tsujiコメンテーターとして登場したアルベルト・コンタドール(スペイン)コメンテーターとして登場したアルベルト・コンタドール(スペイン) photo:Kei Tsuji
アタックが決まらないまま高速で最初の1時間を駆け抜けるアタックが決まらないまま高速で最初の1時間を駆け抜ける photo:Luca Bettini


大都市トゥールーズからピレネー山脈へ

ツール・ド・フランスがフランスとスペインの間に佇むピレネー山脈に突入した。トゥールーズからひまわり畑が点在する平野部を走り、山あいの温泉保養地であるバニェール=ド=リュションを経て本格山岳にアタック。残り80kmを切ってから、1級山岳ペイルスルド峠(距離13.2km/平均7%)と「ボーナスポイント」付き1級山岳ウルケット=ダンシザン(距離9.9km/平均7.5%)を立て続けにクリアする。

2019年に新たに導入され、上位通過者3名に8秒、5秒、2秒のボーナスタイムが与えられる「ボーナスポイント」に総合系チームが興味を示すとも思われたが、序盤からの激しいアタック合戦の末に大逃げが先行する展開に。スプリントポイント狙いのスプリンターもアタック合戦に加わったため、逃げグループ形成に向けた戦いは熾烈を極めた。正式スタートから延々と続いたアタック合戦の結果、レース最初の1時間の平均スピードは50.6km/hに達している。

ようやくレース先頭で形成されたのは40名もの人数を揃えた巨大な逃げ集団。マイヨヴェールを着るペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)やマイヨアポワのティム・ウェレンス(ベルギー、ロット・スーダル)らがメイン集団を引き離し始めた。

逃げ集団を形成した40名
ボーラ・ハンスグローエ x4    サガン、ミュールベルガー、オス、シャフマン
サンウェブ x4          マシューズ、アルント、ボル、ロッシュ
バーレーン・メリダ x3      コルブレッリ、ガルシア、トゥーンス
アージェードゥーゼール x3    ナーセン、ガロパン、フランク
ロット・スーダル x3       ウェレンス、クルーゲ、ベノート
EFエデュケーションファースト x3 ベッティオル、クラーク、スクーリー
ミッチェルトン・スコット x2   Sイェーツ、トレンティン
CCCチーム x2          ファンアーフェルマート、パウェルス
トレック・セガフレード x2    フェリーネ、ストゥイヴェン
UAEチームエミレーツ x2     コスタ、クリストフ
ユンボ・ヴィズマ x2       フルーネウェーヘン、テウニッセン
ディメンションデータ x2     ボアッソンハーゲン、ヴァルグレン
コフィディス x2         ペリション、シモン
ドゥクーニンク・クイックステップ x1 モルコフ
モビスター x1           エルビティ
アスタナ x1            ビルバオ
トタル・ディレクトエネルジー x1  カルメジャーヌ
ワンティ・グループゴベール x1   パスクアロン
アルケア・サムシック x1      ルダノワ

人数を揃えるサンウェブがリードする逃げ集団人数を揃えるサンウェブがリードする逃げ集団 photo:Kei Tsuji
ドゥクーニンク・クイックステップを先頭に前半の平坦区間をこなすドゥクーニンク・クイックステップを先頭に前半の平坦区間をこなす photo:Kei Tsuji
1級山岳ペイルスルド峠の登りをこなす逃げ集団1級山岳ペイルスルド峠の登りをこなす逃げ集団 photo:A.S.O.


40名の逃げ集団が1級山岳ペイルスルド峠を駆け上がる

逃げ集団の中で総合成績が最も良いのは、出場選手の中で3番目に長い11日間のマイヨジョーヌ着用経験があるファンアーフェルマートで、マイヨジョーヌと14分25秒差の総合28位。逃げに選手を送り込まなかったチームイネオスとグルパマFDJ、カチューシャ・アルペシンではなく、マイヨジョーヌを擁するドゥクーニンク・クイックステップがメイン集団を牽引する。

第11ステージで落車負傷したジャコモ・ニッツォーロ(イタリア、ディメンションデータ)に続き、翌日の第13ステージ個人タイムトライアルの優勝候補に挙げられていたローハン・デニス(オーストラリア、バーレーン・メリダ)が序盤のアタック合戦に加わっていたにもかかわらずリタイアした。

トゥールマレー峠(82回)、アスパン峠(74回)、オービスク峠(73回)に続く歴代4番目66回目の登場となる1級山岳ペイルスルド峠に向けて、逃げ集団はじわりじわりとリードを広げて行く。平坦路を走り終え、サガン、コルブレッリ、クリストフの順で通過したスプリントポイント(130km地点)の時点で逃げ集団とメイン集団のタイム差は4分50秒。こうして実質的に逃げ切りを確かなものにした逃げ集団が、実質的に最初の難所である1級山岳ペイルスルド峠に突入した。

登りの麓からアタックし、一時的に35秒のリードで独走したのは2日連続逃げのリリアン・カルメジャーヌ(フランス、トタル・ディレクトエネルジー)。しかし、登りの後半にかけてカルメジャーヌはリードを失い、頂上通過直前に追走グループが合流する。「逃げに乗るために力を使ったので、力が残っていなかった」と言いながらもマイヨアポワのウェレンスがしっかりと10ポイントを獲得した。

ペイルスルド峠を登り切った時点で、約25名に絞られた逃げ集団とメイン集団とのタイム差は5分40秒。下り区間でこの日が33歳の誕生日のサイモン・クラーク(オーストラリア、EFエデュケーションファースト)が独走に持ち込み、追走集団から1分リード、メイン集団から6分リードで次なる1級山岳ウルケット=ダンシザンに向かった。

1級山岳ペイルスルド峠の山頂に差し掛かるリリアン・カルメジャーヌ(フランス、トタル・ディレクトエネルジー)1級山岳ペイルスルド峠の山頂に差し掛かるリリアン・カルメジャーヌ(フランス、トタル・ディレクトエネルジー) photo:A.S.O.
先頭で1級山岳ウルケット=ダンシザンを駆け上がるサイモン・クラーク(オーストラリア、EFエデュケーションファースト)先頭で1級山岳ウルケット=ダンシザンを駆け上がるサイモン・クラーク(オーストラリア、EFエデュケーションファースト) photo:A.S.O.
クラークを追走するマッテオ・トレンティン(イタリア、ミッチェルトン・スコット)クラークを追走するマッテオ・トレンティン(イタリア、ミッチェルトン・スコット) photo:A.S.O.


Sイェーツとミュールベルガーが1級山岳ウルケット=ダンシザンを先頭通過

他のピレネーの峠と比べても道幅が狭く、急勾配区間も登場する1級山岳ウルケット=ダンシザンでクラークを追いかけたのはマッテオ・トレンティン(イタリア、ミッチェルトン・スコット)で、その後方ではマティアス・フランク(スイス、アージェードゥーゼール)やグレゴール・ミュールベルガー(オーストリア、ボーラ・ハンスグローエ)、サイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット)、ニコラス・ロッシュ(アイルランド、サンウェブ)らが追走グループを形成する。

独走を続けていたクラークはやがてトレンティンに追い抜かれ、ここにSイェーツとミュールベルガーが追いついて先頭は3名。この中で最も冴えた登坂力を見せたのはSイェーツだった。2018年ブエルタ・ア・エスパーニャ総合優勝者のSイェーツにミュールベルガーだけが食らいついて1級山岳ウルケット=ダンシザンに到達した。

1級山岳ウルケット=ダンシザンの頂上からフィニッシュラインまでは、下り基調ながら短い登りと平坦区間を含む30.5km。5秒遅れで頂上を越えたペリョ・ビルバオ(スペイン、アスタナ)が下り区間でSイェーツとミュールベルガーに追いついて先頭は3名。その1分後方に追走グループ、8分後方にチームイネオス率いるメイン集団という状況で高速ダウンヒルをこなす。

最高スピード82.9km/h、平均スピード56.5km/h(登りを含む)で1級山岳ウルケット=ダンシザンの頂上からフィニッシュ地点バニェール・ド・ビゴールまで駆け抜けた先頭3名。ステージ優勝争いはスプリントに持ち込まれ、先頭で残り200mの最終コーナーを曲がったSイェーツがそのまま腰を上げて加速する。これにミュールベルガーとビルバオが反応したものの、Sイェーツが先頭を守り抜いた。

先頭で1級山岳ウルケット=ダンシザンを越えたサイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット)とグレゴール・ミュールベルガー(オーストリア、ボーラ・ハンスグローエ)先頭で1級山岳ウルケット=ダンシザンを越えたサイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット)とグレゴール・ミュールベルガー(オーストリア、ボーラ・ハンスグローエ) photo:Kei Tsuji
3番手で1級山岳ウルケット=ダンシザンを越えたペリョ・ビルバオ(スペイン、アスタナ)3番手で1級山岳ウルケット=ダンシザンを越えたペリョ・ビルバオ(スペイン、アスタナ) photo:Kei Tsuji
7分遅れで1級山岳ウルケット=ダンシザンの頂上にやってきたメイン集団7分遅れで1級山岳ウルケット=ダンシザンの頂上にやってきたメイン集団 photo:Kei Tsuji
1級山岳ウルケット=ダンシザンの頂上に差し掛かるメイン集団1級山岳ウルケット=ダンシザンの頂上に差し掛かるメイン集団 photo:Kei Tsuji
1級山岳ウルケット=ダンシザンを越えて行くマイヨジョーヌ集団1級山岳ウルケット=ダンシザンを越えて行くマイヨジョーヌ集団 photo:Kei Tsuji


3つのグランツール全てでステージ優勝を飾ったSイェーツ

「他の2人がどれぐらいのスピードの持ち主なのかわからなかったけど、スプリントで勝つ自信があった。チームカーの監督から最終コーナーを先頭で曲がるように言われていたんだ。そしてその通りの走りができた」と、三つ巴勝負を制したSイェーツは語る。

2018年ジロ・デ・イタリアでステージ3勝&マリアローザ着用という成績を残しながらも失速し、同年ブエルタ・ア・エスパーニャでステージ1勝&総合優勝を果たしたSイェーツがツールで自身初のステージ初優勝。ジロを総合8位で終えた2019年は、双子の兄弟アダム・イェーツのアシスト役としてツールに出場していた。

「3つのグランツール全てでステージ優勝するなんて誇らしい。今年はいつもと違うチャンスが回ってきたんだ。あくまでもメインの目標は山岳ステージでアダムをアシストすること。でも今日はその必要がなかったので、逃げに乗ることになった。チームにとってダリル・インピーに続くステージ2勝目はファンタスティック。この勢いを継続したい」。

この日、9分35秒遅れでフィニッシュした約70名のメイン集団から逃げ切ったのは21名。ジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ)は1秒も失うことなくピレネー初日を乗り切った。「マイヨジョーヌの100歳の誕生日である明日のステージでマイヨジョーヌを着るなんて。最終走者として個人タイムトライアルを走ることは大きなモチベーションになる。リミットを押し上げてくれると思う」と、ゲラント・トーマス(イギリス、チームイネオス)から1分12秒のリードで27.2kmの個人タイムトライアルに挑むアラフィリップは語っている。

三つ巴スプリントを繰り広げるサイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット)ら三つ巴スプリントを繰り広げるサイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット)ら photo:Luca Bettini
ミュールベルガーとビルバオを下したサイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット)ミュールベルガーとビルバオを下したサイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット) photo:Luca Bettini
ステージ優勝を飾ったサイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット)ステージ優勝を飾ったサイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット) photo:Luca Bettini
9分35秒遅れでフィニッシュするメイン集団9分35秒遅れでフィニッシュするメイン集団 photo:Luca Bettini
ステージ初優勝を飾ったサイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット)ステージ初優勝を飾ったサイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット) photo:Luca Bettini
ピレネー初日にマイヨジョーヌを守ったジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ)ピレネー初日にマイヨジョーヌを守ったジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ) photo:Luca Bettini
ツール・ド・フランス2019第12ステージ結果
1位 サイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット) 3:51:26
2位 ペリョ・ビルバオ(スペイン、アスタナ)
3位 グレゴール・ミュールベルガー(オーストリア、ボーラ・ハンスグローエ)
4位 ティシュ・ベノート (ベルギー、ロット・スーダル)
5位 ファビオ・フェリーネ(イタリア、トレック・セガフレード)
6位 マッテオ・トレンティン(イタリア、ミッチェルトン・スコット)
7位 オリバー・ナーセン(ベルギー、アージェードゥーゼール)
8位 ルイ・コスタ(ポルトガル、UAEチームエミレーツ)
9位 サイモン・クラーク(オーストラリア、EFエデュケーションファースト)
10位 ジャスパー・ストゥイヴェン(ベルギー、トレック・セガフレード)
DNF ジャコモ・ニッツォーロ(イタリア、ディメンションデータ)
DNF ローハン・デニス(オーストラリア、バーレーン・メリダ)
DNS ジャスパー・フィリプセン(ベルギー、UAEチームエミレーツ)
マイヨジョーヌ(個人総合成績)
1位 ジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ) 52:26:09
2位 ゲラント・トーマス(イギリス、チームイネオス) 0:01:12
3位 エガン・ベルナル(コロンビア、チームイネオス) 0:01:16
4位 ステフェン・クライスヴァイク(オランダ、ユンボ・ヴィズマ) 0:01:27
5位 エマヌエル・ブッフマン(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ) 0:01:45
6位 エンリク・マス(スペイン、ドゥクーニンク・クイックステップ) 0:01:46
7位 アダム・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット) 0:01:47
8位 ナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター) 0:02:04
9位 ダニエル・マーティン(アイルランド、UAEチームエミレーツ) 0:02:09
10位 ティボー・ピノ(フランス、グルパマFDJ) 0:02:33
マイヨヴェール(ポイント賞)
1位 ペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ) 277pts
2位 ソンニ・コルブレッリ(イタリア、バーレーン・メリダ) 191pts
3位 エリア・ヴィヴィアーニ(イタリア、ドゥクーニンク・クイックステップ) 184pts
マイヨアポワ(山岳賞)
1位 ティム・ウェレンス(ベルギー、ロット・スーダル) 54pts
2位 トーマス・デヘント(ベルギー、ロット・スーダル) 37pts
3位 ジュリオ・チッコーネ(イタリア、トレック・セガフレード) 30pts
マイヨブラン(ヤングライダー賞)
1位 エガン・ベルナル(コロンビア、チームイネオス) 52:27:25
2位 エンリク・マス(スペイン、ドゥクーニンク・クイックステップ) 0:00:30
3位 ダヴィ・ゴデュ(フランス、グルパマFDJ) 0:03:16
チーム総合成績
1位 トレック・セガフレード 157:27:18
2位 アージェードゥーゼール 0:09:19
3位 モビスター 0:10:22
text:Kei Tsuji in Bagnères-de-Bigorre, France