得意の上りスプリントを見せつけ、カウベルグを最速で駆け上がったフィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)。2010年4月10日に行なわれた第45回アムステル・ゴールドレースで、ジルベールが初優勝を飾った。オメガファーマ・ロットとしては待望の今シーズン初勝利だ。

アイスランドの火山噴火の影響でバルベルデやサストレらが欠場

レースの舞台はオランダ南部リンブルグ州の丘陵地帯レースの舞台はオランダ南部リンブルグ州の丘陵地帯 photo:Cor Vos今年で開催45回目を迎える“比較的歴史の浅い”アムステル・ゴールドレース。短い上りが31カ所設定され、絶えずコーナーが連続するコースはさながらジェットコースターだ。

しかしこの「アルデンヌ・クラシック」初戦は、アイスランドの火山噴火に伴う航空マヒが暗い影を落とした。フライトキャンセルによってスタート地点マーストリヒトに辿り着けない選手が続出。その他、多くの選手が陸路での長時間移動を強いられた。

レース前に行なわれたドライバーの飲酒検査レース前に行なわれたドライバーの飲酒検査 photo:Cor Vos特にスペインに住む選手が大きな被害を受け、優勝候補のアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、ケースデパーニュ)やカルロス・サストレ(スペイン、サーヴェロ・テストチーム)、そしてブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ)らが相次いで欠場。ケースデパーニュに至っては、出場選手数の規定を下回る3名でのスタートとなった。

また、レース前に地元警察はチームカーやレース関係車両の運転手を対象にした飲酒検査を実施。ビール会社のアムステル社がメインスポンサーを務めるレースならではの抜き打ち検査だった。


アタックに次ぐアタック 熾烈なサバイバルレース

オランダ南部のリンブルグ州を駆け抜けるオランダ南部のリンブルグ州を駆け抜ける photo:Cor Vosこの日はスタート直後に飛び出した7名が、200km以上に渡って逃げ続けた。逃げグループを形成したのはスタフ・シェイリンクス(ベルギー、オメガファーマ・ロット)やぺーター・ヴロリヒ(オーストリア、チームミルラム)ら。タイム差は最大7分まで広がった。

オランダ最大のレースだけに、この日は地元オランダチームが奮起した。メイン集団は前半からラボバンクが率いてタイム差をコントロール。やがてレース後半に入るとサクソバンクやランプレも集団牽引に合流し、逃げとのタイム差を着実に詰めた。

「1000のカーブ」と呼ばれるほどカーブや上りが連続するコース「1000のカーブ」と呼ばれるほどカーブや上りが連続するコース photo:Cor Vos結局逃げグループはゴール32km手前で吸収。「北のクラシック」で大成功を収めたサクソバンクはこのアルデンヌ初戦でも存在感を見せ、集団をハイスピードで牽いて幾つもの上りをクリアして行く。やがて、この日26個目の上り・クルイスベルグ(ゴール22km手前)でマルコ・マルカート(イタリア、ヴァカンソレイユ)がアタックすると、有力選手たちの闘争本能に火がついた。

続くアイゼルボスウェグ(ゴール20km手前)では、昨年のリエージュ覇者アンディ・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)がアタック。しかし決定力を欠き、アンディには遅れて後続集団が追いついた。

ゴール12km手前のケウテンベルグでアタックを仕掛けるフィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)ゴール12km手前のケウテンベルグでアタックを仕掛けるフィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット) photo:Cor Vosフロムベルグ(ゴール17km手前)でもシュレク兄弟のアタックは止まず、今度は兄のフランク・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)がアタックして集団を破壊。間髪入れないダミアーノ・クネゴ(イタリア、ランプレ)のカウンターアタックにジルベール、フランク、アレクサンドル・コロブネフ(ロシア、カチューシャ)が反応し、先頭で4名のグループを形成する。

献身的にメイン集団を牽いたのは世界チャンピオンのカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)。地元出身で昨年2位のカルステン・クローン(オランダ)のアシストに徹した世界チャンピオンの集団牽引によって、クネゴらの動きもゴール15km手前で封じ込められる。

追走の集団を率いるロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク)追走の集団を率いるロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク) photo:Cor Vosその後もアタック合戦は継続。続くケウテンベルグ(ゴール12km手前)で昨年大会の覇者セルゲイ・イワノフ(ロシア、カチューシャ)が飛び出すと、ジルベールがすかさず反応して先頭へ。クネゴ、フランク、イワノフ、コロブネフの4名がジルベールに合流した。

先頭グループにメンバー2人を送り込んだカチューシャはアタックを続発させ、ラスト7km地点でコロブネフが独走態勢に。

スプリントでライバルたちを蹴散らしたフィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)が独走でカウベルグのゴールに向かうスプリントでライバルたちを蹴散らしたフィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)が独走でカウベルグのゴールに向かう photo:Cor Vosコロブネフに先行を許したジルベールらにはアンディやエヴァンス、オスカル・フレイレ(スペイン、ラボバンク)を含む後続集団が追いつき、先頭コロブネフを30名ほどの集団が追う展開でラスト3km。コロブネフは10秒のリードを保って最後のカウベルグに突入した。

これまでロード世界選手権で2つの銀メダルを獲得しているコロブネフの独走。しかし観客が大挙して詰めかけたカウベルグの上りで、その勢いは衰えて行く。コロブネフを捉えた集団は、ジルベールやクネゴ、エヴァンスらを先頭にカウベルグを駆け上がった。

ラスト300mで仕掛けたバート・デワール(ベルギー、ランドバウクレジット)に唯一反応したのはジルベール。ライバルたちとの距離を広げたジルベールは、そのままスプリント体勢で急勾配の上りを駆け上がる。得意の上りスプリントでライバルを一蹴したジルベールが、20mほどのリードを稼ぎ出してゴールへ。ゴール前から何度もガッツポーズを繰り出す余裕の勝利だった。


ジルベールにとってもチームにとって嬉しい今シーズン初勝利

ガッツポーズを見せるフィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)ガッツポーズを見せるフィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット) photo:Cor Vos「優勝候補に挙げられたレースで勝つ何て最高だ。レース序盤から好調さを感じていて、チームメイトのサポートを得て有利にレースを進めることが出来た」。

レース後、嬉しさを爆発させるジルベール。ベルギー人によるアムステル制覇は1994年のヨハン・ムセーウ以来。もちろんジルベールにとってアムステル初優勝だ。

9位のカルステン・クローン(オランダ、BMCレーシングチーム)と10位のクリストファー・ホーナー(アメリカ、レディオシャック)9位のカルステン・クローン(オランダ、BMCレーシングチーム)と10位のクリストファー・ホーナー(アメリカ、レディオシャック) photo:Cor Vos今シーズン、ジルベールはロンド・ファン・フラーンデレンとヘント〜ウェベルヘムで3位。惜しいところで何度もチャンスを失っていたジルベールにとって、これが今シーズン初勝利。オメガファーマ・ロットはこれまで勝利に見放されたシーズンを送っており、驚くことに、これがチームの今シーズン初勝利でもある。

レース後のインタビューでジルベールは「ミラノ〜サンレモ以降、ずっとコンディションは上がり調子だった。春と秋のレースはいつもコンディションを合わすのが難しい。ロンド・ファン・フラーンデレンで良い走りをして、更に調子を上げてこのアムステルに挑んだんだ。全てが予定通りに進んだ」とコメント。昨年パリ〜トゥールとジロ・ディ・ロンバルディアを制した男が、また一つクラシックのタイトルを獲得した。

カウベルグに集まった観客に見守られてゴールするロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク)カウベルグに集まった観客に見守られてゴールするロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク) photo:Cor Vos「今日はシュレク兄弟とイワノフが強かった。でも彼らの流れに飲まれると自分のレースが出来ない。風が強かったから、自分のチャンスを逃さないために、今日は忍耐強く待ち続けた。リエージュに向けて大きな自信がついたよ。急勾配のユイにゴールする次のフレーシュ・ワロンヌは僕向きではない」。

エンリーコ・ガスパロット(イタリア、アスタナ)とのスプリント勝負を制し、2位に入ったのはカナダ出身の元MTBライダー、ライダー・ヘジダル(ガーミン・トランジションズ)。カナダ人選手歴代最高位をマークしたヘジダルは「ジルベールは世界最強だった。彼に次いで2位に入ったのは決して悪い結果ではない」と語る。

期待されるのはフレーシュやリエージュでの走り。ヘジダルは「昨年リエージュを走って好感触を得た。リエージュにはアムステルとはまた違った難しさがある。カウベルグより(リエージュの)アンスのゴール地点の方が自分向きだと思う。勝てない理由なんてないよ」と自信を覗かせている。

期待されたオランダ勢はクローンの9位が最高位。精彩を欠いた昨年3位のロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク)はフレイレ(14位)のアシストに徹し、23位に終わった。

選手コメントは現地取材中のグレゴー・ブラウンより。

アムステル・ゴールドレース2010結果
1位 フィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)    6h22'54"
2位 ライダー・ヘジダル(カナダ、ガーミン・トランジションズ)        +02"
3位 エンリーコ・ガスパロット(イタリア、アスタナ)
4位 バート・デワール(ベルギー、ランドバウクレジット)           +05"
5位 ロマン・クロイツィゲル(チェコ、リクイガス)
6位 ダミアーノ・クネゴ(イタリア、ランプレ)
7位 フランク・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)           +07"
8位 マルコ・マルカート(イタリア、ヴァカンソレイユ)            +09"
9位 カルステン・クローン(オランダ、BMCレーシングチーム)         +11"
10位 クリストファー・ホーナー(アメリカ、レディオシャック)
11位 ポール・マルテンス(ドイツ、ラボバンク)
12位 セルゲイ・イワノフ(ロシア、カチューシャ)
13位 カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)
14位 オスカル・フレイレ(スペイン、ラボバンク)              +17"
15位 エドゥアルト・ヴォルガノフ(ロシア、カチューシャ)
16位 シルヴァン・シャヴァネル(フランス、クイックステップ)        +19"
17位 アイマル・スベルディア(スペイン、レディオシャック)         +21"
18位 アンディ・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)          +25"
19位 カルロス・バレード(スペイン、クイックステップ)           +37"
20位 ユルゲン・ファンデンブロック(ベルギー、オメガファーマ・ロット)   +46"

text:Kei Tsuji
photo:Cor Vos

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