コリマは1990年代の初めからカーボンホイールを作り続けてきたカーボンの老舗的存在だ。航空産業をバックボーンに持ち、その技術力の高さは折り紙付き。そんなコリマがついにカーボンのチューブレス用ホイールを開発した。

CARBON AERO TUBELESS WHEEL フロントCARBON AERO TUBELESS WHEEL フロント CARBON AERO TUBELESS WHEEL  リアCARBON AERO TUBELESS WHEEL  リア



もともとコリマはヘリコプターのローターなどを製造する航空産業の会社である。だが、そこはツールの国フランス。社員に自転車好きが多く、「自社のカーボン技術を自転車に活かせないだろうか?」という情熱から1990年代初頭、カーボンホイールやフレームなどの製造に乗り出したという経緯を持つ。

何しろ、品質基準に厳しい航空産業をバックボーンに持っているため、カーボンコンポジット製品の製造技術が高く、さらにエアロダイナミクスに関してもノウハウが豊富だ。

そんな確かな技術力を持ったコリマであるから、90年代初頭に初めて作ったカーボンホイールでさえ極めて完成度が高かった。ディープリムの「エアロホイール」や4本バトンホイールなど、基本設計を変えることなく、現在までずっと作り続けられており、プロの実戦でも使われ続けている。モデルチェンジが激しい自転車界にあって、これはすごいことだ。

インプレでは旧型のハッチンソンFUSION2 TUBELESSを使用したインプレでは旧型のハッチンソンFUSION2 TUBELESSを使用した バルブのところに「コリマのブレーキパッドを使用すること」、「8気圧(120PSI)以下の空気圧で使用すること」という注意書きがあるバルブのところに「コリマのブレーキパッドを使用すること」、「8気圧(120PSI)以下の空気圧で使用すること」という注意書きがある



今回、新開発された「CARBON AERO TUBELESS WHEEL」も。コリマの技術力が余すところなく活かされた製品だ。チューブレスホイールの場合、空気の保持が何よりも難しい。場合によっては、ミクロン単位の凹凸があるだけで空気が漏れてしまう。平滑にしやすいアルミならともかく、カーボンでそれを実現してしまうコリマの技術は「素晴らしい」の一言につきる。

もちろん、CARBON AERO TUBELESS WHEELのリムは外周部までフルカーボン製で、慣性モーメントが小さいのが特徴だ。最外層には織り目の大きい12Kカーボンを用いており、一目見てコリマとわかるアイデンティティを持っている。

スポーク数はフロントが18本、リヤが20本。フロントは通常のラジアル組だが、リヤホイールのスポークパターンが面白い。フリー側が12本、反フリー側が8本となっており、ボントレガーの旧モデルのアイディアと、フルクラムの2 TO 1の「イイとこ取り」をしたようなアレンジを採用している。左右のスポークテンションのバランスも良さそうだ。

転がり抵抗の小ささ、乗り心地の良さ、軽量性など、チューブレスが持つメリットは数多くある。しかし、「でも、カーボンホイールが使えないからなぁ…」と手を出しかねていた人も多いはず。そんな人にとって、コリマのCARBON AERO TUBELESS WHEELは福音となるだろう。

リヤハブ。これはシマノ8、9、10S、スラム用フリーボディだリヤハブ。これはシマノ8、9、10S、スラム用フリーボディだ フロントハブ 引掛けスポークのラジアル組みだフロントハブ 引掛けスポークのラジアル組みだ



今回のインプレでは、このホイールをコリマと共同で開発したハッチンソンの「FUSION2 TUBELESS」タイヤを装着した。使用テストバイクはそれぞれのインプレライダーが普段自分で使用しているもの。戸津井はコルナゴ CX-1、仲沢はスコット ADDICT LTDである。

それでは、さっそく気になるインプレッションをお届けしよう!

― インプレッション

「ショック吸収性の高さが魅力の快適巡航ホイール」
戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)


「ショック吸収性の高さが魅力だ」戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)「ショック吸収性の高さが魅力だ」戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート) 踏み出した時の軽さはさほど感じられなかったが、いったん回り始めると巡航性は高い。ペダルに軽く入力しているような感じでも、気が付くと35~40km/hくらいで巡航している。自分がイメージしているスピードよりも速いので、乗っていて嬉しくなってしまう。

驚いたのは、乗り心地の良さだ。試乗したホイールのスポークテンションがやや低めであったことも影響して、ショック吸収性がとても良かったのだ。通常、この手のディープリムホイールは縦に硬くなりがちだが、このホイールはそれを上手く処理している。

反面、パワーをかけた時のキビキビ感はあまりない。良くいえば「グッと溜めて加速する」のだが、悪くいえば多少もたつく感じだ。しかし、同じホイールでもスポークテンションを変えると走りが変わるから、もたつきが気になるようなら、スポークテンションを上げると良いだろう。

ホイールの乗り味はスポークテンションで大きく変わる部分であるから、このホイールに限らず色々なテンションを試してみることをオススメしたい。体重によっても、ペダリングのクセによってもテンションは本来調整した方がいいものだから、ホイール購入を計画している人はテンション調整がしっかりとできるお店を選ぶと良いだろう。

肝心のチューブレスの効果だが、「クリンチャーと比べて多少転がり抵抗が小さいかな?」、「硬めのクリンチャーと比べると多少乗り心地が良いかな?」というくらいで、それほど大きなアドバンテージは感じられなかった。付いていたタイヤが旧型のハッチンソン・フュージョン2であったためかもしれない。

とはいえ、ホイール全体としては、とても良くまとまった製品だ。普段のトレーニングで使うのは多少もったいないが、まあカーボンホイールを普段履きにする人もいないだろう。レース用として使うのであれば、なかなか良いチョイスだと思う。


「確かな技術力に裏打ちされた第一級のホイールだ」
仲沢 隆(自転車ジャーナリスト)


「鋭さよりも快適性能の目立つ扱いやすいホイール」仲沢 隆「鋭さよりも快適性能の目立つ扱いやすいホイール」仲沢 隆 コリマは個人的に、とてもリスペクトしているブランドだ。以前からマイホイールとして「平地最強」の4本バトンホイールや、丈夫なCARBON AERO WHEELを使っているのだが、飽きるどころか使い込むほどにますます気に入っていくくらいである。とにかく、その品質が非常に良く、耐久性が高いのも魅力だ。

興味深い逸話をご紹介しよう。ヤン・ウルリッヒが愛したカンパニョーロ・初代ボーラのリムはコリマ製だ。また、アンブローズィオ・X CARBOのリムもコリマ製である。名だたるブランドがコリマをチョイスしているということは、高品質・高性能を証明する最大の証拠であるといえるだろう。

2002年のツール・ド・フランスの期間中に、私はロリオルの本社工場を取材したことがある。実際に製造現場を見て、その高品質に納得してしまった。航空産業の会社なので技術力が高いのは当たり前だが、それにプラスして社員に自転車好きが多く、一切の妥協なく製品作りに没頭しているのだ。実験設備も充実していた。

たまたま、私が取材している最中にドイッチェ・テレコムチームのスタッフがカーボンディープリムを受け取りに来た。それはカンパニョーロ・ニュークリオンのハブで組み上げるウルリッヒのスペシャルホイール用だとのことだった。もちろんこれは「供給」ではなく、テレコムチームがちゃんとお金を払って「購入」していたのだった。

他のホイールとも徹底的に乗り比べる他のホイールとも徹底的に乗り比べる さて、肝心のインプレであるが、やはりコリマは素晴らしいと思った。チューブレスホイールをカーボンで実現してしまった技術力にも脱帽だが、そんなこととは別に乗っていて実に気持ちが良いのだ。

踏み込むとゴム鉄砲のように弾かれる加速感、高速巡航性の高さ、ブレーキング時の安定したフィーリング、どれを取っても第一級の性能だ。

チューブレスタイヤというだけでなく、試乗したホイールのスポークテンションがやや低めだったこととも相まって、ショック吸収性もとても良かった。私はこの低めのテンションが意外と好きなのだが、嫌いだという人はテンションを上げると良い。

上りのフィーリングは印象に残るほどのものではなかったが、これはスポークテンションのせい。テンションを上げればかなり違った評価になるはず。

近年のコリマはカーボンの最外層が織り目の大きい12Kとなった。これは好みの問題なのだが、個人的には以前の3Kフィニッシュの方が好きだ。ピナレロなど、中級モデルには12K、上位モデルになるほど3K、1Kと織り目が細かくなるので、12K=安い素材というイメージもある。まあ、見た目のインパクトはそれなりに大きいのだが……。

使用用途としては、やはりレースが一番似つかわしいと思うが、経済的に余裕のある人ならば、週末のロングライドなどで使うのも面白い。この素晴らしい乗り味を、レースだけにしか使わないのはもったいないではないか!




CARBON AERO TUBELESS WHEELCARBON AERO TUBELESS WHEEL

コリマ CARBON AERO TUBELESS
リム高:45mm
リム幅:22.6mm
リム素材:フルカーボン、12Kフィニッシュ
スポーク:フロント18本エアロ、リヤ20本エアロ+ラウンド
バルブ:取り外し可能なロードチューブレス用(外してチューブ使用可)
フリーボディ:シマノ10S専用、カンパ9・10・11S用、シマノ8・9・10S & スラム用
重量:フロント665g、リヤ895g
ユッチンソンFUSION2タイヤ付属
税込価格:フロント136,500円 R895g:147,000円





インプレライダーのプロフィール

戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート) 戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)

1990年代から2000年代にかけて、日本を代表するマウンテンバイクライダーとして世界を舞台に活躍した経歴を持つ。1999年アジア大陸マウンテンバイク選手権チャンピオン。MTBレースと並行してロードでも活躍しており、2002年の3DAY CYCLE ROAD熊野BR-2 第3ステージ優勝など、数多くの優勝・入賞経験を持つ。現在はOVER-DOバイカーズサポート代表。ショップ経営のかたわら、お客さんとのトレーニングやツーリングなどで飛び回り、忙しい毎日を送っている。09年からは「キャノンデール・ジャパンMTBチーム」のメカニカルディレクターも務める。
最近埼玉県所沢市北秋津に2店舗目となるOVER DO所沢店を開店した(日常勤務も所沢店)。
OVER-DOバイカーズサポート


仲沢 隆(自転車ジャーナリスト)仲沢 隆(自転車ジャーナリスト) 仲沢 隆(自転車ジャーナリスト)

ツール・ド・フランスやジロ・デ・イタリアなどのロードレースの取材、選手が使用するロードバイクの取材、自転車工房の取材などを精力的に続けている自転車ジャーナリスト。ロードバイクのインプレッションも得意としており、乗り味だけでなく、そのバイクの文化的背景にまで言及できる数少ないジャーナリストだ。これまで試乗したロードバイクの数は、ゆうに500台を超える。2007年からは早稲田大学大学院博士後期課程(文化人類学専攻)に在学し、自転車文化に関する研究を数多く発表している。






text:Takashi.NAKAZAWA
photo:Makoto.AYANO