今年リクイガスでプロデビューし、怒濤の活躍を見せているペーター・サガン(スロバキア)がパリ〜ルーベに戻って来た。2年前のジュニアレースで、ソロアタックを成功させながらもゴール直前で惜しくもチャンスを失った苦い経験をもつサガン。初出場の“異次元の”エリートレースはリタイアに終わった。

プロ初戦ツアー・ダウンアンダー開幕前のクリテリウムレースで早速逃げに乗ったペーター・サガン(スロバキア、リクイガス)前から3人目プロ初戦ツアー・ダウンアンダー開幕前のクリテリウムレースで早速逃げに乗ったペーター・サガン(スロバキア、リクイガス)前から3人目 photo:Kei Tsuji2008年、当時18歳のサガンは、エリートと同じパヴェコースで行なわれるパリ〜ルーベのジュニアレースで、終盤の80kmに渡って独走した。後続のアンドリュー・フェン(イギリス)が追いつき、サガンをパスしたのはラスト1km。ルーベ名物のヴェロドロームに入る一歩手前だった。

「その時のことは今でもよく覚えている。イギリス人にラスト1kmで追い抜かれた苦い思い出は一生忘れないと思う」。サガンはそう回想する。

ツアー・ダウンアンダー第3ステージ 2位バルベルデ(ケースデパーニュ)、3位エヴァンス(BMCレーシングチーム)、そして4位は前日に落車して左腕を縫ったペーター・サガン(リクイガス)ツアー・ダウンアンダー第3ステージ 2位バルベルデ(ケースデパーニュ)、3位エヴァンス(BMCレーシングチーム)、そして4位は前日に落車して左腕を縫ったペーター・サガン(リクイガス) photo:Kei Tsujiサガンが苦汁を舐めた3時間後に行なわれたエリートレースで、トム・ボーネン(ベルギー)はファビアン・カンチェラーラ(スイス)とアレッサンドロ・バッラン(イタリア)を下して勝利した。

当時エリートレースで2位だったカンチェラーラが、今年、圧倒的な独走力を発揮してパリ〜ルーベ2勝目を収めた。エリートレースに初出場したサガンは190km地点でリタイア。「2008年に走ったジュニアレースとは比べ物にならないぐらい、違う次元のレースだった。良い経験になったよ。幸い雨も降らなかったので『地獄の日曜日』にはならなかった」。

パリ〜ニース第3ステージ ロドリゲスとロッシュをスプリントで沈めたペーター・サガン(スロバキア、リクイガス)パリ〜ニース第3ステージ ロドリゲスとロッシュをスプリントで沈めたペーター・サガン(スロバキア、リクイガス) photo:Cor Vos今年イタリアのプロツアーチーム・リクイガスでプロ入りしたサガンは、1月のツアー・ダウンアンダーでセンセーショナルなデビューを飾った。

まずは開幕2日前に行なわれたクリテリウムレースでランス・アームストロング(アメリカ)とエスケープ。17針縫う大怪我を負った直後のステージでは上位に絡み、更にカデル・エヴァンス(オーストラリア)やアレハンドロ・バルベルデ(スペイン)と対等に渡り合った。その2ヶ月後、フランスのパリ〜ニースでステージ2勝を飾ることになる。

パリ〜ニース第5ステージ ラスト2kmでアタックし、独走に持ち込むペーター・サガン(スロバキア、リクイガス)パリ〜ニース第5ステージ ラスト2kmでアタックし、独走に持ち込むペーター・サガン(スロバキア、リクイガス) (c)A.S.Oシーズン序盤からの活躍は、サガンにパリ〜ルーベ出場をもたらした。しかもマヌエル・クインツィアート(イタリア)やダニエル・オス(イタリア)のアシスト義務に縛られない自由な身での出場だった。

だが、現実はそうも優しくはない。「2度のパンクとホイールの破損が相次いで発生して、集団から大きく遅れてしまった。2つ目の補給ポイントでバイクを降りたよ。ちょうど『アランベールの森』の手前で他の選手のペダルが僕のスポークに絡み、そこでホイールが壊れてしまったんだ。集団復帰を目指したけど、その時点でレースは終わってしまった」。

リクイガスのステファノ・ザナッタ監督がサガンに目を付けたのは、2008年にイタリア・トレヴェーゾで行なわれたMTB世界選手権。サガンはクロスカントリーのジュニアレースで見事優勝した。チームがサガンに3年契約(2010年〜2012年)を持ちかけたのはそのシーズン終盤のこと。

「正体不明の若者がパリ〜ニースでステージ2勝。こんなに素晴らしい結果は他に無い。無線の指示がトラブルを招く例はよくあるけど、この青年(サガン)はチームカーの指示を待たずに、自分の感覚を頼りに、自分の力で活路を開いた。彼は誰の指示にも耳を貸さなかった。ただ自分の力でステージ2勝したんだ」。

「まだ20歳。これから幾つものミスをして、それらを改善しながら成長していくだろう。バイクに跨がった時、彼はその真価を発揮する。(パリ〜ニース後)1ヶ月に渡ってレースに出場していなかったので、パリ〜ルーベのリタイアは仕方が無いと思っている」。

20歳になったばかりのペーター・サガン(スロバキア、リクイガス)20歳になったばかりのペーター・サガン(スロバキア、リクイガス) photo:Kei Tsujiザナッタ監督によると、サガンはこれからジロ・デラッペニーノ、ツール・ド・ロマンディ、ツアー・オブ・カリフォルニアに出場する予定。

リタイア後、サガンはバスの車内でテレビ中継に釘付けになった。そこに映し出されていたのは、ボーネンを始めとするライバルたちを背に、カンチェラーラが加速して行く姿。ライバルたちを一気に引き離したカンチェラーラは、徐々にタイム差を広げて行く。独走している姿は、まさに昨年9月のロード世界選手権タイムトライアルで3度目のタイトルを獲得したときのそれだった。

「ミサイルのような走りだった!他の選手を一瞬にして黙らせるあの走り。カンチェラーラの強さは本物だと思う」。サガンは王者の走りに感嘆した。

「いつの日か、このパリ〜ルーベで優勝を狙いたい。2011年?たぶんそれは早すぎると思う。パリ〜ニースでステージ2勝したけど、ここ(パリ〜ルーベ)は本当に別世界。パヴェの連続で、しかも距離は260km。滅茶苦茶タフなレースだ」。

「パリ〜ニースの後、地元スロバキアで1週間の休養を取ったんだ。充実した時間を経て、トレーニングに復帰した。長くて辛いトレーニングを積んだけど、パリ〜ルーベで結果を残すためには、それまでのクラシックレースを走る必要がある。そう、ロンド・ファン・フラーンデレンのような」。

破天荒と呼ぶに相応しい活躍を見せるサガンだが、ただ闇雲にペダルを踏みつけているわけではない。経験豊かなチームスタッフに支えられ、しっかりとしたプログラム通りに沿って成長を続ける。その成長スピードは、ときにスタッフの予想を大きく上回る。この先、果たしてサガンはどんな活躍を見せてくれるのだろう。



text:Gregor Brown
photo:Cor Vos, Kei Tsuji
translation:Kei Tsuji



Gregor.Brown (グレゴー・ブラウン)

イタリア・レッコ在住のアメリカ人プロサイクリング・ジャーナリスト。2005、2006年ジロ・デ・イタリアとツール・ド・フランス、春のクラシック等で綾野 真(シクロワイアード編集長/フォトジャーナリスト)に帯同し、取材活動を行う。2007年よりサイクリングニュース(イギリス)の主筆ジャーナリストとして活躍後、フリーランスに。2009年12月よりシクロワイアード契約ジャーナリストとなる。今後、主にイタリア・英語圏プロサイクリングメディアに活動の舞台を移す。





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