アペニン山脈を越えると天候は回復。トスカーナ州は暖かな太陽に照らされた。2017年のマルセル・キッテル以来となるドイツ人スプリンターのグランツール集団スプリント勝利で締めくくられたジロ・デ・イタリア第2ステージを振り返ります。


マリアローザのバイクはもちろん一番素早く降ろせる位置にマリアローザのバイクはもちろん一番素早く降ろせる位置に photo:Kei Tsuji
出走サイン台が置かれたボローニャのマッジョーレ広場に向かう出走サイン台が置かれたボローニャのマッジョーレ広場に向かう photo:Kei Tsuji
出走サインを終えたフェルナンド・ガビリア(コロンビア、UAEチームエミレーツ)出走サインを終えたフェルナンド・ガビリア(コロンビア、UAEチームエミレーツ) photo:Kei Tsuji

ボローニャは冷たい雨に包まれた。ボローニャ中心部のほぼ全ての建物の軒先がポルティコ(柱廊)になっているので観客にとっては雨がしのぎやすい環境。とは言え、せっかくの日曜日なのに、悪天候の影響で観客の入りは決して良くない。

「雨が降っていても、寒くならなければ大丈夫です」。第2ステージの朝を迎えた初山翔(NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ)はそう言ってスタートラインの前方へと向かった。幸い、土砂降りのエミリア=ロマーニャ州を抜けてトスカーナ州に入ると天気は急激に回復。終盤に再び雨がぱらついたが、気温は20度以上で、テクニカルなアップダウン区間はドライな状態が保たれた。

久々のグランツール出場となったアダム・ハンセン(オーストラリア、ロット・スーダル)久々のグランツール出場となったアダム・ハンセン(オーストラリア、ロット・スーダル) photo:Kei Tsuji
雨の第2ステージのスタート地点にやってきた初山翔(NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ)雨の第2ステージのスタート地点にやってきた初山翔(NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ) photo:Kei Tsuji
スタートを待つ初山翔(NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ)スタートを待つ初山翔(NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ) photo:Kei Tsuji
最大4分30秒のリードで逃げる最大4分30秒のリードで逃げる photo:Kei Tsuji
マリアローザのプリモシュ・ログリッチェ(スロベニア、ユンボ・ヴィズマ)らを先頭に集団は進むマリアローザのプリモシュ・ログリッチェ(スロベニア、ユンボ・ヴィズマ)らを先頭に集団は進む photo:Kei Tsuji
ピュアスプリンターが最終スプリントに力を残せる程度のペースで走ったとは言え、メイン集団は3級山岳モンタルバーノ(距離5.8km/平均6.8%)を平均スピード21.6km/h、4級山岳サンバロント(距離10.6km/平均2.9%)を平均スピード32.7km/hで駆け上がっている。

ステージ優勝したパスカル・アッカーマン(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ)は毎日STRAVAにその日の走行ログをアップロードしており、その中でパワーデータも公開している。3級山岳モンタルバーノ登坂の際に、アッカーマンは15分間406Wを出力(体重78kg)。パワーウエイトレシオではクライマーに敵わないが、スプリンターと言えども勝負に絡むためには登坂力が必須なことがわかる。

アッカーマンはラスト1kmを平均63.5km/hで駆け抜けており、スプリント中のトップスピードは72km/h。全開で踏み始めた21秒間1,024W、最大出力1,501Wだった。体重61kgのカレブ・ユアン(オーストラリア、ロット・スーダル)も最大1,500Wを出力しているが、伸びのあるスプリントでトップスピードを維持できたのはより体重のあるアッカーマンだった。

2013年以来、ジロではドイツ人選手が毎年欠かさずステージ優勝を飾っている。2018年のステージ優勝者は、アルプス山岳ステージで逃げ切ったマキシミリアン・シャフマン(当時クイックステップフロアーズ)。2017年にはアンドレ・グライペル(当時ロット・スーダル)が同じくドイツチャンピオンジャージを着て集団スプリントを制している。

グランツールに範囲を広げると、前回集団スプリントで優勝を飾ったドイツ人選手は2017年ツール・ド・フランス第11ステージのマルセル・キッテル(当時クイックステップフロアーズ)。カチューシャ・アルペシンとの契約をシーズン途中で終了し、ロードレースから一旦身を引いた6歳先輩のキッテルについてアッカーマンは「若い頃から彼の走りには刺激を受けてきた。まだまだ彼には敵わない。ここ最近彼と話していないけど、彼は実質的に引退をしたように見える。彼の幸運を祈るとともに、来年戻ってくることを願っているよ」と語っている。

25歳のアッカーマンは現状最も踏めているドイツ人スプリンターだと言っていい。そして「3週間が楽しみ」と語る通り、このジロで大ブレイクしそうな予感もある。

晴れ間の覗くトスカーナ州に入る逃げグループ晴れ間の覗くトスカーナ州に入る逃げグループ photo:Kei Tsuji
バーレーン・メリダやサンウェブを先頭に3級山岳モンタルバーノを登るバーレーン・メリダやサンウェブを先頭に3級山岳モンタルバーノを登る photo:Kei Tsuji
3級山岳モンタルバーノでメイン集団から脱落した初山翔(NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ)3級山岳モンタルバーノでメイン集団から脱落した初山翔(NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ) photo:Kei Tsuji
カレブ・ユアン(オーストラリア、ロット・スーダル)とスプリントを繰り広げるパスカル・アッカーマン(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ)カレブ・ユアン(オーストラリア、ロット・スーダル)とスプリントを繰り広げるパスカル・アッカーマン(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ) photo:Kei Tsuji
プリモシュ・ログリッチェ(スロベニア、ユンボ・ヴィズマ)の首位快走の裏で、メディアを騒がせているのがヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア、バーレーン・メリダ)とサイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット)の舌戦。事の発端は大会開幕前の記者会見でSイェーツが「自分がナンバーワンの優勝候補。(あまりにも調子が良いので)もし自分がライバルなら、怖くてちびってしまうだろう」と言ったことにある。

その後Sイェーツは「ライバルたちをリスペクトしている。他の誰かをバカにしたつもりは毛頭ない」と弁明したものの、ニバリは「ジロの勝利を目指す選手全員に敬意を示すべきだ」と反論した。ニバリは「インタビューの中で刺激的な表現が出るのは悪いことじゃない。ただ、言い過ぎないように気をつけないといけない。今年のジロは協調感が薄い。誰もが勝つために躍起になっている」と付け加えている。この2人、何やら言葉を交わしながらフィニッシュラインを通過したが、何を話していたのかは不明(下の写真参照)。

総合上位陣の中で唯一の脱落者は、初日の個人タイムトライアルでステージ8位に入ったローレンス・デプルス(ベルギー、ユンボ・ヴィズマ)。この日は最後の4級山岳でログリッチェの位置どりに力を尽くして離脱し、12分10秒遅れでフィニッシュしている。バッドデーだったのか何なのか、デプルスの失速はログリッチェの数少ない不安材料だ。

マリアローザの後ろで、話しながらフィニッシュするニバリとSイェーツ(ピントを外していますが記録のため)マリアローザの後ろで、話しながらフィニッシュするニバリとSイェーツ(ピントを外していますが記録のため) photo:Kei Tsuji
慣れた手つきでシャンパンを振り回すパスカル・アッカーマン(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ)慣れた手つきでシャンパンを振り回すパスカル・アッカーマン(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ) photo:Kei Tsuji
マリアローザを守ったプリモシュ・ログリッチェ(スロベニア、ユンボ・ヴィズマ)マリアローザを守ったプリモシュ・ログリッチェ(スロベニア、ユンボ・ヴィズマ) photo:Kei Tsuji
ドイツチャンピオンジャージの上にマリアチクラミーノを着るドイツチャンピオンジャージの上にマリアチクラミーノを着る photo:Kei Tsuji
翌日(つまり今日)の第3ステージは曇り時々晴れの天候。雨が降る心配はなさそうだが、それよりも強い北東の風がレースに大きく影響しそうだ。一日中ずっと追い風〜横風が吹く予報で、第2ステージ以上に集団分裂大作戦が成功しやすい状態になることが予想される。しかも終盤は海に近い平野部を走るため、風の影響を大きく受ける。単純なスプリントステージではなく、マリアローザ候補が脱落するようなサバイバルレースになるかもしれない。

text:Kei Tsuji in Fucheccio, Italy