2018年に選手を引退したダミアーノ・クネゴ氏が、3月末に来日。片山右京JBCF理事長らと面会し、日本ロードレース界と、JBCFが目指す新リーグ構想について意見交換をした。パーソナルトレーナーとしての活動を通じて日本との関わりを深めたいと言うクネゴ氏に、日本人選手のことや、これから取り組むべきこと、自身がプロデュースするオリジナルロードバイクについて聞いた。



右から、片山右京JBCF理事長、ダミアーノ・クネゴ氏、今中大介JBCF副理事長右から、片山右京JBCF理事長、ダミアーノ・クネゴ氏、今中大介JBCF副理事長 photo:Satoru Kato
3月29日、ダミアーノ・クネゴ氏は東京都内でJBCF(一般社団法人日本実業団自転車競技連盟)の理事長である片山右京氏と、副理事長の今中大介氏と面会・意見交換をする場が設けられた。同行する弁護士らと共に姿を現したクネゴ氏は、引退したとは言えまだ1年と経っていないだけに、選手時代と変わらない風貌だ。

日本で最後のレースとなった2018年のジャパンカップ・クリテリウムを走るダミアーノ・クネゴ(イタリア、NIPPOヴィーニファンティーニ・エウロパオヴィーニ)日本で最後のレースとなった2018年のジャパンカップ・クリテリウムを走るダミアーノ・クネゴ(イタリア、NIPPOヴィーニファンティーニ・エウロパオヴィーニ) photo:So.Isobeシクロワイアード読者には蛇足な説明かもしれないが、ダミアーノ・クネゴ氏は2004年にジロ・デ・イタリアで総合優勝したほか、クラシックレースなどで多数の勝ち星を挙げたイタリアを代表する選手。日本ではプロデビューした2002年以降ジャパンカップに出場し、2005年と2008年の2回優勝している。2015年からは日本企業のNIPPOがスポンサードするイタリア籍チーム「NIPPOヴィーニファンティーニ」に移籍。惜しまれつつも昨年引退した。

引退後、パーソナルトレーナーを始めたというクネゴ氏は、イタリアのチームとNIPPOに在籍した経験から、日本人選手の育成に興味を持っていたという。日本人選手のレベルをどう見るのか?足りないところは何か?

「ヨーロッパ人と同じことをやっても強くなれない」

「早い段階で個人に合ったトレーニングをすれば日本人も強くなる」とダミアーノ・クネゴ氏「早い段階で個人に合ったトレーニングをすれば日本人も強くなる」とダミアーノ・クネゴ氏 ©️JBCF
クネゴ:「初めて日本に来た2002年に比べれば、日本人選手のレベルは大きく成長していると思う。でも少し足りないものがあると言うか、まだやらねばならないことはあると感じている。日本人とヨーロッパ人は体型も体質も違うので、同じトレーニングをしても強くなれない。だからその人に合ったトレーニングをすべきと考えている。それが、私がパーソナルトレーナーを始めた理由のひとつ。

この1年で力を増した中根英登(NIPPOヴィーニファンティーニ)この1年で力を増した中根英登(NIPPOヴィーニファンティーニ) NIPPOには優秀な日本人選手が多数集まっているが、若くても24、5歳ではちょっと遅い。もう少し早い段階で質の高いトレーニングを出来る環境にいられたら、もっと強くなれると個人的には思っている。中根(英登)選手は強くなったけれど、もっと早く来ていればもっと強くなったと思う。」

以前から言われていることではあるが、クネゴ氏の力説に『鉄は熱いうちに打て』を再確認させられる。イタリアの育成システムはどのようなものなのか?


子供のレースも毎週末に開催 13歳で40kmを走るイタリアのレース

ダミアーノ・クネゴ氏の話に聞き入る片山右京JBCF理事長(左)と今中大介JBCF副理事長(中)ダミアーノ・クネゴ氏の話に聞き入る片山右京JBCF理事長(左)と今中大介JBCF副理事長(中) photo:Satoru Kato
クネゴ:「私は15歳の時に自転車を始めたが、イタリアには8歳から段階を踏んでレベルアップしていけるシステムがある。それがあるからU23になるまでに強い選手が育つように出来ている。

子供のレースはイタリア各地で3月から10月の全ての土・日曜日、たまに水曜日に開催されている。コースは周回コースが多くて、ジャパンカップのように周回の途中に登りがあるコースもあれば、最後だけ登りが組み込まれるようなコースもある。

距離は年齢によって変わるが、例えば13歳から14歳は40km、15歳から16歳は60km、17歳以上になると100km、20歳をこえると200km近く走るレースもある。ひとつのレースに子供だけで80人から100人くらい出場する」

「クネゴ氏のような知見のある方にアドバイスしてもらいたい」と片山右京氏「クネゴ氏のような知見のある方にアドバイスしてもらいたい」と片山右京氏 photo:Satoru Kato子供のレースで100人という数字とレースの距離に、話を聞いていた片山氏らは感嘆の声を上げる。高校生以下の年齢で日本のホビーレース以上の距離を走っている点にも驚かされたようだ。

選手時代にイタリア在住の経験がある今中氏は、「やはりロードレース認知度が日本と違うからレース開催もしやすい。イタリアの交差点は信号じゃなくてロータリーが多いから、道路規制がしやすい。警察も心得ているし、周りの人たちもそういうものだと思っている」と言う。

片山氏は「そういう環境に日本人を送り込めるようなシステムを作っていきたい。現地での学校や生活などの受け入れ体制があって、競技に集中できる環境となるのが理想。そうすれば10代の子供達を送り出すことも可能になる。クネゴ氏に教えてもらえれば、日本人選手は更に強くなれる」と、将来の展望を語る。



クネゴオリジナルのロードバイクをプロデュース

ダミアーノ・クネゴがプロデュースするオリジナルロードバイクダミアーノ・クネゴがプロデュースするオリジナルロードバイク photo:Satoru Kato
トップチューブに記された現役時代の戦歴トップチューブに記された現役時代の戦歴 photo:Satoru Katoシートチューブには各所のサイズが手書きで記入されていたシートチューブには各所のサイズが手書きで記入されていた photo:Satoru Kato

イタリアの話も興味深いが、もう一つ興味をそそられたのは、クネゴ氏が持参したオリジナルロードバイク。ハンドメイドのモノコックカーボンで、フルオーダー出来るという。

「スタイルはクラシック・モダン。これを作るために、世界的に有名な16のメーカーのモデルを研究した。一番の特徴は洋服のようにオーダー出来るカスタムメイドだということ。それが出来る唯一のバイクであることを多くの人に知ってもらいたい」と説明する。

コンポーネントはスラム・レッドのeTap AXSが取り付けられていたコンポーネントはスラム・レッドのeTap AXSが取り付けられていた photo:Satoru Kato代理店を営む今中大介氏はクネゴのバイクに興味津々代理店を営む今中大介氏はクネゴのバイクに興味津々 photo:Satoru Kato

気になる日本での発売はまだ未定。「すでにSNSのファンの人達にはすごく興味を持ってもらっているから、早いうちに日本でも手に入れられるようにしたい」と話す。



右から、片山右京JBCF理事長、ダミアーノ・クネゴ氏、今中大介JBCF副理事長右から、片山右京JBCF理事長、ダミアーノ・クネゴ氏、今中大介JBCF副理事長 ©️JBCF今年は富士ヒルクライム、ジャパンカップなど5度の来日予定

今回の来日では、「ダミアーノ・クネゴ・サイクリングプロジェクト」が募集した参加者と共にサイクリングをしてファンと交流した。現役の頃から日本好きを公言しているクネゴ氏は、日本との関わりを強く望んでいる。

「JBCFの顔になって欲しい」と片山氏からお願いされると、「今回はとても有意義な意見交換が出来た。私でよければ日本のロードレース界に役立ちたいと思っているし、強い日本人選手を育てたいと思っている」と、意欲を見せる。

さらに、「今年は富士ヒルクライムやジャパンカップなどのイベントのため、5回日本に来る予定になっている。ファンの多い日本でダミアーノ・クネゴ・サイクリングプロジェクトをスタート出来たことはとても嬉しいこと。いずれはサイクリングだけでなく、会員制のトレーニングや自転車クラブなどもやってみたい」と語る。

ダミアーノ・クネゴ氏の名刺には、サイクリスト、トレーナー、コーチと3つの肩書きがある。「1年で終わらせるのではなく、3年以上の長いスパンで考えていきたい」と話すように、将来クネゴ氏が育てた日本人選手が活躍する日がくることを期待したい。

text&photo:Satoru Kato
special thanks:JBCF

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