サクソバンクのチームマネージャーを務めるビャルヌ・リースはその日、ファビアン・カンチェラーラ(スイス)の走りに興奮を覚えた。ロンド・ファン・フラーンデレンで見せたカンチェラーラの力走。サクソバンクは相次ぐトラブルに見舞われながらも、チームワークで会心の勝利を掴んだ。

スイスの超特急はモニュメント全制覇を目指す

総力を上げて集団をコントロールするサクソバンク総力を上げて集団をコントロールするサクソバンク photo:Cor Vos「ファビアン(カンチェラーラ)とマッティ(ブレシェル)が安全に終盤の勝負どころに挑めるように、チームを総力を上げてレースをコントロールした」。そう振り返るのは、サクソバンクのリース監督だ。

カンチェラーラがファッサボルトロからチームCSC(現サクソバンク)に移籍した2006年以降、リース監督はずっとカンチェラーラの成長を見守って来た。リース監督の指導のもと、ファビアンはミラノ〜サンレモ、パリ〜ルーベ、ロード世界選手権タイムトライアルで優勝。ツール・ド・フランスではステージ優勝に加え、マイヨジョーヌにも袖を通した。

独走するファビアン・カンチェラーラ(スイス、サクソバンク)独走するファビアン・カンチェラーラ(スイス、サクソバンク) photo:Cor Vos現役選手の中で、カンチェラーラはモニュメントの3戦で優勝を果たした唯一の選手だ。全5戦のモニュメントの中で、カンチェラーラがまだ手にしていないタイトルは、リエージュ〜バストーニュ〜リエージュとジロ・ディ・ロンバルディアだけ。

ロンド終了後、カンチェラーラは数年のうちにモニュメント全制覇を目指すことを宣言した。昨年スイス・メンドリシオで開催されたロード世界選手権ロードレースでの走りを見る限り、彼の脚力と情熱を持ってすれば、全制覇は決して不可能なことではない。そのことはリース監督も同意している。

「昨年の世界選でファビアンの走りは冴えていた。スイッチの入った彼はアンストッパブル(誰にも止めることが出来ない)。その強さには目を見張るものがある」。


バイク交換で勝機を失ったブレシェル

パテルベルグでペースアップしたマッティ・ブレシェル(デンマーク、サクソバンク)にトム・ボーネン(ベルギー、クイックステップ)が反応パテルベルグでペースアップしたマッティ・ブレシェル(デンマーク、サクソバンク)にトム・ボーネン(ベルギー、クイックステップ)が反応 photo:Cor Vosカンチェラーラ優勝の陰で、サクソバンクが犯した唯一のミス。それは、マッティ・ブレシェル(デンマーク)がバイク交換に手間取ったことだ。

重要なエイケンベルグとモーレンベルグのつなぎ区間でブレシェルはバイク交換のためにストップ。しかしトルステン・シュミット監督が差し出したのは別の選手のバイクだった。

後続集団内でゴールしたマッティ・ブレシェル(デンマーク、サクソバンク)後続集団内でゴールしたマッティ・ブレシェル(デンマーク、サクソバンク) photo:Cor Vos「スタッフは間違ったバイクをキャリアから降ろした。オグレディのバイクだった。本当にふざけた話だ。あれはチームにとって大きなミスだった」。そう興奮気味に語ったのは、ダブルエースとしてレースに挑んでいたブレシェル。

「ファビアンが勝って本当に嬉しい。彼は勝利に値する走りを見せた。でも機材的な視点から言えば、チームはもっと良い走りが出来たはずだ。あんなミスはもう二度と起こってはならない。この怒りは、ファビアンとシャンパンを飲みながら晴らしたいと思う」。

ラーションらにシャンパンを注ぐファビアン・カンチェラーラ(スイス、サクソバンク)ラーションらにシャンパンを注ぐファビアン・カンチェラーラ(スイス、サクソバンク) photo:Cor Vosチームカーに同乗していたリース監督も、チームのミスに声のトーンを落とす。「緊迫した状況であのミスは大きな痛手だった。マッティには不運だったと言うしかない。時にはそんなダメなことも起こるものだ」。

「ファビアンもバイクのトラブルには気付いていた。選手たちは同じタイミングでバイクのトラブルを抱え始めたんだ。選手たちは口を揃えてブレーキがガタガタと震え、ホイールに擦り始めた言っていた」。

レース後、シャンパンで乾杯するサクソバンクの選手たちレース後、シャンパンで乾杯するサクソバンクの選手たち photo:Cor Vosブレシェルがトラブルで後退する中、カンチェラーラはモーレンベルグで強烈なアタックを決め、トム・ボーネン(ベルギー、クイックステップ)を引き連れて飛び出した。そしてゴール30km手前の激坂ミュールで、カンチェラーラは独走態勢に持ち込む。

結果的にカンチェラーラはボーネンを1分15秒引き離してゴール。ブレシェルは2分35秒遅れの集団内でゴール。15位だった。

カンチェラーラとブレシェルの2人は、翌週のパリ〜ルーベで再びタッグを組む。カンチェラーラは2006年に続く2勝目を飾り、ロンドの勢いを継続させたい考え。

「カンチェラーラは優勝の有力候補だ。ロンドでの走りを見る限り、彼が勝っても驚きではない」。リース監督は超特急カンチェラーラの更なる活躍に期待を寄せる。




text:Gregor Brown
photo:Cor Vos
translation:Kei Tsuji



Gregor.Brown (グレゴー・ブラウン)

イタリア・レッコ在住のアメリカ人プロサイクリング・ジャーナリスト。2005、2006年ジロ・デ・イタリアとツール・ド・フランス、春のクラシック等で綾野 真(シクロワイアード編集長/フォトジャーナリスト)に帯同し、取材活動を行う。2007年よりサイクリングニュース(イギリス)の主筆ジャーナリストとして活躍後、フリーランスに。2009年12月よりシクロワイアード契約ジャーナリストとなる。今後、主にイタリア・英語圏プロサイクリングメディアに活動の舞台を移す。





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