2019/03/22(金) - 11:52
女子ロードレースのUCIポイント獲得を目的として海外レースに参戦する女子インターナショナルサイクリングチーム「ハイアンビション2020jp.インターナショナル・ウーマンズサイクリングチーム(High Ambition 2020 jp. International Women's Cycling Team)」が発足。その発表会が、3月19日に東京都内で行われた。
「ハイアンビション2020jp.インターナショナル・ウーマンズサイクリングチーム」は、オリンピック出場枠獲得に必要なUCIポイントを獲得する機会を創出するため、海外の女子UCIレースに参戦する環境を作ることを第一の目的として発足した女子ロードレースチーム。チーム最初の活動として先日までベトナムで開催されていた「ビワセカップ」に出場し、アリアンナ・フィダンツァが早速ステージ優勝を挙げた。
チームの監督・コーチには、MTN・クベカ等のUCIワールドツアーチームでの監督・コーチを歴任したマネル・ラカンプラ氏を招へい。参加選手として、アリアンナ・フィダンツァ、アナ・コヴリックの名前が挙げられており、日本人では石上夢乃が準所属選手としてサポートを受ける予定だ。またビワセカップでは実業団のJフェミニンツアーに参戦している大堀博美選手もチームに参加しており、海外レース出場を希望する国内女子選手に対して門戸を開いている。
この日の発表会には加藤修代表とマネル・ラカンプラ監督、ビワセカップに出場したアリアンナ・フィダンツァ、アナ・コヴリック、大堀博美の3選手、準所属選手となる石上夢乃選手、国内提携チームのLive GARDEN Bici Stelleから雨谷千紗子チームマネージャー、鈴木真理コーチ、新川明子選手の3名、もうひとつの提携チームであるインタープロ サイクリングアカデミーからセバスチャン・ピロット代表、また提携会社となる株式会社ウォークライドからは須田晋太郎氏が出席した。
ちなみにラカンブラ監督は、ツアー・オブ・ジャパンで総合優勝した元チーム右京のオスカル・プジョル選手の叔父にあたる。またフィダンツァとコヴリックは欧州ではEurotarget–Bianchi–Vitasanaチームに所属する選手。名前でお察しの方もいるかもしれないが、フィダンツァの父親は80年代後半から90年代にかけてグランツールで活躍したジョヴァンニ・フィダンツァだ。コヴリックはルーマニア出身。ロードレースとタイムトライアルのナショナルチャンピオンを4年連続して獲得している。
代表の加藤修氏は「2020年の東京オリンピックで、女子ロードレースでは開催国として2枠が与えられているが、UCIポイントを獲得して3枠目を獲得することを目指す。日本がUCIポイントを獲得するためにはワールドツアーに参戦している選手とナショナルチームの活動に頼るしかないが、我々のチームは第3の勢力として挑戦していきたい。」と語る。
また、東京オリンピック後の長期的なビジョンについては「名称に2020が入っているが2020年で終わるつもりはない。日本の女子選手にワールドツアーを指揮した監督とワールドツアーを走る海外選手と一緒に海外レースを走る機会を提供する。2020年にはUCIに登録してワールドツアーへ参戦し、3年目にはワールドツアーのトップ10に入ることを目標としている。そして3年後の結果によってはパリ・オリンピックを目指す。」と述べた。
チームを率いるラカンプラ監督は「海外のレースに日本の女子選手を連れて行くことでレベルアップを狙う。南アフリカやアメリカの選手達との経験を活かし、彼らと同じような成果を日本でも上げられると考えている。日本のサイクリングファン、スポンサーそして女性選手にとって素晴らしいプロジェクトにしたい。」と語る。
続いて登壇した提携チームのLive GARDEN Bici Stelleの雨谷千紗子チームマネージャーは「Live GARDEN Bici Stelle設立当初から日本の女子選手の底上げと海外進出を目的としてきた。海外での活動機会がナショナルチームに限られる現状の中で、もう一つの機会を作り出していくために提携チームとして参加した」と期待を寄せる。
同チームコーチの鈴木真理氏は「現状では女子選手が海外に飛び出していくには難しい環境。もし我々のチームに海外に行きたいと考える選手が来た時にはどうサポートしたらよいのか常々考えていた。海外を希望する選手をサポートする上で、今回の提携は非常に良い活動だと思う。とにかく海外のレース経験を積むことが一番の練習になる。」と語った。
インタープロ サイクリングチーム代表のセバスチャン・ピロット氏はジャージデザインも担当。両チームの協力関係を通じてプロジェクトを進めていく予定となっている。また提携会社となる株式会社ウォークライドはチームと同じ神奈川県を本拠地としており、サイクルスポーツを盛り上げていく土台作りには女子選手の活躍も重要との観点から機材提供等でサポートしている。
フィダンツァは今回のチーム結成について「海外のレースに参加し、海外の選手達と一緒に走ることは日本の女子選手にとって非常に重要なプロジェクト。このようなチームに参加する機会を頂いて光栄です。」とコメントした。
また準所属選手となる石上選手は「将来オリンピックに出場することが自分の夢であり、ナショナルチームに加えてこのチームで活動することで海外レースへの参加機会を増やしていきたい。」と語った。
チームプレゼンテーションに続いて、チーム関係者とビワセカップ参加選手とのクロストークが開催された。ここではビワセカップでの体験を通して国内女子選手の底上げについて白熱した議論が1時間半にわたって繰り広げられた。
今回初めての海外レースを経験した大堀選手は「国内のレースでは経験できないことを多く学ぶことができた。国内の女子レースは1対1の個人戦にしかならない。今回チームとしてのレースを初めて体験し、チームで走ることがとても楽しかった。国内レースは参加者数が少なく、レース中にどこからでも前に上がれたり自由に動けたりするが、ベトナムでは密集度が高く、気がついたらどんどん後ろに下がっていく。集団での距離感はその環境に置かれないと学ぶことができない。」と、体験を語った。
現役時代にベトナムでのレース経験を持つ雨谷チームマネージャーも「ベトナムに多くの女子チームが存在することが印象的だった。国内に多くの女子チームが存在することが大事で、それが海外へ行くための一歩となる。国内女子の選手層を厚くしていきたい」と述べた。
ラカンプラ監督は「今回、大堀選手はとても良い経験をしたと思う。日本には才能のある選手はいる。足りないのは技術であり、その技術を学ぶ場が日本にはない。これは日本だけの問題ではなく、オーストラリアでもアメリカでも同じだった」と話す。
鈴木コーチも「大堀さんにはこのチームが存在していたからこそ良い経験ができた。大堀さんにとっては第一歩。女子では今まで実現できなかった活動なので素晴らしいと思う」と話す。その上で、
「日本の女子ロードレースはマラソンに近く、チームプレイもないし、集団内での位置取りで風を避けることもない。日本には登れる能力を持った選手が多くいる。登坂能力は絶対に必要だが、一方で集団走行ができない、コーナーが曲がれない、下れないといった技術不足な選手が非常に多いと感じている。海外でのレースを通じて技術を身につけるための場を提供していきたい」
最後に、Live GARDEN Bici Stelleの雨谷チームマネージャーから、毎年宇都宮で開催されるジャパンカップにおける「国際女子クリテリウム」の構想が示された。ラカンプラ監督の海外チームへのネットワークを活かして有力海外女子チームを宇都宮へ招き「女子選手の魅力」と「女子でもこれだけ速く走れる」ということを観客やファンの皆様にお見せしたいと意気込みを述べた。既に宇都宮市との話し合いが進められており、加藤代表とラカンプラ監督も宇都宮市長との会談が予定されている。
国内の女子レースを長く取材していると、登坂力や独走力を持つ選手を見かける機会がある。その中から海外での活動を希望する選手が出てきた時、男子に比べて機会が少ないのが現状だ。海外への挑戦をより広げていく意味で今回の活動は期待に値する。
しかし、加藤代表が「年間30ほど開催されている女子UCIレースに資金さえあれば全て参戦することができる」と語るように、この活動を維持するためには資金面の課題が見えている(男子でも言えることだが)。
一方で、ジャパンカップでの「国際女子クリテリウム」構想は、女子ロードレースに対する注目度を高め、女子選手へのサポート体制の構築の一歩となる可能性を秘めている。チーム本体の活動とそれを支えて推進する活動の両輪が上手く噛み合うことができれば、国内女子ロードレースシーンを一段上のレベルに上げることができるのではないだろうか。
チームは海外レースに出たいという女子選手を募集している。詳しくはFacebookまたはメールにて。
Facebook: https://www.facebook.com/HighAmbition2020jp/
メールアドレス: [email protected]
text&photo:Kensaku SAKAI
Edit:Satoru Kato
「ハイアンビション2020jp.インターナショナル・ウーマンズサイクリングチーム」は、オリンピック出場枠獲得に必要なUCIポイントを獲得する機会を創出するため、海外の女子UCIレースに参戦する環境を作ることを第一の目的として発足した女子ロードレースチーム。チーム最初の活動として先日までベトナムで開催されていた「ビワセカップ」に出場し、アリアンナ・フィダンツァが早速ステージ優勝を挙げた。
チームの監督・コーチには、MTN・クベカ等のUCIワールドツアーチームでの監督・コーチを歴任したマネル・ラカンプラ氏を招へい。参加選手として、アリアンナ・フィダンツァ、アナ・コヴリックの名前が挙げられており、日本人では石上夢乃が準所属選手としてサポートを受ける予定だ。またビワセカップでは実業団のJフェミニンツアーに参戦している大堀博美選手もチームに参加しており、海外レース出場を希望する国内女子選手に対して門戸を開いている。
この日の発表会には加藤修代表とマネル・ラカンプラ監督、ビワセカップに出場したアリアンナ・フィダンツァ、アナ・コヴリック、大堀博美の3選手、準所属選手となる石上夢乃選手、国内提携チームのLive GARDEN Bici Stelleから雨谷千紗子チームマネージャー、鈴木真理コーチ、新川明子選手の3名、もうひとつの提携チームであるインタープロ サイクリングアカデミーからセバスチャン・ピロット代表、また提携会社となる株式会社ウォークライドからは須田晋太郎氏が出席した。
ちなみにラカンブラ監督は、ツアー・オブ・ジャパンで総合優勝した元チーム右京のオスカル・プジョル選手の叔父にあたる。またフィダンツァとコヴリックは欧州ではEurotarget–Bianchi–Vitasanaチームに所属する選手。名前でお察しの方もいるかもしれないが、フィダンツァの父親は80年代後半から90年代にかけてグランツールで活躍したジョヴァンニ・フィダンツァだ。コヴリックはルーマニア出身。ロードレースとタイムトライアルのナショナルチャンピオンを4年連続して獲得している。
代表の加藤修氏は「2020年の東京オリンピックで、女子ロードレースでは開催国として2枠が与えられているが、UCIポイントを獲得して3枠目を獲得することを目指す。日本がUCIポイントを獲得するためにはワールドツアーに参戦している選手とナショナルチームの活動に頼るしかないが、我々のチームは第3の勢力として挑戦していきたい。」と語る。
また、東京オリンピック後の長期的なビジョンについては「名称に2020が入っているが2020年で終わるつもりはない。日本の女子選手にワールドツアーを指揮した監督とワールドツアーを走る海外選手と一緒に海外レースを走る機会を提供する。2020年にはUCIに登録してワールドツアーへ参戦し、3年目にはワールドツアーのトップ10に入ることを目標としている。そして3年後の結果によってはパリ・オリンピックを目指す。」と述べた。
チームを率いるラカンプラ監督は「海外のレースに日本の女子選手を連れて行くことでレベルアップを狙う。南アフリカやアメリカの選手達との経験を活かし、彼らと同じような成果を日本でも上げられると考えている。日本のサイクリングファン、スポンサーそして女性選手にとって素晴らしいプロジェクトにしたい。」と語る。
続いて登壇した提携チームのLive GARDEN Bici Stelleの雨谷千紗子チームマネージャーは「Live GARDEN Bici Stelle設立当初から日本の女子選手の底上げと海外進出を目的としてきた。海外での活動機会がナショナルチームに限られる現状の中で、もう一つの機会を作り出していくために提携チームとして参加した」と期待を寄せる。
同チームコーチの鈴木真理氏は「現状では女子選手が海外に飛び出していくには難しい環境。もし我々のチームに海外に行きたいと考える選手が来た時にはどうサポートしたらよいのか常々考えていた。海外を希望する選手をサポートする上で、今回の提携は非常に良い活動だと思う。とにかく海外のレース経験を積むことが一番の練習になる。」と語った。
インタープロ サイクリングチーム代表のセバスチャン・ピロット氏はジャージデザインも担当。両チームの協力関係を通じてプロジェクトを進めていく予定となっている。また提携会社となる株式会社ウォークライドはチームと同じ神奈川県を本拠地としており、サイクルスポーツを盛り上げていく土台作りには女子選手の活躍も重要との観点から機材提供等でサポートしている。
フィダンツァは今回のチーム結成について「海外のレースに参加し、海外の選手達と一緒に走ることは日本の女子選手にとって非常に重要なプロジェクト。このようなチームに参加する機会を頂いて光栄です。」とコメントした。
また準所属選手となる石上選手は「将来オリンピックに出場することが自分の夢であり、ナショナルチームに加えてこのチームで活動することで海外レースへの参加機会を増やしていきたい。」と語った。
チームプレゼンテーションに続いて、チーム関係者とビワセカップ参加選手とのクロストークが開催された。ここではビワセカップでの体験を通して国内女子選手の底上げについて白熱した議論が1時間半にわたって繰り広げられた。
今回初めての海外レースを経験した大堀選手は「国内のレースでは経験できないことを多く学ぶことができた。国内の女子レースは1対1の個人戦にしかならない。今回チームとしてのレースを初めて体験し、チームで走ることがとても楽しかった。国内レースは参加者数が少なく、レース中にどこからでも前に上がれたり自由に動けたりするが、ベトナムでは密集度が高く、気がついたらどんどん後ろに下がっていく。集団での距離感はその環境に置かれないと学ぶことができない。」と、体験を語った。
現役時代にベトナムでのレース経験を持つ雨谷チームマネージャーも「ベトナムに多くの女子チームが存在することが印象的だった。国内に多くの女子チームが存在することが大事で、それが海外へ行くための一歩となる。国内女子の選手層を厚くしていきたい」と述べた。
ラカンプラ監督は「今回、大堀選手はとても良い経験をしたと思う。日本には才能のある選手はいる。足りないのは技術であり、その技術を学ぶ場が日本にはない。これは日本だけの問題ではなく、オーストラリアでもアメリカでも同じだった」と話す。
鈴木コーチも「大堀さんにはこのチームが存在していたからこそ良い経験ができた。大堀さんにとっては第一歩。女子では今まで実現できなかった活動なので素晴らしいと思う」と話す。その上で、
「日本の女子ロードレースはマラソンに近く、チームプレイもないし、集団内での位置取りで風を避けることもない。日本には登れる能力を持った選手が多くいる。登坂能力は絶対に必要だが、一方で集団走行ができない、コーナーが曲がれない、下れないといった技術不足な選手が非常に多いと感じている。海外でのレースを通じて技術を身につけるための場を提供していきたい」
最後に、Live GARDEN Bici Stelleの雨谷チームマネージャーから、毎年宇都宮で開催されるジャパンカップにおける「国際女子クリテリウム」の構想が示された。ラカンプラ監督の海外チームへのネットワークを活かして有力海外女子チームを宇都宮へ招き「女子選手の魅力」と「女子でもこれだけ速く走れる」ということを観客やファンの皆様にお見せしたいと意気込みを述べた。既に宇都宮市との話し合いが進められており、加藤代表とラカンプラ監督も宇都宮市長との会談が予定されている。
国内の女子レースを長く取材していると、登坂力や独走力を持つ選手を見かける機会がある。その中から海外での活動を希望する選手が出てきた時、男子に比べて機会が少ないのが現状だ。海外への挑戦をより広げていく意味で今回の活動は期待に値する。
しかし、加藤代表が「年間30ほど開催されている女子UCIレースに資金さえあれば全て参戦することができる」と語るように、この活動を維持するためには資金面の課題が見えている(男子でも言えることだが)。
一方で、ジャパンカップでの「国際女子クリテリウム」構想は、女子ロードレースに対する注目度を高め、女子選手へのサポート体制の構築の一歩となる可能性を秘めている。チーム本体の活動とそれを支えて推進する活動の両輪が上手く噛み合うことができれば、国内女子ロードレースシーンを一段上のレベルに上げることができるのではないだろうか。
チームは海外レースに出たいという女子選手を募集している。詳しくはFacebookまたはメールにて。
Facebook: https://www.facebook.com/HighAmbition2020jp/
メールアドレス: [email protected]
text&photo:Kensaku SAKAI
Edit:Satoru Kato
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