昨年の全日本選手権ロードレースで優勝した山本元喜。ジロ・デ・イタリア出場経験を持つ全日本チャンピオンが目指すもの、レースに対する考え方、ヨーロッパと日本の違いなどを語ってもらった。



◆自分のレーススタイルにはまった全日本選手権

山本元喜が所属するキナンサイクリングチームは、2月中旬に本拠地の和歌山県新宮市でトレーニングキャンプを行った。インタビュー当日は暑さを感じるほどの暖かさの中、新宮市役所への表敬訪問の後、ツール・ド・熊野の第1ステージと第2ステージのコースなどを走るトレーニングをこなした。

トレーニング終了後、インタビューに応じてもらった。

トレーニングキャンプでチームメートと走る山本元喜トレーニングキャンプでチームメートと走る山本元喜 photo: KINAN Cycling Team / Syunsuke FUKUMITSU
2018年全日本選手権、独走でフィニッシュした山本元喜(キナンサイクリングチーム)2018年全日本選手権、独走でフィニッシュした山本元喜(キナンサイクリングチーム) photo:Kei Tsuji全日本選手権の前後で変わったことはありますか?

全日本で勝ったからと言って大きな変化は無かったと思いますが、レースの走りやすさや注目されているというのは感じています。特に海外のレースでは、チャンピオンジャージを着てることで位置取りをしやすかったり、動きやすかったりというのはあります。キナンというチームが目立っているのもあると思いますが。

あとはイベントに呼んでもらう機会が増えたのは嬉しいですね。

U23の時にも全日本選手権で優勝していますが、エリートとの違いは感じますか?

U23は4年間の限られた期間の中で限られたメンバーで競うもので、それはそれで難しいところはありますが、エリートは無差別級のようなところもあります。U23で連覇した時は嬉しかったですけれど、やはりエリートで3位に入った2014年全日本選手権(写真右)3位に入った2014年全日本選手権(写真右) (c)Makoto.AYANO勝てたことはそれ以上に嬉しいです。自転車の選手ならキャリアの中で一度は獲りたいと思うのが全日本選手権ですからね。

全日本選手権の時はレース展開が自分の走りの延長線上にきれいにハマりました。2014年の全日本では3位に入ってますが、あの時は佐野(淳哉)さんと(井上)和郎さんとで逃げ切っていて、それに近かったなと思います。序盤に決まった逃げが最後まで行くような展開はそれほどあるわけじゃないですが、それが昨年回ってきて、これまで積み上げてきたものの集大成となったと考えています。

レーススタイルは学生の頃から「逃げて前に前に」という姿勢でしたね。

そうですね。学生の頃は前に前に動きまくってもそれほど警戒されることは無かったですし、北海道でステージ優勝した時のように動いて動いて結果に結びついたこともありましたが、結びつかなくても「良い経験」で済ませられました。

昨年のJプロツアー最終戦では序盤からアタックを繰り返し、その姿勢を評価されて敢闘賞を獲得した。昨年のJプロツアー最終戦では序盤からアタックを繰り返し、その姿勢を評価されて敢闘賞を獲得した。 photo:Satoru Katoでもプロになったら結果に結びつけなければならない。むやみに動くだけでなく、レースの重要なポイントを見極めることが必要とされるから、「アタックを繰り返して失敗したけど良かった」とはなりませんからね。特にキナンに入ってからは、エース格として扱ってもらってるから、勝たなければならない。それを理解してチームと連携を取れるようになり、型にはめることが出来たのが全日本だったと思います。

その点はNIPPOにいた時と大きく違うところです。NIPPOではアシストとしての働きを求められていたから、まずは逃げることに集中してレース序盤から頻繁にアタックしていました。それがアシストとして評価されることでしたからね。でも周りのレベルが高いから、そういう走りをしているうちに力もついていたと感じています。



◆自分で勝つことがモチベーション

2010年ツール・ド・北海道第3ステージで優勝した山本元喜2010年ツール・ド・北海道第3ステージで優勝した山本元喜 photo:Hideaki TAKAGI

山本元喜は鹿屋体育大学在学中の2010年と2011年のU23の全日本選手権ロードレースを連覇。全日本選手権タイムトライアルU23優勝、ツール・ド・北海道でのステージ2勝など、大学生としては破格の結果を残した。

大学卒業後はNIPPOに加入し、3年間在籍。2016年のジロ・デ・イタリア出場・完走は大きな話題となり、ジロ期間中に綴ったブログが書籍化された。2017年からキナンサイクリングチーム(以下キナン)に移籍し、今年3年目となる。

2016年ジロ・デ・イタリアに出場した山本元喜(NIPPOヴィーニファンティーニ)2016年ジロ・デ・イタリアに出場した山本元喜(NIPPOヴィーニファンティーニ) photo:Kei TsujiNIPPOからキナンに移籍することにした経緯は?

2016年にジロを走りましたが、その後の体調がグズグズで翌年の契約は難しいと言われました。それでいくつかの国内チームと交渉したのですが、(NIPPOの)大門さんがキナンの活動が良いと言ってくれたので、最終的に決めました。ちょうどリオデジャネイロオリンピックがあった年で、東京オリンピックを見据えれば国内に移るタイミングはここだというのがありました。

ヨーロッパではレベルの高い良いレースを走ることは出来るけれど、結果を出すのは難しくなる。東京オリンピックを目指すなら、日本に戻ってアジアのレースでポイントを獲るのが一番だと考えていたので、良い選択になったと思います。

ヨーロッパから国内に拠点を移して変わったことは?

ストレスが無くなったのが一番ですね。日本に戻って結婚もして、落ち着ける環境で活動できるようになったのが一番です。当時はあまり感じていませんでしたが、ヨーロッパでは言葉をはじめとして色々と壁を感じていたことが多かったなと思います。

NIPPOではアシストとして走った山本元喜NIPPOではアシストとして走った山本元喜 (c)NIPPOヴィーニファンティーニそれでも、外から見るとヨーロッパは華やかに見えますが

そうですねぇ・・・ヨーロッパで選手をするというのはステータスになりますし、注目されますけれど、極端に言えば結果は求められない。レースに出ることが目的になると言うか、大きいレースに出て逃げて目立ったり、アシストとして働いたり・・・それがプロとしての働きで評価されることではあるのだけれど、やはり自分はここまで勝って成長してきたと思っているので、それが無いと気持ち的に続かないなと。

やはり自分で勝ちたいと?

そうですね。アシストして感謝されて満足するというよりも、勝つことが選手を続けるモチベーションになりますね。



◆家族のこと、兄弟のこと、東京オリンピックのこと

2019年体制発表では、愛娘と共に登壇した(写真中央)2019年体制発表では、愛娘と共に登壇した(写真中央) photo:Satoru Kato
私生活では2016年末に、同じ鹿屋体育大学出身で、リオデジャネイロ・オリンピックに出場した塚越さくらさんと結婚。翌年には長女が生まれた。さくらさんはシエルブルー鹿屋に所属し、昨年から選手活動を再開した。

国内移籍のタイミングと結婚が重なりましたね

自分がジロを走って完走して、嫁さんがリオデジャネイロ・オリンピックに出られたら結婚しようという話をしていました。2人ともそれが叶ったので、じゃぁ・・・ってことで、それが2016年でしたね。

娘さんも生まれましたが、なかなか会えないのでは?

今1歳と6ヶ月なんですが、嫁さんも選手やってるので理解してくれてますし、競技に集中して欲しいと言ってくれるので助かってます。双方の両親にも協力してもらっているので、ありがたいです。

基本的には嫁さんの実家に娘をあずけていて、2人とも遠征で重なってしまう時などは面倒を見てもらっています。自分はチームの寮と、奈良の実家と、嫁さんの実家と、スケジュールに合わせて転々としています。合宿が連続するときはチームの寮にずっといますし、嫁さんもチーム拠点の鹿児島によく行ってるので、ここ2ヶ月で会ったのは3日とか日とか・・・。ナショナルチームの合宿もあったので余計でした。

ナショナルチームの沖縄合宿に参加した山本元喜(中央)ナショナルチームの沖縄合宿に参加した山本元喜(中央) photo:Kei Tsuji今年は弟の大喜がチームメートになった(左が大喜、右が元喜)今年は弟の大喜がチームメートになった(左が大喜、右が元喜) photo:Satoru Kato

そのナショナルチームの合宿はかなりハードだったと聞きましたが?

強い選手が集まって乗り込みメインの練習をしましたが、良い刺激になったし、密度の濃いトレーニングが出来ました。合宿の後半に新城選手が合流しましたが、シーズンインしている新城選手と、いつでも強い増田(成幸)選手に引きずり回されるという感じでしんどかったですが。でもトップクラスの選手と高強度の練習ってそう出来ないし、良い機会でした。

弟の大喜君が昨年加入しましたが、意識するところなどありますか?

同じチームで走ることになってお互い刺激になりますし、他のチームメートよりも負けたくないという気持ちはお互い持ってます。大喜は早生まれで昨年はU23だったので、今年エリートに上がるのですが、レースレベルが大きく変わるのをどう対応出来るかが今後につながると思っています。

2019年用のフレームに入れられた全日本チャンピオンの証2019年用のフレームに入れられた全日本チャンピオンの証 photo:Satoru Katoこの日はチームのメディアデー。地元テレビ局の取材を受ける。この日はチームのメディアデー。地元テレビ局の取材を受ける。 photo:Satoru Kato

今シーズンの予定は?

チームと相談してこれから決めていきますが、熱帯の暑い時期のレースは苦手なので、出来れば避けたいですね。

全日本は、オリンピックのことを考えるとちょっと悩みます。オリンピックの代表選考基準が全日本で優勝すれば良いというものではないので、例えばアジアのステージレースで総合優勝したり上位入賞を重ねる方が重要なのかなとも考えています。

「全日本選手権はベストコンディションで臨む」と語る山本元喜「全日本選手権はベストコンディションで臨む」と語る山本元喜 photo:Satoru Katoとは言っても、全日本の時期(6月)は調子が一番上がっていなければならないので、ベストコンディションで臨みます。でも簡単に勝てるレースではないし、無理に連覇を狙って固執しすぎないようにしたいと思っています。今年はまだコースの詳細が分からないし、事前の試走は出来ないだろうから、似たようなところで練習するなどの対策はするつもりです。

昨年はノーマークでしたが、今年はマークが厳しくなるだろうし、簡単には逃してくれないでしょうね。新城さんや(NIPPOの)中根(英登)さんが出てくればそこにマークが集まるでしょうけど。

東京オリンピック後のことは考えていますか?

自転車はまだマイナースポーツだから、走っていれば良いワケでもないし、いかに注目してもらうかということや、ファンの方々と交流していくことは大事だと思っています。自分のことを広く認識して欲しいというのもあるので、色々チャンネルを作って発信したり交流したりということを今後も続けていきたいです。

ツール・ド・熊野第2ステージの千枚田を登る山本元喜ツール・ド・熊野第2ステージの千枚田を登る山本元喜 photo: KINAN Cycling Team / Syunsuke FUKUMITSU

text:Satoru Kato
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