先のツール・ド・フランスでデビューしたばかりのジロの新作ヘルメットAETHER(イーサー)を、前田公平(弱虫ペダルサイクリングチーム)がインプレッション。可動式2重シェルという独創的機構を搭載した注目モデルの使用感を聞いた。



SYNTHE(左)とAETHER(右)を掲げる前田公平(弱虫ペダルサイクリングチーム)。人気を博したジロらしいデザインは引き継がれているSYNTHE(左)とAETHER(右)を掲げる前田公平(弱虫ペダルサイクリングチーム)。人気を博したジロらしいデザインは引き継がれている photo:Makoto.AYANO
7月のフランスを、そして世界を熱狂に巻き込んだツール・ド・フランスで、BMCレーシングの選手たちの頭上に注目した方も多いだろう。従来のSYNTHE(シンセ)に似通っているものの、やや小ぶりで丸みがかったフォルムを持つそれは、ジロの新型モデル「AETHER(イーサー)」。ジロが2014年デビューのSYNTHE以来4年ぶりに登場させたフラッグシップだ。

ツール・ド・フランスでデビューしたAETHER。チームカラーは市販も行われているツール・ド・フランスでデビューしたAETHER。チームカラーは市販も行われている photo:Makoto.AYANOマイヨジョーヌを着用したグレッグ・ヴァンアーヴェルマート(ベルギー、BMCレーシング)。イエローのAETHERが目立つマイヨジョーヌを着用したグレッグ・ヴァンアーヴェルマート(ベルギー、BMCレーシング)。イエローのAETHERが目立つ photo:Makoto.AYANO


USポスタルやラボバンクが愛したATMOS(アトモス)に始まり、IONOS(イオノス)、AEON(イーオン)、SYNTHEと続く、ジロのフラッグシップらしいデザインを継承するAETHERだが、そのコアはMIPS社との共同開発で生まれた二重シェル「MIPS SPHERICAL(ミップス・スフェリカル)、通常MIPS SP」にある。

MIPSを改めて説明すると、衝撃を受けた際ヘルメット内側に付加されたシート状のレイヤーが滑ることで脳へのダメージを最小限に留めるシステム。現在多くのヘルメットブランドが採用するだけの高い信頼性が特徴だが、レイヤーが存在するために通気性やフィット感を妨げるというデメリットを抱えていた。

そこで生まれたAETHERのMIPS SPは、レイヤーではなくヘルメットのシェルを二重とし、シェル同士を滑らせるという斬新なアイディアを採用したもの。これによって従来の問題を解決すると同時に、転倒時にシェル同士がスライドすることで従来品と比較し+30%もの衝撃吸収性能を得ているという。頭へのダメージを防ぐヘルメット本来の機能を最大限に推し進めた最新システムなのだ。

右がAETHER、左がSYNTHE。MIPS SPを採用したことで見た目にも通気性が良くなった右がAETHER、左がSYNTHE。MIPS SPを採用したことで見た目にも通気性が良くなった photo:Makoto.AYANO後方のシェイプはやや丸みを帯びた形に。エアロを高めた結果だろう後方のシェイプはやや丸みを帯びた形に。エアロを高めた結果だろう photo:Makoto.AYANO

インナーシェルには横方向の溝が設けられ、通気性を最大限向上させるよう工夫されているインナーシェルには横方向の溝が設けられ、通気性を最大限向上させるよう工夫されている photo:Makoto.AYANOパッドの面積を最小限に留めることで快適性を向上させているパッドの面積を最小限に留めることで快適性を向上させている photo:Makoto.AYANO


それでいて重量はMIPS無しのSYNTHE(カタログ値250g)とほぼ同じ実測254gに抑えれられていることも見逃せないポイント。Mサイズで220gのAEON WFと比べればやや重く超軽量と呼べる範囲ではないものの、最高クラスの安全性を備えていることを考えれば不満は聞こえてこないだろう。当然重心バランスも考えられているため前傾姿勢時に前に落ちてくることも不安も最小限だ。

SYNTHEと比較してベンチレーションホールも広く大きく、かつ頭に乗るシェル部分にも細かい溝を多数追加、さらにパッド数も最小限に留めるなど、実物を見れば見るほど快適性に対する工夫が凝らされているのが分かる。超軽量ダイヤル式の後部フィットサポート「ROCLOC 5」がPLUSに進化し、サポートと調整範囲が拡大したことも押さえておくべき進化だろう。

ファーストロット入荷と共にメーカー在庫完売となった話題のAETHER MIPS。今回は普段からSYNTHE MIPSを使う弱虫ペダルサイクリングチームの前田公平選手に登場頂き、AETHER MIPSの違いや進化した点など生の声を聞いてみた。ロードはもちろん、MTBやシクロクロスといったオフロードレーサーとしての目線も加えたインプレッションをお届けしたい。



前田公平インプレッション:「高い通気性は低速時の登りで効果大。安全性や使い勝手の向上も良い」

AETHER MIPSをテストする前田公平(弱虫ペダルサイクリングチーム)AETHER MIPSをテストする前田公平(弱虫ペダルサイクリングチーム) photo:Makoto.AYANO
もともとジロのヘルメットは全く違和感なく被ることができていましたが、AETHER MIPSもフィッティング面では良い意味でほとんど変化していないように感じました。ほんの少しだけ前部分が狭くなったかな?と思うのですが、そのせいで合わなくなったということも無い範疇でしょうね。

外側シェルの張り出し、特に横方向の張り出しが少なくなったから見た目はすごくコンパクトになりましたね。いわゆる「キノコ状態」になりにくいので見た目的にも軽い気がしますし、実際の重量も全然重くない。ダンシングやクラウチングポジションでも前に下がってこないのでバランスも良いんでしょうね。重心の位置が悪いと重量的には軽くても重たく感じる場合があるんですが、AETHER MIPSに関しては気になりません。

「横方向への張り出しが少なくなってスマートになりましたね。気分的にも軽いです」「横方向への張り出しが少なくなってスマートになりましたね。気分的にも軽いです」 photo:Makoto.AYANO
通気性はかなり気に入ったポイントです。ロードレースだったら常時ハイスピードなのでエアロヘルメットでも暑く感じることは滅多にありませんが、MTBレースのヒルクライムは歩き並みにスピードが落ちることがあるんですよね。特にMTBは夏がオンシーズンですし、ゲレンデを走ることが多いのでとにかく暑いんです。でもAETHER MIPSくらいの抜け感があれば相当良さそうですね。暑い日本の夏にはかなり向いた製品だと思いますよ。

正直MIPSの効果はクラッシュしてみないと分かりません(笑)が、やっぱり安全性は大事ですよね。先日カナダで開催されたMTBワールドカップの試走時に転んでしまったのですが、頭から落ちた先が岩だったのでヘルメットを被ってなかったらかなりヤバかった。ダウンヒル競技じゃなければ基本的にジャージの防御力はゼロですから、せめてヘルメットはしっかりとしたものを身につけるべきであって、それは選手だけじゃなくて一般の方も同じだと思うんです。AETHER MIPSもこれだけシェルが動くなら脳震盪のリスクは減りますよね。

サングラスを固定するポート。柔らかいゴム系素材が使われているためホールド力が高いサングラスを固定するポート。柔らかいゴム系素材が使われているためホールド力が高い photo:Makoto.AYANO「アイウェアポートは穴が大きくなって、より太いフレームのアイウェアでも安定して保持してくれます」「アイウェアポートは穴が大きくなって、より太いフレームのアイウェアでも安定して保持してくれます」 photo:Makoto.AYANO


あとはサングラスをしっかりとホールドしてくれること。これ意外と大事ですよね。季節によってはサングラスが曇るのでヘルメットに挿すことが多いんですが、SYNTHEは穴が小さいのでつる部分が太いサングラスだと相性が悪いんですよね。でもAETHER MIPSは穴が大きくて、なおかつホールドさせるためのパーツが大きくて柔らかいので、せっかくのお気に入りサングラスを落として泣く人が少なくなりそうです。こういう配慮がされているのは良いですね。

今シーズンはSYNTHE MIPSを使う予定ですが、今回のテストでAETHER MIPSの実戦使用が楽しみになりました。早く使ってみたいなと思える製品でした。



前田公平(弱虫ペダルサイクリングチーム)前田公平(弱虫ペダルサイクリングチーム) photo:Makoto.AYANO前田公平プロフィール

弱虫ペダルサイクリングチームに所属する24歳。MTBクロスカントリーで競技を始め、シクロクロスやロードレースにも活躍の幅を広げる。ジュニア時代の2012年にはアジア選手権優勝。MTBとCXの全日本選手権では常に表彰台に食い込み、2017年はMTBで3位、CXで2年連続2位。

弱虫ペダルサイクリングチーム

ジロ AETHER MIPS スペック
重 量:254g(実測、Mサイズ)
サイズ:M、L(Matte Bright Red/Dark RedのみSサイズ展開あり)
カラー:Matte Black、Matte White/Silver、Matte Bright Red/Dark Red、Matte Blue、Matte Citron/White、Matte Black Flash
価 格:37,000円(税抜)

text:So.Isobe
photo:Makoto.AYANO

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