2010年3月1日〜7日までの一週間、アジア最高峰のステージレース、ツール・ド・ランカウイ(UCI2.HC)が開催される。ヨーロッパのトップチームとアジア各国のトップライダーが競う今大会、愛三工業レーシングチームが日本からチームとして参戦する。

マレー半島東岸から西岸の首都クアラルンプールを目指すツール・ド・ランカウイ2010マレー半島東岸から西岸の首都クアラルンプールを目指すツール・ド・ランカウイ2010 image:www.ltdl.com.my今年で第15回大会を迎えるツール・ド・ランカウイ。アジア最高峰のカテゴリーのステージレースとして、多くの名勝負を生み出してきた。かつては10日間ほどの比較的中規模なレースだったが、近年は7日間の日程で競われるようになっている。

平坦6ステージ+超級山岳1ステージ

かつてはマレーシア西に浮かぶリゾートアイランドのランカウイ島をスタートしたことからツール・ド・ランカウイの名称をもつが、移動のトラブルなどもあり、今年はマレーシア本島を走るルートになっている。

マレーシア北東のコタ・バルからマレー半島中央部の首都クアラルンプールに至る1013.9km、全7ステージの構成はずいぶんと特徴的だ。7ステージのうち、6ステージが平坦ステージ、1ステージが超級山岳の山頂ゴールに設定されている。

この超級山岳こそが、ツール・ド・ランカウイの代名詞とも言えるゲンティン・ハイランド。最終日前日のこの第6ステージが総合争いにおいてもっとも重要なステージであることは言うまでもないだろう。最終第7ステージは恒例となっている首都クアラルンプールでのクリテリウムだ。

第6ステージ ゲンティンハイランド山頂ゴールのコースプロフィール第6ステージ ゲンティンハイランド山頂ゴールのコースプロフィール image:www.ltdl.com.my

ゲンティンまでの平坦5ステージも決して簡単なステージではない。とりわけ海沿いの道を走る第1、3、5の奇数ステージは東南アジアならではのモンスーンにより、平坦ステージとはいえ戦力を要するステージとなるだろう。スプリンターチームと逃げ切り勝利を狙う選手たちの駆け引きの妙に期待だ。

大規模な逃げグループが形成され、集団に大差をつければ、総合争いの行方はクライマー以外の選手にもチャンスが生まれてくる。それではランカウイに乗り込む注目選手たちをピックアップしてみよう。

アジアのレース色が濃くなったチームラインナップ

2010年大会の大きな変化として、開催時期が3月上旬へと移されたことがある。これまでは2月の中旬開催で、調整も兼ねたヨーロッパのプロチームが大挙して押し寄せてくることでレベルの高いレースだったが、今年は少々事情が変わっている。

ヨーロッパではパリ〜ニースやティレーノ〜アドリアティコといった歴史的レースの開催が3月上中旬ということもあり、それとほぼ重なる日程はヨーロッパチームにとっては難点。今年のプロツアーチームの参戦はフットオン・セルヴェット1チームのみと超級(オークラス)カテゴリーのレースとしてはやや寂しいところ。


全日本TTチャンプの盛 一大とロード全日本チャンプの西谷 泰治全日本TTチャンプの盛 一大とロード全日本チャンプの西谷 泰治 (c)Makoto.AYANOしかしその分、アジア各国のトップライダーの走りに期待したい。昨年のツールでの新城幸也(Bboxブイグテレコム)と別府史之(レディオシャック)の活躍にみられるように、アジアは今や強い選手を生み出す土壌になりつつある。アジアのレースで、アジアのライダーがどんな走りをするのか、要注目だ。

日本からは愛三工業レーシングチームが唯一参戦する。チームとしては初参加で、戦いの舞台にアジアを選ぶ愛三としては最重要レースのひとつがこのランカウイとなる。また、西谷泰治と盛一大の2人の日本チャンピオンを要することもいいモチベーションにつながるはずだ。

アジアでの活躍を目標に掲げる愛三工業レーシングチームアジアでの活躍を目標に掲げる愛三工業レーシングチーム (c)Makoto.AYANO

07年大会でベストアジアンライダー賞を獲得したガデル・ミズバニ(イラン、タブリズ・ペトロケミカル)07年大会でベストアジアンライダー賞を獲得したガデル・ミズバニ(イラン、タブリズ・ペトロケミカル) photo:Cor Vos愛三はチーム一丸となって西谷のスプリント態勢を整える。2007年大会でトップ10フィニッシュ3回の品川真寛や、キャプテン綾部勇成、チーム4年目の鈴木謙一らがチームの活躍を支えるだろう。ゲンティンハイランドでは日本屈指のクライマー、別府匠の走りに期待したい。

もうひとり、ランカウイで注目の日本人に福島晋一がいる。2007年大会でステージ勝利を挙げた福島は今年、韓国に新チーム、クムサン・ジンセン・アジアを立ち上げ、キャプテンとして活躍が期待されたが、練習中にアクシデントで鎖骨を骨折。シーズンインが先延ばしになる見通しだ。

他のアジアチームの注目は、ガデル・ミズバニ(イラン)、アンドレイ・ミズロフ(カザフスタン)のアジア屈指の2選手を擁するタブリズ・ペトロケミカル。アジアツアーでお馴染みのトントン・スサント(インドネシア)率いるアザドユニバーシティ、日本のレースでも結果を残すデイビッド・マッキャン(アイルランド)がエースのジャイアントアジアレーシングチームも存在感を示すだろう。

2005年大会のゲンティンステージと総合で2位になったホセ・ルハノ(ヴェネズエラ、ISD)2005年大会のゲンティンステージと総合で2位になったホセ・ルハノ(ヴェネズエラ、ISD) photo:Cor Vosナショナルチームでは強豪国カザフスタン、コロンビア、南アフリカの3カ国が、若手を多く送り込んでいる。とりわけ南アフリカはランカウイで2勝を記録しており、相性の良さは折り紙付き。今年はどんな才能が頭角を現すか。

ゲンティンを中心とした総合争いではやはりヨーロッパチームの層の厚さが目立つ。ランカウイに苦い思い出を残すホセ・ルハノ(ヴェネズエラ、ISD)はゲンティンでの雪辱を期しているはずだ。2005年にここで2位、総合でも2位となったルハノは総合争いの本命だ。
唯一のプロツアーチーム、フットオン・セルヴェットの注目株はポルトガルチャンピオンのマヌエル・カルドソ。1月のツアー・ダウンアンダーでは強豪を破ってステージ優勝を挙げるスプリント力を見せた。スプリント勝負では目が離せない存在だ。



1月のダウンアンダーでバルベルデらを破ったマヌエル・カルドソ(ポルトガル、フットオン・セルヴェット)1月のダウンアンダーでバルベルデらを破ったマヌエル・カルドソ(ポルトガル、フットオン・セルヴェット) photo:Kei Tsujiスプリントということでカルドソのライバルになるのはフォアアールベルク・コラテックのセバスティアン・シードラー(ドイツ)とレネ・ハーゼルバッハー(オーストリア)のコンビ。ミルラムやスキル・シマノを渡り歩いたシードラーのスプリントに注目。

こうして見てみると、突出した選手こそヨーロッパチームにいるものの、今年はアジア勢と欧米勢との差は例年ほどには大きくない。10日ほど前から現地入りして調整を続ける愛三工業レーシングチームはアジア最高峰の舞台に足跡を残せるか。期待しながら目が離せない。




シクロワイアードではレポーターの小俣雄風太が現地入りし、愛三工業レーシングに帯同した密着レポートをお届けする予定です。熱帯のレースを伝えるホットなレポートをぜひご期待ください。

text:Yufta Omata
photo:Cor Vos, Kei Tsuji