大会2週目からアルプス山脈とピレネー山脈に挑むツール・ド・フランス。未舗装のプラトー・デ・グリエールやラルプデュエズ山頂フィニッシュ、65kmという異例の短さのピレネーステージ、最終日前日の個人TTなど、勝負どころが詰め込まれた後半戦のステージを紹介します。



7月17日(火)第10ステージ → コースマップ
アヌシー〜ル・グラン=ボルナン 158.5km


ツール・ド・フランス2018第10ステージツール・ド・フランス2018第10ステージ photo:A.S.O.休息日の長距離移動を経てツールはアルプス山脈に突入する。今大会最初の本格山岳ステージである第10ステージには5つのカテゴリー山岳が登場。前半に登場する超級山岳プラトー・デ・グリエール(全長6km/平均11.2%)は今大会唯一平均勾配が11%を超える激坂であり、中盤にかけてコンスタントに勾配が12%を超える。しかも頂上通過後には1,800mの未舗装区間(登り緩斜面)が登場するおまけ付きだ。未舗装路がツールに登場するのは1991年第11ステージ以来となる。

そこからさらに1級山岳ロム峠(全長8.8km/平均8.9%)と1級山岳コロンビエール峠(全長7.5km/平均8.5%)を立て続けにクリアし、約13kmの下り区間を経てル・グラン=ボルナンにフィニッシュ。山頂フィニッシュではないが、急勾配の超級山岳と未舗装区間、終盤の2連続1級山岳の組み合わせは、総合成績に衝撃を与えるには十分すぎるほどの難易度。休息日明け特有の思わぬ失速に苦しむ選手も出てくるかもしれない。



7月18日(水)第11ステージ → コースマップ
アルベールヴィル〜ラ・ロジエール 108.5km


ツール・ド・フランス2018第11ステージツール・ド・フランス2018第11ステージ photo:A.S.O.アルプス2日目は108.5kmという短めのステージに4つのカテゴリー山岳が詰め込まれた内容の濃さ。スタート地点アルベールヴィルは1992年の冬季五輪開催地であり、ツールには4回目の登場。スタート地点となった直近2回(2012年と2016年)のステージはいずれもフランス人選手の優勝に終わっている(ロランとバルデ)。

前半から超級山岳ビザン峠(全長12.4km/平均8.2%)と超級山岳プレ峠(全長12.6km/平均7.7%)、2級山岳ロズラン峠(全長5.7km/平均6.5%)を立て続けに休む間もなく越えていく。最後はイタリア国境に近いスキーリゾートの1級山岳ラ・ロジエール(全長17.6km/平均5.8%)山頂フィニッシュ。ツール初出場のラ・ロジエールは、8%前後の勾配が続く中盤を除いて勾配は4〜5%ほどであり、登り単体で見ると難易度はさほど高くない。しかし獲得標高差が4,000mに達する高強度のステージの最後だけに何が起こるか分からない。なお、このレイアウトはクリテリウム・デュ・ドーフィネ第6ステージとほぼ同じだ。



7月19日(木)第12ステージ → コースマップ
ブール=サン=モーリス〜ラルプデュエズ 175.5km


ツール・ド・フランス2018第12ステージツール・ド・フランス2018第12ステージ photo:A.S.O.今大会のクイーンステージと目されているのが超級山岳マドレーヌ峠(全長25.3km/平均6.2%)と「はしご」に形容される2級山岳ラセ・ド・モンヴェルニエ(全長3.4km/平均8.2%)、超級山岳クロワドフェール峠(29km/5.2%)を経て超級山岳ラルプデュエズ(全長13.8km/平均8.1%)にフィニッシュするこの第12ステージだ。

ツールを代表する名峠であるラルプデュエズは2015年大会以来2年ぶり。ファウスト・コッピ(イタリア)がステージ優勝した1952年の初登場以降、これまで29回ツールに登場している。麓の町ブール=ドアザンから観客で溢れかえる「オランダコーナー」など合計21カ所のヘアピンコーナーを抜けて標高1,850mのスキーリゾート地へ。1年のうち300日は晴れというこの地域特有の好天が選手を迎えるだろう。

2011年はピエール・ロラン、2013年はクリストフ・リブロン、2015年はティボー・ピノがステージ優勝していることからもわかるように、ラルプデュエズとフランス人選手の相性は抜群。超級山岳が3つ連続するこのアルプスステージの獲得標高差は5,000mを超える。



7月20日(金)第13ステージ → コースマップ
ブール=ドアザン〜ヴァランス 169.5km


ツール・ド・フランス2018第13ステージツール・ド・フランス2018第13ステージ photo:A.S.O.アルプスを乗り切ったスプリンターたちに今大会5〜6回目のチャンスが回ってくる。ラルプデュエズの麓に位置するブール=ドアザンをスタートした一行は、アルプスの山々を背にV字の渓谷を西へ。フィニッシュ地点はオーヴェルニュ=ローヌ=アルプ地域圏のヴァランス。イゼール川とローヌ川が作り出した平野を走る169.5kmには低難度のカテゴリー山岳が2つ設定されている。

(トーマスが転倒してクウィアトコウスキーが勝った)クリテリウム・デュ・ドーフィネ初日のプロローグで走ったヴァランスの街中を、今度は大集団がハイスピードで駆け抜ける。街中を走る終盤はラウンドアバウトやコーナーが続くものの残り2kmから先は直線的。残り400mのラウンドアバウトを抜け、たっぷり道幅のある大通りでフィニッシュを迎える。アルプス山岳3連戦でスプリンターチームの力が弱まっていれば逃げ切りにもチャンスあり。ここでも1チームの出場メンバーが9名から8名に減らされた影響が出てくるだろう。



7月21日(土)第14ステージ → コースマップ
サンポール=トロワ=シャトー〜マンド 188km


ツール・ド・フランス2018第14ステージツール・ド・フランス2018第14ステージ photo:A.S.O.アルプスからピレネーもしくはピレネーからアルプスの移動中にほぼ必ず立ち寄るのがフランスの中央山塊(マッシフサントラル)だ。第14ステージは前日のフィニッシュ地点ヴァランスからローヌ川に沿って80km南下したサンポール=トロワ=シャトーをスタート。しばらく平地を走ってからアルデッシュ渓谷を抜け、4級、2級、3級と、中央山塊の細かい峠道を進んでいく。

この日の勝負どころは何と言っても残り1.5km地点でピークを迎える2級山岳クロワヌーヴ(全長3km/平均10.2%)だ。平均勾配が10%を超えるパンチの効いた登りがスプリンターたちの侵入を阻止する。少しでもタイム差をつけておきたい&詰めておきたいクライマーたちが動くと見られるが、サガンに代表されるパンチャーにも勝機がある。フィニッシュ地点はツールでの定番になりつつあるマンド飛行場。残り500mで飛行場の敷地内に入り、滑走路の上でフィニッシュを迎える。



7月22日(日)第15ステージ → コースマップ
ミヨー〜カルカッソンヌ 181.5km


ツール・ド・フランス2018第15ステージツール・ド・フランス2018第15ステージ photo:A.S.O.ピレネー到達前に、プロトンは中央山塊(マッシフサントラル)の南端に位置するノアール山脈を走る。スタート後すぐ「世界一高い橋」ミヨー橋の下をくぐり、3級、2級、1級と徐々に難易度を上げていくカテゴリー山岳をこなす。残り41km地点に位置するツール初登場の1級山岳ピック・ド・ノール(全長12.3km/平均6.3%)はピュアスプリンターたちには厳しすぎるだろう。

高視聴率が予想される日曜日だけに、ステージ序盤に繰り広げられる逃げ形成のためのアタック合戦は熾烈を極めるはず。大きなグループが飛び出せばそのまま城壁都市カルカッソンヌまで逃げ切ってしまう可能性は高い。しかしマイヨヴェール候補の筆頭サガンらがステージ優勝に興味を示せば話は別だ。休息日前だけに、1級山岳ピック・ド・ノールで全開アタックを仕掛けるマイヨジョーヌ候補も出てくるかもしれない。



7月23日(月)休息日



7月24日(火)第16ステージ → コースマップ
カルカッソンヌ〜バニェール=ド=ルション 218km


ツール・ド・フランス2018第16ステージツール・ド・フランス2018第16ステージ photo:A.S.O.カルカッソンヌで最後の休息日を過ごした選手たちがピレネー山脈に挑む。前半は平坦基調だが、124km地点のスプリントポイントから先は山岳地帯。まずは2級山岳ポルテダスペ峠(全長5.4km/平均7.1%)と1級山岳マンテ峠(全長6.9km/平均8.1%)を立て続けにクリアする。

第105回大会はほぼフランス国内で完結しているが、この日は残り32km地点でスペインに入国。そこから1級山岳ポルティヨン峠(全長8.3km/平均7.1%)を駆け上がってフランスに戻る。つまり22kmだけフランスを離れてスペイン国内を走ることになる。

最後のポルティヨン峠は目を見張るような難易度ではないが、頂上がフィニッシュから10kmしか離れていないのは見逃せない事実。登りだけではなく下りを利用して飛び出した選手がリードを奪うだろう。実際に、前回バニェール=ド=ルションがフィニッシュ地点として登場した2016年には、ポルティヨン峠とは反対側のペイルスルド峠の下りでクリストファー・フルーム(イギリス)がアタックを成功させてマイヨジョーヌ獲得を果たしている。今回のフィニッシュラインも2年前と同じ場所に引かれている。



7月25日(水)第17ステージ → コースマップ
バニェール=ド=ルション〜サンラリ=スラン 65km


ツール・ド・フランス2018第17ステージツール・ド・フランス2018第17ステージ photo:A.S.O.第11ステージと第12ステージに続く今大会3つ目の山頂フィニッシュはとても特殊だ。第17ステージの距離は、過去30年間のロードステージで最も短いという65km。ジロ・デ・イタリアでフルームが独走した距離よりも短い。距離の短さはレースの簡単さを意味するものではなくむしろ逆。クリスティアン・プリュドム氏の言葉を借りれば「ダイナマイトステージ」。爆発的な、強度の高い濃密な戦いが繰り広げられることになるだろう。

バニェール=ド=ルションをスタートしてすぐに1級山岳ペイラギュード峠(全長14.9km/平均6.7%)の登りが始まり、休む間もなく1級山岳ヴァル・ルーロン・アゼ峠(全長7.4km/平均8.3%)を越え、ツール初登場となる超級山岳サンラリ=スラン/ポルテ峠(全長16km/平均8.7%)を駆け上がる。トゥールマレー峠よりも高い標高2,215mのポルテ峠は今大会最高地点。まさに登り3つと下り2つしかないため、距離65kmで獲得標高差は3,000mに達する。

さらに主催者は総合順位でグループを分け、総合上位グループを先頭にスタートしていくグリッドスタート方式を初めて採用する。総合上位陣を含む先頭は後続を待つのか、そしてアシストを含む後続グループは先頭に追いつけるのか。もちろん前方のグループにメンバーを揃えたチームが有利になる。最初のペイラギュード峠では各チームの思惑が交錯することになりそうだ。



7月26日(木)第18ステージ → コースマップ
トリ=シュル=バイズ〜ポー 171km


ツール・ド・フランス2018第18ステージツール・ド・フランス2018第18ステージ photo:A.S.O.マイヨジョーヌ候補たちは最後の山岳決戦を前に一息つく。ピレネー山岳ステージに前後を挟まれた第18ステージは再びピュアスプリンター向き。もちろん逃げ切りが決まる可能性もあるが、マイヨヴェール争いが佳境を迎える中、スプリンターチームがこのチャンスを逃さないだろう。

ピレネーの玄関口ポーの街がツールに登場するのは70回目。これはパリとボルドーに次ぐ3番目の登場回数だ。地理的に勝負どころから離れているボルドーがここ最近ツールに登場しないことから、ポーが2位の座を奪う勢いで数字を伸ばしている。フィニッシュラインが引かれるのはいつものマキルベアルン通り。2017年にマルセル・キッテル(ドイツ)が勝利した時と同じ道幅6.5mのストレートがスプリンターを待っている。前日の激短ステージを制限時間内で走りきるために苦しんだスプリンターには力が残っていないかもしれない。



7月27日(金)第19ステージ → コースマップ
ルルド〜ラランス 200.5km


ツール・ド・フランス2018第19ステージツール・ド・フランス2018第19ステージ photo:A.S.O.最後の山岳決戦の場となる第19ステージには超級山岳オービスク峠(全長16.6km/平均4.9%)のダウンヒルフィニッシュが設定されている。ステージ中盤に佇んでいる1級山岳アスパン峠(全長12km/平均6.5%)と超級山岳トゥールマレー峠(全長17.1km/平均7.3%)の黄金コンビの破壊力は抜群だ。

登り中盤にスロー峠の頂上と短い下り区間を含む超級山岳オービスク峠がクライマーたちにとって最後の逆転&挽回のチャンス。そこからラランスまでの下りはハイスピードかつテクニカルなもので、人数を揃えたグループが有利になるような平坦区間はない。本領を発揮したダウンヒルスペシャリストがこのオービスク峠の下り区間でライバルたちを引き離すことは十分に可能だ。

この日の獲得標高差は今大会最大の4,700m。すでに3週間近く走り続けた選手たちの脚が悲鳴をあげる。しかし翌日には重要な個人タイムトライアルが設定されているため、ここで完全に出し切るわけにはいかない。




7月28日(土)第20ステージ → コースマップ
サンペー=シュル=ニヴェール〜エスプレット 31km(個人TT)


ツール・ド・フランス2018第20ステージツール・ド・フランス2018第20ステージ photo:A.S.O.最終日前日はスペイン国境に近いフレンチバスク地方を走る31kmの個人タイムトライアル。バスク地方がツールに登場するのは2006年第10ステージ以来となる。

この地域特有のアップダウンが詰め込まれた31kmは、2017年のマルセイユ個人タイムトライアルよりもずっと難易度が高い。選手たちはTTバイクを操って勾配のある登りやテクニカルな下りをこなさなければならず、単純な独走力勝負にはならない。特に終盤に登場するピノディエタ峠(全長900m/平均10.2%)は最大勾配が22%に達する激坂であり、機材セレクトもタイムに大きく響きそうだ。

フィニッシュ地点エスプレットは唐辛子の産地として知られている。このスパイスの効いた刺激的な個人タイムトライアルで実質的な第105代ツール覇者が決まる。なお、今大会に登場する個人タイムトライアルはこの日だけ。31kmという距離は異例の短さだ。




7月29日(日)第21ステージ → コースマップ
ウイユ〜パリ・シャンゼリゼ 115km


ツール・ド・フランス2018第21ステージツール・ド・フランス2018第21ステージ photo:A.S.O.フレンチバスク地方から終着地パリまで800km移動。選手たちは最終日当日の朝にチャーター機でパリに入る。関係車両はもちろん陸路で移動するため、最終ステージのスタート時間は16時20分と遅めだ。そのぶんフィニッシュ時間も遅くなる(19時09分前後)が、当日パリの日の入りは21時33分なのでレース後も、表彰式の最中も、シャンゼリゼ通りはまだ明るい

郊外のウイユからパレード走行が始まり、マイヨジョーヌがチームメイトとシャンパンで乾杯しながらパリを目指す。エッフェル塔やルーヴル美術館の横は通らず、凱旋門の外周を回ってシャンゼリゼの周回コースに突入。最後は凱旋門の周回道路を含む6.8km周回コースを8周する。石畳で跳ねるバイクを押さえ込んで、スプリンターたちが最後のバトルを繰り広げる。




text:Kei Tsuji in Le Roche-sur-Yon, France
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