オーストラリアの小柄なスプリンター、アラン・デーヴィス(アスタナ)は、ビッグな勝利を夢見て今シーズンを闘う。アスタナチームでの活躍に自信を見せるデーヴィスに、グレゴー・ブラウンが訊いた。

ツール不出場が影響し、2年でクイックステップを離脱

2009年ツアー・ダウンアンダー リーダージャージを着て走るアラン・デーヴィス(オーストラリア、クイックステップ)2009年ツアー・ダウンアンダー リーダージャージを着て走るアラン・デーヴィス(オーストラリア、クイックステップ) photo:Cor Vos「ミラノ〜サンレモのような大きな勝利を狙いたい。もしくは、ジロ・デ・イタリアやツール・ド・フランスのステージ優勝を飾りたい。それを達成する能力は充分にある」。

昨年クイックステップの一員としてツアー・ダウンアンダーに出場したデーヴィスは、ステージ3勝の活躍で総合優勝に輝いた。

2009年ツアー・ダウンアンダー:ステージ3勝で総合優勝に輝いたアラン・デーヴィス(オーストラリア、当時クイックステップ)2009年ツアー・ダウンアンダー:ステージ3勝で総合優勝に輝いたアラン・デーヴィス(オーストラリア、当時クイックステップ) photo:Cor Vosシーズンを通しての活躍を感じさせる最高のスタートを切ったデーヴィスだったが、ヴァッテンフォール・サイクラシックス4位、パリ〜ブリュッセル2位、GPワロンヌ2位と勝利から見放され、2009年シーズンの勝利数はダウンアンダーの3勝に留まった。

「2009年シーズンを通しての走りには、とても満足している。勝つことだけが評価されるわけではないし、安定して上位に入ることも重要なんだ。安定した成績はプロフェッショナルとして重要なファクターだと思っている。でも。第3者はもっと勝ち星を望んでいるはず。そうだろ?」

2009年ジロ・デ・イタリア 第9ステージでカヴェンディッシュに破れて2位に入ったアラン・デーヴィス(オーストラリア、当時クイックステップ)2009年ジロ・デ・イタリア 第9ステージでカヴェンディッシュに破れて2位に入ったアラン・デーヴィス(オーストラリア、当時クイックステップ) photo:Kei.Tsuji2001年マペイチームでプロデビューしたデーヴィスは現在29歳。これまでワンディレースやステージレースのステージ優勝を何度も経験しているが、グランツールや世界的なワンディクラシックでの勝利は無い。2007年ミラノ〜サンレモで2位に入るなど、何度か上位フィニッシュは果たしているが、いつも彼の前には他のスプリンターが立ち塞がった。それは昨シーズンも同様だ。

「マーク・カヴェンディッシュの台頭が(勝てない)要因の一つ。彼は全てのスプリンターのライバル。マークが世界最高のスプリンターであることに異論を唱える人はいないはず」。

出場が決まったボーネンと笑顔で握手を交わすアラン・デーヴィス(オーストラリア、当時クイックステップ)出場が決まったボーネンと笑顔で握手を交わすアラン・デーヴィス(オーストラリア、当時クイックステップ) photo:Cor Vosカヴェンディッシュは昨年ミラノ〜サンレモで優勝(デーヴィスは4位)し、ジロ・デ・イタリアの3ステージで勝利を収めた(デーヴィスは2位が1回、3位が2回)。7月のツール・ド・フランスでカヴェンディッシュは破竹の勢いでステージ6勝を飾ったが、そこにデーヴィスの姿は無かった。

デーヴィス不在の理由?それはクイックステップがトム・ボーネン(ベルギー)の出場を優先させたからだ。事の発端は、4月のレース外ドーピング検査でボーネンのコカイン陽性が発覚したことまで遡る。

スタッフと握手してモナコの会場を去るアラン・デーヴィス(オーストラリア、当時クイックステップ)スタッフと握手してモナコの会場を去るアラン・デーヴィス(オーストラリア、当時クイックステップ) photo:Cor Vosコカイン陽性のボーネンに対して、ツール主催者のA.S.O.(アモリー・スポーツ・オルガニザシオン)は出場辞退を要請。しかし出場辞退の不当性を主張するクイックステップとボーネンはCAS(スポーツ仲裁裁判所)に控訴。ツール開幕直前になって、CASはボーネンのツール出場にGOサインを出した。

デーヴィスはモナコのチームプレゼンテーションにメンバーの一員として出席し、トレーニングにも参加していた。しかしチームの絶対的エースであるボーネンの出場が急遽決まったことで、デーヴィスは帰宅せざるを得なくなったのだ。

デーヴィスは春の時点でボーネンと2人でツールに出場する可能性に付いてチームと話し合ったと言う。「どうしてチームがそんな決断を下したのか理解出来ない。現実的に、ボーネンと僕の2人がツールに出場すればもっと活躍出来ていたはずだ。本当にガッカリな出来事だった」。

「ツールでのステージ優勝は子どもの頃からの夢だった。ここ数年はツールで成績を残す自信があったのに、どういうわけか、周りの環境が僕の出場を阻止した。特に昨年はコンディションも上がっていただけに、落胆したし、精神的にかなり落ち込んだよ」。

クイックステップの権力者パトリック・ルフェーブル氏が主導した一連の出来事が、デーヴィスのチーム離脱を促進したと言っていいだろう。契約期間が1年残っていたにも関わらず、デーヴィスはクイックステップを去った。


アスタナに合流した2010年、再びツール出場を目指す

ツアー・ダウンアンダー開幕前の記者会見に主席したグライペル(チームHTC・コロンビア)、デーヴィス(アスタナ)、エヴァンス(BMCレーシングチーム)ツアー・ダウンアンダー開幕前の記者会見に主席したグライペル(チームHTC・コロンビア)、デーヴィス(アスタナ)、エヴァンス(BMCレーシングチーム) photo:Kei Tsujiリバティーセグロス時代のチームメイトで、ツール2勝のアルベルト・コンタドール(スペイン)からデーヴィスにお呼びが掛かったのは、昨シーズンの終わり頃。2009年のツールでコンタドールをサポートしたアシストたちは、一人残らずランス・アームストロング(アメリカ)が立ち上げたレディオシャックに移籍していた。

アスタナの新チームマネージャーに就いたフランス人のイヴォン・サンケールやジュゼッペ・マルティネッリ監督は、アイマル・スベルディア(スペイン)に代表される山岳系アシストの代替選手を獲得するとともに、確実に勝利数を稼げるスプリンターを探していた。

出走サインする2009年ツアー・ダウンアンダー覇者のアラン・デーヴィス(オーストラリア、アスタナ)出走サインする2009年ツアー・ダウンアンダー覇者のアラン・デーヴィス(オーストラリア、アスタナ) photo:Kei Tsujiそこで白羽の矢が立ったのがデーヴィス。契約話を持ちかけられたデーヴィスは、クイックステップとの契約を解消するとともに、好条件でアスタナに移籍した。

「アスタナに移籍した最大の理由は、チーム内でナンバーワンスプリンターの座が確約されていたこと。2010年シーズンは、兄のスコットと一緒に闘うことになる。兄の存在は重要だ」。

2010年ツアー・ダウンアンダー エースとして連覇に挑んだアラン・デーヴィス(オーストラリア、アスタナ)2010年ツアー・ダウンアンダー エースとして連覇に挑んだアラン・デーヴィス(オーストラリア、アスタナ) photo:Kei Tsujiアスタナチームにおいて、デーヴィスはコンタドールに次いで重要な役割を担う。デーヴィスはエーススプリンターとしてミラノ〜サンレモやパリ〜トゥールのようなスプリンター向きのワンディレースに出場予定。もちろんツール・ド・フランス出場の夢も諦めていない。

「ハイレベルのレースにおいて、スプリント狙いと総合狙いの選手が共存するのは難しい。特にツール・ド・フランスでは、総合狙いの選手は出来る限り多くのアシストを従えたいものだ。アスタナチームにおける最優先事項はコンタドールの総合優勝であり、ステージ優勝はどうしても二の次になる」。デーヴィスはそう打ち明ける。

ワラビーとカンガルーを抱くアラン・デーヴィス(オーストラリア、アスタナ)ワラビーとカンガルーを抱くアラン・デーヴィス(オーストラリア、アスタナ) photo:Kei Tsuji「僕のようなスプリンターは自分自身で活路を見出さなければいけない。ラスト数キロまではチームメイトが前を牽いてくれるけど、ハイスピードの闘いが始まると全てが自分一人に委ねられるんだ。長年のレース経験で、そのことは心得ている」。

2007年と2009年のツールで総合優勝を飾ったコンタドールは、総合優勝候補の筆頭として7月のツールに挑む。デーヴィスに出場枠が用意されているかどうかは未定だが、デーヴィスは彼自身の出場に大きな意義があると予想する。

「ツールの出場メンバーに入りたい。シチュエーションはマノロ・サイスが監督を務めていた2005年のリバティーセグロスと同じ。当時はロベルト・エラス(スペイン)という絶対的エースがいた。スプリンターとしての重責を負いながらも、チームリーダーを助けることは可能だと思う。サイレンス・ロット時代にカデル・エヴァンス(オーストラリア)をアシストしたロビー・マキュアン(オーストラリア)が良い例だ」。

「それに、ツールの序盤ステージでは、コンタドールをサポートする平坦コース向きの選手も必要だと思う。アランベールの石畳区間が設定されたステージは、クライマーたちにとって鬼門になる。最初の10日間で総合優勝を決めることは出来ないけど、その10日間で総合争いから脱落する危険は大いに有る。とにかく、総合優勝を狙うアルベルト(コンタドール)のチャンスを奪うような真似は出来ない。彼もそのことを理解していると思う」。

ミラノ〜サンレモやヘント〜ウェベルヘムなどのスプリングクラシックに先立って、デーヴィスはティレーノ〜アドリアティコに出場する。ロンド・ファン・フラーンデレンやアムステル・ゴールドレースにも出場予定だ。

text:Gregor Brown
photo:Cor Vos, Kei Tsuji
translation:Kei Tsuji