ドロミテの山々は雲に覆われていた。雨に濡れた急勾配の峠道に先頭で現れたマリアローザの姿に人々は大興奮する。最後の休息日と注目の個人TTを控え、絶好調サイモン・イェーツが3勝目を飾ったドロミテステージを振り返ります。

トルメッツォのスタート地点トルメッツォのスタート地点 photo:Kei Tsuji
いち早く出走サインにやってくるバルディアーニCSFは人気者いち早く出走サインにやってくるバルディアーニCSFは人気者 photo:Kei Tsuji
エリア・ヴィヴィアーニ(イタリア、クイックステップフロアーズ)の安全ピンは金ぴかゴールドエリア・ヴィヴィアーニ(イタリア、クイックステップフロアーズ)の安全ピンは金ぴかゴールド photo:Kei Tsuji
「1」をつけたトム・デュムラン(オランダ、サンウェブ)のバイク「1」をつけたトム・デュムラン(オランダ、サンウェブ)のバイク photo:Kei Tsuji
スタート前にファンエムデンと話すトム・デュムラン(オランダ、サンウェブ)スタート前にファンエムデンと話すトム・デュムラン(オランダ、サンウェブ) photo:Kei Tsuji
今大会最もドロミテらしいステージだと言うのに、言い換えると今大会最も山岳風景が美しいステージだと言うのに、写真映えのしないどんよりとした空模様にフォトグラファーたちは朝から嘆いた。悪いコンディションとは言わないまでも、ドロミテらしい垂直に伸びる鋭峰が雲の中に隠れてしまっている。

ジロの山岳を語る上で外せないドロミテ山塊(イタリア語でドロミーティ)。イタリア北東部のフリウリ=ヴェネツィア・ジュリア州からヴェネト州、トレンティーノ=アルト・アディジェ特別自治州にまたがり、世界遺産にも登録されている山岳地帯には、標高3,000mオーバーの切り立った山々が連なっている。(日本人にとって)あまりに現実離れした壮大な風景に、頭の処理能力が追いつかない。

その中にはポルドイ峠やセッラ峠、ジャウ峠、ガルデーナ峠、ファルツァレーゴ峠、サンペッレグリーノ峠など、これまでジロに幾度となくフィーチャーされてきた標高2,000mオーバーの峠がずらり揃う。サイクリング、ハイキング、ドライブに打ってつけのルートが張り巡らされていて、冬場は雪に閉ざされるものの舗装状態は良く、イタリアの中でも有数のサイクリングツアーの目的地になっている。

しかし今年のドロミテステージはそれらの名物峠を通らない。登場する山岳はカテゴリー2級までで、標高も最も高いところで1,805mしかない。ステージの獲得標高差は4,000mに満たないぐらいで、フィニッシュの登りもカテゴリー山岳ではない。一見それほど難易度が高くないステージと思われたが、序盤から延々とラジオコルサ(競技無線)を賑わせたアタック合戦と中盤に降った雨、そしてどのドロミテの峠よりも勾配のある終盤の2連続2級山岳で思わぬタイム差が生まれた。
ドロミテらしい山岳風景の中を進むドロミテらしい山岳風景の中を進む photo:Kei Tsuji
スピードを落とさずに逃げグループを追走するメイン集団スピードを落とさずに逃げグループを追走するメイン集団 photo:Kei Tsuji
牛も自主的にジロを応援牛も自主的にジロを応援 photo:Kei Tsuji
冷たい雨と深い森とマリアローザ冷たい雨と深い森とマリアローザ photo:Kei Tsuji
連日のイギリス人選手の活躍により、イタリアに駆けつけたイギリス人の観客は例年よりもずっと多い。北イタリアに入った数日前から観客やプレスは一気に多国籍化しており、沿道にユニオンジャックを見る機会が増えた。ドーバー海峡を渡ってきた右ハンドルのキャンピングカー(イタリアは左ハンドル)でジロを観戦している夫婦も多く、彼らは沿道からかっさらったジロの進行方向を示すピンクの矢印標識を窓に誇らしげに飾っている。

これほどまでにイギリス人が活躍するジロは今まであったのだろうか(もちろんなかった)。イギリス人がステージ連勝、そして今大会ステージ4勝目。イギリス人によるステージ優勝はこれが27回目で、これはコロンビアに並ぶ9位の数字。マリアローザを着てのステージ3勝は、2003年のジルベルト・シモーニ(イタリア)以来の快挙となる。

同じ日にスペインで開催されたUCIウィメンズワールドツアーの個人タイムトライアルでアネミエク・ファンフルーテン(オランダ、ミッチェルトン・スコット)が優勝し、ドイツのUCI MTBワールドカップではニノ・シューター(スイス、スコット・スラムMTBレーシング)が優勝。スコットのステマではないけど、勝ちまくっているスコットはブラジル代表のネイマールにスペシャルバイクを用意するなど波に乗っている(ツアー・オブ・カリフォルニアに出場していた双子の兄弟アダムは2秒差で総合表彰台を逃している)。

ちなみにイギリス人のグランツールにおける総合リーダージャージ着用は151日目。そのうち半分以上の79日間はクリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ)のマイヨジョーヌとマイヨロホだ。

前日のモンテゾンコランで息を振り返したフルームは、スタート地点の出走サイン台で小さなケーキとともに33歳の誕生日を祝福されたが、このドロミテステージでゾンコランの追い込みのツケを払うことになった。総合7位/4分52秒差までダウンしたフルームは「明日の休息日はいつもより長く寝てリカバリーしたい。タイムトライアルを含め、最終週にできることはまだある」と、アルプス山脈でのフィナーレに備える。

総合成績で再びセットバックしたフルームと、完全に失速してしまったファビオ・アル(イタリア、UAEチームエミレーツ)がこの日の敗者。イタリアの期待を背負っていたイタリアチャンピオンは「これは本当のファビオ・アルではない」と言い残して休息の地へと向かった。
ライバルたちを置き去りにしたサイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット)ライバルたちを置き去りにしたサイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット) photo:Kei Tsuji
2級山岳コスタリッソーイオを先頭で駆け上がるサイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット)2級山岳コスタリッソーイオを先頭で駆け上がるサイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット) photo:Kei Tsuji
2級山岳コスタリッソーイオで失速するクリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ)2級山岳コスタリッソーイオで失速するクリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ) photo:Kei Tsuji
先頭通過からしばらくして太陽が顔を出す先頭通過からしばらくして太陽が顔を出す photo:Kei Tsuji
タイムトライアル世界チャンピオンのトム・デュムラン(オランダ、サンウェブ)の力を持ってすれば、イェーツとの2分11秒差をひっくり返すことは可能だというのが、オランダ人ジャーナリストたちの予想だ。第16ステージの34.2kmの「時間との戦い」を終えた時点でマリアローザを着ているのはトムであると。

しかし最終日がタイムトライアルだった昨年とは話が違う。今年はタイムトライアルの後にまだまだ厳しいアルプスの山岳ステージが残っている。しかも3つも残っている。しかも山頂フィニッシュが3つも残っている。仮にデュムランがマリアローザを着たとしても、3連続アルプス山頂フィニッシュでイェーツが飛ぶような走りを見せれば、天秤はイェーツ側に傾く。

事実、イェーツはこの2日間だけでデュムランから1分12秒(31秒+41秒)ものタイムを奪っており、デュムランが大会連覇を目指すには、2分11秒差をひっくり返すだけでは十分ではなく、さらにそこから数分のリードを得る必要がある。デュムランも「イェーツは山岳でいつでも好きな時に走り去ってしまうので、難しい戦いになる。それに今の彼ならTTも速い」と認めている。

参考までに、第15ステージのラスト3.5km(平均勾配2.1%)のイェーツとデュムランの走行データは以下のとおり。

サイモン・イェーツ(体重58kg)
所要時間5分53秒、平均35.7km/h、最高54.5km/h、平均330W(5.69倍)、最大470W

トム・デュムラン(体重71kg)
所要時間5分40秒、平均37.2km/h、最高62.2km/h、平均395W(5.56倍)、最大1,040W

エトナ山の第6ステージからマリアローザを着続けているイェーツの総合優勝が現実味を帯びてきた。アルプスでもイェーツがステージ優勝する可能性は誰の目にも明らか。バラク・オバマ元大統領の有名なスピーチ「YES, WE CAN」をもじって「YATES, WE CAN(イェーツ・ウィー・キャン)」を前回のステージ優勝時に早くも使ってしまった公式プレスリリースのコピーライターは今ごろ次の一手を探してさまよっているはずだ。
脱落した選手たちを押す観客脱落した選手たちを押す観客 photo:Kei Tsuji
晴れ間がのぞく2級山岳コスタリッソーイオを登る晴れ間がのぞく2級山岳コスタリッソーイオを登る photo:Kei Tsuji
グルペットの先頭を走るエリア・ヴィヴィアーニ(イタリア、クイックステップフロアーズ)グルペットの先頭を走るエリア・ヴィヴィアーニ(イタリア、クイックステップフロアーズ) photo:Kei Tsuji
雲が去り、ドロミテらしい山が姿を現す雲が去り、ドロミテらしい山が姿を現す photo:Kei Tsuji

text&photo:Kei Tsuji in Trento, Italy
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