ツール・ド・おきなわ市民レディース50kmで優勝を飾った盛永母映(F(t)麒麟山Racing)のレポートをお届け。「勝負はゴールスプリントで決まる」と読み、冷静にレースを組み立てた。春の骨折からの復帰、そして新潟のレース仲間が活躍する憧れのレースで挙げた優勝は格別なものだった。



市民レディースレース50kmに優勝した盛永母映(F(t)麒麟山レーシング)市民レディースレース50kmに優勝した盛永母映(F(t)麒麟山レーシング) photo:Makoto.AYANO現チーム、F(t)麒麟山Racingに加入した2015年。全国のホビーレーサーが目指す「究極」の種目、市民レース210kmでチームのエースである田崎友康さんが4位に入賞した。ロードレースのロの字も知らなかった私でも、当時の興奮は鮮明に覚えている。「いつか出てみたい!」と。念願の初出場が今年、叶った。

レースに向けて
今年の3月、シーズンインを目前に左足の指を2本骨折する事故に見舞われる。全治3か月。痛みのためまともに自転車に乗れず、気持ちだけが焦る日々が続いた。結果が出ない苦しいレースが続き、その状況に追い打ちをかけるように体調を崩したりもしていた。

新潟のレース仲間たちと。新潟のレース仲間たちと。 転機は7月に訪れた。自身の誕生日に彼がプレゼントしてくれたオリジナルローラーメニューがとにかく嬉しくて、真夏にも関わらず平日は早朝のローラー練習に励んだ。たった30分程度の練習ボリュームであったが、医師として超多忙な日々を送る自分には、疲労を貯めすぎることなく続けられる最適の練習メニューであったと思う。年間を通して天気の悪い新潟で、天候に左右されることなく練習を継続できたことも大きい。

その代わり、仕事のない週末はチームメイトと共に100kmほどの外練を行った。練習ルートにスプリントポイントを設け、苦手であったスプリント練習も行った。

効果は意外と早く表れ、8月下旬に行われた都道府県対抗レースでは8位に入賞。ツール・ド・おきなわの2週間前に行われた高石杯では優勝することができ、わずかではあるが自信をもって沖縄に向けて出発することができた。レース前日はゆっくりとフルコースを試走した。

今帰仁では沿道で獅子舞が応援してくれた今帰仁では沿道で獅子舞が応援してくれた photo:Makoto.AYANOレース展開
目標は優勝。集団スプリントになるため、そこまでできるだけ温存する作戦だ。

実測距離は51km。緩やかなアップダウンのある平坦基調のコースで、20kmと33km地点に時間で2〜3分ほどの短い登りがある。今帰仁村での2回目の登りにはスプリントポイントも設置されており、スプリント賞もあるようだ。

集団の中ほどからスタート。落車に巻き込まれるのも嫌だし、昨年上位者はシード権で優先的に前にいるため、前方の動きにも反応できるように前に上がりたいが、思うように上がれない。

集団の右端や左端では脚を使ってグイグイと走って行く選手もいるが、わたしは相変わらず中ほどで前の動きをじっと観察。今日は4〜5mの強風のため、少人数の逃げは決まりにくいだろうと踏んでいた。

大集団のまま20km地点にある美ら海水族館前の登りへ。前方でペースアップがあったのか、遅れる人が沢山いて集団が縦に伸びる。ここは行かせてはならないと判断するが、先頭までの道がない。仕方なく路肩をダンシングで駆け上がり一気に先頭まで。が、追いついた集団も前方で中切れを起こしている。「追わないと!」と、前方の集団に追いつくが、なんとその集団も前方で中切れを起こしている…!

次は一気に先頭集団まで加速。ピークでは6名程度に絞られている。その後の下りで数人追いつき、10名程度。だいぶ走りやすくなった。ここからは目立った動きもなくサイクリングに。距離確認すると30km。もうこんなところまできた。

今帰仁村スプリントポイント近くの「かかし広場」では自転車のかかしが選手たちをお出迎え今帰仁村スプリントポイント近くの「かかし広場」では自転車のかかしが選手たちをお出迎え photo:Makoto.AYANO自転車のかかしは選手たちの目に入っただろうか?自転車のかかしは選手たちの目に入っただろうか? photo:Makoto.AYANO


33km地点にスプリントポイントがあるため、30km越えて殺気立って前に上がってくる選手が数名いる。スプリント賞を狙っているのだろうとマークする。スプリント賞まで残り100m看板が見えたので腰をあげて踏み始め、首位で通過する(後でログを確認すると1分345W 7倍でした)。

昨年の覇者、渡部選手がスプリントポイント越えても踏み続けているが、このまま1人でゴールまでは行けないと思い自分は集団へ戻る。渡部選手を吸収しようとこの後の下りでペースアップがあるが、ここでも中切れ。脚を温存するためにじわりじわりとその差を詰める。ほどなくキャッチし、またサイクリングに。

市民レディース50kmのゴールスプリント市民レディース50kmのゴールスプリント photo:Satoru.Katoもう勝負どころはなく、残った10名程度の集団スプリントになるだろう。想定していた通りのレース展開。スプリントポイントで踏んでみて、現メンバーの中ではスプリント力に分がありそうなので、最後の200mまで我慢してそこから飛び出すことに決めた。位置取りが重要なので、ラスト3km切ってからは常に前めの4番手くらいにつける。

1km看板が過ぎた後は、500m、300m、200mと残り距離を示す看板が細かく置いてあって有難い。

1km看板が見えるとみんな待ちきれず飛び出し始めるが、自分は周りをよく見て飛び出す選手の番手につくようにする。500m、まだ早い。

300m看板が見えてようやく腰を浮かす。200mから一気に飛び出し、1番にゴールラインを割ることができた。

市民レディース50kmを制した盛永母映(F(t)麒麟山レーシング)市民レディース50kmを制した盛永母映(F(t)麒麟山レーシング) photo:Satoru.Kato
レース後は100km、210kmに参加した仲間たちと健闘を讃えあい、喜びを分かち合った。

レースを終えて
今シーズン最後のレース、最高の結果で終われて良かった。「優勝しか狙っていなかった」というと格好いいような、殺気立っている様な感じだが、「2位じゃダメ」と思って臨んだレースだった。勝利へのこだわりと、周囲の動きと展開を冷静に見て走れたことが結果に繋がったのだと思う。実業団レースなどでの経験がここで生かされた。

ただ、レースに勝ったのに不思議と手放しに嬉しい訳ではない。きっと自分が求めているものはもっともっと上のレベルにあるからだ。目標は女子国際100kmでレースをすること。今の自分では完走も難しいだろうが、ゆっくりと確実に成長して、いつか挑戦したいと思っている。

新潟のレース仲間は6人中5人がYONEX CARBONEX乗りだ新潟のレース仲間は6人中5人がYONEX CARBONEX乗りだ
バイク&機材
盛永母映(F(t)麒麟山レーシング)が乗るヨネックスCARBONEX 盛永母映(F(t)麒麟山レーシング)が乗るヨネックスCARBONEX
フレーム:YONEX carbonex
ホイール:MAVIC cosmic carbon ultimate(あの有名な競輪選手 加瀬加奈子さんから受け継いだ縁起の良い代物)
チェーン:ザイコーチェーン(市民レースにこの人あり。高岡さんが昨年から使用しているもの。スプリントではわずかな抵抗も減らしておきたい。)

大事なレース前には必ずいつもお世話になっている自転車の駅サガミさんへ整備を依頼するようにしている。ペダルの裏のわずかな亀裂や劣化にも気づくほど細やかな整備を行ってくれるメカニックがいる。特にホイールのベアリングのグリスアップは走りを数段軽くしてくれる。バイクの総重量は6.8kgになった。

市民レディース50kmを制した盛永 母映(F(t)麒麟山レーシング)市民レディース50kmを制した盛永 母映(F(t)麒麟山レーシング) photo:Makoto.AYANO盛永母映(もりなが・もえ)プロフィール
1989年生まれ 京都府京都市出身(現在は新潟県在住)
所属:F(t)麒麟山Racing
大学時代にダンスやスケートボードを嗜む程度でこれといった運動経験はないが、漫画「弱虫ペダル」をきっかけに2015年からロードバイクを始めた所謂「弱ペダ女子」。

主な戦績
2016年 高石杯関東ロードレース 2位
     Mt.富士ヒルクライム 3位
     矢島カップ 総合優勝
     JBCF東日本ロードクラシック 4位
2017年 JBCF栂池ヒルクライム 6位
     JBCF三峰山ヒルクライム 3位
     全国都道府県対抗自転車大会 8位
     JBCF輪島ロードレース 6位
     高石杯関東ロードレース 優勝
     富士ヒルクライム 3位

text:Moe.MORINAGA
photo:Makoto.AYANO,Satoru.KATO
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