2017/08/23(水) - 20:29
ニールプライドバイクの創業者マイク・プライドが新たに自身のブランドCHAPTER2を立ち上げた。東京でのローンチイベントの模様とファーストライドインプッションをお届けしよう。
日本でも好評のニュージーランドのバイクブランド「ニールプライド」の創業者マイク・プライド氏が今夏7月に自身の新ブランドCHAPTER2(チャプター・ツー)を携えて再スタートを切った。世界各国におけるプレゼンテーションツアーの5カ国目となる日本では、矢野口にオープンしたばかりのCROSS COFFEにおいて8月23日、ローンチイベントが開催された。
自身が立ち上げたニールプライドのバイク部門を2015年に離れてから2年、香港とニュージーランド人のハーフであるマイク・プライド氏は、自身の人生の第2章としての意味を込めたCHAPTER2を立ち上げた。7月に発表された同社初のロードバイク TERE(テレ)と、かつて「ニールプライド・エピックライダー」としてアンバサダー的な活動を行ってきた「マイキー」ことマイケル・ライス氏(東京在住)とともに、プライド氏はローンチの場に登場した。
CHAPTER2は、プライド氏の出身地であるニュージーランド北島、オークランドのブランドだ。ブランドのテーマを「EXPLORE ROAD LESS TRAVEL(未開の未知を切り拓け)」として、他の人とは違うことに挑戦したいユーザーに向けての製品づくりを掲げる。
マイク・プライド氏は1970年生まれのニュージーランド人で、現在46歳。香港で生まれ、英国の大学に建築を学ぶ。建築の仕事に従事した後、2004年から父ニールのもとで働くことに。プライドグループはウィンドサーフィンやヨットなどマリンスポーツにおける製品づくりで知られる企業だが、マイクは同社で自身の愛するスポーツバイク部門の創業・代表者として理想のバイク開発に着手する。
マイク・プライド氏のサイクリストとしてのバックグラウンドを紹介すれば、幼少期よりBMXに乗り、マウンテンバイクではダウンヒルのUCIアジアランキング12位になるなど活躍。しかし怪我のためオフロードバイクは離れることに。現在でもロードバイクとレース出場を趣味とし、タイで開催されるアマチュア最高峰のステージレース、ツアー・オブ・フレンドシップに6回出場するなどホビーレーサーとしてレースを愛し、同時にアメリカのUCIプロコンチーム ユナイテッド・ヘルスケアへの機材提供やアマチュアレースへのスポンサード活動なども行ってきた。
2008年にニールプライドバイク部門をスタートしてからの7年間にリリースした7モデルを自らの手ですべてデザインし、ビジネスもコントロールしてきたが、2015年に同社を離れ、それまで拠点とした香港からニュージーランドに移住し、「自身の愛するバイクを造る」という原点に戻るためにCHAPTER2を創業するに至る。
新ブランドをCHAPTER2と命名した理由は想像に違わず「自転車人生の第1章がニールプライド、第2章がCHAPTER2だ」と説明するプライド氏。ここからは氏の説明により、同ブランドのコンセプトと初作となるTERE(テレ)を紹介していこう。
TEREとは、マオリ語で「速い、鋭い」という意味。「コンパクトエアロ」と呼ぶそのフレーム形状は、トラディショナルなルックスでありながらカムテール構造を用いた整流・空気抵抗削減のためのデザインを採用している。
その車名だけでなくブランドロゴを彩るエメラルドグリーンは、NZに産出する鉱石と特徴的な湖の色にちなんでいるという。フレームに入るグラフィックはマオリの伝統的な文様に由来し、風、海、山などニュージーランドの自然の要素を表している。「自然からインスパイアされたカラーや文様をあしらうのは、母国を愛するニュージーランド人としての誇り」とプライド氏。
TEREはリムブレーキとディスクブレーキの2バージョンを用意するロードモデル。オークランド大学の風洞実験施設において実験を行い、デザインを煮詰めた。ちなみにアメリカズカップに出場するNZチームのヨットもこの施設で研究され、今年の大会では同チームが優勝している。
風洞実験ではライダーが乗った状態でのテストを行うという。重量が軽く、空気抵抗の少ないフレーム構造にすることできるカムテール構造を採用し、「コンパクトエアロ」と呼ぶフレームデザインを煮詰めた。後部を切り落としたようなカムテール構造は、ヘッドチューブ、シートチューブ、シートポスト、フォークの後部に採用されている。ケーブル類はフレームに内装され、カムテール形状のシートポストはDi2バッテリー内蔵に対応する構造だ。
カーボン素材には日本の東レ製のカーボンを100%採用、TEREにはT800と700を使用する。その使用割合はT800:62%、T700:38%。BBとヘッドチューブ周辺等には剛性をコントロールするために3Kカーボンを使用する。フレームの製造方法としては重量の軽減と強度分布の最適化が可能な「PUマンドレル製法」を主に採用している。
シートステーは空気抵抗の軽減と同時に振動吸収性の向上を狙った形状とし、チェーンステイは伝達効率を高めるための形状とレイアップを工夫したという。フロントフォークは振動吸収と剛性、安定感を求めた。
ジオメトリーとしては小サイズをアジアを重視して設計したのが特徴のひとつだ。TEREのXSサイズは他の欧米ブランドのXXSに相当するという。
またオフセットの異なる2種類のフォークを用意し、XSとSサイズにはオフセット53mmのフォークを、それ以上のフレームサイズには43mmオフセットのフォークを組み合わせる。そのことによりハンドリング特性の最適化と、シューズ先端とホイールの接触を避けるなどのメリットが生まれている。
フレームには20mmセットバック(後退幅)のシートポストが付属するが、0mmセットバックのものをオプションで用意する(それを使用すればトップチューブで20mm相当短く設定できる計算だ)。女性モデルやサイズ等は用意しないが、ヨーロッパや北米よりもアジアマーケットを重視し、背の低いライダーのニーズに応えるのは自身のボディプロフィール(身長168cm)にもよるものだろう。
グラフィックやデザインにもこだわる。用意された初期モデルはグロス、マットなどに塗り分けられた3パターン。「持つ喜びを追求する」という考えのもと、主要なカラーモデル「エッセンシャル」には3年ほど続ける予定のものもあるが、プレミアムなリミテッド・エディションは少量数の500台程度をリリースして、売り切れれば再度追加販売することをしないという。「イヤーモデル」という考えを廃し、小回りの効く小さなブランドとしてのメリットを活かしつつ、その時々で一番良い製品をつくるという。
また特別なスペシャルエディションは20台以内のリリースとし、7月に発表したツール・ド・フランス第17ステージをモチーフとしたTDF17モデルはわずか17台の限定生産だった。
短いサイクルでカラーを変えたモデルや限定モデルを発表するスタイルをとり、今後もプライド氏自身が気に入ったブランドなどとコラボし、コレクションアイテムとしても価値のあるモデルを細かくリリースする予定だという。プライド氏は「例えば日本のアーティストとコラボした特別フレームなどをリリースしたい」と意気込む。
販売形態としてはフレームセット販売のみ。世界共通のオンライン注文によるユーザーダイレクト販売となるが、日本においては「それも可能」としながらも同時にバイクショップを通じた注文と納品を呼びかけたいとしている。日本での代表となるマイキー氏は「ユーザー自身で組み立てるのは難しいこと。購入したいと思った方はショップを通じて注文して欲しい。近日オープン予定のHPの日本語ページでは、将来的に取扱ショップとCHAPTER2バイクの組み立てに自信のある熟練メカニックさんのプロフィールなどの紹介もしていきたい」と言う。
CHAPTER2 TERE テストライド インプレッション
プレゼン開催の前日、マイキーから呼び出しがかかった。「マイクが到着したからライドに行こう」と。マイク&マイキー(実名は両者ともMicheal)とは共に数年来の友人で、タイのハイアマ向けステージレース ツアー・オブ・フレンドシップに2013・4年に一緒に出場した仲だ。ニールプライドを購入すればTOFのレースエントリー権をプレゼントするというキャンペーン企画を考案したのも我々3人という関係だ。向かったライドルートは東京西部、陣馬高原の約100kmループ。
私(綾野/CW編集部)はニールプライドBURA SLのオーナーで、そのバイクが非常に気に入っている。2013年モデルながらフレーム単体重量で約700gと超軽量。剛性が高いなかにも、快適さにつながるしなやかさがあるスーパーバイクだった。マイナーブランドながら、スタート当時から欧米の大手ブランドに肩を並べ、性能面では凌ぐ実力にニールプライドの価値を認めざるを得なかったことで購入に至った。個人的にもBURA SLは今までに所有した数々のバイクの中でも群を抜くお気に入りバイクだ。
ロードバイクでシクロクロスレースも走り、NHK WorldでCycle Around Japanという人気番組をレギュラーとして持つマイキーが設定したルートは、関東屈指の勾配を誇る和田峠を裏・表の2度登るハードなもの。その途中でプライド氏のバイクに乗り換え、半日を走ることに。
実は私とマイクはともに身長168cm、手脚の長さ比率もほとんど同じという体格で、ポジションもほぼ同じ。乗り換えてもステムやサドル高を1mmも調節することなく走り出せる。和田峠からの下りで乗り始め、しばらくは慎重だったものの、慣れればすぐにマイバイクのように下り出せた。
テクニカルなダウンヒルでも思い通りに操れるハンドリング特性がある。XSサイズはオフセットが53mmと大きく、ヘッドアングルも70℃と寝ているため直進性がやや強いキャラがある。しかしコーナリングはいたってニュートラルで扱いやすい。小さなサイズのジオメトリーと乗り味が素晴らしいのはニールプライド時代から共通だ。マイク氏が(背の低い)自分のために最高のバイクを開発しているのだから、それも当然のことだ。
横からのスタジオ写真ではBURA SLとフォルムが似ているが、実際にTEREを前にするとディテールはまったく違う。BURA SLが快適さやBBのしなりが特徴的な乗り味だったので似たバイクだろうと想像していたのだが、乗るとまったく違っていた。剛性はかなり高め。フロントフォークのベンド形状から受けるイメージに反して、剛性はかなりしっかりしていて、バイブレーションは全く発生しない。路面の微振動に対してはフレーム全体で吸収し、スムーズではある。しかしそれ以上にピュアレーサーの鋭い反応性に振った乗り味だ。
そして走るうちに気づくのは高速域のスピードの維持がしやすいこと。40km/hあたりからスピードがタレることなく進み続けやすい感じがする。それがカムテールによるものかどうかは分からないが、空気の抜けの良さを確かに感じる。セットされたホイールはカンパニョーロのBORA35だったが、この日乗って行った自分のバイクにはBORA50をセットしていた。リムハイトでは低くなったはずなのに、それ以上に高速の伸びの良さを感じたのは不思議な感覚だった。フォークブレードはピナレロ・ドグマのように中間が左右に張り出し、ホイールとの隙間が大きい。風切音も発生しないようだ。
フレーム剛性は全体的に高めだが、とくにシートステイのしなりが効いていることで荒れた路面でも微振動を吸収してくれるのだろう、静かに走るバイクだ。重量は超軽量というわけでなく、Mサイズでフレーム950g+フォーク390g(リムブレーキモデル)と、ややマージンをとった重量だ。そのため踏み出しには特別軽い感じはない。しかしスピードが乗るにつれて巡航性が高まっていく印象がある。見た目からはそれほどエアロな印象を受けないが、しっかりとエアロ効果のある巡航性能を発揮してくれるのは「コンパクトエアロ」と銘打つとおりだ。
ハンドリング特性は重めでどっしりとしている。それでもダウンヒル時の左右の振りは自在に効き、かつ両手放しでウィンドブレイカーを着る際にも安心できる安定感・直進安定性がある。仕事柄、乗りながら両手放しでカメラを操作したりすることがあるため(読者にはススメない)、その特性はいつも重視してチェックするが、直進性と操舵性をうまくバランスした特性になっている。この点はコルナゴのバイクに似ているかもしれない。サイズ別のフォークのオフセットにこだわって設計されたメリットは大きそうだ。
エアロロードでありながら乗って軽く、アグレッシブな走りが可能。ダッシュやスプリントの反応もいいし、登りも軽やかだ。「お洒落系」「カルチャー系」とも呼ぶべきカラーリングであるのに、走りはレーサーとしても素晴らしい万能性をもっているバイクだった。
プライド氏は開発やデザインなどほぼすべてをひとりで行っているという。それはほぼニールプライド時代から変わりないが、TEREの完成には着想から約18ヶ月かかったという。
私がマイク氏を「無類のバイク好き」と表現する理由の一つに、自分の好きなバイクを楽しみながら開発するという姿勢がある。実際、氏はピナレロ・ドグマやBMC IMPECなど現代のプレミアムなレーシングバイクの多くを自ら買って所有し、普段から乗り比べて楽しんでいる。だから「良いとこどり」が得意だ。反面、TTバイクなどには興味が無いため、今後しばらくはつくる予定が無いという。「会社の成長も早すぎず・遅すぎず、がいいね」とプライド氏は言う。
日本でのプロモーションと販売サポートを担うマイキー氏は、エピックライダー的な活動を続け、試乗会やイベント、ライド企画などを「今までどおり」行っていくという。
マイキー氏は言う。「スポーツバイクは本来個人ひとりひとりにあわせる必要があるパーソナルなエキップメントなので、CHAPTER2では完成車は販売しません。インターネット注文では在庫があれば香港から2、3日でフレームが届きます。しかしバイクを組み立てるのは技術がないと出来ないことなので、ショップ経由で注文して、メカニックに組んでもらった方がユーザーにとっては安全です。間もなくオープンする日本語の公式サイトのページでは将来的には販売店リストやメカニックさんのリストを載せたいと思っています。CHAPTER2バイクにふさわしい組付けができるメカニックとの関係を大事にしたいから、注文する人の住んでいる地域のショップやメカニックを紹介できるようになりたいです。日本での私の活動も、購入したい方やショップさんなどのニーズに合わせて柔軟に動こうと思っています」。
「自分が好きなバイクだけを作り、購入してくれた仲間がハッピーなサイクルライフを楽しめるようにしたい」と、なかば夢のようなことを公言するプライド氏。「今まで買ってくれた人とはフェイスブックやインスタグラムの友達となってバイクを組み上げるプロセスを見守ってきた。それが楽しい。試作カラーなども自分のインスタグラムなどで紹介して、その反応がいいものや、アドバイスも参考にしてリリースするカラーや製品を決めていきたい」と話す。
氏はソーシャルメディアをツールとして重視し、かつマンツーマンのつきあいを大事にする。今回のプレゼンにもNP時代からの友人として一般ユーザーを直接招き、「今度一緒にレースに出ようよ」と話しかける。私もバイクの魅力+αのおつきあいで氏のバイクのユーザーになっているのは確かなところだ。
「これから日本には少なくても年に3回以上は来たい。サイクルモードや試乗会、一緒に走るライドイベントなどで輪を広げていきたい。NZ最大のイベントであるレイクタウポ・サイクルチャレンジやツアー・オブ・フレンドシップにも一緒に走るキャンペーンのようなものを考えてみたいと思っています」と話す。他のバイクブランドとは違った面白い展開になりそうだ。無名のブランドであり、フレームのみの販売、かつネット販売という面で不利な点はメーカとしても購入者にとっても多いのは事実。越えるべきハードルは高そうだ。
7月からここまでの世界での発表が好評を呼び、ファーストロットとして用意したXS〜Mまでの人気サイズはすでに完売に近い状態にあるという。名も無き小さなブランドとしての再出発だが、氏の考えに共鳴するファンの数は予想以上のものだったようだ。
CHAPTER2 TERE フレームセット スペック
カーボン:Toray T700, T800 & 3K Directional Carbon
フレーム 5サイズ : XS, S, M, L & XL
フォーク 2種 : XS, S (53mmオフセット) and M, L, XL (43mm オフセット)
フレーム重量 : 950g (Rim) & 1015g (Disc) Size M +/- 3%
フォーク : 390g (Rim) & 425g (Disc) Uncut +/- 3%
シートポスト:198g +/- 3%
ステム:80mm, 90mm, 100mm, 110mm and 120mm (+/-7°)
ヘッドセット:FSA Type No.42/ACB
BB:Press Fit BB86.5
Electronic Shifting:シマノDi2, SRAM eTAP & Campagnolo® EPS 対応
バッテリータイプ:Di2 SM-BTR-2 and EPS V3 Battery
タイヤクリアランス:25mm (Rim) & 28mm (Disc)
スルーアクスル (Disc):Flat Mount
FR 12x100mm, RR 12x142mm
E-Thru M12x1.5mm
Safety Standard:EN ISO 4210:2014
UCI 登録 : UCI Approved (Rim)
9月末までの日本ローンチ記念特別価格 JPY 229,999 (配達&税込)
10月1日以降の価格
JPY 248,399 (配達&税込) Rim brake
JPY 258,404 (配達&税込) Disc brake
公式サイトの日本語ページURL https://jp.chapter2bikes.com/
※日本語ページは間もなく公開予定
ブランドの各SNSアカウントは以下リンクで紹介する。
photo&text:Makoto.AYANO
日本でも好評のニュージーランドのバイクブランド「ニールプライド」の創業者マイク・プライド氏が今夏7月に自身の新ブランドCHAPTER2(チャプター・ツー)を携えて再スタートを切った。世界各国におけるプレゼンテーションツアーの5カ国目となる日本では、矢野口にオープンしたばかりのCROSS COFFEにおいて8月23日、ローンチイベントが開催された。
自身が立ち上げたニールプライドのバイク部門を2015年に離れてから2年、香港とニュージーランド人のハーフであるマイク・プライド氏は、自身の人生の第2章としての意味を込めたCHAPTER2を立ち上げた。7月に発表された同社初のロードバイク TERE(テレ)と、かつて「ニールプライド・エピックライダー」としてアンバサダー的な活動を行ってきた「マイキー」ことマイケル・ライス氏(東京在住)とともに、プライド氏はローンチの場に登場した。
CHAPTER2は、プライド氏の出身地であるニュージーランド北島、オークランドのブランドだ。ブランドのテーマを「EXPLORE ROAD LESS TRAVEL(未開の未知を切り拓け)」として、他の人とは違うことに挑戦したいユーザーに向けての製品づくりを掲げる。
マイク・プライド氏は1970年生まれのニュージーランド人で、現在46歳。香港で生まれ、英国の大学に建築を学ぶ。建築の仕事に従事した後、2004年から父ニールのもとで働くことに。プライドグループはウィンドサーフィンやヨットなどマリンスポーツにおける製品づくりで知られる企業だが、マイクは同社で自身の愛するスポーツバイク部門の創業・代表者として理想のバイク開発に着手する。
マイク・プライド氏のサイクリストとしてのバックグラウンドを紹介すれば、幼少期よりBMXに乗り、マウンテンバイクではダウンヒルのUCIアジアランキング12位になるなど活躍。しかし怪我のためオフロードバイクは離れることに。現在でもロードバイクとレース出場を趣味とし、タイで開催されるアマチュア最高峰のステージレース、ツアー・オブ・フレンドシップに6回出場するなどホビーレーサーとしてレースを愛し、同時にアメリカのUCIプロコンチーム ユナイテッド・ヘルスケアへの機材提供やアマチュアレースへのスポンサード活動なども行ってきた。
2008年にニールプライドバイク部門をスタートしてからの7年間にリリースした7モデルを自らの手ですべてデザインし、ビジネスもコントロールしてきたが、2015年に同社を離れ、それまで拠点とした香港からニュージーランドに移住し、「自身の愛するバイクを造る」という原点に戻るためにCHAPTER2を創業するに至る。
新ブランドをCHAPTER2と命名した理由は想像に違わず「自転車人生の第1章がニールプライド、第2章がCHAPTER2だ」と説明するプライド氏。ここからは氏の説明により、同ブランドのコンセプトと初作となるTERE(テレ)を紹介していこう。
TEREとは、マオリ語で「速い、鋭い」という意味。「コンパクトエアロ」と呼ぶそのフレーム形状は、トラディショナルなルックスでありながらカムテール構造を用いた整流・空気抵抗削減のためのデザインを採用している。
その車名だけでなくブランドロゴを彩るエメラルドグリーンは、NZに産出する鉱石と特徴的な湖の色にちなんでいるという。フレームに入るグラフィックはマオリの伝統的な文様に由来し、風、海、山などニュージーランドの自然の要素を表している。「自然からインスパイアされたカラーや文様をあしらうのは、母国を愛するニュージーランド人としての誇り」とプライド氏。
TEREはリムブレーキとディスクブレーキの2バージョンを用意するロードモデル。オークランド大学の風洞実験施設において実験を行い、デザインを煮詰めた。ちなみにアメリカズカップに出場するNZチームのヨットもこの施設で研究され、今年の大会では同チームが優勝している。
風洞実験ではライダーが乗った状態でのテストを行うという。重量が軽く、空気抵抗の少ないフレーム構造にすることできるカムテール構造を採用し、「コンパクトエアロ」と呼ぶフレームデザインを煮詰めた。後部を切り落としたようなカムテール構造は、ヘッドチューブ、シートチューブ、シートポスト、フォークの後部に採用されている。ケーブル類はフレームに内装され、カムテール形状のシートポストはDi2バッテリー内蔵に対応する構造だ。
カーボン素材には日本の東レ製のカーボンを100%採用、TEREにはT800と700を使用する。その使用割合はT800:62%、T700:38%。BBとヘッドチューブ周辺等には剛性をコントロールするために3Kカーボンを使用する。フレームの製造方法としては重量の軽減と強度分布の最適化が可能な「PUマンドレル製法」を主に採用している。
シートステーは空気抵抗の軽減と同時に振動吸収性の向上を狙った形状とし、チェーンステイは伝達効率を高めるための形状とレイアップを工夫したという。フロントフォークは振動吸収と剛性、安定感を求めた。
ジオメトリーとしては小サイズをアジアを重視して設計したのが特徴のひとつだ。TEREのXSサイズは他の欧米ブランドのXXSに相当するという。
またオフセットの異なる2種類のフォークを用意し、XSとSサイズにはオフセット53mmのフォークを、それ以上のフレームサイズには43mmオフセットのフォークを組み合わせる。そのことによりハンドリング特性の最適化と、シューズ先端とホイールの接触を避けるなどのメリットが生まれている。
フレームには20mmセットバック(後退幅)のシートポストが付属するが、0mmセットバックのものをオプションで用意する(それを使用すればトップチューブで20mm相当短く設定できる計算だ)。女性モデルやサイズ等は用意しないが、ヨーロッパや北米よりもアジアマーケットを重視し、背の低いライダーのニーズに応えるのは自身のボディプロフィール(身長168cm)にもよるものだろう。
グラフィックやデザインにもこだわる。用意された初期モデルはグロス、マットなどに塗り分けられた3パターン。「持つ喜びを追求する」という考えのもと、主要なカラーモデル「エッセンシャル」には3年ほど続ける予定のものもあるが、プレミアムなリミテッド・エディションは少量数の500台程度をリリースして、売り切れれば再度追加販売することをしないという。「イヤーモデル」という考えを廃し、小回りの効く小さなブランドとしてのメリットを活かしつつ、その時々で一番良い製品をつくるという。
また特別なスペシャルエディションは20台以内のリリースとし、7月に発表したツール・ド・フランス第17ステージをモチーフとしたTDF17モデルはわずか17台の限定生産だった。
短いサイクルでカラーを変えたモデルや限定モデルを発表するスタイルをとり、今後もプライド氏自身が気に入ったブランドなどとコラボし、コレクションアイテムとしても価値のあるモデルを細かくリリースする予定だという。プライド氏は「例えば日本のアーティストとコラボした特別フレームなどをリリースしたい」と意気込む。
販売形態としてはフレームセット販売のみ。世界共通のオンライン注文によるユーザーダイレクト販売となるが、日本においては「それも可能」としながらも同時にバイクショップを通じた注文と納品を呼びかけたいとしている。日本での代表となるマイキー氏は「ユーザー自身で組み立てるのは難しいこと。購入したいと思った方はショップを通じて注文して欲しい。近日オープン予定のHPの日本語ページでは、将来的に取扱ショップとCHAPTER2バイクの組み立てに自信のある熟練メカニックさんのプロフィールなどの紹介もしていきたい」と言う。
CHAPTER2 TERE テストライド インプレッション
プレゼン開催の前日、マイキーから呼び出しがかかった。「マイクが到着したからライドに行こう」と。マイク&マイキー(実名は両者ともMicheal)とは共に数年来の友人で、タイのハイアマ向けステージレース ツアー・オブ・フレンドシップに2013・4年に一緒に出場した仲だ。ニールプライドを購入すればTOFのレースエントリー権をプレゼントするというキャンペーン企画を考案したのも我々3人という関係だ。向かったライドルートは東京西部、陣馬高原の約100kmループ。
私(綾野/CW編集部)はニールプライドBURA SLのオーナーで、そのバイクが非常に気に入っている。2013年モデルながらフレーム単体重量で約700gと超軽量。剛性が高いなかにも、快適さにつながるしなやかさがあるスーパーバイクだった。マイナーブランドながら、スタート当時から欧米の大手ブランドに肩を並べ、性能面では凌ぐ実力にニールプライドの価値を認めざるを得なかったことで購入に至った。個人的にもBURA SLは今までに所有した数々のバイクの中でも群を抜くお気に入りバイクだ。
ロードバイクでシクロクロスレースも走り、NHK WorldでCycle Around Japanという人気番組をレギュラーとして持つマイキーが設定したルートは、関東屈指の勾配を誇る和田峠を裏・表の2度登るハードなもの。その途中でプライド氏のバイクに乗り換え、半日を走ることに。
実は私とマイクはともに身長168cm、手脚の長さ比率もほとんど同じという体格で、ポジションもほぼ同じ。乗り換えてもステムやサドル高を1mmも調節することなく走り出せる。和田峠からの下りで乗り始め、しばらくは慎重だったものの、慣れればすぐにマイバイクのように下り出せた。
テクニカルなダウンヒルでも思い通りに操れるハンドリング特性がある。XSサイズはオフセットが53mmと大きく、ヘッドアングルも70℃と寝ているため直進性がやや強いキャラがある。しかしコーナリングはいたってニュートラルで扱いやすい。小さなサイズのジオメトリーと乗り味が素晴らしいのはニールプライド時代から共通だ。マイク氏が(背の低い)自分のために最高のバイクを開発しているのだから、それも当然のことだ。
横からのスタジオ写真ではBURA SLとフォルムが似ているが、実際にTEREを前にするとディテールはまったく違う。BURA SLが快適さやBBのしなりが特徴的な乗り味だったので似たバイクだろうと想像していたのだが、乗るとまったく違っていた。剛性はかなり高め。フロントフォークのベンド形状から受けるイメージに反して、剛性はかなりしっかりしていて、バイブレーションは全く発生しない。路面の微振動に対してはフレーム全体で吸収し、スムーズではある。しかしそれ以上にピュアレーサーの鋭い反応性に振った乗り味だ。
そして走るうちに気づくのは高速域のスピードの維持がしやすいこと。40km/hあたりからスピードがタレることなく進み続けやすい感じがする。それがカムテールによるものかどうかは分からないが、空気の抜けの良さを確かに感じる。セットされたホイールはカンパニョーロのBORA35だったが、この日乗って行った自分のバイクにはBORA50をセットしていた。リムハイトでは低くなったはずなのに、それ以上に高速の伸びの良さを感じたのは不思議な感覚だった。フォークブレードはピナレロ・ドグマのように中間が左右に張り出し、ホイールとの隙間が大きい。風切音も発生しないようだ。
フレーム剛性は全体的に高めだが、とくにシートステイのしなりが効いていることで荒れた路面でも微振動を吸収してくれるのだろう、静かに走るバイクだ。重量は超軽量というわけでなく、Mサイズでフレーム950g+フォーク390g(リムブレーキモデル)と、ややマージンをとった重量だ。そのため踏み出しには特別軽い感じはない。しかしスピードが乗るにつれて巡航性が高まっていく印象がある。見た目からはそれほどエアロな印象を受けないが、しっかりとエアロ効果のある巡航性能を発揮してくれるのは「コンパクトエアロ」と銘打つとおりだ。
ハンドリング特性は重めでどっしりとしている。それでもダウンヒル時の左右の振りは自在に効き、かつ両手放しでウィンドブレイカーを着る際にも安心できる安定感・直進安定性がある。仕事柄、乗りながら両手放しでカメラを操作したりすることがあるため(読者にはススメない)、その特性はいつも重視してチェックするが、直進性と操舵性をうまくバランスした特性になっている。この点はコルナゴのバイクに似ているかもしれない。サイズ別のフォークのオフセットにこだわって設計されたメリットは大きそうだ。
エアロロードでありながら乗って軽く、アグレッシブな走りが可能。ダッシュやスプリントの反応もいいし、登りも軽やかだ。「お洒落系」「カルチャー系」とも呼ぶべきカラーリングであるのに、走りはレーサーとしても素晴らしい万能性をもっているバイクだった。
プライド氏は開発やデザインなどほぼすべてをひとりで行っているという。それはほぼニールプライド時代から変わりないが、TEREの完成には着想から約18ヶ月かかったという。
私がマイク氏を「無類のバイク好き」と表現する理由の一つに、自分の好きなバイクを楽しみながら開発するという姿勢がある。実際、氏はピナレロ・ドグマやBMC IMPECなど現代のプレミアムなレーシングバイクの多くを自ら買って所有し、普段から乗り比べて楽しんでいる。だから「良いとこどり」が得意だ。反面、TTバイクなどには興味が無いため、今後しばらくはつくる予定が無いという。「会社の成長も早すぎず・遅すぎず、がいいね」とプライド氏は言う。
日本でのプロモーションと販売サポートを担うマイキー氏は、エピックライダー的な活動を続け、試乗会やイベント、ライド企画などを「今までどおり」行っていくという。
マイキー氏は言う。「スポーツバイクは本来個人ひとりひとりにあわせる必要があるパーソナルなエキップメントなので、CHAPTER2では完成車は販売しません。インターネット注文では在庫があれば香港から2、3日でフレームが届きます。しかしバイクを組み立てるのは技術がないと出来ないことなので、ショップ経由で注文して、メカニックに組んでもらった方がユーザーにとっては安全です。間もなくオープンする日本語の公式サイトのページでは将来的には販売店リストやメカニックさんのリストを載せたいと思っています。CHAPTER2バイクにふさわしい組付けができるメカニックとの関係を大事にしたいから、注文する人の住んでいる地域のショップやメカニックを紹介できるようになりたいです。日本での私の活動も、購入したい方やショップさんなどのニーズに合わせて柔軟に動こうと思っています」。
「自分が好きなバイクだけを作り、購入してくれた仲間がハッピーなサイクルライフを楽しめるようにしたい」と、なかば夢のようなことを公言するプライド氏。「今まで買ってくれた人とはフェイスブックやインスタグラムの友達となってバイクを組み上げるプロセスを見守ってきた。それが楽しい。試作カラーなども自分のインスタグラムなどで紹介して、その反応がいいものや、アドバイスも参考にしてリリースするカラーや製品を決めていきたい」と話す。
氏はソーシャルメディアをツールとして重視し、かつマンツーマンのつきあいを大事にする。今回のプレゼンにもNP時代からの友人として一般ユーザーを直接招き、「今度一緒にレースに出ようよ」と話しかける。私もバイクの魅力+αのおつきあいで氏のバイクのユーザーになっているのは確かなところだ。
「これから日本には少なくても年に3回以上は来たい。サイクルモードや試乗会、一緒に走るライドイベントなどで輪を広げていきたい。NZ最大のイベントであるレイクタウポ・サイクルチャレンジやツアー・オブ・フレンドシップにも一緒に走るキャンペーンのようなものを考えてみたいと思っています」と話す。他のバイクブランドとは違った面白い展開になりそうだ。無名のブランドであり、フレームのみの販売、かつネット販売という面で不利な点はメーカとしても購入者にとっても多いのは事実。越えるべきハードルは高そうだ。
7月からここまでの世界での発表が好評を呼び、ファーストロットとして用意したXS〜Mまでの人気サイズはすでに完売に近い状態にあるという。名も無き小さなブランドとしての再出発だが、氏の考えに共鳴するファンの数は予想以上のものだったようだ。
CHAPTER2 TERE フレームセット スペック
カーボン:Toray T700, T800 & 3K Directional Carbon
フレーム 5サイズ : XS, S, M, L & XL
フォーク 2種 : XS, S (53mmオフセット) and M, L, XL (43mm オフセット)
フレーム重量 : 950g (Rim) & 1015g (Disc) Size M +/- 3%
フォーク : 390g (Rim) & 425g (Disc) Uncut +/- 3%
シートポスト:198g +/- 3%
ステム:80mm, 90mm, 100mm, 110mm and 120mm (+/-7°)
ヘッドセット:FSA Type No.42/ACB
BB:Press Fit BB86.5
Electronic Shifting:シマノDi2, SRAM eTAP & Campagnolo® EPS 対応
バッテリータイプ:Di2 SM-BTR-2 and EPS V3 Battery
タイヤクリアランス:25mm (Rim) & 28mm (Disc)
スルーアクスル (Disc):Flat Mount
FR 12x100mm, RR 12x142mm
E-Thru M12x1.5mm
Safety Standard:EN ISO 4210:2014
UCI 登録 : UCI Approved (Rim)
9月末までの日本ローンチ記念特別価格 JPY 229,999 (配達&税込)
10月1日以降の価格
JPY 248,399 (配達&税込) Rim brake
JPY 258,404 (配達&税込) Disc brake
公式サイトの日本語ページURL https://jp.chapter2bikes.com/
※日本語ページは間もなく公開予定
ブランドの各SNSアカウントは以下リンクで紹介する。
photo&text:Makoto.AYANO
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