レキップ紙が連日大きなスペースを割いて報じたバルデの失速にフランスファンは悲鳴をあげた。フルームが4度目のマイヨジョーヌ獲得を確定させた勝負の22.5km個人タイムトライアルを振り返ります。


ノートルダム・ド・ラ・ガルド教会に向かう急勾配の登りノートルダム・ド・ラ・ガルド教会に向かう急勾配の登り photo:Kei Tsuji / TDWsport
登りをこなすアンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ソウダル)登りをこなすアンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ソウダル) photo:Kei Tsuji / TDWsport
世界チャンピオンのトニー・マルティン(ドイツ、カチューシャ・アルペシン)は14秒差のステージ4位世界チャンピオンのトニー・マルティン(ドイツ、カチューシャ・アルペシン)は14秒差のステージ4位 photo:Kei Tsuji / TDWsport
南フランスらしいマルセイユの喧騒の中をタイムトライアルバイクで走る。セキュリティのために22.5kmのコースはフェンスに覆われ、交差する道にはジャンダルマリー(憲兵)や警察が車両を置いて暴走車両の侵入をガード。コース上には石畳や凹んだマンホールなどもあり、路面状態は決して良くない。午前中の試走時間にクリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ)は入念にコーナリングをチェックしていた。

フルームはルコックスポルティフ社のスタッフが採寸して仕立てられたマイヨジョーヌのスキンスーツを着て走った。第1ステージで着用し、エフデジのコーチから物言いがついたヴォルテックスジェネレーター(渦流生成器)の凸凹は上腕に付いていなかった(参照:第2ステージ現地レポート)。仮に同コーチの計算が正しければ、フルームがヴォルテックスジェネレーター付きのスキンスーツを着ていればステージ優勝していることになる。

山岳ステージをグルペットでこなしてきたTTスペシャリストたちがフレッシュな状態で挑んだのに対し、山岳でクライマーたちとマイヨジョーヌ争いを繰り広げてきたフルームは疲労が溜まりに溜まった状態のはず。それでもフルームはスタートから第1計測(10.2km地点)まで平均スピード51.4km/hで走行し、ノートルダム・ド・ラ・ガルド教会に向かう急勾配の登り(全長1.2km/平均9.5%)をこなしてもなお全体の平均スピードは47.6km/h。王者としての威厳を示す走りで4度目の総合優勝を掴んだ。

フルームへのブーイングは凄まじかったが、やはりマイヨジョーヌの登場によって自然と沸き上がる大声援もまた凄まじく、後者が前者を上回った。同じくブーイングの中を走り、1秒差のステージ2位に入ったミカル・クウィアトコウスキー(ポーランド、チームスカイ)のSTRAVAログはこちら

ステージ0勝に終わったフルーム(シャンゼリゼで勝つ可能性が0%ではないが…)。ステージ優勝していない選手が総合優勝に輝くのは、繰り上げで総合優勝扱いになっている2006年のオスカル・ペレイロ(スペイン)以来となる。

クリスティアン・クネース(ドイツ、チームスカイ)の上腕のタトゥーが透けるクリスティアン・クネース(ドイツ、チームスカイ)の上腕のタトゥーが透ける photo:Kei Tsuji / TDWsport
ステージ8位のリゴベルト・ウラン(コロンビア、キャノンデール・ドラパック)ステージ8位のリゴベルト・ウラン(コロンビア、キャノンデール・ドラパック) photo:Kei Tsuji / TDWsport
フルームから1分57秒遅れのステージ52位に沈んだロマン・バルデ(フランス、アージェードゥーゼール)フルームから1分57秒遅れのステージ52位に沈んだロマン・バルデ(フランス、アージェードゥーゼール) photo:Kei Tsuji / TDWsport
6秒差のステージ3位のタイムでライバルたちを圧倒したクリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ)6秒差のステージ3位のタイムでライバルたちを圧倒したクリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ) photo:Kei Tsuji / TDWsport
ツール・ド・フランスツール・ド・フランス photo:Kei Tsuji / TDWsport
フランスの期待を背負って走ったバルデはフルームから1分57秒も失い、2分遅れでスタートしたフルームに危うく追いつかれるところだった。丘の上にあるノートルダム・ド・ラ・ガルド教会を通過する時点で、フルームは視線を下に移して加速していったが、うつむくバルデに勢いは感じなかった。フルームとバルデは平均スピードにすると3.065km/hの差。バルデは1kmにつき5.2秒を失っていることになる。フィニッシュ後にオランジュ・ヴェロドロームの暗いトンネルの中で座り込んだバルデに表情はなかった。

放心状態のバルデはしばらくタオルをかぶって顔を隠したが、執拗な報道陣の質問に観念して口を開いた。「スタートしてすぐ今日はダメだと分かった。だから脚で走るのではなく気持ちで負けないように走った」。その姿は敗北感に溢れていたが、2016年の総合2位に続く総合3位フィニッシュは近年のフランス人選手としては目覚ましい活躍と言える。2年連続でフランスを大いに沸かせた功績は大きい。連日バルデの活躍を大々的に伝えてきたレキップ紙は、フルームの快走シーンではなく、バルデが呆然と座り込む姿を一面トップで伝えている。

マルセイユのオランジュ・ヴェロドロームマルセイユのオランジュ・ヴェロドローム photo:Tim de Waele / TDWsport
総合優勝を決めたクリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ)を迎えるソワニエのマルコ総合優勝を決めたクリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ)を迎えるソワニエのマルコ photo:Tim de Waele / TDWsport
1秒差で総合表彰台を守ったロマン・バルデ(フランス、アージェードゥーゼール)1秒差で総合表彰台を守ったロマン・バルデ(フランス、アージェードゥーゼール) photo:Kei Tsuji / TDWsport
オランジュ・ヴェロドロームでマイヨジョーヌを受け取ったクリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ)オランジュ・ヴェロドロームでマイヨジョーヌを受け取ったクリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ) photo:Kei Tsuji / TDWsport
マイケル・マシューズ(オーストラリア、サンウェブ)を見つめる観客たちマイケル・マシューズ(オーストラリア、サンウェブ)を見つめる観客たち photo:Tim de Waele / TDWsport
総合最高位のマイヨジョーヌがチームスカイで、総合最下位のランタンルージュもチームスカイ。マイヨジョーヌを狙うのは難しいが、ランタンルージュを狙うのも難しい。わざわざランタンルージュ争いに専念する選手はいないし、下手に狙うとタイムオーバーになる可能性もある。特に何か賞が用意されるわけではないが、3週目に入ると総合最下位が誰なのか自然と注目を集めるようになる。

第20ステージを終えて、結果は、トム・レーゼル(オランダ、ロットNLユンボ)を4分36秒差で下したルーク・ロウ(イギリス、チームスカイ)がランタンルージュを獲得した。チームメイトのフルームから4時間35分52秒遅れ。ロウはフルームよりも5%以上長くサドルに座っていることになる。

マルセイユからパリまで780km。中にはレンタカーを返却して飛行機やTGVでズバッと移動してしまう人もいるが、車で780km移動するのが一般的。自分はマルセイユからリヨンまで330km移動して宿泊し、明朝パリまで450km移動する。イメージとしてはツアー・オブ・ジャパン最終日前日のステージが青森or広島で行われ、東京で最終ステージが行われる感じ。そして途中の仙台or京都で一泊する。3週間のレンタカーの走行距離はレース距離の約2倍にあたる7,000kmに達しそうな勢いだ。

text&photo:Kei Tsuji in Lyon, France