1990年代から2000年代始めにかけて、ベルギーを代表するクラシックハンターだったヨハン・ムセーウ。そのムセーウが引退後、自らの名を冠して興したブランドが“ムセーウ”だ。その特長は、何といってもフラックスファイバーを用いている点。今回インプレしたMF-5は、フラックスファイバーの含有量が最も多いバイクである。果たして、その乗り味はどのようなものだったのだろうか?

ムセーウ MF-5ムセーウ MF-5 (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp
ロンド・ファン・フラーンデレンやパリ~ルーベ、世界選ロードを次々と制し、「クラシックハンター」の名を欲しいままにしたベルギー・フランドル地方の英雄ヨハン・ムセーウ。今回インプレした「ムセーウ」は、言うまでもなく彼が興したブランドだ。

ムセーウのカーボンフレームの特長は、亜麻の繊維から作られる「フラックスファイバー」を用いているということ。フラックスファイバーは自動車産業では良く使用されるが、自転車にはこれまであまり使われてこなかったという素材だ。

特徴的な形状のヘッドチューブ特徴的な形状のヘッドチューブ 「フランドルのライオン」の異名をとったムセーウらしいグラフィック「フランドルのライオン」の異名をとったムセーウらしいグラフィック


スムースな仕上がりを見せるボトムブラケット付近スムースな仕上がりを見せるボトムブラケット付近 チェーンステーは100% 3Kカーボンファイバーだチェーンステーは100% 3Kカーボンファイバーだ


フラックスファイバーは、カーボンの3倍の強度、10倍の振動吸収性を持つという。この素材に注目したのは、いかにもヨハン・ムセーウらしい。パヴェ(石畳)で行われる二大レース、ロンド・ファン・フラーンデレンとパリ~ルーベの制覇を人生最大の目標としてきた彼にとって、バイクの強度と振動吸収性はどちらも犠牲にできない重要な要素だったからだ。

ムセーウが現役時代に乗ったバイクメーカーは、彼の厳しい要求を満たすためにスペシャルバイクを数多く作ってきた。どれも彼の強力なペダリングパワーに耐える剛性を持ち、しかもパヴェ(石畳)を激しく走っても壊れず、おまけに振動吸収性も良いというものだった。

フォークブレードもフラックスファイバー100%だフォークブレードもフラックスファイバー100%だ エアロ形状のシートチューブ。フラックスファイバー100%だエアロ形状のシートチューブ。フラックスファイバー100%だ ベントしたシートステー。フラックスファイバー100%だベントしたシートステー。フラックスファイバー100%だ


このMF-5はムセーウのラインナップの中でも、最もフラックスファイバーの含有量が高い。何とチェーンステーとラグが100% 3Kカーボンである以外、他のチューブはすべてフラックスファイバー100%なのだ! 

シートステーのアップ。フラックスファイバー特有の模様が見えるシートステーのアップ。フラックスファイバー特有の模様が見える
さて、このユニークなフラックスファイバー100%のユニークなバイクを、インプレライダーの西谷と三上はどう評価したのだろうか? さっそくインプレッションをお届けしよう。





― インプレッション


「抜群の乗り心地! バネ感で進むバイク」 西谷雅史(サイクルポイント オーベスト)


「抜群の乗り心地! バネ感で進むバイク」西谷雅史「抜群の乗り心地! バネ感で進むバイク」西谷雅史 抜群に乗り心地が良いバイクだ。通常の「ショック吸収性が良い」というレベルではなく、まるでサスペンションがついているかのような乗り心地の良さなのだ。この乗り味はちょっと不意打ちを食らったような感じで、かなり新鮮だった。

「乗り心地がよいバイク」というと「柔らかくて走らないのでは?」と思われるかもしれないが、そんなことはない。ペダルに掛けられた踏力はしっかりと受け止めるのに、荒れた路面では振動吸収性がとても良いということである。これがフラックスファイバーの乗り味なのだろう。

加速感は本当に楽しい。踏み込むとワンテンポ遅れて加速する感じなのだが、その後の伸びがとても良いのだ。いわゆる「バネ感」が効いたバイクなのである。グラファイトデザインのバイクが「しなりを瞬発力に変える」といううたい文句で有名だが、まさにこのムセーウ MF-5の乗り味こそ「しなりを瞬発力に変える」というイメージだ。

ハンドリングやブレーキングは特に印象に残るものではなかったが、現代のレーシングバイクとして必要十分な性能を持っている。少なくとも「悪い」という印象はまったく感じなかったので、かなりハイレベルにまとまっていると思う。

正直言って、このバイクのグラフィックはあまりかっこいいとは思わない。ムセーウというブランド自身地味だし、乗る前も大した期待はなかった。しかし、実際に乗ってみると本当に面白いバイクで、そのギャップが楽しかった。フラックスファイバーの実力は相当なモノだ。

実際のところ、ユーザーにとって「フラックスファイバーうんぬん」はどうでも良いことだ。乗って素晴らしければ、ロードバイクは良いと思う。このバイクは乗ってみて良かったから、私は自信を持ってお客さんに勧めることができる。「とにかく、乗り心地の良いバイクが欲しい」というお客さんには、このバイクはかなりオススメだ。

このバイクが生きるのは、何といってもロングライドだろう。驚くべき振動吸収性と、バネ感で伸びる気持ちよさで、長く走っても疲労感は最小限に抑えられるはず。もちろん、たまにレースに参加するのにも良い。さすがはロンド・ファン・フラーンデレンやパリ~ルーベのチャンピオンがプロデュースしたバイクだけのことはある。



「しなやかなのに伸びる不思議なバイク」 三上和志(サイクルハウス ミカミ)


「しなやかなのに伸びる不思議なバイク」三上和志「しなやかなのに伸びる不思議なバイク」三上和志 このバイクを一言で表現すると「しなやかなバイク」だ。振動吸収性が素晴らしく、さらにスーッと伸びる加速感を実現しているのだ。最近は高剛性なバイクばかり乗ってきたが、しばらくMF-5をインプレして「しなやかなバイクって良いな」と思った。

しなやかなバイクだが、ペダルへの大入力もしっかりと受け止めてくれる剛性感も持っている。これが伸びるバイクに仕上がっている秘訣なのだろう。伊達にフラックスファイバーを使ってはいないと感じた。

ハンドリングもとても安定している。タイトなコーナーだろうが、ハイスピードの下りコーナーだろうが、ライダーに緊張感を強いることなく見事にクリアしてくれるのだ。振動吸収性の高さからくる路面追従性の良さが上手く機能しているという感じだ。荒れた路面でもバイクがまったく跳ねないから、このような安定性が得られるのだろう。

加速感は本当に素晴らしい。しなって前に送り出すという感じだろうか? まるでバネで弾かれているかのような伸びの良さを見せるのである。これも、フラックスファイバーだからこそ出せる乗り味なのだろう。

かなり本気で、マイバイクとしてしばらく使ってみたいと思った。ちぎれそうなツラい時でもこのバイクならがんばれそうだし、練習不足の私でも最後の最後まで脚が残りそうな感じがした。

好みの問題だが、グラフィックは素っ気ない。フレームの形状もあまりかっこ良いという感じではないが、それがこの乗り味を生み出す必然的なカタチなのかと思うと納得できる。まあこの無骨さも、ベルギーのブランドらしい部分と言ったところか。フラックスファイバーの模様が見えるという点は面白い。

とにかく、この振動吸収性の良さには、誰もが度肝を抜かれるはずだ。どこまで乗っても疲れ知らずの乗り味は、ロングライドで使用するのに最高だろう。スキルのない初心者が乗るのにも最適。バイクの特性が、技量の未熟さをカバーしてくれるハズだ。





ムセーウ MF-5ムセーウ MF-5 (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp
ムセーウ MF-5

トップチューブ 100%フラックスファイバー
ダウンチューブ 100%フラックスファイバー
シートチューブ 100%フラックスファイバー
チェーンステー 100% 3Kカーボンファイバー
シートステー  100%フラックスファイバー
ラグ      100% 3KカーボンファイバーHM
フォーク    100%フラックスファイバー(レッグ)、カーボンファイバー(クラウン)
サイズ     XS、S、M、ML
カラー     ホワイトブルー、ヴァンテージホワイト
重量      1180g(Lサイズ、フレーム単体)、350g(フォーク)
希望小売価格(税込み) 388,500円(フレームセット)





― インプレライダーのプロフィール

 西谷 雅史 西谷 雅史 西谷雅史(サイクルポイント オーベスト)

東京都調布市にある「サイクルポイント オーベスト」店長。チームオーベストを率い、自らも積極的にレースに参戦。主なリザルトはツール・ド・おきなわ市民200km優勝、ジャパンカップアマチュアレース優勝など。2007年の実業団小川大会では、シマノの野寺秀徳、狩野智也を抑えて優勝している。まさに「日本最速の店長」だ!
サイクルポイント オーベスト


 三上 和志 三上 和志 三上和志(サイクルハウスMIKAMI)

埼玉県飯能市にある「サイクルハウスMIKAMI」店主。MTBクロスカントリー全日本シリーズ大会で活躍した経験を生かし、MTBに関してはハード・ソフトともに造詣が深い。トレーニングの一環としてロードバイクにも乗っており、使用目的に合った車種の選択や適正サイズに関するアドバイスなど、特に実走派のライダーに定評が高い。
サイクルハウスMIKAMI


ウェア協力:マヴィック
アイウェア協力:オークリー・ジャパン


edit:仲沢 隆
photo:綾野 真
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