テロ対策で厳重なセキュリティ体制が敷かれたベルギーを離れ、小国ルクセンブルクを抜け、ツール・ド・フランスがようやくフランスに入国。第3ステージの様子をフォトグラファーの辻啓がお届けします。



ベルギー・ヴェルヴィエのスタート地点ベルギー・ヴェルヴィエのスタート地点 photo:Kei Tsuji / TDWsport
ありがとう、ヴェルヴィエの街ありがとう、ヴェルヴィエの街 photo:Kei Tsuji / TDWsport
スタート地点ヴェルヴィエが地元のフィリップ・ジルベール(ベルギー、クイックステップフロアーズ)スタート地点ヴェルヴィエが地元のフィリップ・ジルベール(ベルギー、クイックステップフロアーズ) photo:Kei Tsuji / TDWsport
警察と軍によるテロ対策のための警備は厳重だ警察と軍によるテロ対策のための警備は厳重だ photo:Makoto.AYANOスタートの街ヴェルヴィエの警備はテロ対策のため厳重だったスタートの街ヴェルヴィエの警備はテロ対策のため厳重だった photo:Makoto.AYANO

ベルギーをスタートする第3ステージはこれまでにないほどセキュリティが厳重だった。関係者パスを持っていてもスタート地点に入るためには手荷物検査が必要で、大きなカバンをもつ観客はそもそもスタートに近づけない。それは他のステージと同じだが、ベルギーの警察はチームバスと戦っても勝てそうな装甲車を投入し、迷彩柄の特殊部隊がライフルを持って警備に当たった。スタート地点を見下ろす建物の上にはスナイパー。そして上空では警察ヘリが2機旋回する。

そんな物々しいスタート地点で最も大きな声援を受けたのが、ヴェルヴィエ出身(35歳の誕生日が2日後)のフィリップ・ジルベール(ベルギー、クイックステップフロアーズ)。地元が生んだチャンピオンの晴れ舞台を見るのが目的で会場に足を運んだ住人に多く出会った。

雨降りの開幕2日間とは打って変わって第3ステージは晴れ。最高気温は24度ほどで、うだるような暑さではなく快適。今週いっぱいは好天が続くという天気予報が出ている。

スポンサー対策として驚くほど精巧に作られたシューズカバースポンサー対策として驚くほど精巧に作られたシューズカバー photo:Kei Tsuji / TDWsport
チームバスにも勝てそうなごつい警察車両がスタート地点に並ぶチームバスにも勝てそうなごつい警察車両がスタート地点に並ぶ photo:Kei Tsuji / TDWsport
沿道に並ぶのはフランス国旗とベルギー・ワロンの旗沿道に並ぶのはフランス国旗とベルギー・ワロンの旗 photo:Kei Tsuji / TDWsport
ステージ前半はリエージュ〜バストーニュ〜リエージュの通過エリアを走る。20km地点に登場するのは、起伏に富んだアルデンヌの森にあるシルキュイ・ド・スパ・フランコルシャンだ。1925年以降、これまで59回F1ベルギーグランプリの開催地として使用されているサーキットであり、2017年はシーズンの第12ラウンドとして8月27日に開催。冬場にはシクロクロスのスーパープレスティージュの会場としても使用されている。

ツールが同サーキットを訪れるのは、エディ・メルクスの親友で、F1優勝8回&ルマン優勝6回という成績を残すジャッキー・イクスにトリビュートするため。ツールは1周7kmのサーキットを3分の2ほど走り、オー・ルージュやラディオン、プーオンといったモータースポーツ好きにはたまらない有名なコーナーを通過して一般道に戻る。STRAVAのログをチェックすると、メイン集団内の選手たちはおよそ80km/hで下りコーナーを攻めている。サーキット内の最速スピードはアルノー・デマール(フランス、エフデジ)の87.62km/hだった。

シルキュイ・ド・スパ・フランコルシャンを走るゲラント・トーマス(イギリス、チームスカイ)らシルキュイ・ド・スパ・フランコルシャンを走るゲラント・トーマス(イギリス、チームスカイ)ら photo:Kei Tsuji / TDWsport
シルキュイ・ド・スパ・フランコルシャンのオールージュを通過シルキュイ・ド・スパ・フランコルシャンのオールージュを通過 photo:Kei Tsuji / TDWsport
起伏に富んだシルキュイ・ド・スパ・フランコルシャン起伏に富んだシルキュイ・ド・スパ・フランコルシャン photo:Kei Tsuji / TDWsport
ルクセンブルク国内を逃げるアダム・ハンセン(オーストラリア、ロット・ソウダル)らルクセンブルク国内を逃げるアダム・ハンセン(オーストラリア、ロット・ソウダル)ら photo:Kei Tsuji / TDWsport
キャノンデール・ドラパックが山岳賞の赤玉ジャージを死守。マイヨアポワはアメリカ人からアメリカ人の手に引き継がれた。今大会には3名のアメリカ人選手が出場しており、そのうちの2名がここまでの3ステージでジャージを着ていることになる。今大会が始まるまで、103年間の歴史の中でマイヨアポワを着たアメリカ人選手は2名だけだったというのに。オールラウンダーのネイサン・ブラウン(アメリカ、キャノンデール・ドラパック)はしばらくマイヨアポワを着続けることになりそうだ。

ブラウンと一緒に逃げたアダム・ハンセン(オーストラリア、ロット・ソウダル)は18連続グランツール出場中。ジロ・デ・イタリアの落車で手首にヒビを負った影響でツール欠場の可能性も浮上していたというが、鉄人は何事もなかったかのようにスタートラインに並び、逃げた。「向かい風が強くて苦戦したけど、逃げの1日を楽しんだよ」とハンセンは語っている。

ツールがルクセンブルクを通るのは19回目。過去の18回のうち9回はこの日と同じように通過しただけで、残りの9回はスタートもしくはフィニッシュを迎えている。出場しているルクセンブルク人選手はベン・ガスタウアー(アージェードゥーゼール)だけ。神奈川県より少し広い程度のルクセンブルクを足早に駆け抜け、ツールはフランスに入った。

好天に恵まれた第3ステージ好天に恵まれた第3ステージ photo:Kei Tsuji / TDWsport
残り800mで仕掛けたリッチー・ポート(オーストラリア、BMCレーシング)が振り返る残り800mで仕掛けたリッチー・ポート(オーストラリア、BMCレーシング)が振り返る photo:Kei Tsuji / TDWsport
勾配6%ほどの登りをハイスピードで進む勾配6%ほどの登りをハイスピードで進む photo:Kei Tsuji / TDWsport
仕事を終えた新城幸也(バーレーン・メリダ)がフィニッシュを目指す仕事を終えた新城幸也(バーレーン・メリダ)がフィニッシュを目指す photo:Kei Tsuji / TDWsport
ロンウィの3級山岳コート・デ・ルリジューズ(全長1.6km/高低差93m/平均5.8%)に設定されたSTRAVAのKOM(キングオブマウンテン)は一般サイクリストで、これまでの最速タイムは4分57秒だった。当然、ツールのトップ選手がそのタイムはあっけなく更新することになる。第3ステージを終えた時点で、KOMはエマヌエル・ブッフマン(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ)とアルノー・デマール(フランス、エフデジ)。そのタイムは3分41秒であり、一般サイクリストがどれだけ頑張っても更新は不可能な状態に。

そんな3級山岳コート・デ・ルリジューズを最速で駆け上がったのが、スプリント中にペダルを外しながらも先頭を走り続けたペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)だ。ボーラ・ハンスグローエにとってはこれがステージ初優勝。サガンはちょうど1年前の2016年7月3日に、同じような登りスプリントで勝利している。サガンはこれまで出場したツールの中で、29.6%のステージでなんらかの表彰を受けている。

この第3ステージは平坦ステージにカテゴライズされていないため、選手たちの安全性を向上させる新たな試みである「集団内に発生するタイム差の最小単位を1秒から3秒に拡大する」というルールは適用されなかった。そのためステージ上位4名が後続の選手に2秒差をつけている。マイヨジョーヌ候補はほぼ全員がこの2秒遅れの集団内でフィニッシュ。アダム・イェーツ(イギリス、オリカ・スコット)だけが10秒遅れを被った。

単独で大きく遅れてフィニッシュするオリヴィエ・ルガック(フランス、エフデジ)単独で大きく遅れてフィニッシュするオリヴィエ・ルガック(フランス、エフデジ) photo:Kei Tsuji / TDWsport
ライオンをチームバスに持ち帰るチームスカイのマルコライオンをチームバスに持ち帰るチームスカイのマルコ photo:Kei Tsuji / TDWsport

text&photo:Kei Tsuji in Longwy, France

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