朝のスタート地、ランプレ・メリダのバスの周りは楽しげな雰囲気に包まれていた。赤いゼッケン「ドサール・ルージュ」をつけた新城幸也の姿を、フィリップ・モデュイ監督やスタッフまでもがスマホで写真に収めていた。



新城幸也(ランプレ・メリダ)と浅田顕さん。かつての師弟がフランスに揃った新城幸也(ランプレ・メリダ)と浅田顕さん。かつての師弟がフランスに揃った photo:Makoto.Ayano
フィリップ・モデュイ監督やスタッフのリクエストに答えてポーズを取る新城幸也(ランプレ・メリダ)フィリップ・モデュイ監督やスタッフのリクエストに答えてポーズを取る新城幸也(ランプレ・メリダ) photo:Makoto.Ayanoティンコフの宮島正典マッサーもユキヤにひと目会いにやってきたティンコフの宮島正典マッサーもユキヤにひと目会いにやってきた photo:Makoto.Ayano


アングルは背中から、かつ顔も入れたいというリクエストで背中越しに顔を覗かせるユキヤ。肩がまだ痛いというのにサービス精神満点でポーズを決める。ちなみに突き指もまだ影響は残っているとのことだ。

そして日本ナショナルチーム代表監督の浅田顕さんが訪問した。夏季五輪に向けたピレネー高地でのトレーニング合宿に入る前に、ユキヤを激励しにやってきたのだ。昨日の活躍に浅田さんも笑顔。しばし和やかに会話を楽しむ。

ティンコフの宮島正典マッサーもユキヤにひと目会いにやってきた。ティンコフはチームバスが壊れてしまい、現在は普通の観光バスを借りて移動をしている。当然チームバスのような豪華装備は無く、レース後にシャワーも浴びられない。TVも見ることができず、かなり困っているとのこと。スタート地点に来るまでに検問で停められることさえあるそうだ。コンタドールの落車といいツキが無いティンコフ。チームカーナンバーは「13」だが、定番のナンバーステッカーの逆さ貼りはしていない(そのせい?)。

チームカーナンバーの13を逆向きにしないティンコフチームカーナンバーの13を逆向きにしないティンコフ photo:Makoto.Ayano故障したティンコフのチームバスの代わりに登場したレンタル観光バス。見た目が原因でしばしば規制に引っかかるそうだ故障したティンコフのチームバスの代わりに登場したレンタル観光バス。見た目が原因でしばしば規制に引っかかるそうだ photo:Makoto.Ayano

ナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター)の登場に熱狂するコロンビアンナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター)の登場に熱狂するコロンビアン photo:Makoto.Ayano
イノーのステージ優勝数を超えたカヴェンディッシュは、通常通りの壇上でのミニセレモニーで昨日の勝利を祝福されたが、特別な演出企画は無かったようだ。コロンビアからの応援団は国旗を持って広場の一角に詰めかけ、ナイロ・キンタナ(モビスター)に大声援を送る。スタート台でも改めて敢闘賞獲得選手されたユキヤは、各国メディアにもひっぱりだこで取材対応に追われる。

この日ステージ優勝を飾ることになるスティーブ・クミングス(ディメンションデータ)はチームバス前でメディアの質問攻めにあい、饒舌に語っていた。「総合争いは大したものにならないだろうから、今日は誰もが逃げたいはず。もちろん自分もその一人。ただし逃げに乗れるかどうかは運次第。トライするのみ。もう1勝することは夢」。逃げのスペシャリストは最初から逃げる気満々だったようだ。

スタート前にスティーブ・クミングス(イギリス、ディメンションデータ)が意気込みを語る。狙い通りの優勝となったスタート前にスティーブ・クミングス(イギリス、ディメンションデータ)が意気込みを語る。狙い通りの優勝となった photo:Makoto.Ayanoリラックスした雰囲気のオリカ・バイクエスクチェンジリラックスした雰囲気のオリカ・バイクエスクチェンジ photo:Makoto.Ayano

赤ん坊がパパの応援に駆けつけた赤ん坊がパパの応援に駆けつけた photo:Makoto.Ayano バニーガール(?)にファンサービスするシェーン・アークボルド(ニュージーランド、ボーラ・アルゴン18) バニーガール(?)にファンサービスするシェーン・アークボルド(ニュージーランド、ボーラ・アルゴン18) photo:Makoto.Ayano


スタートの町リル=ジュルダンは赤い屋根と壁の建物が多く、南仏風の雰囲気が漂う。ノルマンディーから南下を続けたプロトンは、あと100kmも走ればピレネー山岳に達する。プロトンは南の気温と湿気を感じながらスタートした。すぐに迎える黄色いひまわり畑。スタートからアタックがかかり、スピードが緩まない。プロトンは長く伸びたまま駆け続けた。

60km先には最初の山岳アスパン峠が待ち構えるが、フィニッシュはパヨル湖へと下り切って。山頂ゴールではないため総合争いよりも逃げ切りに有利なコースレイアウト。先を急ぐ選手が、我も我もとアタックを掛け、逃げ集団を形成した。逃げ切ってのステージを狙いたい者、中間ポイントを稼ぎたい者。昨日の2人逃げの平和さとは違う、12人。そして入れ替わりで29人の逃げができる活発な高速レースになった。

ツール・ド・フランス名物、ひまわり畑の中を走るプロトンツール・ド・フランス名物、ひまわり畑の中を走るプロトン photo:Makoto.Ayano
ポイントを稼ぎたいカヴェンデュッシュと、その追撃は阻止したいサガン。すでに総合で大きく遅れたジロ王者のニーバリ、最後のツールのカンチェラーラ、TTスペシャリストのトニ・マルティン。マイヨジョーヌのファンアフェルマートまでももう一日のマイヨ防衛期間延長のために逃げに出た。総合争いの有力勢と一緒に居てはアスパン峠で遅れてマイヨを失うことは目に見えているからだ。

29人の逃げグループでの争いは、アスパン峠を待たずして激化した。登り口まで7km、平坦区間で早めの独走に持ち込んだクミングスは、トラックで磨いた平坦能力で差を開き、そのまま上りへと入った。大型の選手だが、トレックレースで磨きあげたペダリングは効率が良く、他の選手よりも走りながら休んでいる時間が長いというデータがある。かつクライマーではないが登りも苦にしない。

ドサル・ルージュを付けた新城幸也(ランプレ・メリダ)が駆け抜けていくドサル・ルージュを付けた新城幸也(ランプレ・メリダ)が駆け抜けていく photo:Makoto.Ayano大人数の逃げグループが先を急ぐ大人数の逃げグループが先を急ぐ photo:Makoto.Ayano独走を開始したスティーブ・クミングス(イギリス、ディメンションデータ)独走を開始したスティーブ・クミングス(イギリス、ディメンションデータ) photo:Makoto.Ayano先頭クミングスを追走するルイスアンヘル・マテマルドネス(スペイン、コフィディス)、ダリル・インピー(南アフリカ、オリカ・バイクエクスチェンジ)先頭クミングスを追走するルイスアンヘル・マテマルドネス(スペイン、コフィディス)、ダリル・インピー(南アフリカ、オリカ・バイクエクスチェンジ) photo:Makoto.Ayanoツールの初勝利を飾った昨2015年、ジャラベール山の異名を取る2級山岳クロワヌーヴへとフィニッシュするツール第14ステージでは、ティボー・ピノ(FDJ)とロメン・バルデ(AG2Rラモンディアール)のフランス人ホープ2人がゴール1km手前で牽制するなか、登りで遅れずに背後から忍び寄り、抜くときに一気に加速してそのまま差をもってフィニッシュに飛び込んだ。

レース運びが巧く、自身の身体を知り尽くしたうえでその能力を引き出す走りに長けるクミングス。今回の逃げグループのなかでは自分よりも登りに強いニーバリとナバーロを警戒した。ナバーロにはルイスアンヘル・マテマルドネスが、ニーバリにはアレクセイ・ルトセンコが居た。

ナバーロは登りを待たずにアタックしたが、「チームメイトがいるのにどうしてクライマーのナバーロ自ら平地で動いたのかはわからない。アスタナ(ルトセンコ)には後方から前のアタックを追うようにプレッシャーをかけたんだ。少人数に絞り込めば、勝つチャンスはでてくると思った」とクミングス。逃げのなかでイニシアチブを取って賢く走り、自分に都合の良い展開になるように仕向けた。

ナバーロら3人に追いつくと、クミングスの心配は後方から追って来るニーバリ。登りまで7kmを残してアタックして、持ち前の独走力で差を広げた。7km先から始まるアスパンの登りは、自分向きの5~6%の勾配で続き、ゴールまで20km。

「ニーバリが追いついてきた場合、彼に最後のスプリントで勝てるかどうかを考えながら走っていた。もしかしたらマルコ・パンターニのようなハイペースで置き去りにされるんじゃないかとも思った」。

しかし平坦のアタックで力を使っていたニーバリも疲れていた。登り、そして得意のダウンヒルテクニックをもってしても追走のナバーロとインピー2人に届かず。クミングスは下りでリスクを冒すこと無くパヨル湖ほとりのフィニッシュへと逃げ切った。

「最後の登りは勾配が5、6%で自分の脚質にぴったり合っていた。これまでキャリアの中で最も美しい勝利だ。今年のツールはエースのマーク(カヴェンディッシュ)のために走っている。自分を信頼し続けてくれているチームにはとても感謝している」。「もし限界状態で逃げている時は、自分のチームメイト以外は信じちゃいけないね」とクミングス。

独走のままフィニッシュするスティーブ・クミングス(イギリス、ディメンションデータ)独走のままフィニッシュするスティーブ・クミングス(イギリス、ディメンションデータ) photo:Kei Tsuji
昨年はステージ優勝を挙げたあと、次の目標を探そうと自問した。そしてもう一度ツールで勝つことを願うようになった。このツールはカヴェンデュッシュのスプリントのためのアシストが主な任務だ。

「昨年の優勝で夢に手が届いて、いっときは自分を見失いかけた。答えはなかなか見つからなかったけど、自分のしたことを噛みしめるうちに、またステージ優勝したいと強く思うようになっていた。自分には自信が必要だった。過去の映像を見るのは好きじゃないけど、自信をなくした時はステージ優勝の映像を見返した。自分のトレーニングはいつも同じで、自分の体重はずっと変わらない。つまり勝利する能力を持ち続けている。あとは運が必要だった」。

落ち着いて集団内で下りをこなす新城幸也(ランプレ・メリダ)落ち着いて集団内で下りをこなす新城幸也(ランプレ・メリダ) photo:Makoto.Ayano変形仮面ライダーポーズ(?)で応援する子どもたち。その真意は何だろうか変形仮面ライダーポーズ(?)で応援する子どもたち。その真意は何だろうか photo:Makoto.Ayano


メイン集団からアタックしたアダム・イェーツ(イギリス、オリカ・グリーンエッジ)が下りでリードを広げてパヨル湖のフィニッシュに迫った時、ラスト1kmのフラムルージュのバルーンアーチが突然しぼんで崩れ落ちた。イェーツは接触して落車、顎を4針縫う怪我を負った。バルーンを膨らますことは間に合わず、有力勢を含むメイン集団も足止めした。

近年バルーンアーチが崩れ落ちる事故は他のレースでも数件起きている。原因は近くを通った観客がバルーンを膨らませる機器の電源コードを引っ掛けて抜いてしまったこと。妨害行為では無かったとA.S.O側は説明し、以降の保守体制の強化を約束した。

崩壊したフラムルージュと接触して落車したアダム・イェーツ(イギリス、オリカ・バイクエクスチェンジ)崩壊したフラムルージュと接触して落車したアダム・イェーツ(イギリス、オリカ・バイクエクスチェンジ) photo:Kei Tsuji遅れたティボー・ピノ(フランス、FDJ)遅れたティボー・ピノ(フランス、FDJ) photo:Makoto.Ayanoマイヨジョーヌのグレッグ・ファンアフェルマート(ベルギー、BMCレーシング)がクミングスを追うマイヨジョーヌのグレッグ・ファンアフェルマート(ベルギー、BMCレーシング)がクミングスを追う photo:Makoto.Ayano先行していたイェーツは負傷したことでメイン集団より遅れてフィニッシュ。事故による遅れをリザルトに反映させるようにオリカ・バイクチェンジ側がコミッセールに抗議。2時間が経ってからリザルトは修正され、イェーツはアラフィリップに代わりマイヨブランを獲得することに。

フルーム、キンタナらを含む総合争いの有力選手たちの争いは、ティボー・ピノ(FDJ)が「バッド・デイ」を迎えて脱落、3分を失ったことを除けば闘いは激化せず、変動はなかった。バルーンアーチが崩れたことでストップし、最後はノーレース気味。ニュートラル走行でパヨル湖へとフィニッシュした。

まさに「攻撃は最大の防御」を実行する走りでマイヨジョーヌを守り切ったファンアフェルマート。「逃げに乗ることは賢い決断だった。一日の終りに、欲しいと望んでいたものをまた手に入れることができた。明日もう一日、マイヨジョーヌを着て走ることを楽しむよ。でも、明日が最後の日になることは知っている」。

明日はさらに難関山岳が続くが、下ってのフィニッシュのため逃げ切ることは可能なステージだ。ゴール地点のバニェール・ド・リュションは、トマ・ヴォクレールがかつてツールで2度逃げ切って優勝したことのある街だ。ファンアフェルマートにかかる期待はヴォクレールスタイルの逃げ。それもステージ勝利ではなく、タイム差を保つマイヨジョーヌのための逃げだ。「明日が最後だ」といい続けたヴォクレールがしぶとくマイヨジョーヌを着続けたあのシーンの再来を望みたいところだ。

新城幸也はこの日マイヨアポアを着たトーマス・デヘント(ベルギー、ロット・ソウダル) と同じグループで13分21秒遅れの110位でフィニッシュ。明日のステージは「トマ(ヴォクレール)をマークして走ればいいんです(笑)」と話す。旧キャプテンとともに逃げに乗ることはあるか?

photo&text:Makoto.AYANO in Pau France
photo:Kei.TSUJI, TimDeWaele
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