フランス北西部のノルマンディー地域圏でグランデパールを迎える第103回ツール・ド・フランス。フランスを反時計回りに半周し、中央山塊を経てピレネー山脈に至る前半ステージのコースを紹介します。



7月2日(土)第1ステージ → コースマップ
モンサンミッシェル〜ユタビーチ/サントマリーデュモン 188km


ツール・ド・フランス2016第1ステージツール・ド・フランス2016第1ステージ image:A.S.O.第103回大会のグランデパールはノルマンディー地域圏のマンシュ県。「西洋の驚異」と称され、年間300万人の観光客が訪れるユネスコ世界遺産モンサンミッシェルの前で3週間の戦いが動き出す。本土をスタート後、プロトンは2014年7月22日に完成した橋を渡ってサンマロ湾に浮かぶ小島を目指す。そこで正式なオープニングセレモニーが行われ、本土に戻ってからは海岸線を一路北上。前半に設けられた2つの4級山岳は今大会最初のマイヨアポワ着用者を決める重要なポイントだ。

レース後半はコタンタン半島を横断して東海岸に向かい、フィニッシュ地点は第二次世界大戦中のノルマンディー上陸作戦の際「D-デイ(1944年6月6日)」に連合軍が最初の上陸作戦を行なったユタビーチ。残り5kmでサンマリー・ドゥ・モンのノートルダム教会を通過すると、そこからユタビーチまで直線的な幹線道路を進む。高速スプリントバトルを制した者が最初のマイヨジョーヌに袖を通す。



7月3日(日)第2ステージ → コースマップ
サンロー〜シェルブール・アン・コタンタン 183km


ツール・ド・フランス2016第2ステージツール・ド・フランス2016第2ステージ image:A.S.O.第2ステージは内陸のサンローをスタート後、コタンタン半島をグルリと時計回りに巡って同半島北部のシェルブール・アン・コタンタンに向かう。マイヨアポワ争いにスパイスを与える序盤の3つの4級山岳はステージ優勝争いに影響しない。2日連続の平坦ステージだが、スプリンター向きかと言えば決してそうではない。残り40kmは細かいアップダウンの連続で、最後は3級山岳コート・ド・ラ・グラスリーの山頂フィニッシュだ。

残り3.4kmを切ったところでコースは上昇を開始。標高169mの3級山岳コート・ド・ラ・グラスリーの正式な登坂距離は1.9kmで平均勾配は6.9%。最大勾配は14%に達する。残り1.5km地点でピークを迎えるこの登りでクライマーやパンチャーたちが飛び出すだろう。大会2日目にして刺激的なバトルが予想され、マイヨジョーヌは早速持ち主を変える。マイヨヴェールを死守したいスプリンターは75km地点の中間スプリントで動きを見せるだろう。



7月4日(月)第3ステージ → コースマップ
グランヴィル〜アンジェ 223.5km


ツール・ド・フランス2016第3ステージツール・ド・フランス2016第3ステージ image:A.S.O.コタンタン半島の海岸線を駆け抜けたツールは内陸に向かう。グランデパールを迎えたマンシュ県に別れを告げて、ノルマンディーらしい緩やかなアップダウンを繰り返す平野を走る。223.5kmコースは概ねフラット。ツールはここからおよそ5日間かけてピレネー山脈まで南下する。

長時間のテレビ露出を狙うエスケープが序盤に形成され、スプリンターチームが追撃する平坦ステージらしい構図が見られるだろう。よほどのトラブルや計算違いが起こらない限り大集団スプリントに持ち込まれる。まだフレッシュで100%の戦力を揃えるスプリンターチームがトレインを組んでアンジェに突進。道幅のある大通りに設置されたフラムルージュを過ぎると勾配2〜3%の緩斜面が続く。残り300mの最終コーナーを好位置で抜けた選手がフィニッシュラインまで全開で踏み抜く。



7月5日(火)第4ステージ → コースマップ
ソミュール〜リモージュ 237.5km


ツール・ド・フランス2016第4ステージツール・ド・フランス2016第4ステージ image:A.S.O.ツールにしては珍しい230kmオーバーのコースはもちろん今大会最長。登場するカテゴリー山岳は残り55km地点の4級山岳のみ。つまりこの日もスプリンターのための平坦レースが展開される。フランス中部、リムーザン地域圏の首府で世界的な磁器の産地として知られるリモージュで待つのは集団スプリント。フラムルージュを過ぎて残り500mでヴィエンヌ川を越え、そこから勾配5%ほどのジョルジュデュマ通りを駆け上がる。

2012年に新城幸也が総合優勝を飾ったツール・デュ・リムザンの開催地リモージュでフィニッシュを迎えるのは16年ぶり。当時はクリストフ・アニョルト(フランス)がソロエスケープを敢行し、独走のままフィニッシュまで逃げ切った。レース序盤からのソロエスケープは以後15年間果たされていない。



7月6日(水)第5ステージ → コースマップ
リモージュ〜ル・リオラン 216km


ツール・ド・フランス2016第5ステージツール・ド・フランス2016第5ステージ image:A.S.O.ピレネーを前に、マイヨジョーヌ候補たちの脚試しが中央山塊(マシフ・サントラル)で行われる。216kmコースの前半に大きな難所は登場しない。レースが活発化するのは残り80kmを切ってから。特に残り35kmを切ってから連続して登場する3つのカテゴリー山岳で総合争いは動く。

まずは2級山岳パ・ド・ペイロル(5.4km/平均8.1%)と2級山岳コル・デュ・ペルテュス(4.4km/平均7.9%)にアタック。いずれも頂上手前に11%オーバーの急勾配区間を含む急坂であり、その後にはテクニカルなダウンヒル区間が控えている。最後は比較的勾配の緩い3級山岳コル・ド・フォン・ド・セール(3.3km/平均5.8%)を駆け上がり、残り2.5km地点でピークを迎えてから一旦ダウンヒル。残り1kmから勾配3%ほどの山道を登り返してル・リオランのスキー場でフィニッシュを迎える。ピレネーやアルプスの本格山岳と比較すると難易度は低いが、ここで早くも総合争いから脱落する選手が出てくるだろう。



7月7日(木)第6ステージ → コースマップ
アルパジョン=シュル=セール〜モントーバン 190.5km


ツール・ド・フランス2016第6ステージツール・ド・フランス2016第6ステージ image:A.S.O.中央山塊を背にプロトンは再び平地を目指す。第6ステージはピレネー突入前最後のスプリンターのチャンス。ここまで登り基調の最終ストレートが設定された平坦ステージが続いたが、ツール前哨戦ルート・デュ・スッドで度々登場するモントーバンのフィニッシュは完全にフラット。街中のコーナーやロータリーを抜け、第10ドラゴン通りでフィニッシュを迎える。モントーバンがツールのフィニッシュを迎え入れるのは1998年以来2回目。当時は逃げ切りが決まったが、今年モントーバン市民はスプリンターたちの競演を目撃することになりそうだ。

ピュアスプリンターたちにとって唯一の気がかりは残り41km地点に3級山岳コート・ド・サンタントナン・ノブルヴァル(3.2km/平均5.1%)が設定されていること。いわゆる「登れるスプリンター」を勝たせたいチームが猛然と登りでペースを上げると集団のサイズがぐっと小さくなる可能性もある。



7月8日(金)第7ステージ → コースマップ
リル=ジュルダン〜ラク・ド・パヨル 162.5km


ツール・ド・フランス2016第7ステージツール・ド・フランス2016第7ステージ image:A.S.O.グランデパールから1週間。ツールはピレネー山岳初日を迎える。2週目以降に控えるモンヴァントゥーやアルプス山岳と比べるとこの第7ステージはあくまでもマイヨジョーヌ争いの序章に過ぎず、ここで総合優勝者が決まるわけではないが(ピレネー初日に圧勝したフルームが総合優勝した2015年は例外)、ここで総合優勝候補という肩書きを失う選手は出てくるだろう。

残り60kmを切ってからコースは緩やかに上昇を開始する。4級山岳コート・ド・カプヴェルン(7.7km/3.1%)がピレネー山脈の玄関口。スプリントポイントを過ぎると1級山岳コル・アスパン(12km/平均6.5%)の登りが始まる。7〜8%の一定勾配を刻む登りで大会最初の本格山岳バトルが勃発。標高1,490mの峠を越えるとフィニッシュまでは残り7km。ハイスピードダウンヒルが終わるとフラムルージュ手前で左に鋭くターンし、そこから約4%の緩斜面を駆け上がる。人工湖パヨル湖の手前にフィニッシュラインが引かれている。



7月9日(土)第8ステージ → コースマップ
ポー〜バニェール・ド・リュション 184km


ツール・ド・フランス2016第8ステージツール・ド・フランス2016第8ステージ image:A.S.O.ポーからルルドを経て山岳地帯に分け入ると、そこからは登りと下りしかない。後半120kmに登場するカテゴリー山岳は4つ。選手たちの前に現れるのは史上81回目の登場となる超級山岳コル・ドゥ・トゥールマレー(19km/7.4%)の長い長いヒルクライムだ。「ジャック・ゴデ記念賞」が設定された標高2,115mの頂上を越えたところでようやくレースは残り100km。壮大な景色の中を下るとすぐに次の峠道が始まる。

2級山岳ウルケット・ダンシザン(8.2km/平均4.9%)、1級山岳コル・ド・ヴァル・ルーロンアゼ(10.7km/平均6.8%)、1級山岳コル・ド・ペイルスルド(7.1km/平均7.8%)が休む間もなく登場する。いずれも極端に厳しい勾配とは言えない(7%前後)が、獲得標高差4,200mのボリュームが確実に集団にダメージを与える。最後の1級山岳ペイルスルドは勝利に向けた発射台。登りで勝負が決まらない場合、フィニッシュ地点バニェール・ド・リュションに向けたダウンヒルが勝負の分かれ道になるかもしれない。



7月10日(日)第9ステージ → コースマップ
ビエルハ・バルダラン(スペイン)〜アンドラ・アルカリス(アンドラ) 184.5km


ツール・ド・フランス2016第9ステージツール・ド・フランス2016第9ステージ image:A.S.O.ピレネー最終決戦の舞台は隣国スペインとアンドラ公国。フランス国内は1mmも走らない。ビエルハの街をスタートしてすぐ1級山岳ポール・ド・ラ・ボネギュア(13.7km/平均6.1%)の登りが始まり、春のボルタ・ア・カタルーニャの定番峠である1級山岳1級ポール・デル・カントを越えてアンドラ公国に向かう。残り55km地点で国境を越え、アンドラ中心部を過ぎてすぐに登場する2級山岳コート・ド・ラ・コメリャ(4.2km/平均8.2%)と1級山岳コル・ド・ベイシャリス(6.4km/平均8.5%)はいずれも10%オーバーの急勾配区間が連発する急峻な登り。なお、2015年ブエルタでは1級山岳コル・ド・ベイシャリスの麓でフルームが落車して舟状骨を骨折している。

一旦標高1,297mまで下り、そこから超級山岳アンドラ・アルカリス(10.1km/平均7.2%)のフィニッシュに向かって登坂開始。フィニッシュ地点としては今大会最も高い(ツール史上3番目)標高2,240mのスキー場に続く登りは7%前後の一定勾配。酸素の薄さとの格闘の末に、マイヨジョーヌは本命ライダーの手に渡る。



7月11日(月)休息日



7月12日(火)第10ステージ → コースマップ
エスカルデス=エンゴルダニ(アンドラ)〜ルヴェル 197km


ツール・ド・フランス2016第10ステージツール・ド・フランス2016第10ステージ image:A.S.O.アンドラ公国での休息日を終えたプロトンは足早にピレネーを後にする。スタート後すぐに始まる超級山岳ポルト・ダンヴァリラ(22.6km/平均5.5%)では逃げに乗るためのの熾烈なアタック合戦が繰り広げられるに違いない。標高2,408mのアンヴァリラ頂上は今大会最標高地点であり、先頭通過者には「アンリ・デグランジュ記念賞」が贈られる。頂上を越えてフランスに戻ると、そこからフィニッシュ地点ルヴェルまでは下り&平坦路。登りで脱落した選手には復帰の余地が残されている。

この日スプリンターを悩ますのは標高2,408mの超級山岳ではなく、フィニッシュ7km手前の3級山岳コート・ド・サンフェロル(1.8km/平均6.6%)だろう。ここで飛び出したアタッカーがスプリンターのチャンスを奪ってしまう可能性は十分にある。事実、同様のレイアウトで行われた2010年ツール第13ステージでアタックを成功させたアレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン)が独走勝利している。




text:Kei Tsuji in Saint-Lo, France