ローカルライダーのチャリンギの2日連続逃げとキッテルのスプリント2勝&マリアローザ獲得で幕を閉じたオランダでの3日間。主催者、チーム、プレス、観客の南イタリアへの移動が始まった。



出走サインを終えてチームバスに戻るトム・ドゥムラン(オランダ、ジャイアント・アルペシン)出走サインを終えてチームバスに戻るトム・ドゥムラン(オランダ、ジャイアント・アルペシン) photo:Kei Tsuji
スタート地点にやってきた山本元喜(NIPPOヴィーニファンティーニ)スタート地点にやってきた山本元喜(NIPPOヴィーニファンティーニ) photo:Kei Tsuji犬もしっかりピンク色犬もしっかりピンク色 photo:Kei Tsuji
エティックス・クイックステップはピンクのロードIDを着用エティックス・クイックステップはピンクのロードIDを着用 photo:Kei Tsujiボンネットに乗ってスタートを待つボンネットに乗ってスタートを待つ photo:Kei Tsuji
マリアロッサを着てインタビューを受けるマルセル・キッテル(ドイツ、エティックス・クイックステップ)マリアロッサを着てインタビューを受けるマルセル・キッテル(ドイツ、エティックス・クイックステップ) photo:Kei Tsuji


「フィニッシュまで45km残っていることを忘れてしまうほど4級山岳で全開アタックした」というマーティン・チャリンギ(オランダ、ロットNLユンボ)がこの日のヒーローだ。フィニッシュ地点アーネムの街に住む38歳のベテランが2日連続で逃げに乗った。

2015年にジャイアント・アルペシンがオランダからドイツに登録を切り替えたため、オランダ唯一のUCIワールドチームとなったロットNLユンボ。今大会唯一のオランダチームでもあり、初日からチームの黄色い旗を持って応援する観客の姿が目立つ。そんなオランダのすべての歓声を独り占めしてしまいそうなローカルライダーが、4級山岳で逃げメンバーを振り切ってしまうほど鋭い加速を見せた。

前日の2ポイントに3ポイントを加算してマリアアッズーラ(山岳賞ジャージ)を獲得したチャリンギ。「今日は昨日よりも沿道の歓声が大きかった。ホームの歓声だ。ヘルダーラント州でのジロ開幕は自分にとってプレゼントのようなもの。さすがに脚は痛んだけど、痛みさえ忘れるほどモチベーションは高かった」。

チャリンギは2015年をもって引退することも考えたというが、2016年6月までの半年だけ契約を更新した。6月15日〜19日にオランダで開催されるステルZLMツアー(UCI2.1)を最後に現役を引退予定。表彰台からわずか250mの場所にある自宅から駆けつけた息子スヴェンと娘ニーナをステージに乗せ、観客の盛り上げを煽り、最後に手を胸に当てて感謝した。



4級山岳でスプリントするマーティン・チャリンギ(オランダ、ロットNLユンボ)4級山岳でスプリントするマーティン・チャリンギ(オランダ、ロットNLユンボ) photo:Kei Tsuji
風力発電と乳牛とプロトン風力発電と乳牛とプロトン photo:Kei Tsuji
子供を連れて表彰台に上がったマーティン・チャリンギ(オランダ、ロットNLユンボ)子供を連れて表彰台に上がったマーティン・チャリンギ(オランダ、ロットNLユンボ) photo:Kei Tsuji


大方の予想通り、マルセル・キッテル(ドイツ、エティックス・クイックステップ)がマリアローザを獲得した。本人が宣言したわけではないけど、予告ホームランを打ったような感じ。

2014年にステージ2勝を飾っているキッテルはこれでステージ通算4勝目。これは1966年と1967年に勝利したルディ・アルティグに並ぶジロにおけるドイツ人最多勝だ。なお、ドイツ人によるマリアローザ着用は2006年のオラフ・ポラック以来、実に10年ぶりとなる。

春のメジャークラシックで0勝のエティックス・クイックステップが今シーズン25勝目。キッテルは世界で最も早くシーズン勝利数を二桁まで伸ばしている(10勝目)。イタリアに渡ってからはアップダウンコースが始まるが、5月11日の28歳の誕生日までマリアローザを守る可能性は高い。



ステージ2連勝を飾ったマルセル・キッテル(ドイツ、エティックス・クイックステップ)ステージ2連勝を飾ったマルセル・キッテル(ドイツ、エティックス・クイックステップ) photo:Kei Tsuji
豪快にプロセッコを飲むマルセル・キッテル(ドイツ、エティックス・クイックステップ)豪快にプロセッコを飲むマルセル・キッテル(ドイツ、エティックス・クイックステップ) photo:Kei Tsujiマリアローザを失ったトム・ドゥムラン(オランダ、ジャイアント・アルペシン)が身を屈めて表彰台の前を通過するマリアローザを失ったトム・ドゥムラン(オランダ、ジャイアント・アルペシン)が身を屈めて表彰台の前を通過する photo:Kei Tsuji
マリアローザを獲得したマルセル・キッテル(ドイツ、エティックス・クイックステップ)マリアローザを獲得したマルセル・キッテル(ドイツ、エティックス・クイックステップ) photo:Kei Tsuji


オランダ・ヘルダーラント州でのジロ開幕3日間は成功に終わった。大成功と言ってもいい。天候の良さも手伝って、昨年ユトレヒトで開幕したツール・ド・フランスと比べても遜色のない観客の入り。一度しか通らないコース沿道も盛大にデコレーションが施された。

その一方で、おそらく国外スタートを歓迎しているのは主催者の一部と、休息日が2日から3日に増える恩恵を受ける選手たちだけだ。チームスタッフとプレスに好意的に受け止められているとは言い難い。

しかもレースが再開するのは交通の便の良い北イタリアではなく、イタリア半島南端のカタンツァーロだ。選手や大会関係者は主催者が用意した翌朝9時のチャーター機でアムステルダムのスキポール空港からラメツィア・テルメ空港まで飛ぶ。

プレスはアムステルダムからナポリに入り、そこからレンタカーで現地入りするパターンが主流だ。そもそもオランダだけ取材するプレスや、逆にイタリアだけ取材するプレスも半数を占める。

チームの動き方は様々で、多くのUCIワールドチームはすでにカタンツァーロにチームカーやチームバスの別部隊を送り込んでいる。何しろオランダから南イタリアは2200km離れており、1日で走りきれる距離ではない。初日の個人タイムトライアル終了後すぐに宮島正典マッサーはTTバイクを乗せたバンで南イタリアに出発済みだ。

UCIプロコンチネンタルチームは車両の数が限られているため、第3ステージ終了後に陸路で南イタリアへ。NIPPOヴィーニファンティーニの福井響メカニックは第3ステージの朝にトラックで出発し、移動日にバイクとともに飛行機で到着する選手たちを現地で迎えるという。おそらく何事もなかったかのように第4ステージが南イタリアで始まるが、その裏にはスタッフの多大な努力と献身が隠されている。

text:Kei Tsuji in Arnhem, Netherlands