アジア選手権5日目は男子エリートのレースが行われた。強風により短縮となったレースは香港のチェン・キンローが逃げ切り優勝。追いかけた新城幸也が6秒差の2位、別府史之が3位に終わった。



スタート前の日本ナショナルチームスタート前の日本ナショナルチーム photo:Satoru.KATO大島市庁舎前をスタートしていく男子エリートの集団大島市庁舎前をスタートしていく男子エリートの集団 photo:MakotoAYANO


1週間に渡り伊豆大島で行われてきたアジア選手権。ロードレース種目の最終日は男子エリートだ。16の国と地域から50人が出走。日本からは、別府史之(トレック・セガフレード)、新城幸也(ランプレ・メリダ)、内間康平(ブリヂストンアンカー)、畑中勇介(チーム右京)の4人が出場した。

この日の伊豆大島は、初日を再現したような天気。晴れてはいるものの10m近い強風が吹き荒れ、海岸沿いコースの一部は波しぶきが路面を濡らす状態。

1周目、元町港から駆け上がるメイン集団1周目、元町港から駆け上がるメイン集団 photo:Hideaki.Takagi
当初の予定では、男子エリートは11.9kmのコースを14周する事になっていたが、強風が予想されていた事から前日の段階で13周とされていた。しかし予想以上の強風にレースのペースが上がらず、5周目に入ったところでさらに3周を減らす決定が下され、10周回119kmで争われることになった。

1周めに落車して集団復帰に力を使った畑中勇介(チーム右京)1周めに落車して集団復帰に力を使った畑中勇介(チーム右京) photo:MakotoAYANO2周目 集団前方に位置取る新城幸也(ランプレ・メリダ)2周目 集団前方に位置取る新城幸也(ランプレ・メリダ) photo:Satoru.KATO


まだ陽がのぼりきらない朝8時にスタートしたレースは1周目から動く。ムハマッド・ファウザン・アハマッド・ルトフィ(マレーシア)とタイ・グエン・チョン(ベトナム)の2人が飛び出し、メイン集団に約1分の差をつける。2人の逃げは3周目までに吸収され、再び大きなメイン集団で進行する。

5周目、6周目 飛び出したイランのガディル・ミズバニとミルサマ・ポルセイェディゴラコール5周目、6周目 飛び出したイランのガディル・ミズバニとミルサマ・ポルセイェディゴラコール photo:MakotoAYANOイラン2人の逃げを落ち着いて追う別府史之(トレック・セガフレード)率いる第2グループイラン2人の逃げを落ち着いて追う別府史之(トレック・セガフレード)率いる第2グループ photo:MakotoAYANO


5周目、イランのガディル・ミズバニとミルサマ・ポルセイェディゴラコールの2人が抜け出す。30秒遅れて新城とフェン・チュンカイ(台湾)が追いかけ、さらに30秒差で別府を含む8人の集団が続く。この動きで集団は細切れになって数名ずつの小集団に分かれ、メインと呼べる集団は無くなる。

7周目、先行するイランの2人に新城とフェンが合流し、先頭集団は4人に。1分遅れで別府を含む5人の集団が続く。別府の集団はその後先行する4人に合流し、先頭集団は9人になる。

7周目 新城幸也(ランプレ・メリダ)とフェン・チュンカイ(台湾)が合流して4人になった先頭集団7周目 新城幸也(ランプレ・メリダ)とフェン・チュンカイ(台湾)が合流して4人になった先頭集団 photo:Satoru.KATO8周目 単独アタックしたチェン・キンロー(香港)8周目 単独アタックしたチェン・キンロー(香港) photo:Satoru.KATO


8周目、先頭集団からチェン・キンローがアタック。後続に30秒差をつけて上り区間をクリアしていく。集団からは新城が単独で追走を開始。しかし、タイムトライアルでも優勝しているチェンの独走力に、15秒前後の差がなかなか縮まない。登りで差を詰める新城、しかしチェンは下りと平坦区間で逆に差を開く。エアロダイナミックなライディングポジションと、安定したペダリング。TT的な走りで新城との差を詰めさせない。

新城幸也との差を10秒以上に保って逃げるチェン・キンロー(香港)新城幸也との差を10秒以上に保って逃げるチェン・キンロー(香港) photo:MakotoAYANO
9周目 先行するチェン・キンロー(香港)を単独で追う新城幸也(ランプレ・メリダ)9周目 先行するチェン・キンロー(香港)を単独で追う新城幸也(ランプレ・メリダ) photo:Satoru.KATO2位集団に待機してライバルの動きをチェックする別府史之(トレック・セガフレード)2位集団に待機してライバルの動きをチェックする別府史之(トレック・セガフレード) photo:MakotoAYANO


最終周回の10周目。残り6km地点で、新城はチェンに5秒差まで詰め寄る。しかし海岸沿いの強風により、その後再び差が開き始めてしまう。残り1km地点で差は13秒。勝負は決まった。

9周目、この距離が縮まらない。チェン・キンロー(香港)を追う新城幸也(ランプレ・メリダ)9周目、この距離が縮まらない。チェン・キンロー(香港)を追う新城幸也(ランプレ・メリダ) photo:Hideaki.Takagi
ゴールの大島支庁前に単独で姿を現したチェン。後ろに誰もいない事を確認すると、右手人差し指を高々と掲げてゴールラインを越えた。その後方、がっくりうなだれたままの新城が2位のゴールラインを越える。その差は6秒だった。そして4分以上遅れて別府を先頭に5人の集団がゴールした。

アジア選タイトル獲得に歓喜するチェン・キンロー(香港)アジア選タイトル獲得に歓喜するチェン・キンロー(香港) photo:MakotoAYANOチェン・キンロー(香港)にわずか6秒及ばなかった新城幸也(ランプレ・メリダ)チェン・キンロー(香港)にわずか6秒及ばなかった新城幸也(ランプレ・メリダ) photo:MakotoAYANO


3位争いのスプリントを確実にものにする別府史之(トレック・セガフレード)3位争いのスプリントを確実にものにする別府史之(トレック・セガフレード) photo:MakotoAYANOレース後の新城幸也と別府史之が悔しげな表情を見せるレース後の新城幸也と別府史之が悔しげな表情を見せる photo:MakotoAYANO


チェンは3日前に行われたタイムトライアルでの優勝と合わせて2冠を達成した。「自分でも信じられない」と喜ぶ。「難しくハードなレースになると考えていたので、タイムトライアルに続いて勝てるとは思っていなかった。このレースに備えて厳しい練習をしてきた成果が出たと思う」。

アジア選手権ロードを制したチェン・キンロー(香港)アジア選手権ロードを制したチェン・キンロー(香港) photo:MakotoAYANO今後について聞くと「3月のトラックの世界選手権に出場し、もし出られるならオリンピックにも出場したい」と語ってくれた。

一方、2位の新城と3位の別府には笑顔がなかった。

悔しさを隠せない別府は言う。「僕もいつでも前に行ける準備ができていたのに。チームとしても完璧な走りだった」。

フミに労われた新城は、肩を落としながら話す。「申し訳ない。チェンとの10秒が縮まらなかった」。

「もしかしたら一緒に追いに行ければと思ったけれど、”たられば” はないからしょうがない。タクティクス的には僕が後ろに控えて、先頭を引かずに脚をためるということで良かったんです」とフミ。

誤算は?と訊かれたユキヤは「誤算は…、追いつかなかったこと。ただそれだけです。全開だったんです。悔しい。なんでレース途中に周回数を減らすんですか?」と、チェンの強さを認めつつも、レースの周回数がレースなかばに減らされたことに不満を漏らした。

■新城幸也のレース後インタビューより

ゴール後に別府史之とレースを振り返る新城幸也ゴール後に別府史之とレースを振り返る新城幸也 photo:Hideaki.Takagi― 銀メダルを手にしましたが、やはり満足はしていませんよね?

これは望んだメダルの色では全くないです。別府さんも参戦して、今までで一番強い体制で臨んだアジア選でした。展開的にも外さなかったのでレース自体は良かった。最後に僕が追いつけば勝てたんですが、追いつけなかったから負けたわけです。追いついていれば必ず勝てた。それだけですね。後ろの集団は別府さんがしっかり頭を獲ったし、僕が追いつけなかったことがすべての敗因です。ただそれだけですね。

― 日本チームとしての走りは事前の作戦通りだったんでしょうか?

チームはうまく機能していたんです。イランが主導権を握りたくて最初から仕掛けてきたのを、内間選手がすべてチェックしてくれた。イランを封じ込めて、関係ない逃げは行かして、作戦通り進みました。後半にイランとやり合おうと思っていたら、彼らは1時間で終わってしまった。

エリート男子表彰 優勝はチェン・キンロー(香港)エリート男子表彰 優勝はチェン・キンロー(香港) photo:MakotoAYANO事前にチェックしていたフェン・チュン・カイとチェン・キンローが行って、浅田さん(監督)とミーティングで注意していたメンバーがしっかりと前に入ったのも、予想通りの展開だった。チェンには、僕とフェンとイランに追いついてきたときにカウンターアタックで行かれてしまった。ロードレースのセオリー通り、まんまと決められてしまいました。

― 観客も皆、どこでチェンに追いつくのだろう?と観守っていたんですが。


早く捕まえたくて仕方なかったんです。別にタイミングを見て泳がせていたわけじゃないんです。彼と僕の速いところが違ったんです。彼は平坦で速くて、もう少し登りが長かったなら僕が追いついたでしょう。チェンには海岸沿いで離されました。風のなかでの独走力の無さが僕の課題ですね。力が足りなかった。一定のペースで走れずに苦しみました。

イランが前を逃げているときに、いきなりレースが3周減ったのが納得いかなかったですね。集団がひとつのときにそう告げられるのなら分かるんですが。思わず「そりゃないよ」と言いたくなりました。そうなるとすべてが狂いますから。焦った感があります。冷静になろうとはしましたが。展開に悪いところはなかったんです。

― ナショナルチームとしてうまく機能したレースだったでしょうか?

はい。こうして選ばれたみんながチームであるということを意識して、しっかり役割を果たしました。1月のレースだから、10、11月ぐらいからしっかり準備をしてきているんです。ジュニアなど準備がしっかりできた選手たちはちゃんとメダルを獲ったし、僕もジャパンカップのすぐ後から準備をしてこの大会に照準を合わせて来れたのは良かったんです。

ナショナルチームで戦うレースは、次はオリンピックと世界選。そこでも良い走りができればいいですね。

2位の悔しさを語る新城幸也(ランプレ・メリダ)2位の悔しさを語る新城幸也(ランプレ・メリダ) photo:MakotoAYANO― チェン・キンローは警戒する存在だったんですか?

もちろん警戒していました。タイ(ナランチャコシマ)でのアジア選はまっ平らなコースでしたが、一緒に走って強いのは知っていましたし、僕も全開でしたから。僕らとしてはイランとやり合って、後半勝負でやりたかったです。僕が独走して、ダメだったら別府さんのゴールスプリントにかけるつもりでした。でも、チェンの独走力に負けた。

あと3周あったらレースは分からなかったです。いきなり3周減ったのがすべて。やっぱり166.6kmのレースと119kmは違いますよ。

完走11人のサバイバルレースとなった男子エリート。日本勢も畑中が1周目に起きた落車に巻き込まれ、集団復帰を試みたももの4周目にリタイア。レース後半に遅れた内間も9周目にタイムアウトとなった。

前日のアンダー23同様、日本チームは作戦通りに動き、狙い通りにレースは進んだが、最後の詰めでつまづいてしまった。終盤の新城の追撃は鬼気迫るものがあった。しかし、「追いつけなかったこと。ただそれだけ」と言う通り、2位と3位という結果が今日のレースを端的に表している。

<結果>
男子エリート(119km)
1位 チェン・キンロー(香港) 3時間25分34秒 34.55km/h
2位 新城幸也(ランプレ・メリダ) +6秒
3位 別府史之(トレック・セガフレード) +4分38秒
4位 パク・サンフン(韓国)
5位 フェン・チュンカイ(台湾)
6位 キム・オクチョル(韓国)

DNF 内間康平(ブリヂストンアンカー)
DNF 畑中勇介(チーム右京)

レポート:加藤 智(インタビュー: 綾野 真)
写真:加藤 智、綾野 真、高木秀彰
photo&text:Satoru.KATO, Makoto.AYANO,Hideaki.TAKAGI