力が弱まっているスプリンターチームの失策か、それとも逃げグループの巧妙な作戦勝ちか----。集団スプリント向きの平坦コースで、スプリンターを僅差で打ち破る劇的な逃げ切りが決まった。ミッションを完遂したのはアントニー・ルー(フランス、フランセーズデジュー)。グランツール初出場で大金星を飾った。

逃げグループを形成するマルティン・マースカント(オランダ、ガーミン)やアントニー・ルー(フランス、フランセーズデジュー)逃げグループを形成するマルティン・マースカント(オランダ、ガーミン)やアントニー・ルー(フランス、フランセーズデジュー) photo:Cor Vos総合争いにおける重要な3ステージ(山岳2ステージと個人TT)を前に、今一度スプリンター向きの平坦ステージが用意された。

シウダ・レアルからタラベラ・デラ・レイナまでの193kmに登場するカテゴリー山岳はゼロ。テクニカルなコースでもなく、強風が吹き付けない限り波乱も起こりそうにない平穏なスプリンターステージになるハズ、だった。

ロード世界選手権の開催が近づいているため、リタイアする選手が続出。この日はダミアーノ・クネゴやアレッサンドロ・バッラン(イタリア、ランプレ)がスタートしなかった。


総合2位ヘーシンクと総合6位モスケラを巻き込む大きな落車が発生総合2位ヘーシンクと総合6位モスケラを巻き込む大きな落車が発生 photo:Unipublic
レース開始後すぐにアタックを成功させたのはマルケル・イリサール(スペイン、エウスカルテル)、リエーベ・ヴェストラ(オランダ、ヴァカンソレイユ)、フランシスコホセ・マルティネス(スペイン、アンダルシア)、アントニー・ルー(フランス、フランセーズデジュー)、マルティン・マースカント(オランダ、ガーミン)の5名。

落車で負った膝の傷の治療を受けるロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク)落車で負った膝の傷の治療を受けるロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク) photo:Unipublic逃げを試みた5名は、いずれも総合で1時間30分以上遅れている選手たち。総合争いに全く影響しないこの5名の逃げ。しかし独走力のある選手が揃っているとして危機感を感じたスプリンターチームは、タイム差が7分まで広がる前にメイン集団のコントロールを開始した。

リクイガス、チームコロンビア・HTC、ミルラムの3チームの集団牽引により、タイム差は5分を推移。大集団の追い上げに有利な平坦コースで、5分のリードは決して大きくはない。

レース終盤にかけてペースを上げるリエーベ・ヴェストラ(オランダ、ヴァカンソレイユ)やマルティン・マースカント(オランダ、ガーミン)レース終盤にかけてペースを上げるリエーベ・ヴェストラ(オランダ、ヴァカンソレイユ)やマルティン・マースカント(オランダ、ガーミン) photo:Unipublicメイン集団では総合2位ロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク)と総合6位エセキエル・モスケラ(スペイン、シャコベオ・ガリシア)を巻き込む落車が発生。再スタートを切ったが、2人とも膝と肘に傷を負ってしまった。

やがて逃げグループとメイン集団のタイム差は、ゴール50km手前で4分、40kmで3分40秒、30kmで4分、20kmで3分。レース前半を抑え気味で走った逃げグループは、後半にかけてペースアップ。タイム差が縮まらないことに焦りを感じ始めたスプリンターチームは、ローテーションメンバーを増強してスピードを上げた。

メイン集団のペースを上げるチームコロンビア・HTC、リクイガス、ミルラムの3チームメイン集団のペースを上げるチームコロンビア・HTC、リクイガス、ミルラムの3チーム photo:Unipublicしかしタイム差が縮まらない。猛烈な勢いで追い上げるスプリンターチームに対し、巧妙なペース配分で力を貯めていた逃げグループがハイスピードを維持。ラスト10kmの時点でタイム差は1分15秒。際どいタイム差のハイスピード走行が続いた。

ラスト6kmでマースカントがアタックを仕掛けると、それまで快調に回っていた逃げグループのローテーションが止まった。協調体制が崩れた逃げグループから、ラスト3kmでマースカントが抜け出すことに成功し、単独で追走したルーがゴール1km手前で合流。他の逃げメンバーが大集団に飲み込まれるその前で、ルーがマースカントを振り切って独走を開始した。

スプリンターチームがペースを上げるメイン集団は一列棒状にスプリンターチームがペースを上げるメイン集団は一列棒状に photo:Unipublicリクイガスとチームコロンビア・HTCを先頭にスプリント体勢に入ったメイン集団。しかし粘り強く踏み続けたルーが先頭で最終ストレートに現れた。後方からロケットの如く飛び出してくるスプリンターたちを尻目に、ルーが先頭のままゴール。187kmに及ぶ逃げの末に、ルーがタイム差ゼロで逃げ切った。

「メイン集団が追いついてこないことを確信していたから、後ろを振り返ることなく、ラスト数キロになってからも落ち着いて走れた。チーム監督の指示も明確に聞けていたし、ずっと他の逃げメンバーの動きに警戒していた。とにかく僕に有利な展開に持ち込めたんだ」と、プロ2年目の22歳ながら落ち着いた走りを見せたルー。

ゴールラインを過ぎてようやく手を挙げるアントニー・ルー(フランス、フランセーズデジュー)ゴールラインを過ぎてようやく手を挙げるアントニー・ルー(フランス、フランセーズデジュー) photo:Unipublicスタジエールとしてフランセーズデジューに所属していた2007年に、リエージュ〜バストーニュ〜リエージュのエスポワール(U23)で2位に入ったルーは、その才能が認められ、昨年同チームでプロデビューした。プロ1年目は勝利数ゼロに終わったが、今年4月のシルキュイ・デ・ラ・サルトでステージ優勝。フランス選手権ではロードレースで3位、タイムトライアルで10位に入った。

先月行なわれたGPウエストフランス・プルエーでも終盤に先頭グループに追いつく荒技で4位。順調に成績を重ね、このブエルタでグランツール初出場を果たした。「これで3週間のレースも走れることを証明出来たと思う。疲労によってどうにもならない日も数日あったけど、コンディションはずっと良くて、今日ようやく力を発揮出来たんだ」。

派手にシャンパンを開けるアントニー・ルー(フランス、フランセーズデジュー)派手にシャンパンを開けるアントニー・ルー(フランス、フランセーズデジュー) photo:Cor Vosフランセーズデジューのグランツール勝利は、2007年のツール・ド・フランス第18ステージ(カザールが逃げ切り)以来。ヒストリカルレースでの勝利は、今年パリ〜ニース第5ステージ(ロワが逃げ切り)に続く2勝目だ。

後続の集団スプリントで先頭を穫り、2日連続でステージ2位に入ったのはウィリアム・ボネ(フランス、Bboxブイグテレコム)。ルーが失速していればステージ優勝に手が届いていたはずだ。イスマエル・モッティエ監督は「悔しい結果だ。しかしボネはトップスプリンターの一員であることを見せつけてくれた。マドリードで再び勝利を狙う」とコメント。最終ステージでの巻き返しを図る。

選手/監督のコメントはフランス・レキップ紙、ならびにレース公式サイト、Bboxブイグテレコムの公式サイトより。

ブエルタ・ア・エスパーニャ2009第17ステージ結果
1位 アントニー・ルー(フランス、フランセーズデジュー)4h28'14"
2位 ウィリアム・ボネ(フランス、Bboxブイグテレコム)
3位 アンドレ・グライペル(ドイツ、チームコロンビア・HTC)
4位 ダニエーレ・ベンナーティ(イタリア、リクイガス)
5位 フランシスコホセ・パシェコ(スペイン、コンテントポリス)
6位 ユルゲン・ルーランズ(ベルギー、サイレンス・ロット)
7位 セバスティアン・イノー(フランス、アージェードゥーゼル)
8位 ハビエル・ベニテス(スペイン、コンテントポリス・アンポ)
9位 エンリーコ・ガスパロット(イタリア、ランプレ)
10位 ボルト・ボジッチ(スロベニア、ヴァカンソレイユ)

マイヨオロ(個人総合成績)
1位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、ケースデパーニュ)74h27'48"
2位 ロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク)+31"
3位 サムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル)+1'10"
4位 イヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス)+1'28"
5位 カデル・エヴァンス(オーストラリア、サイレンス・ロット)+1'51"
6位 エセキエル・モスケラ(スペイン、シャコベオ・ガリシア)+1'54"
7位 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、ケースデパーニュ)+5'53"
8位 パオロ・ティラロンゴ(イタリア、ランプレ)+6'34"
9位 トーマス・ダニエルソン(アメリカ、ガーミン)+8'28"
10位 ファンホセ・コーボ(スペイン、フジ・セルヴェット)+10'45"

モンターニャ(山岳賞)
1位 ダヴィ・モンクティエ(フランス、コフィディス)170pts
2位 ダビ・デラフエンテ(スペイン、フジ・セルヴェット)89pts
3位 ピーター・ウェーニング(オランダ、ラボバンク)

プントス(ポイント賞)
1位 アンドレ・グライペル(ドイツ、チームコロンビア・HTC)121pts
2位 ダニエーレ・ベンナーティ(イタリア、リクイガス)81pts
3位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、ケースデパーニュ)80pts

コンビナーダ(複合賞)
1位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、ケースデパーニュ)10pts
2位 ロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク)11pts
3位 サムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル)21pts

チーム総合成績
1位 シャコベオ・ガリシア 223h12'13"
2位 ケースデパーニュ +20'51"
3位 アスタナ +27'47"

リタイア(DNS=未出走・DNF=途中リタイア)
DNS ダミアーノ・クネゴ(イタリア、ランプレ)
DNS アレッサンドロ・バッラン(イタリア、ランプレ)
DNS ワウテル・ウェイラント(ベルギー、クイックステップ)
DNS スチュアート・オグレディ(オーストラリア、サクソバンク)
DNF アレクサンドル・エフィムキン(ロシア、アージェードゥーゼル)


text:Kei Tsuji
photo:Cor Vos, Unipublic

最新ニュース(全ジャンル)