3月29日、ベルギー・フランドル地方には強風が吹き荒れた。バイクを風上に倒さなければ転倒してしまうほどの風を切り裂いて、精鋭グループの中からタイミングよくアタックしたルーカ・パオリーニ(イタリア、カチューシャ)が栄冠をつかんだ。



バイクを風上に倒しこみながらの走行バイクを風上に倒しこみながらの走行 photo:Tim de Waele


レース前半に落車したラルスイティング・バク(デンマーク、ロット・ソウダル)らレース前半に落車したラルスイティング・バク(デンマーク、ロット・ソウダル)ら photo:Tim de Waele雨と強風を示す天気予報は間違っていなかった。デインセのスタート地点に集まった選手たちを迎えた気温10度の雨。悪天候は回復することなく、レースに大きな影響を及ぼすことになる。

悪天候のフランドル地方を走る追走グループ悪天候のフランドル地方を走る追走グループ photo:Tim de Waeleアレックス・ダウセット(イギリス、モビスター)やパヴェル・ブラット(ロシア、ティンコフ・サクソ)ら7名がレース序盤に飛び出したものの、北海に近づくとともに増す風の勢いが逃げを苦しめる。再び内陸に進路をとると、最大風速25mという猛烈な風が選手たちを真横から襲い始めた。

長時間先頭を独走したユルゲン・ルーランズ(ベルギー、ロット・ソウダル)長時間先頭を独走したユルゲン・ルーランズ(ベルギー、ロット・ソウダル) photo:Tim de Waele樹々をブンブンと揺らす横風によって、まっすぐ走ることが出来ずに沿道にはじき出される選手が続出。側溝に投げ出された選手たちの中にはヘルト・ステーグマンス(ベルギー、トレックファクトリーレーシング)やラルスイティング・バク(デンマーク、ロット・ソウダル)の姿も。

選手たちは懸命にバイクを風上に倒し、斜めにエシュロンを形成する。横風奇襲作戦ではなく集団後方で走っていた選手が為す術なく千切れるような地獄絵図。いつしか逃げグループは捕らえられ、集団はおよそ6つに分断された。

25名に絞られた先頭集団の中に残れなかったナセル・ブアニ(フランス、コフィディス)、アンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ソウダル)、アルノー・デマール(フランス、FDJ)、グレッグ・ファンアフェルマート(ベルギー、BMCレーシング)は第2集団を形成して追走。マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、エティックス・クイックステップ)は悪いタイミングでパンクに遭って脱落してしまう。

フィニッシュまで100kmを残した早いタイミングで混沌とした状態が続いたが、第2集団と第3集団が追いついて集団が60名ほどに膨れ上がったことで一旦レースは落ち着く。単独アタックを仕掛けたマーティン・チャリンギ(オランダ、ロットNLユンボ)の動きを集団は静観。チャリンギが1分リードで「バネルベルグ」「ケンメルベルグ」「モンテベルグ」を含む周回に入った。



勝負を決めたゲラント・トーマス(イギリス、チームスカイ)を含むグループ勝負を決めたゲラント・トーマス(イギリス、チームスカイ)を含むグループ photo:Tim de Waele
横風に煽られて落車したゲラント・トーマス(イギリス、チームスカイ)横風に煽られて落車したゲラント・トーマス(イギリス、チームスカイ) photo:Tim de Waele


「ケンメルベルグ」で遅れを見せるルーカ・パオリーニ(イタリア、カチューシャ)「ケンメルベルグ」で遅れを見せるルーカ・パオリーニ(イタリア、カチューシャ) photo:Tim de Waeleエティックス・クイックステップが指揮権をもつ集団からユルゲン・ルーランズ(ベルギー、ロット・ソウダル)が飛び出し、単独でチャリンギを抜き去って先頭独走開始。

イーペルの街を通過するゲラント・トーマス(イギリス、チームスカイ)らイーペルの街を通過するゲラント・トーマス(イギリス、チームスカイ)ら photo:Tim de Waeleその後方では、フィニッシュまで67kmを残した横風区間で抜け出したステイン・ファンデンベルフ(ベルギー、エティックス・クイックステップ)に、ダニエル・オス(イタリア、BMCレーシング)とゲラント・トーマス(イギリス、チームスカイ)、セプ・ファンマルク(ベルギー、ロットNLユンボ)、イェンス・デブシェール(ベルギー、ロット・ソウダル)が次々とブリッジを成功させる。

残り6kmでアタックするルーカ・パオリーニ(イタリア、カチューシャ)残り6kmでアタックするルーカ・パオリーニ(イタリア、カチューシャ) photo:Tim de Waele多くの有力チームがこの追走グループに選手を送り込んだため、コントロールを失ったメイン集団のペースは徐々に落ちる。決定的な動きと睨んだルーカ・パオリーニ(イタリア、カチューシャ)とニキ・テルプストラ(オランダ、エティックス・クイックステップ)が出遅れながらも追走グループに加わり、先頭ルーランズを7名が2分差で追走する展開となる。

独走でフィニッシュするルーカ・パオリーニ(イタリア、カチューシャ)独走でフィニッシュするルーカ・パオリーニ(イタリア、カチューシャ) photo:Tim de Waele横風に吹き飛ばされるようにトーマスが落車するシーンも見られたが、勝負までに問題なく追走グループに復帰。後方にエーススプリンターを残しているパオリーニと、前方にチームメイトを逃しているデブシェールは追走グループのローテーションに加わらない。一方、メイン集団のペースは一向に上がらなかった。

ヘント〜ウェヴェルヘム最大の難易度を誇る「ケンメルベルグ」でテルプストラがペースアップを試みる。パオリーニとオスが追走グループから脱落してしまったが、パオリーニは自分のペースを守ってグループに復帰する。

最後のハードル「モンテベルグ」を越えた時点で先頭ルーランズと追走6名は1分差。勝利に向けて牽制とアタックが始まる残り18kmで、そこまで奮闘していた先頭ルーランズは捕まった。

アタックによってテルプストラ&パオリーニ、トーマス&ファンデンベルフ、ファンマルク&デブシェールという3組に分裂したが、残り7kmで再び先頭は6名に。すると残り6kmでパオリーニがさりげなく先頭に立ち、ライバルたちとの距離が開いたところで踏み始めた。

お互いの顔を見合う牽制の隙をついて15秒のリードを築いたパオリーニが、遅れて追走したテルプストラとトーマスを振り切る。がむしゃらにペダルを回し続けた38歳のベテランが、独走でメジャークラシックのフィニッシュラインを初めて先頭で駆け抜けた。

「スプリントでは勝ち目がないので独走に持ち込む必要があった。残り6kmを切ってからまずは50%の力でアタックして、その他の選手の反応を見てから100%の力でアタックした。運が味方していたと思う」とパオリーニは勝負が決まった瞬間を振り返る。

ミラノ〜サンレモでアレクサンダー・クリストフ(ノルウェー)の良きアシストとして活躍し、自身も好調のままクラシックシーズンに挑んでいたパオリーニ。2002年にマペイでプロ入りし、クイックステップ、リクイガス、アックア・エ・サポーネを経て2011年からカチューシャで走るパオリーニは2007年ロンド・ファン・フラーンデレン3位、2008年ヘント〜ウェヴェルヘム6位、2012年ロンド・ファン・フラーンデレン7位、2013年オンループ・ヘットニュースブラッド優勝という成績を残している。ジロ・デ・イタリアとブエルタ・ア・エスパーニャでもステージ優勝経験のあるベテランだ。

「好調のアレックス(クリストフ)をアシストすることだけを考えていたので、この勝利は予想していなかった。でもある時点で彼は調子が思わしくなく、代わりに勝利を狙って欲しいと告げてきた。とにかく悪天候でハードな1日だった。自分も2回落車して、2回バイクを交換したほどだ。でも最後まで勝負に絡むためのパワーは残っていた。これがキャリア最高の勝利かもしれない。スーパーハッピーだ」。長年トップレースで活躍するパオリーニが、歴代最年長優勝者としてヘント〜ウェヴェルヘムの歴史に名前を刻んだ。

なお、6分54秒遅れの集団スプリントでペーター・サガン(スロバキア、ティンコフ・サクソ)を下したクリストフが9位に。近年稀に見る悪条件のなか行われたヘント〜ウェヴェルヘムの完走者は39名だった。

選手コメントはチーム公式サイトより。



ヘント〜ウェヴェルヘム表彰台 2位テルプストラ、1位パオリーニ、3位トーマスヘント〜ウェヴェルヘム表彰台 2位テルプストラ、1位パオリーニ、3位トーマス photo:Tim de Waele


ヘント〜ウェヴェルヘム2015結果
1位 ルーカ・パオリーニ(イタリア、カチューシャ)              6h20’55”
2位 ニキ・テルプストラ(オランダ、エティックス・クイックステップ)        +11”
3位 ゲラント・トーマス(イギリス、チームスカイ)
4位 ステイン・ファンデンベルフ(ベルギー、エティックス・クイックステップ)    +18”
5位 イェンス・デブシェール(ベルギー、ロット・ソウダル)             +26”
6位 セプ・ファンマルク(ベルギー、ロットNLユンボ)                +40”
7位 ユルゲン・ルーランズ(ベルギー、ロット・ソウダル)             +1’51”
8位 ダニエル・オス(イタリア、BMCレーシング)                 +4’15”
9位 アレクサンダー・クリストフ(ノルウェー、カチューシャ)           +6’54”
10位 ペーター・サガン(スロバキア、ティンコフ・サクソ)

text:Kei Tsuji
photo:Tim de Waele