マウントバーカーにやってきた集団の中にマルセル・キッテル(ドイツ、ジャイアント・アルペシン)の姿はなかった。残り200mで大落車が発生した危険なスプリントで、スティール・ヴォンホフ(オーストラリア、UniSAオーストラリア)がスピードバトルを制した。



BMCレーシングを先頭に2級山岳セリックスヒルを登るプロトンBMCレーシングを先頭に2級山岳セリックスヒルを登るプロトン photo:Kei Tsuji
「スプリントに残りたい」と語っていたマルセル・キッテル(ドイツ、ジャイアント・アルペシン)だったが「スプリントに残りたい」と語っていたマルセル・キッテル(ドイツ、ジャイアント・アルペシン)だったが photo:Kei Tsuji絞れているリッチー・ポート(オーストラリア、チームスカイ)の脚絞れているリッチー・ポート(オーストラリア、チームスカイ)の脚 photo:Kei Tsuji
仲良く揃ってインタビューを受けるローハン・デニスとカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシング)仲良く揃ってインタビューを受けるローハン・デニスとカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシング) photo:Kei Tsuji


山岳賞のスポンサーでもあるスバルが全ての車両を提供山岳賞のスポンサーでもあるスバルが全ての車両を提供 photo:Kei Tsujiアデレードの海側、海水浴客が詰め掛けるビーチタウンのグレネルに総合リーダーの証であるオークルジャージを着て登場したのはローハン・デニス(オーストラリア、BMCレーシング)だ。地元アデレード出身&在住の24歳が、13歳年上のカデル・エヴァンス(オーストラリア)とともに仲良く出走サインに向かった。

逃げるピーター・ケノー(イギリス、チームスカイ)やジャック・ボブリッジ(オーストラリア、UniSAオーストラリア)逃げるピーター・ケノー(イギリス、チームスカイ)やジャック・ボブリッジ(オーストラリア、UniSAオーストラリア) photo:Kei Tsujiエヴァンスに見守られながらデニスは笑顔でインタビューに答えるものの、「勝ちたい、けど…」と歯切れが悪く、エヴァンスに花道を飾らせてあげたい気持ちが見え隠れする。BMCレーシングの戦略はデニスとエヴァンスの総合ワンツー。逆転を狙うチームスカイが横風区間でサプライズアタックを仕掛けるのではないかという憶測が広がる中、144.5kmの第4ステージが始まった。

2級山岳セリックスヒルに差し掛かるメイン集団2級山岳セリックスヒルに差し掛かるメイン集団 photo:Kei Tsuji片側2車線の高速道路を南下するうちに先頭では4名の逃げグループが形成される。前日にリーダージャージを失ったジャック・ボブリッジ(オーストラリア、UniSAオーストラリア)とピーター・ケノー(イギリス、チームスカイ)、セドリック・ピノー(フランス、FDJ)、マイケル・ヘップバーン(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)がエスケープ。

2〜3分のアドバンテージを得た逃げは、ボブリッジを先頭にこの日唯一の2級山岳セリックスヒル(44km地点)を通過する。10ポイントを獲得したボブリッジは暫定で山岳賞トップに返り咲き。目的を達成したボブリッジは一人静かにペースを弱め、メイン集団へと戻って行った。

ボブリッジ脱落後、逃げグループは協調体制を築けずに分裂。独走したピノーもフィニッシュまで60kmを残して吸収される。するとスプリントポイント(89km地点)でバトルが繰り広げられ、総合10位のダリル・インピー(南アフリカ、オリカ・グリーンエッジ)が先頭通過。貴重なボーナスタイム3秒を獲得したインピーは総合4位にジャンプアップした。



2級山岳セリックスヒルを登るプロトン2級山岳セリックスヒルを登るプロトン photo:Kei Tsuji
新たに逃げグループを形成するピーター・セリー(ベルギー、エティックス・クイックステップ)ら新たに逃げグループを形成するピーター・セリー(ベルギー、エティックス・クイックステップ)ら photo:Kei Tsujiランプレ・メリダが牽引するメイン集団ランプレ・メリダが牽引するメイン集団 photo:Kei Tsuji
並んで走るローハン・デニスやカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシング)並んで走るローハン・デニスやカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシング) photo:Kei Tsuji


晴れ渡ったアデレード南部の丘陵地隊を走る晴れ渡ったアデレード南部の丘陵地隊を走る photo:Kei Tsuji早めの逃げ吸収によって安定を失ったメイン集団は再び活性化。続いてピーター・セリー(ベルギー、エティックス・クイックステップ)、マキシム・ベルコフ(ロシア、カチューシャ)、ルスラン・トレバイェフ(カザフスタン、アスタナ)が先行したものの、BMCレーシングに代わってスプリンターチームが主導権を握ったメイン集団はスピードを弱めなかった。

スプリント中に落車が発生し、ホイールが宙を舞うスプリント中に落車が発生し、ホイールが宙を舞う photo:Kei Tsujiやがてモビスターによる本格的なペースアップが始まるとタイム差は縮小し、同時にメイン集団のサイズも縮小する。スタート前に「調子は良いよ。スプリントに残りたい。でもチームの最優先事項はドゥムランの総合成績なんだ」と語っていたキッテルは集団から脱落。先頭を逃げるセリーやベルコフは残り9kmで集団に飲み込まれていく。

スプリント勝利を飾ったスティール・ヴォンホフ(オーストラリア、UniSAオーストラリア)スプリント勝利を飾ったスティール・ヴォンホフ(オーストラリア、UniSAオーストラリア) photo:Kei Tsujiカウンターアタックでラース・ボーム(オランダ、アスタナ)とルイスレオン・サンチェス(スペイン、アスタナ)、ゴルカ・イサギーレ(スペイン、モビスター)が飛び出したものの、逃げの試みは短命に終わる。IAMサイクリングやオリカ・グリーンエッジ、トレックファクトリーレーシング、FDJ率いる集団が全てのアタックを封じながら残り1kmアーチを駆け抜けた。

壊れたバイクを背負って歩くラース・ボーム(オランダ、アスタナ)壊れたバイクを背負って歩くラース・ボーム(オランダ、アスタナ) photo:Kei Tsujiリードアウトトレインを組んで支配するチームは最後まで現れない。リードアウトを終えて後ろに下がる選手とスプリントに向けて前に上がる選手が交錯しながら各チーム入り乱れた状態で始まったスプリントバトル。集団前方を走っていたロレンソ・マンジン(フランス、FDJ)の転倒をきっかけに、連鎖的に落車の波が広がった。

フィニッシュ後すぐにローラーでダウンするリッチー・ポート(オーストラリア、チームスカイ)フィニッシュ後すぐにローラーでダウンするリッチー・ポート(オーストラリア、チームスカイ) photo:Kei Tsuji落車を免れたリュトガー・ゼーリッヒ(ドイツ、カチューシャ)やジャンニ・メールスマン(ベルギー、エティックス・クイックステップ)が好位置でスプリントを開始したものの、登り基調の最終ストレートで伸びたのはオーストラリアクリテリウムチャンピオンのヴォンホフだった。UniSAオーストラリアの一員として出場している27歳がUCIワールドツアーレース初勝利を飾った。

ガーミンの一員として出場した2011年と2013年のジャパンカップクリテリウムで勝利(2014年2位)し、日本でもおなじみの存在のヴォンホフが勝利。「ジャック・ボブリッジがスプリントまで導いてくれた。彼はずっと『落ち着け、落ち着け』と言い続け、良いタイミングで良いポジションまで引き上げてくれた。レンショーの後ろをマークするよう言われて、その通りスプリントしたら勝利に繋がったんだ」と勝利を振り返る。

2015年、イギリスのUCIコンチネンタルチームであるNFTOに所属するヴォンホフは「キャノンデールとガーミンの合併によって行き場を失ったけど、またUCIワールドツアーで走りたいという思いが強い。この勝利が世界の舞台への復帰に役立てばいいけど」とコメントする。UniSAオーストラリアはここまで4戦2勝。トップレースでの経験豊富なボブリッジとヴォンホフがレースを引っ張り、若手のジャック・ヘイグ(オーストラリア)が総合7位につけている。

「チームの走りは完璧だった。何が起こっても心配いらないような安心感に包まれていた。ダリル・インピーがボーナスタイムを獲得して総合で13秒差にまで迫ったけど、大きな問題はないよ。このままワンツー体制のままレースを終えたい」と語るのは、落車を避けてフィニッシュしたデニス。総合有力選手はいずれも大きな怪我を負うことなくフィニッシュラインに辿り着いている。

翌日は1級山岳ウィランガヒルにフィニッシュする大会最大の山場。BMCレーシングとチームスカイを中心にした山岳バトルに注目だ。



UCIワールドツアーレース初勝利を飾ったスティール・ヴォンホフ(オーストラリア、UniSAオーストラリア)UCIワールドツアーレース初勝利を飾ったスティール・ヴォンホフ(オーストラリア、UniSAオーストラリア) photo:Kei Tsuji総合首位を守ったローハン・デニス(オーストラリア、BMCレーシング)総合首位を守ったローハン・デニス(オーストラリア、BMCレーシング) photo:Kei Tsuji



ツアー・ダウンアンダー2015第4ステージ結果
1位 スティール・ヴォンホフ(オーストラリア、UniSAオーストラリア)    3h24’28”
2位 ダリル・インピー(南アフリカ、オリカ・グリーンエッジ)
3位 ワウテル・ウィッパート(オランダ、ドラパック)
4位 ハインリッヒ・ハウッスラー(オーストラリア、IAMサイクリング)
5位 サミュエル・ドゥムラン(フランス、AG2Rラモンディアール)
6位 ニッコーロ・ボニファツィオ(イタリア、ランプレ・メリダ)
7位 リュトガー・ゼーリッヒ(ドイツ、カチューシャ)
8位 ジャンニ・メールスマン(ベルギー、エティックス・クイックステップ)
9位 エウジェニオ・アラファチ(イタリア、トレックファクトリーレーシング)
10位 クーン・デコルト(オランダ、ジャイアント・アルペシン)

個人総合成績
1位 ローハン・デニス(オーストラリア、BMCレーシング)         13h41’34”
2位 カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシング)           +07”
3位 トム・ドゥムラン(オランダ、ジャイアント・アルペシン)          +09”
4位 ダリル・インピー(南アフリカ、オリカ・グリーンエッジ)          +13”
5位 リッチー・ポート(オーストラリア、チームスカイ)             +15”
6位 マイケル・ロジャース(オーストラリア、ティンコフ・サクソ)
7位 ジャック・ヘイグ(オーストラリア、UniSAオーストラリア)
8位 マキシム・ブエ(フランス、エティックス・クイックステップ)
9位 ルーベン・フェルナンデス(スペイン、モビスター)
10位 ドメニコ・ポッツォヴィーヴォ(イタリア、AG2Rラモンディアール)

ポイント賞
ダリル・インピー(南アフリカ、オリカ・グリーンエッジ)

山岳賞
ジャック・ボブリッジ(オーストラリア、UniSAオーストラリア)

ヤングライダー賞
ローハン・デニス(オーストラリア、BMCレーシング)

チーム総合成績
BMCレーシング

text&photo:Kei Tsuji in Adelaide, Australia

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