3日続いたピレネー山岳最終日。ツールではいつもピレネー山岳ステージのスタート&ゴール地点となるポーから、名勝負を生み出してきたトゥールマレー峠を越えてオタカムへ。総合争いにおいては土曜に控えた個人TTとともに残された大きな2つのチャンスのひとつ。

総合、ステージ、山岳賞争い、あるいはツール完走のそれぞれの目標をもつ選手たちを、前日に続いて短くも厳しいステージが迎えた。



色の違いを感じるフランスの応援とバスクの応援

20人の逃げは一路ツールマレー峠へと向かう20人の逃げは一路ツールマレー峠へと向かう photo:Makoto.AYANO
ティボー・ピノとFDJ.fr、フランス人の応援をする、ちょっとかわいい応援ティボー・ピノとFDJ.fr、フランス人の応援をする、ちょっとかわいい応援 photo:Makoto.AYANO順番が変わって読みにくいが地元出身のマチュー・ラダニュ(FDJ.fr)の応援団(多分)順番が変わって読みにくいが地元出身のマチュー・ラダニュ(FDJ.fr)の応援団(多分) photo:Makoto.AYANOオタカムの沿道にはバスク地方からちょっと陽気なファンが集結したオタカムの沿道にはバスク地方からちょっと陽気なファンが集結した photo:Makoto.AYANOポーを発ってから山岳地帯へ向かうまでの沿道にはフランス人選手への応援が目立つ。ピノ、ペロー、バルデ、そしてヴォクレールにロラン。地元のマチュー・ラダニュ(FDJ.fr)への応援も目立った。世界最高峰のレースであるツールは、同時にフランス人にとっての最大のスポーツイベントでもある。

自国の選手が活躍するツールとなって、近年はのどかさだけになりがちだった応援が、ここへきて熱を帯びている。しかし山村独特の変わらぬ愛嬌とのどかさを保ちながら。

20人の逃げ集団を泳がせながらも、今日もメイン集団の先頭にはアスタナがたち、差を大きく開かせないようにコントロールしている。ニーバリを守りながら走るアスタナの総合力は、連日のハードワークにもまったく崩れない。バルベルデ擁するモビスター、ピノのFDJ.fr、ペローのAG2Rが隊列を組んでアスタナに続く。いずれもトラブルを排し、エースを守る布陣だ。

トゥールマレー峠を越えてオタカムへ入るとバスクの旗が目立つようになる。アタックしたミケル・ニエベ(スペイン、チームスカイ)は、家がオタカムから150kmほどのところにあるという地元選手。エウスカルテルは昨年チームが消滅し、沿道からオレンジ色のTシャツは消えたけれど、バスクの旗で応援するファンは健在。黒と青のジャージに着替えると急に存在感が小さくなったニエベだが、ファンは変わらずに覚えている。

「チームがステージ狙いに切り替えてから、チャンスがあるのはこのステージだと思っていた。崩していた体調も持ち直した」というニエベ。生真面目ながらも陽気でユニークなバスク人観客たちが待つオタカムは、ニエベの逃げの知らせに盛り上がる。

そしてアイマル・スベルディア(スペイン、トレックファクトリーレーシング)が健闘していると聞いて喜ぶ。息の長い選手スベルディアも、かつてはエウスカルテルを代表した選手だ。

バスク人観客を沸かせたミケル・ニエベ(チームスカイ)だがオタカムでは24位に終わるバスク人観客を沸かせたミケル・ニエベ(チームスカイ)だがオタカムでは24位に終わる photo:Makoto.AYANO
ニエベがニーバリに捕まったと聞いて、オタカムに集結していたバスクファンたちは落胆。そしてバスク人でない観客たちは熱狂するまでもなく、落ち着いてニーバリがクライミングする姿を見つめた。決してツールに冷めているわけでないが、独走するニーバリの姿にただ感嘆の視線を送る。

スリリングなトップ争いはすでに無い。今ツールに君臨するニーバリの強さを改めて確認するかのようなステージだった。ライバルたちとは総合タイムでもはや7分以上の差。個人TTで”悪い日”が来たとしても、もはや安泰な差だ。

ステージ4勝目を目指しオタカムでアタックしたヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)ステージ4勝目を目指しオタカムでアタックしたヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ) photo:Makoto.AYANOニエベを勢い良く追い抜いたヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)ニエベを勢い良く追い抜いたヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ) photo:Tim de Waele


ニーバリがツールの皇帝的な走りで通り過ぎていってからは、がぜん盛り上がるのが総合上位争い。ピノ、ペロー、バルベルデ、ヴァンガーデレンらのバトルだ。表彰台をめぐる僅差のタイムを争うテールツゥーノーズ、ドロップ&カムバックのつば競り合いはホットだった。

火曜に悪い日を迎えて大きくロスしたヴァンガーデレンが今日は好調。下りでチャレンジングなアタックを見せたバルベルデが一転オタカムでクラック。ペローは荒い息づかいが感じ取れるほど苦しんでいるが、脱落する気配を見せない堅実な走り。上り勾配が厳しくなるほど走りに輝きを増すバルデは、しかし自分ではアタックせずに今日もペローのアシストに徹する。ピノは果敢にアタックするものの、バルベルデ以外のライバルたちを振り切ることができなかった。沿道の観客たちも応援する選手の状況で一喜一憂。



ポディウム争いは15秒以内に3人がひしめく

オタカムを登るジャンクリストフ・ペロー(フランス、AG2Rラモンディアール)は総合を3位に上げたオタカムを登るジャンクリストフ・ペロー(フランス、AG2Rラモンディアール)は総合を3位に上げた photo:Makoto.AYANO
超級山岳オタカムで攻撃を仕掛けるマイヨブランのティボー・ピノ(フランス、FDJ.fr)超級山岳オタカムで攻撃を仕掛けるマイヨブランのティボー・ピノ(フランス、FDJ.fr) photo:Tim de Waele懸命に追走グループのペースを上げるティージェイ・ヴァンガーデレン(アメリカ、BMCレーシング)懸命に追走グループのペースを上げるティージェイ・ヴァンガーデレン(アメリカ、BMCレーシング) photo:Tim de Waeleライバルたちの攻撃に失速するアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)ライバルたちの攻撃に失速するアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター) photo:Tim de Waeleこの連日、走りに良い時と悪い時のムラがあるバルベルデは遅れを喫し、総合を2位から4位に落とした。ピノはバルベルデの代わりに総合2位に上げ、ペローは3位に。ツールはあと残り3日。総合争いを決める土曜の個人TTを前に、2位から4位までの3人が15秒以内にひしめき合う事態となった。

ニーバリの首位は揺るぎそうもないが、2位ピノと3位ペローの差は13秒。3位ペローと4位バルベルデの差は2秒。第19ステージで落車や中切れ、トラブルがなければ、その差を争う最後のチャンスは土曜日だ。

3人のなかでTTが得意なのは2009年のフランスTT選手権チャンピオンのペローと、今年はスペインのTTチャンピオンになっているバルベルデ。

TT的な走りを要求されるMTB-XCO種目の北京五輪銀メダリストでもあるペローは言う。「僕らは同じ船に乗っているね。たった15秒差だ。ポディウムは近い。普通なら僕はティボー(ピノ)よりTTにおいては少しいい。だから僕はポディウムのチャンスを信じている。2位になることを信じているよ」。

ピノについては経験値が少なく未知の部分が多いが、ピノは不得意ではないと主張する。ピノ「タイムトライアルでポディウムの位置が決まる。3人の中で一番タイムトライアルが苦手だけど、ここ数年で僕のタイムトライアル能力は改善している。バスク1周とツール・ド・ロマンディ、ツール・ド・スイスの個人TTでトップ10に入っているんだ。総合2位で木曜日の夜を迎えるのも悪くない。でも重要なのは日曜日の夜にどのポジションにいるかだ。開幕からここまで積み上げてきたものを壊したくない。表彰台から陥落するなんてまっぴらだ」。

暫定ポディウムからは滑り落ちたが、TTにおいては逆転の可能性を信じているバルベルデは言う。「今日は限界に達した。正直言って疲れ切っているけど、タイムトライアルではその日の体調に大きく左右される。つまり調子の良さを取り戻すことが出来れば総合2位に返り咲くことは可能だ。

グランツール終盤の個人TTは、一部のスペシャリストを除けば普段のTT能力や独走力以上に、スタミナや”いい脚”をどれだけ残せているかが左右する。総合1位以下のポディウム争い、そしてトップ10争いはこのツールの最後にして最大のスペクタクルだ。



山岳を越えた喜びを披露するラスト2kmのウィリー大会

両手放しウィリーで観客の間を縫って走るペーター・サガン(キャノンデール)両手放しウィリーで観客の間を縫って走るペーター・サガン(キャノンデール) photo:Makoto.AYANO


オタカムへのラスト数キロ。上位争いの選手たちが通ると、後の選手たちはリラックスした表情で登りをこなす。果敢に攻めながらも努力が実を結ばず、しかしその走りに健闘を讃えられながら流す選手。エースを前方に送り出すアシスト仕事を終えた、後は流すだけの選手。翌日のスプリントステージに備えて体力を温存している選手。陽気で手慣れたバスク観客たちが拍手と声援で盛り上げるなか、もっとも熱いラスト2kmのコーナーではウィリー大会が始まった。

ペーター・サガンが両手放しでのウィリーというスーパーテクニックを披露。ダニエーレ・ベンナーティ、ジャック・バウアーらが続く。山岳はもう無い。厳しい山岳を乗り切った喜びを見せてくれた。



超級山岳を34位の高順位でフィニッシュしたユキヤ

新城幸也(ユーロップカー)はステージ34位でフィニッシュ。難関山岳ステージの順位としては素晴らしい新城幸也(ユーロップカー)はステージ34位でフィニッシュ。難関山岳ステージの順位としては素晴らしい photo:Makoto.AYANO新城幸也(ユーロップカー)は30人弱に絞られたマイヨジョーヌ集団でピエール・ロランをアシストし、残り15kmで遅れると、トマ・ヴォクレールとランデブーしながらオタカム山頂を目指した。結果、11分54秒遅れの34位という高順位でフィニッシュ。超級山岳ステージでは快挙的な順位。アシストをこなしながら再びの好調ぶりを示した。

ユキヤは「昨日(第17ステージ)の疲れもきちんと抜けていて、調子よく上ることが出来た。ここを超えたので、パリのゴールがグッと近づいたと思う。疲れもないし、元気。しかし、明日は天候も良くないようだし、逃げ切る可能性もあるコース。気を抜かずに頑張りたい」とコメントしている。

photo&text:Makoto.AYANO in FRANCE
photo:CorVos,TimDeWale,A.S.O,
※新城幸也のコメントはユキヤ通信より

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