全日本MTB選手権男子エリートは、大本命の山本幸平(SPECIALIZED RACING TEAM)を下した武井亨介(チーム・フォルツァ!)が初勝利。他を圧倒するパフォーマンスで全日本タイトルを奪取し、女子エリートで勝利した與那嶺恵理(サクソバンクFX証券)と共に、師弟で男女エリートを制した。



スタート前に空気圧調整を行った斉藤亮(BRIDGESTONE ANCHOR CYCLING TEAM)スタート前に空気圧調整を行った斉藤亮(BRIDGESTONE ANCHOR CYCLING TEAM) (c)So.Isobeスタート地点に向かう山本幸平(SPECIALIZED RACING TEAM)スタート地点に向かう山本幸平(SPECIALIZED RACING TEAM) (c)So.Isobe

男子エリートがスタート。山本幸平(SPECIALIZED RACING TEAM)佐藤誠示が好ダッシュを見せる男子エリートがスタート。山本幸平(SPECIALIZED RACING TEAM)佐藤誠示が好ダッシュを見せる (c)So.Isobe


小野寺健(MIYATA-MERIDA BIKING TEAM)と山本幸平(SPECIALIZED RACING TEAM)が先頭で1周目後半を行く小野寺健(MIYATA-MERIDA BIKING TEAM)と山本幸平(SPECIALIZED RACING TEAM)が先頭で1周目後半を行く (c)So.Isobe前日の大雨はどこへやら。気温の上昇とともに太陽も顔を出し、路面は林間の一部を除きドライコンディションに。男子エリートのスタートを迎える13時半頃には気温・湿度共に上昇し、過酷なサバイバルレースとなるだろうことが予想された。

平野星矢(チーム・ブリヂストンアンカー)の後ろに武井亨介(チーム・フォルツァ!)が迫る平野星矢(チーム・ブリヂストンアンカー)の後ろに武井亨介(チーム・フォルツァ!)が迫る (c)So.Isobe名実共にMTBクロスカントリーの「日本一」を決める男子エリートクラスには計73名がエントリー。その中でも優勝最有力候補は大会6連覇中の山本幸平(SPECIALIZED RACING TEAM)だ。世界のトップレースで安定した結果を出すパワーは誰もが認めるところだが、今年5月初めのMTBワールドカップXCO第2戦ケアンズで鎖骨脱臼と胸骨を骨折。全日本ロードを21位で完走したものの、少しの不安材料を抱えての参戦となった。

徐々に順位を上げる竹谷賢二(SPECIALIZED)徐々に順位を上げる竹谷賢二(SPECIALIZED) (c)So.Isobe加えて、Jシリーズで連勝記録を重ね続ける斉藤亮や、平野星矢のブリヂストン・アンカー勢はもちろんのこと、門田基志(TEAM GIANT)、小野寺健、恩田祐一、松尾純のMIYATA-MERIDA BIKING TEAM勢らJシリーズの上位常連選手に加え、この日優勝することになる武井亨介(チーム・フォルツァ!)もダークホースとして当初から注目を集める存在だ。

また、今年のレースにはかつて全日本選手権を4度制している竹谷賢二(SPECIALIZED)や、世界選手権を経験している鈴木祐一(Rise Ride)、斎藤朋寛(GIANT)ら、更にはロードで活躍する綾部勇成(愛三工業レーシング)も参加した。

レースは号砲と共にスタート。ホールショットは佐藤誠示が決め、続いて山本や平野、斎藤、澤木紀雄(GIANT MET T-SERV)が続く形で芝生登りをクリア。1周目の後半には小野寺が山本を先行する形となったが、この時既に山本は苦しそうな表情を見せ始めていた。

その後ろには順等に平野が続いたが、次に姿を現したのは70番ゼッケン(=最後方スタート)をつける武井。1周を要さずして脅威の追い上げで一気に勝負の最前線へと躍り出ると、そのまま独走態勢を築きつつあった山本をもパスし、一躍先頭にジャンプアップしてみせる。



独走態勢に持ち込んだ武井亨介(チーム・フォルツァ!)独走態勢に持ち込んだ武井亨介(チーム・フォルツァ!) (c)So.Isobe
30秒差で武井亨介(チーム・フォルツァ!)を追う山本幸平(SPECIALIZED RACING TEAM)30秒差で武井亨介(チーム・フォルツァ!)を追う山本幸平(SPECIALIZED RACING TEAM) (c)So.Isobe斉藤亮(BRIDGESTONE ANCHOR CYCLING TEAM)が恩田祐一(MIYATA-MERIDA BIKING TEAM)を従えて走る斉藤亮(BRIDGESTONE ANCHOR CYCLING TEAM)が恩田祐一(MIYATA-MERIDA BIKING TEAM)を従えて走る (c)So.Isobe



苦しい表情ながらタイム差を詰める山本幸平(SPECIALIZED RACING TEAM)苦しい表情ながらタイム差を詰める山本幸平(SPECIALIZED RACING TEAM) (c)So.Isobe快調なペースで先頭をひた走る武井に対して、山本はおよそ30〜40秒差をキープしたまま追走を続ける。タイム差こそ縮まりも、また増えもしないまま4周回を完了したが、この時には両者の表情に明らかな違いを見てとれた。

飛ばす武井に対しては序盤こそ「オーバーペースだ」という声が多くあがったが、レース中盤になってもその勢いは留まるところを知らず。追いかける山本は明らかに苦しげな走りを見せており、会場はざわめきに包まれていくこととなる。

武井亨介(チーム・フォルツァ!)の背後に山本幸平(SPECIALIZED RACING TEAM)が迫る武井亨介(チーム・フォルツァ!)の背後に山本幸平(SPECIALIZED RACING TEAM)が迫る (c)So.Isobeその後ろでは、序盤に山本と絡んでいた小野寺を平野が捉え、更に恩田も徐々に順位を上げてくる。やがて後方から挽回してきた斎藤が平野に追いつき、ブリヂストン・アンカーは3位・4位体勢を確実なものとしていく。先頭を行く武井のハイペースに中盤以降を走る選手達は次々とタイムアウトを食らい、4周目のレース人数は73名中43名で、5周目には25名にまで激減。最終的に完走9名という非常に厳しいレースが繰り広げられた。

先行した山本幸平(SPECIALIZED RACING TEAM)の後ろから武井亨介(チーム・フォルツァ!)が狙う先行した山本幸平(SPECIALIZED RACING TEAM)の後ろから武井亨介(チーム・フォルツァ!)が狙う (c)So.Isobe先頭2名のタイム差に変化が現れたのは5周目。何か苦しそうな表情のまま山本がペースアップし、最終周回に合流しトップを奪い返す。それでも武井には、逃げる山本の後ろで観客を盛り上げるジェスチャーを繰り出す余裕があった。

単独でゴール手前に現れた武井亨介(チーム・フォルツァ!)。後ろは来ない単独でゴール手前に現れた武井亨介(チーム・フォルツァ!)。後ろは来ない (c)So.Isobeギャラリーや報道陣がフィニッシュラインに移動する最中、コース再奥部では武井の狙い澄ました、シナリオ通りのアタックが決まる。「最後に仕掛ける場所も決めていたし、全部予想通りでした。川を渡った後の登り坂。幸平選手が失速しそうだったので、距離を置いて後方から思いっきりアタックしたら一発で諦めてくれた。」(武井享介)

情報があまり入らないゴール前。観客が固唾を飲んで見守る中、ホームストレート下の坂道を単独で駆け上がってきたのは武井だった。大きなどよめきと歓声が巻き起こる中、勝利を確信した武井は顔を覆い、歓喜の表情でゆっくりとフィニッシュ。力強い片手のガッツポーズが決まった。

全日本ロードで終始逃げグループを率いたパフォーマンスはやはり本物だった。ゴール後すぐに、直前のレースで優勝を決めた與那嶺恵理(サクソバンクFX証券)と抱き合った武井。師弟による男女エリートダブル制覇を成し遂げた。

「自分のペースでレースが出来ました。幸平くんの調子を見ながらレースを組み立てていきましたね。(距離が)短いので頭を使わないと勝てません。冷静にレースが出来ました。」とは新ナショナルチャンピオン。「でも間違えてほしくないのは、幸平くんはとても強いってこと。彼は不調でバッドラックだった。今日は俺の日だったし、本当に悔しい競技人生だったので、ここでやっと取り戻せた気がする。」と語り、また、自分のミスで落とした全日本ロードの借りを返したかった、とも。



武井亨介(チーム・フォルツァ!)が歓喜の表情でゴールに飛び込む武井亨介(チーム・フォルツァ!)が歓喜の表情でゴールに飛び込む (c)So.Isobe


與那嶺恵理(サクソバンクFX証券)に迎えられる武井亨介(チーム・フォルツァ!)與那嶺恵理(サクソバンクFX証券)に迎えられる武井亨介(チーム・フォルツァ!) (c)So.Isobe全日本タイトルを獲った武井だが、次のステップは與那嶺に東京オリンピックでメダルを取らせることだと言う。「もう選手としてのキャリアは終わっている。東京オリンピックに向かって僕は恵理さんのために頑張らなくてはならない。」

失意の山本幸平(SPECIALIZED RACING TEAM)失意の山本幸平(SPECIALIZED RACING TEAM) (c)So.Isobeまたその上で、国内のMTB競技の現状についても「JCFやJMAのオルガナイザーやコミッセールは野辺山や東京シクロクロスに学ばなければならない。現場の努力はとても評価しているけれど、(欧米に比べて)観客がいないレースにはスポンサーはつかないし、表彰台でのキャップNGなどロゴの露出が制限されていたり、試走時間を秒に至るまで厳密に守らなくてはいけないなど…。」

「早く対策に乗り出さないと6年後(の東京オリンピック)には間に合わない。これはチャンピオンになったからこそ強く言えること。この立場を使って少なくとも若手選手が困らないようにしたい」と言う。

チーム内争いを制して3位フィニッシュした斉藤亮(BRIDGESTONE ANCHOR CYCLING TEAM)チーム内争いを制して3位フィニッシュした斉藤亮(BRIDGESTONE ANCHOR CYCLING TEAM) (c)So.Isobeショップオーナーという立場や仕事を持ちながら、全てのプロレーサーを打ち破った新チャンピオンの言葉は軽くない。表彰式で語った「(斎藤)亮くんや幸平くんの調子が良い時にまた勝負したい。コテンパンにされたいですね」という言葉の裏には「もっとプロ選手に頑張ってほしい」という思いがあるのかもしれない。

一方で7連覇を逃した山本は、ゴールした直後地面に倒れ込み顔を上げられなかった。

「例年通り単独で行こうと思っていたのですが…武井さんが前にいたことでリズムが崩れました。自分らしい、世界を目指す山本幸平は今日はいませんでした。自分なりには精一杯でしたが、やっぱり踏めていなかったですね。これでは世界でトップ10に入るのはまだまだ厳しい。悔しいけど、強い山本幸平に戻って日本に帰ってきたいと思います。」

その後方では、「全日本選手権での成績が3位→2位と上がっていたので優勝を狙いましたが、そんなには甘くなかった。悔しいですね」と語る斎藤が、チームメイト同士の争いを制し3位フィニッシュ。次いで4位には平野。5位には恩田が入り、ミヤタ・メリダチーム内での最上位となった。

また、この男子エリートクラスではレース中のクラッシュにより、ドクターヘリコプターが出動する事態に。負傷された選手の一刻も早い回復をお祈りするとともに、レポートを締めくくりさせて頂きます。

男子エリート表彰台男子エリート表彰台 (c)So.Isobe


全日本MTB選手権XCO2014 男子エリート結果
1位 武井亨介(チーム・フォルツァ!)
2位 山本幸平(SPECIALIZED RACING TEAM)
3位 斉藤亮(BRIDGESTONE ANCHOR CYCLING TEAM)
4位 平野星矢(チーム・ブリヂストンアンカー)
5位 恩田祐一(MIYATA-MERIDA BIKING TEAM)
6位 小野寺健(MIYATA-MERIDA BIKING TEAM)
7位 門田基志(TEAM GIANT)
8位 松本駿(TEAM SCOTT)
9位 大渕宏紀(DECOJA NEXTPHASE)
10位 松尾純(MIYATA-MERIDA BIKING TEAM)
1h23'15"
+17"
+53"
+1'06"
+3'15"
+4'03"
+6'41"
+7'30"
+7'59"
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text&photo:So.Isobe

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