ヴォージュ山岳ステージ2日目は、6つの山岳ポイントがありながらも後半53kmはミュールーズまで山岳を下って平坦。逃げに絶好のステージだ。



マイヨアポアのブレル・カドリ(フランス、AG2Rラモンディアール)を囲む家族とラブニュ監督マイヨアポアのブレル・カドリ(フランス、AG2Rラモンディアール)を囲む家族とラブニュ監督 photo:Makoto.AYANO
ドイツ国境と近いためドイツ人選手を応援するファンが多かったドイツ国境と近いためドイツ人選手を応援するファンが多かった photo:Makoto.AYANOフラットバーの自転車に乗ってサインに現れたファビアン・カンチェラーラ(トレックファクトリーレーシング)フラットバーの自転車に乗ってサインに現れたファビアン・カンチェラーラ(トレックファクトリーレーシング) photo:Makoto.AYANO


ドイツ国境に近く、アルザス地方を通過するためドイツの観客がスタート地点には多く詰めかけた。ステージ3勝のキッテル、1勝のグライペル、フォイクト、デゲンコルブ、ブルグハート、シーベルグ、クルーゲ。シリンガーとヴォスの居るドイツチームのネットアップエンデューラ。合計9人の選手と1チームがドイツ籍。しかもこの夜はツール終了の数時間後にワールドカップサッカーの決勝が行われる。

昨日UCI公式サイトにひっそりと記載されたデニス・メンショフの2009・2010・2012年のツール・ド・フランスにおける成績の取り消し(2008年の総合3位は対象外とされる)。理由はバイオロジカル・パスポートにおける異常が見つかったためとされる。

メンショフは2010年に総合3位のポディウムに登壇しているが、優勝したコンタドールのクレンブテロール陽性により記録上の優勝はアンディ・シュレクに。メンショフは繰り上げで2位になっていた。メンショフの成績が取り消されたことでサムエル・サンチェスが繰り上がり、さらにユルゲン・ファンデンブロック(ロット・ベリソル)が3位になった。

いつも陽気な「プリート」ことホアキン・ロドリゲス(カチューシャ)いつも陽気な「プリート」ことホアキン・ロドリゲス(カチューシャ) photo:Makoto.AYANO故郷でのステージ開催に喜びを隠せないティボー・ピノ(フランス、FDJ.fr)故郷でのステージ開催に喜びを隠せないティボー・ピノ(フランス、FDJ.fr) photo:Makoto.AYANO

昨ステージ中に携帯電話を使ったことで審判に注意されたルーカ・パオリーニ(カチューシャ)昨ステージ中に携帯電話を使ったことで審判に注意されたルーカ・パオリーニ(カチューシャ) photo:Makoto.AYANOしかしパオリーニのポケットには今日もIphoneが入っていた...しかしパオリーニのポケットには今日もIphoneが入っていた... photo:Makoto.AYANO


この日から2010年のツールのポディウムフィニッシャーとなったファンデンブロックは、記者にコメントを求められて応える。「そのことについては何がどうなっているかよく知らないんだ。僕らはレースを走っていて、多くのことを聞かされていない。発表があったけど、それ以上のことは何も知らない。3位と言われても、それが意味があるのは実際にシャンゼリゼでポディウムに登ったときだけだね。僕の中ではずっと5位だ。それより今年ポディウムに上がるほうがずっといいよ。トライするよ!」

昨日のステージで走行中に携帯電話を使ったとしてUCI審判から注意されたルーカ・パオリー二(カチューシャ)は、それが話題になっていることに少しバツが悪そうな顔でスタートにやってきた。パオリーニはその後「ポケットに携帯を入れたまま走ったことに気づいて、スイッチを切るために操作して、チームカーに渡したんだ」とツィートしたが、そのことについてメディアにコメントを求められているパオリーニのポケットには今日もIphoneが入っているのが外からしっかりと判った(ただし走るまでにポケットから出したかは未確認)。ちなみにレース中の携帯電話の使用(携帯)は1998年ツールにおいてTモバイルがPRを兼ねてトライしたが、その時点から禁止になっている。

今日もヴォクレールとゴティエのアシストを命令されているという新城幸也(ユーロップカー)今日もヴォクレールとゴティエのアシストを命令されているという新城幸也(ユーロップカー) photo:Makoto.AYANOスタート地点で準備をする新城幸也(ユーロップカー)は言う。「昨日はチームに誰も逃げを乗せられず、自分としてもいい働きはできなかった。今日もトマ(ヴォクレール)のアシストがメインの役割になります。コース的にもどのチームも必ず逃げに持ち込もうと動いてくるはずなので、難しいとは思いますがなんとかしたいです」。

アレクサンドル・ピショ(ユーロップカー)の応援に駆けつけた奥さんと娘さんアレクサンドル・ピショ(ユーロップカー)の応援に駆けつけた奥さんと娘さん photo:Makoto.AYANO昨日聞いたとおり、ここまで脚を使っていない、怪我もほぼ無いユーロップカーは力の貯金があるフレッシュな状態だ。エースのトマ・ヴォクレールはこの日ステージが向かうアルザス地方の生まれとあって、特別なモチベーションがある。ピエール・ロランとシリル・ゴティエは集中しきった表情でスタートに並び、胸の十字架のペンダントに何度もキスをしてから走りだした。総合ですでに7分34秒の遅れを喫しているエースのロランは、タイム差挽回を早いうちに済ませておくことは命題だ。

ルイ・コスタ(ランプレ・メリダ)のアルカンシェルカラーのヘルメットはカブト製の見慣れない新モデルルイ・コスタ(ランプレ・メリダ)のアルカンシェルカラーのヘルメットはカブト製の見慣れない新モデル photo:Makoto.AYANO果たしてスタートからほどなくして始まる上りで、アスタナとサクソ・ティンコフ以外のほとんどのチームが攻撃を仕掛けあうアタック合戦となった。そして28名の逃げグループにはユーロップカーが5人も入った!
ゴール後のロランによれば、皆でアタックすることは昨夜の夕食の場で彼自身が提案したことだったという。ユキヤによれば、レース前の監督の指示はロラン、ヴォクレール、ゴティエのうち誰かが必ず逃げに乗ればいいというものだったという。

ステージを前に逃げに乗る意思満々のファビアン・カンチェラーラ(トレックファクトリーレーシング)ステージを前に逃げに乗る意思満々のファビアン・カンチェラーラ(トレックファクトリーレーシング) photo:Makoto.AYANOひと山越えるとワイン畑と木枠の洒落た茶色い家の風景が広がり、ドイツ・アルザス地方に入ったことがわかる。アルザス生まれのヴォクレールがいるからか、チームの5人が逃げることを知っていたのか? ヴァンデ地方でもないのに多くのユーロップカーファンが沿道に居た。あるいは、チームが活躍することを見越してスタッフが大量の応援グッズを先行して配った? 路上には緑の応援団がとにかく目立った。

トニ・マルティン(オメガファーマ・クイックステップ)とデマルキ(キャノンデール)の2人が逃げる。しかし現在ドイツではテレビでツールのライブ放送が無い。キッテルやグライペルが活躍しても、ウルリッヒやシンケヴィッツ、シューマッハーの時代に受けたドーピング問題のショックからライブ放送は取りやめられたままだ。

街を通過しても観客が少ない印象を受けたのは、マルティンが逃げていることはライブでは伝わっていなかったのかも知れない。それともドイツの優勝のかかったサッカーワールドカップの放送を夜に控えていたから? ドイツの盛り上がりの少なさに物足りなさを感じつつも、しかし立ち寄った屋台で買って食べたサンドウィッチのソーセージが本当に美味しかった!



TTスタイルで逃げたマルティン「メルクスのような勝利」

デマルキを振り落とし、ゴールまで59kmを残した独走でマルティンが勝利した。今までのマルティンのツールでの2つのステージ勝利はいずれもタイムトライアル。通常のステージの勝利は無し。しかし今回もタイムトライアルのような勝利だった。山岳ジャージに袖を通すのも初めて。ドイツ人選手による5つめの勝利で、クイックステップにとってはトレンティンの勝利と合わせ2つ目の勝利。そしてその数時間後にはワールドカップサッカーでドイツが勝利した。

コールまで59kmを残して独走に持ち込んだトニ・マルティン(ドイツ、オメガファーマ・クイックステップ)	コールまで59kmを残して独走に持ち込んだトニ・マルティン(ドイツ、オメガファーマ・クイックステップ) photo:Makoto.AYANO
トニ・マルティン(オメガファーマ・クイックステップ)に渡す補給ボトル(+エナジージェル貼り付け)トニ・マルティン(オメガファーマ・クイックステップ)に渡す補給ボトル(+エナジージェル貼り付け) photo:Makoto.AYANOGMのパトリック・ルフェーブル氏はマルティンの走りを評して「メルクスのような勝利だ」と言った。「現代のレースは計算づくで、チームの駆け引きが必要。今どきこんな走りが出来る選手は他に居ない。私はこういった勇敢な走りが好みだ。素晴らしい」。

峠で応援するきぐるみたち峠で応援するきぐるみたち photo:Makoto.AYANO「彼のような偉業を達成した選手は他に居ないから、メルクスと比べられるのは光栄だね」ー GMからの最大級の賞賛にまず前置きのお礼をしてから今日の走りを振り返るマルティン。「今日は最初はバケランツがトライして、次に僕の番が回ってきたんだ。僕はこの方法を取らざる得なかった。僕は大きなグループで駆け引きのゲームをするタイプじゃない。差をつけたあとは、一人でも速く走れることは知っていた。今日はすべてうまく行った。一人っきりで逃げるのは、僕にぴったりあっているんだ。

よく馬鹿げたことをするって言われていることは知っている。いつもは成功しないけど、でも今日はうまくいった。28人の選手で最後まで行ってスプリントなんて、僕に勝ち目がないのはわかっていた。全開で行くか、何もせず負けるかの選択だった。タイム差が1分30秒、そして3分になり、彼らが諦めたことが判った。彼らの気持ちを折ることができた。TTのいつもの走りができれば逃げ切れることは知っていたんだ。

カヴが去ってからもチームはやる気を無くさなかった。トレンティンの2日前の勝利は、チーム皆の気持ちを楽にしてくれた。僕たちはハードに攻め続ける。挑戦し続ける。ときにクレイジーにね」。



自転車一族の家系、フランス革命記念日にマイヨジョーヌを着るギャロパン

追走グループを率いるトニー・ギャロパン(フランス、ロット・ベリソル)追走グループを率いるトニー・ギャロパン(フランス、ロット・ベリソル) photo:Cor.Vosマルティンから2分45秒遅れでゴールした追走集団。マイヨジョーヌのヴィンチェンツォ・ニーバリ(アスタナ)は7分46秒遅れの集団でゴールしたため、トニー・ギャロパン(ロット・ベリソル)がマイヨジョーヌを獲得した。ドイツのトニの勝利に続き、フランスのトニーのマイヨジョーヌがアナウンスされる。明日7月14日はフランス革命記念日。フランス人選手が「キャトーズ・ジュイェ」前夜にマイヨジョーヌを着るという、なんともおめでたい事態となった。

ガロパンを迎えるガールフレンドのマリオン・ルースさん。2012年の仏女子ロードチャンピオンで、今ツールにはポディウムガールとして帯同しているガロパンを迎えるガールフレンドのマリオン・ルースさん。2012年の仏女子ロードチャンピオンで、今ツールにはポディウムガールとして帯同している photo:Cor.Vosトニー・ギャロパンは自転車一族の家系に生まれた。父のジョエルと2人の兄弟がプロの自転車選手で、父はヨープ・ズートメルクが1980年にツールに勝利した際のアシストを務めた選手だった。伯父のアランは現在のトレックファクトリーレーシングの監督のひとり。トニーは昨年までの2年間をトレック(元レディオシャック)で走り、今シーズンからロット・べリソルに移籍した。

表彰式で涙するトニー・ギャロパン(フランス、ロット・ベリソル)表彰式で涙するトニー・ギャロパン(フランス、ロット・ベリソル) photo:Cor.Vos昨年クラシカ・サンセバスティアンに優勝したことがキャリア最大の勝利だった。ツールでのマイヨジョーヌの栄光は、そのUCIワールドツアーでの1勝をも越える価値を放つ。それがフランスにとって最高の日に着るものであれば。

表彰台に登る前、いつもは敢闘賞のポディウムガールを務める女性から熱烈な祝福のキスを受けたギャロパン。この美しいブロンドの彼女こそ、ギャロパンのガールフレンドその人で、ロット・ベリソルの女子チームで走るマリオン・ルッスさん。2012年のフランス女子ロードチャンピオンだ。トレックファクトリーレーシングのアラン・ギャロパンも涙を流して喜んだという。

ギャロパンはマイヨジョーヌを獲得することを数日前から、具体的にはパヴェの第5ステージ以降から考えていたという。「夢見ることと、現実できることは違う。夢はだいたい叶わない」と断りながらも、今日のアタックはマイヨ・ジョーヌへのチャンスを狙ったものだったことを明かした。そして逃げに乗ったメンバーにフランス人が多かったことも幸いした。ギャロパンはフランス人や、友人たちの協力があったことも。

マイヨジョーヌを手にしたトニー・ギャロパン(フランス、ロット・ベリソル)マイヨジョーヌを手にしたトニー・ギャロパン(フランス、ロット・ベリソル) photo:Kei Tsuji
「逃げ(追走)グループの中でフランス人選手たちの団結を感じた。彼らは僕を大いに応援してくれていた。僕たちはユーロップカーに協力した。AG2Rもコフィディスも協力してくれた。彼らも僕がマイヨジョーヌになることを願ってくれた。以前2年間チームメイトだったカンチェラーラも集団内ですっと僕と話をしてくれた。皆に感謝したい。そして、今日は僕達を追走しなかったアスタナにもお礼が言いたい」。

ギャロパンはマイヨジョーヌを何日着続けられるか? 総合2位ニーバリとの差は1分34秒。ガロパンは明日のラ・プランシュ・デ・ベルフィーユにフィニッシュした同じゴールでは2分の遅れを喫しているため、明日いっぱいだという声も挙がる。

「明日はハードになるはず。フィニッシュのことは知っている。昨年は2分遅れだったけど、さらに今日頑張った翌日のステージになる。明日どうなろうとも僕のキャリアのハイライトには違いないから、とにかくベストを尽くすのみだよ」。



プリートがマイヨアポアを目指すことを表明

最後の3級山岳でアタックしたホアキン・ロドリゲス(カチューシャ)最後の3級山岳でアタックしたホアキン・ロドリゲス(カチューシャ) photo:Makoto.AYANO昨ステージの上りゴールでは大きく遅れて未だ調子が万全でないことを示していたホアキン・ロドリゲス(カチューシャ)だが、今日は追走グループから飛び出して山岳ポイントを獲得する動きを見せた。獲得した11ポイントではまだ5位で、マルティンとは7ポイント差。しかしマイヨアポアへの興味を公表した。

「このツールでの僕のゴールは山岳賞を獲得すること。2005年のブエルタで山岳賞をとったことがあるけど、すっかり気に入った。明日は勝てるとは思っていないけれど、ベストを尽くす。毎日少しづつ積み重ねて、最後にシャンゼリゼでマイヨアポアを着ていたい」。



ロランのタイム挽回に喜ぶユーロップカー

路上にいた子どもたちのユーロップカー大応援団路上にいた子どもたちのユーロップカー大応援団 photo:Makoto.AYANO
ユーロップカーが果敢に追走グループを率いるユーロップカーが果敢に追走グループを率いる photo:Kei Tsujiアレ! 大好きなトマ(ヴォクレール)!アレ! 大好きなトマ(ヴォクレール)! photo:Makoto.AYANO


ユーロップカーの作戦はステージ勝利こそ生み出さなかったが、うまく行った。ロランの総合順位は8位と大きく挽回に成功し、マイヨジョーヌとの差は4分7秒。ユキヤは7分46秒遅れのマイヨジョーヌの含まれたメイン集団で98位でゴールした。

「チームが最高に機能して、ピエールの総合順位がジャンプアップした。素晴らしいステージになった。自分は大したことはできなかったけど、追走集団に5名もチームメイトが入って、メイン集団にも自分を含め4人!。その甲斐あってか、ピエールは総合8位まで上がったことで、チームのモチベーションも回復した! 明日はきつい、つらいステージになりそうだが、今度は自分の出番だと思う。日本からの応援の方がだんだん増えているのか、たくさんの日本の国旗を観ました。うれしいですね!」と語っている。

photo&text:Makoto.AYANO in FRANCE
photo:CorVos,TimDeWale,A.S.O,
※新城幸也のコメントはユキヤ通信より