トライアスロンバイクをルーツとし、ツール・ド・フランスなど様々なビッグレースで勝利に貢献してきたジャーマンブランド、フェルト。今回のインプレッションでは、そのフェルトの最高峰エアロロードバイク「AR FRD」にフォーカス。登場から5年を経て、待望のモデルチェンジを果たした最先端マシンに迫る。



フェルト AR FRDフェルト AR FRD (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp
1980年台後半に創業者であるジム・フェルト氏が作成したトライアスロンバイクに端を発するFELT(フェルト)。そのテーマはロードチームのサポートを行う現在でも深く息づいており、自転車業界でのエアロダイナミクスに関するリーディングカンパニーだ。

そんな同社が2008年のツール・ド・フランスでデビューさせ、一躍話題をさらったロードバイクがある。それが初代「AR」。当時最先端のエアロテクノロジーをフル投入し、今に続くエアロロード興盛の先鞭をつけた画期的なモデルだった。それから5年が経過した2014年、いよいよもってARは待望のフルモデルチェンジ。それも単に空力性能を追求したに留まらず、軽量に、より高剛性で、レースで求められるピュアロードレーサーとしての性能をブラッシュアップして生まれ変わった。その最上級モデルが今回インプレッションを行う「AR FRD」である。

板のように薄いダウンチューブ板のように薄いダウンチューブ 前方投影面積を軽減させる細身のヘッドチューブ前方投影面積を軽減させる細身のヘッドチューブ フォーククラウンとヘッドチューブをインテグレーテッド化したTwin Tail Forkフォーククラウンとヘッドチューブをインテグレーテッド化したTwin Tail Fork


ニューARの開発キーワードは、様々な方向から吹き付ける風やホイールによる空気の乱れなどを考慮した「実世界におけるエアロダイナミクス」。自社に構えるスーパーコンピューターでのシミュレーションや、クレイモデルを使った風洞実験が徹底的に行われ、フレーム形状が煮詰められていった。

前モデルよりも直線的で、精悍なフォルムに生まれ変わった新型AR。その要はフォーククラウンとヘッドチューブをインテグレーテッド化した「Twin Tail Fork」にある。フォーククラウンとダウンチューブの距離を詰め、空気抵抗において大きな割合を占めるフレーム前方部分とフロントホイールの回転による乱流を特殊な形状を用いて大幅にカット。フォーククラウン上部はワイドな形状となっており、振動軽減と剛性強化、ブレーキング性能を向上させた。

ダウンチューブ上部からケーブル類は内蔵されるダウンチューブ上部からケーブル類は内蔵される 細かい角度調節が可能なシングルボルト式クランプVariMount細かい角度調節が可能なシングルボルト式クランプVariMount

BB下に取り付けられたダイレクトマウント方式のリアブレーキBB下に取り付けられたダイレクトマウント方式のリアブレーキ ペダリングパワーを受け止める太めのチェーンステーペダリングパワーを受け止める太めのチェーンステー


フロント周りのみならず、リアバックも徹底されたエアロダイナミクスが追求されている。ホイールの回転による空気の乱れを低減する「Gap Shield Rear Triangle」デザインを採用。シートチューブをリアタイヤに沿わせるデザインは前モデルよりも落ち着いたが、チェーンステーやシートステーの切り欠きなどは生粋のTTバイクのよう。リアブレーキをBB下に移動したことでシートステーのブリッジを廃しており、フレームから回転するリアホイールへ向かう空気の流れを整えてドラッグを軽減させている。

またエアロロードバイクで一般化する専用ブレーキは採用せず、フロントは一般的なキャリパータイプを導入。確実な制動力と整備性を高め「扱いやすさ」を重視するあたりは、ドイツブランドらしい堅実さが現れている部分と言えよう。リアはBB下にダイレクトマウントブレーキを取り付ける構造であり、エアロ性能と制動力を両立したかたち。シートステーが軽量化と快適性の向上を果たしたことも、ブレーキをBB下へと移動させた事の恩恵だ。

テープ状のカーボン繊維を編みこむTeXtream カーボンテープ状のカーボン繊維を編みこむTeXtream カーボン エアロ効果を狙い後方に延長されたヘッドチューブエアロ効果を狙い後方に延長されたヘッドチューブ


更にライダーによる細かい調整も行いやすいよう配慮されており、シートポストを前後逆にすることで72.5度と78.5度という2つのシートアングルを出せる「Variable Geometry Optimized(VGO)」システムや、無断階でサドル角度調整ができる独自のシングルボルト式クランプ「VariMount」、ポストの自由な高さ調整ができる特殊な「Internaloc」システムを採用。ロードとしてはもちろん、持ち前の空力性能を活かしてTT用としても使用できる。

更にワイヤー類の取り込み形状など詳細な部分についても工夫が凝らされており、結果的にオールラウンドモデルであるFシリーズに対して最大31.1%、前ARに対して14.7%という空気抵抗の削減をマークするに至っている。

ダウンチューブの下方からボリュームを増した造形のBB周りダウンチューブの下方からボリュームを増した造形のBB周り ブレーキ台座を排して柔軟性を向上させたシートステーブレーキ台座を排して柔軟性を向上させたシートステー ドラッグを軽減するリア三角形「Gap Shield Rear Triangle」ドラッグを軽減するリア三角形「Gap Shield Rear Triangle」


カーボンモデル4種類、アルミモデル1種類を擁する新型ARシリーズの中、今回インプレッションを行った「AR FRD」は、F1や航空産業にも使われるOxeon社製の「TeXtreamカーボン」を採用したトップモデル。市販化以前からプロ供給モデルに使われてきたこのカーボン材は、テープ状のカーボンを繊維と繊維の間の隙間を生み出さないよう高密度に織り込むことで、また、1枚のカーボン素材で2方向への強度を確保したことで非常に高い強度を実現した素材。これによって剛性を損なわずに大幅な軽量化を実現している。

エアロダイナミクスを追求する一方で、走行性能面のブラッシュアップも忘れられてはいない。カーボン材の進化と併せ、前モデルで1-1/8だったヘッド下側ベアリングは1-1/4へと大口径化され、BB周辺もボリュームアップすることでエアロロードに起こり得る横剛性を確保。エアロロードとしての性能を突き詰めた上で、オールラウンドな走り性能や扱いやすさも同時に追求しているのだ。

AR FRDはフレームセットのみでの販売となり、今回のテストバイクはデュラエースDi2を搭載し、同WH-9000-C35を組み合わせたもの。それではインプレライダー両氏のコメントを紹介する。



ーインプレッション
「40km/hを越えてからが本領」鈴木雅彦(サイクルショップDADDY)

肩の力を抜いて走行することができる、優れた直進安定性を備えたエアロバイクという第一印象です。ハンドルに手を軽く添えるだけで自転車が真っ直ぐ前を向き、バイクコントロールに気を使わずに乗ることができました。ピーキーなハンドリングだとレースでは特に気を使ってしまいますが、このバイクにはそれがありません。

翼断面形状のフレームですから、そのルックス通り縦方向の剛性が強い。90回転以上のハイケイデンスなペダリングをした際には反応良く加速してくれ、上り坂においてもそれは変わりません。ただし踏み応えもなかなかのものですから、重いギアを踏みつけるペダリングの場合は疲労が貯まる傾向にあると思いました。

しかしながら、やはりこのバイクが活きるのは平坦路。特に40km/h以上となった時には素晴らしい走り心地や、気持ちよさが出てきます。横風の影響も思ったより小さく、ハンドルが取られてしまうこともありませんでした。さすがに強風時にはハンドルが取られてしまうでしょうが、自転車のリア側に荷重をかけることで、横風の影響も少なくできます。

「40km/hを越えてからが本領」鈴木雅彦(サイクルショップDADDY)「40km/hを越えてからが本領」鈴木雅彦(サイクルショップDADDY)
直進安定性はダウンヒルでも変わらず、バイクがブレることがありません。しかしコーナーで扱いづらいことも無く、コーナーではハンドルを切った分だけ自転車が倒れ、早いタイミングで方向転換しました。また、適度なしなりがあるため、そのクセを掴めばとても扱いやすいと感じます。

縦方向に剛性が高いことは、同時にダイレクトに突き上げもしてきます。振動吸収性についてはそこまで高くないため、路面状態の良い場所を走らせたいですね。長所に関しては100点を与えられますが、反対に苦手な部分もはっきりしていることを理解しておく必要があります。ですので、ベストは鈴鹿サーキットなど路面がキレイで、ハイスピードの状態が続くレース。デメリットが出にくいですし、なによりもこのバイクのキャラクターとマッチしています。コーナーのやアップダウンの多い加減速を繰り返すようなレースでは、やはりオールラウンドモデルの方が向いています。

空力効果を最大限に追求したハイエンドバイクとして、約35万円という価格設定は妥当でしょう。フレーム売りですので、ホイールはやはりディープリムを組み合わせたいですね。エアロに特化しているため、60~80mmのスーパーディープリムホイールや、TTやトライアスロンの場合はディスクホイールを組み合わせたくなります。そのようなホイールが似合う数少ないバイクなので、ルックスも含めて楽しめるバイクと言えるでしょう。使用用途やユーザーを限定するバイクですが、エアロロードという言葉に憧れる方にはお勧めできる性能を持っています。そういう方にお勧めしたいですね。


「登りも軽快にこなせるエアロロードバイク」二戸康寛(東京ヴェントス監督/Punto Ventos)

「登りも軽快にこなせるエアロロードバイク」二戸康寛(東京ヴェントス監督/Punto Ventos)「登りも軽快にこなせるエアロロードバイク」二戸康寛(東京ヴェントス監督/Punto Ventos) エアロフレーム特有の風を切っていくような走行感を味わえるバイクです。非常にスピードの伸びが良く、ある程度の脚力をお持ちの方ならば簡単に優れたエアロダイナミクスを体感できる上、とてもそのフィーリングが気持ちよく、そして楽しいバイクです。

特徴でもある翼断面形状のフレームは縦方向の剛性が高く、足を真っ直ぐ踏み降ろすペダリングをした時はフレームがダイレクトに反応し、キレ良く加速します。速度が40km/hを超えるような高速巡航中においてもペダルを踏んだ分だけ推進力に変換してくれるフィーリングもありました。

上り坂においても同様のペダリングをすることで軽快なフィーリングです。重いギアを掛けてると疲労がたまってしまうので、軽いギアでハイケイデンスを維持するペダリングが良いでしょう。長いヒルクライムではオールラウンドモデルに譲りますが、スピードを維持したまま抜けるような場所ではとても武器になるでしょう。見た目から想像されるよりも登り性能は良好です。横方向の剛性も備えているため、ダンシングでバイクを振った際も機敏な反応をみせてくれました。

ハンドリングに関しては、とても自然なニュートラルステアです。高い縦剛性故、荒れた路面では振動を拾いやすいのですが、プロユースモデルとして考えれば妥当なところでしょう。あくまでレース機材という位置づけですから、長くゆったりとサイクリング…という目的の方ならば同社のZシリーズをお勧めします。

レース目的ならば、やはり逃げたい方や、平地を得意としているパワー系ライダーにこそ乗って頂きたい。剛性の高いエアロホイールを組み合わせれば、フレームの長所をより伸ばす事ができると感じました。

エアロバイクのハイエンドモデルがフレームセットで35万円。その値付けは適切だと思います。シフトケーブルやブレーキワイヤーの取り回し方が特殊ですので、メンテナンスに関しては信頼できるプロショップにお願いしたいものです。

フェルトはエアロロードバイクの先駆けとしてARをデビューした実績を持つ、チャレンジングなブランドです。今回のAR FRDは前作からペダリングの軽さ、走行感の軽快さを向上したバイクと感じました。エアロバイクの中でもクイックな走りを追求しているレーサーにおススメですね。

フェルト AR FRDフェルト AR FRD (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp
フェルト AR FRD フレームキット
素材:UHC Ultimate+ TeXtream
カラー:マットカーボン
サイズ:510、540、560
価格:354,240円(税込)



インプレライダーのプロフィール

鈴木雅彦(サイクルショップDADDY)鈴木雅彦(サイクルショップDADDY) 鈴木雅彦(サイクルショップDADDY)

岐阜県瑞浪市にあるロードバイク専門プロショップ「サイクルショップDADDY」店主。20年間に及ぶ競輪選手としての経験、機材やフィッティングに対するこだわりから特に実走派ライダーからの定評が高い。現在でも積極的にレースに参加しツール・ド・おきなわ市民50kmで2007、09、10年と3度の優勝を誇る。一方で、グランフォンド東濃の実行委員長を努めるなどサイクルスポーツの普及活動にも力を入れている。

CWレコメンドショップ
サイクルショップDADDY


二戸康寛(東京ヴェントス監督/Punto Ventos)二戸康寛(東京ヴェントス監督/Punto Ventos) 二戸康寛(東京ヴェントス監督/Punto Ventos)
高校時代から自転車競技を始め、卒業後は日本鋪道レーシングチーム(現 TEAM NIPPO)に5年間所属しツール・ド・北海道などで活躍。引退後は13年間なるしまフレンドに勤務し、現在は東京都立川市を拠点とする地域密着型ロードレースチーム「東京ヴェントス」を監督として率いる。同時に立川市に「Punto Ventos」をオープンし、最新の解析機材や動画を用いて、初心者からシリアスレーサーまで幅広い層を対象としたスキルアップのためのカウンセリングを行っている。

東京ヴェントス
Punto Ventos


ウェア協力:アソス

text:Gakuto.Fujiwara
photo:Makoto.AYANO

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