2014/06/10(火) - 09:18
テニスやバドミントンのラケット、スノーボード製造などで知られるヨネックス。各々の製品分野において世界レベルで戦っている同社が、今年の4月に本格的に販売開始した初のカーボンフレームが「CARBONEX」だ。今回はヨネックスの事業開発部長の武本さんと、技術開発第二部の前田さんに開発から製品化までの道のりを伺った。
1980年、バドミントンラケットにおいて、世界で初めてカーボンを採用し、100gを下回る重量を実現した当時最軽量ラケット「カーボネックス8」を世に送り出したヨネックス。その後、カーボンに対する深い造詣を活かして、世界初のカーボンアイアンや、フルカーボンスノーボードを開発し、それぞれのスポーツでトップレベルのカーボンプロダクトを造り出していく。
これらのスポーツ用品の開発・製作によって、蓄積したカーボン成形技術を持つヨネックス。これらのカーボン技術を結集し、新たに参入したのがスポーツサイクルの世界だった。そして処女作にして世界最軽量クラスの単体650gのフレームとして完成したのが「カーボネックス」だ。ヨネックスのカーボン技術の原点ともいえるラケットの名を受けつぐことからも、同社のフレームにかける決意が伝わってくる。
各スポーツの製品群において優れたカーボン成形技術を持つヨネックスであるが、自転車フレームの開発は初めての経験だ。「当初は、本当に作れるのか?というところから始まりました」と前田さんは語る。まさしくゼロからのスタートとなったカーボネックスの開発。しかし、台湾のカーボンフレーム工場を視察する中で、以前はラケットを製造していた工場が現在は自転車フレーム製造を行っている例に触れ、必ず開発できるという自信を深めていった。ただ、やはりその道のりは決して平坦ではなかったという。型を起こし、基材を用意して、カーボンの積層を調整していくなかで、100本以上のフレームの試作品を造ってきたという。
カーボネックスの開発コンセプトは第一に「軽量性」。次に「振動吸収性」を重要視したとのこと。また、軽量モデルでありながら、高いレベルのサイクリストの踏力にも負けない剛性を確保する設計がされているという。開発にあたっての目標としたのは、同じく軽量ロードフレームであるキャノンデールのスーパーシックスEVOだという。その他にも、いわゆる軽量フレームと呼ばれるものは一通り研究している。
カーボネックスには、これまでヨネックスが蓄積してきたカーボン技術が余すところなく投入されている。例えばチェーンステーには、ラケットの開発で培った、カーボンの反発力を最大限に活かす独自の形状理論「Oval Pressed Shaft(O.P.S.)理論」を用い、剛性と振動吸収性、そしてトラクション性能を両立している。
シートステー及びダウンチューブには、スノーボードに使用される新素材のチタン合金「ゴムメタル(登録商標名)」を使用する。塑性変形せず、エネルギーロスがないという特性と、形状記憶性という2つの特性を持つゴムメタル。ダウンチューブ側に使用されているゴムメタルはエネルギーロスの少ない特性を、シートステー側では形状記憶性からくる振動減衰性能を発揮するように配置されている。
チタン合金と聞くと、「どのようにフレームに配置されているのか?」と疑問に思うかもしれないが、金属のパイプが入っているわけではなく、繊維状の金属をカーボンのプリプレグに配置していく工法とのこと。
イメージとしては、一部のメーカーが振動減衰を目的としてケブラーやベクトランを混合素材として使用しているのを想像してもらうとわかりやすいだろう。
使用されるカーボンプリプレグには、X-フラーレンと呼ばれるナノマテリアルを添加。X-フラーレンとは樹脂同士の結合を強固にする架橋構造を形成する新素材で、これまで同じ目的で使われてきたカーボンナノチューブよりも高い性能を発揮するという。この技術もテニスラケットをはじめとして、ヨネックスの多くの製品に採用されている。
成形方法一つをとっても、ヨネックスは徹底してこだわっている。プリプレグを金型に貼りあわせていくことでフレームを成形するモノコックフレームでは、製作者の熟練度によって品質が左右される。
接合部におけるカーボンプリプレグの重なりが大きければ大きいほど、応力が分散されず、重い割に全体的な強度の低いフレームとなってしまう。
そのような品質のばらつきを防ぐために、カーボンの積層時に可能な限り重なりが少なくなるようなパターンでプリプレグをカットすることで、一貫して安定した品質の維持と、軽量で強度の高いフレーム性能を実現した製品にできたという。また、国内の製造工場での人員も経験豊かなスタッフを揃えることで、均一な品質の製品を作り続けることができる体制を整えているという。
今年の2月ごろに公開されていたプロトタイプのフレームと製品版のフレームには、細やかな違いではあるものの、多くの改良が加えられていた。日本人特有の右前・左後のブレーキワイヤールーティングに対応するよう、リアブレーキのアウター受けがトップチューブ右側面に配置されるように変更されたり、シフトワイヤーが内蔵仕様になったりと、完成度が高くなっている。
同社の1作目ということもあり、軽量なオールラウンドモデルとして開発されたカーボネックス。乗り味としては、適度な剛性感を持ちつつ、高い快適性を持つことでヒルクライムからロングライドまでシチュエーションを問わずに活躍できる万能フレームとしている。今後、エアロモデルや、より剛性に振ったモデルなどもリリースすべく計画しているという。
バドミントンや、テニス、スノーボードでは、世界のトップブランドとして君臨するヨネックス。スポーツサイクルにおいての目標は「純国産メーカーとして、2020年の東京オリンピックで日本代表にヨネックスに跨ってもらうこと」だ。その目標への一歩目として、否が応でも期待が膨らむカーボンフレームだ。
text:Naoki.Yasuoka
photo:So.Isobe
1980年、バドミントンラケットにおいて、世界で初めてカーボンを採用し、100gを下回る重量を実現した当時最軽量ラケット「カーボネックス8」を世に送り出したヨネックス。その後、カーボンに対する深い造詣を活かして、世界初のカーボンアイアンや、フルカーボンスノーボードを開発し、それぞれのスポーツでトップレベルのカーボンプロダクトを造り出していく。
これらのスポーツ用品の開発・製作によって、蓄積したカーボン成形技術を持つヨネックス。これらのカーボン技術を結集し、新たに参入したのがスポーツサイクルの世界だった。そして処女作にして世界最軽量クラスの単体650gのフレームとして完成したのが「カーボネックス」だ。ヨネックスのカーボン技術の原点ともいえるラケットの名を受けつぐことからも、同社のフレームにかける決意が伝わってくる。
各スポーツの製品群において優れたカーボン成形技術を持つヨネックスであるが、自転車フレームの開発は初めての経験だ。「当初は、本当に作れるのか?というところから始まりました」と前田さんは語る。まさしくゼロからのスタートとなったカーボネックスの開発。しかし、台湾のカーボンフレーム工場を視察する中で、以前はラケットを製造していた工場が現在は自転車フレーム製造を行っている例に触れ、必ず開発できるという自信を深めていった。ただ、やはりその道のりは決して平坦ではなかったという。型を起こし、基材を用意して、カーボンの積層を調整していくなかで、100本以上のフレームの試作品を造ってきたという。
カーボネックスの開発コンセプトは第一に「軽量性」。次に「振動吸収性」を重要視したとのこと。また、軽量モデルでありながら、高いレベルのサイクリストの踏力にも負けない剛性を確保する設計がされているという。開発にあたっての目標としたのは、同じく軽量ロードフレームであるキャノンデールのスーパーシックスEVOだという。その他にも、いわゆる軽量フレームと呼ばれるものは一通り研究している。
カーボネックスには、これまでヨネックスが蓄積してきたカーボン技術が余すところなく投入されている。例えばチェーンステーには、ラケットの開発で培った、カーボンの反発力を最大限に活かす独自の形状理論「Oval Pressed Shaft(O.P.S.)理論」を用い、剛性と振動吸収性、そしてトラクション性能を両立している。
シートステー及びダウンチューブには、スノーボードに使用される新素材のチタン合金「ゴムメタル(登録商標名)」を使用する。塑性変形せず、エネルギーロスがないという特性と、形状記憶性という2つの特性を持つゴムメタル。ダウンチューブ側に使用されているゴムメタルはエネルギーロスの少ない特性を、シートステー側では形状記憶性からくる振動減衰性能を発揮するように配置されている。
チタン合金と聞くと、「どのようにフレームに配置されているのか?」と疑問に思うかもしれないが、金属のパイプが入っているわけではなく、繊維状の金属をカーボンのプリプレグに配置していく工法とのこと。
イメージとしては、一部のメーカーが振動減衰を目的としてケブラーやベクトランを混合素材として使用しているのを想像してもらうとわかりやすいだろう。
使用されるカーボンプリプレグには、X-フラーレンと呼ばれるナノマテリアルを添加。X-フラーレンとは樹脂同士の結合を強固にする架橋構造を形成する新素材で、これまで同じ目的で使われてきたカーボンナノチューブよりも高い性能を発揮するという。この技術もテニスラケットをはじめとして、ヨネックスの多くの製品に採用されている。
成形方法一つをとっても、ヨネックスは徹底してこだわっている。プリプレグを金型に貼りあわせていくことでフレームを成形するモノコックフレームでは、製作者の熟練度によって品質が左右される。
接合部におけるカーボンプリプレグの重なりが大きければ大きいほど、応力が分散されず、重い割に全体的な強度の低いフレームとなってしまう。
そのような品質のばらつきを防ぐために、カーボンの積層時に可能な限り重なりが少なくなるようなパターンでプリプレグをカットすることで、一貫して安定した品質の維持と、軽量で強度の高いフレーム性能を実現した製品にできたという。また、国内の製造工場での人員も経験豊かなスタッフを揃えることで、均一な品質の製品を作り続けることができる体制を整えているという。
今年の2月ごろに公開されていたプロトタイプのフレームと製品版のフレームには、細やかな違いではあるものの、多くの改良が加えられていた。日本人特有の右前・左後のブレーキワイヤールーティングに対応するよう、リアブレーキのアウター受けがトップチューブ右側面に配置されるように変更されたり、シフトワイヤーが内蔵仕様になったりと、完成度が高くなっている。
同社の1作目ということもあり、軽量なオールラウンドモデルとして開発されたカーボネックス。乗り味としては、適度な剛性感を持ちつつ、高い快適性を持つことでヒルクライムからロングライドまでシチュエーションを問わずに活躍できる万能フレームとしている。今後、エアロモデルや、より剛性に振ったモデルなどもリリースすべく計画しているという。
バドミントンや、テニス、スノーボードでは、世界のトップブランドとして君臨するヨネックス。スポーツサイクルにおいての目標は「純国産メーカーとして、2020年の東京オリンピックで日本代表にヨネックスに跨ってもらうこと」だ。その目標への一歩目として、否が応でも期待が膨らむカーボンフレームだ。
text:Naoki.Yasuoka
photo:So.Isobe