ヴィットリア Cross XG Pro TNT(Tubeless)は、同社のシクロクロスタイヤのスタンダードとも言える Cross Evo XG II のチューブレスバージョン。これから注目の新しいジャンルと言えるCXタイヤを徹底テストした。



ヴィットリアCross XG Pro TNT チューブレスタイヤヴィットリアCross XG Pro TNT チューブレスタイヤ (c)Makoto.AYANO
320TPIケーシングによるしなやかな乗り心地と柔らかなハンドリング性能が特徴のチューブラーから、扱いやすい150TPIケーシングのクリンチャー、そして今回テストを行うチューブレスの3タイプが揃うCROSS XG。3タイプ共に、ヴィットリアが得意とするケーシング技術を汲むシクロクロスタイヤとなっている。いずれもMTB ワールドカップの経験を基に生まれた新しいトレッドコンパウンドと、セルフクリーニング・トレッド・パターンにより、ぬかるみや泥道でも最大限のトラクション性能とコントロール性能を発揮する。

ヴィットリアCross XG Pro TNT チューブレスヴィットリアCross XG Pro TNT チューブレス いわゆる「グリフォパターン」でオールラウンドな路面に対応するいわゆる「グリフォパターン」でオールラウンドな路面に対応する


同社の誇るTNTテクノロジーとは、「TUBE NO TUBE」の略称だ。Cyclocross TNTは、同社のMTBタイヤブランドであるGeax (ジアックス)MTB TNTレーシング・タイヤと同じ性能を取り入れてシクロクロスタイヤに最適化し、速く、柔軟性があり、パンクしないタイヤに仕上がっているという。

シーラント剤 Pit Stop TNT Evo 原料は天然ラテックスシーラント剤 Pit Stop TNT Evo 原料は天然ラテックス TNTチューブレスでは通常のチューブドタイヤのケーシングでは到達できないレベルの軽量化と高い柔軟性を実現。更にサイドウォールの強化によって耐切断性能が上がり、より積極的なライドができるタイヤとなっているという。

チューブレスの一般的特性として、タイヤとチューブを使うセット重量よりも軽量にすることができ、低い転がり抵抗を実現、信頼性とコーナリング時の性能も向上させることができる。シーラントとしてヴィットリア指定のリキッド・ラテックス「Pit Stop TNT Evo」を注入することで、これらのチューブレスタイヤの高性能を手に入れることができるとしている。



インプレッション

Stans社 NO TUBE ZTR CREST 29erリムで組んだホイールに取り付けたStans社 NO TUBE ZTR CREST 29erリムで組んだホイールに取り付けた チューブレスのシクロクロスタイヤとしては、話題をまいたIRC SERAC CX チューブレス(インプレッション記事)がある。そちらは国産タイヤだけに製造者であるIRC担当者から直接情報が得られ、各地のシクロクロス会場でもブース出展により盛んにプロモーションがされたため、認知度が高まり、高評価につながった。しかしヴィットリアがこのタイヤを2012年末の段階でリリースしていたことはあまり知られていないようだ。

チューブレスならではのトレッド内部チューブレスならではのトレッド内部 ビード部の形状 USTリムに最適化されているとのことだが、他社リムへも適合することがわかったビード部の形状 USTリムに最適化されているとのことだが、他社リムへも適合することがわかった ヴィットリア・ジャパンによれば、このチューブレスタイヤはマヴィックのUSTリムを想定して設計されたもので、それ以外のリムとの嵌合適合性などは未確認との話だった。そのため今回のテストではあえてStans社のNO TUBE ZTR CRESTリム、それもCX用ではなくMTBの29er用で試してみた。通常このリムはMTB用だが鈴木祐一さん(ライズライド)の勧めもあり、太めのシクロクロスタイヤを装着できるホイールとして組んだものだ。タイヤの嵌め込み状況からのインプレとしよう。

このリムは幅24.4mmで、通常のCXリム(同社IRON CROSS)より1.2mmほど幅広となる。嵌め込みはスムーズで問題なくできた。手だけですべてはめることはできなかったが、ビードワックスを使用したこともあり、IRC製のチューブレス用タイヤレバーを用いる必要は最小限だった。

はめ込んだ状態でエアを充填した結果、2日間ほどは高圧状態をほぼ低下無く保ったので、シーラント液の注入無しでもエア漏れはほとんど無かった。もちろんこれはリムとタイヤの相性によるので、必ずしもすべてのチューブレスリムでOKとは言い切れないが、このことからマヴィックUSTリム専用タイヤとは思わなくて良いようだ。(もちろん自己責任の範囲においてだが)

Stans社 NO TUBE ZTR CREST 29erリムは、MTBクロカン界ではメジャーなリムであるため使用している人が多いはずだ。つまりディスクブレーキ仕様のチューブレスホイールなら、CXバイクにも流用が可能であることもヒントとして付け加えておこう。決して「対応ホイールが少ない」ということではない。

Stans社のリムテープとチューブレス用バルブStans社のリムテープとチューブレス用バルブ カンパニョーロ製チューブレス用バルブを使用した。コアが外せるタイプだカンパニョーロ製チューブレス用バルブを使用した。コアが外せるタイプだ

Stans社のNO TUBEリムテープを貼った状態。これでチューブレス化が可能だStans社のNO TUBEリムテープを貼った状態。これでチューブレス化が可能だ IRC製のチューブレス用タイヤレバーはタイヤを傷めないためオススメだIRC製のチューブレス用タイヤレバーはタイヤを傷めないためオススメだ


そしてバルブコアを外してリキッドを注入。もともとエア漏れが無かったため、軽量化のためには注入量を最小限に留めれば良いはずだ。ちなみにヴィットリア・ジャパンの担当者に確認したところ、同社はGeax製のTNTリキッドも用意しているが、ヴィットリアネームのPit Stop TNT Evoのほうが高性能とのことだった。このピンクの液体の原料は天然ラテックスであるとのこと。なおこの製品は天然素材とはいえシーラント剤の使用が可能なリムへの使用を前提としたもの。メーカーから使用禁止とされているリム(シマノ等)へは基本使用を避けて欲しいというのがヴィットリア側の公式アナウンスだ(天然ラテックスがアルミ腐食を引き起こすとは考えにくいが)。

リムとタイヤは規格上は少々イレギュラーな組み合わせだが、装着やシーラント注入に関しては問題なかったことで、29erMTBホイールが使用できるとなればこのタイヤが選択肢に上がる人はそれなりに増えるだろう。ノギスで外径を測っても、太ることなく32mmジャストで規定上も問題は無かった。

コアを外せるタイプのバルブに注入可能だが、外せない場合はタイヤサイドから注入という方法もあるコアを外せるタイプのバルブに注入可能だが、外せない場合はタイヤサイドから注入という方法もある コアを外したバルブ部よりPit Stop TNT Evo液を注入するコアを外したバルブ部よりPit Stop TNT Evo液を注入する 走ってみての第一印象は、タイヤに強いコシがあること。そしてグリップ感が突出している。とくに芝生や土系の路面でのグリップが非常に高い。エリートライダーの定番的存在のデュガストやFMB、チャレンジのコットン系タイヤ(仮にここでは”デュガスト系”と呼ぼう)と比べると、ノブが路面に良く効き、強力なグリップを生み出してくれる印象がある。

極細のコットン(あるいは絹)のケーシングによるしなやかなサイドと生ゴム系のインナーチューブとトレッドで「ふわふわした乗り心地」のデュガスト系タイヤと方向性はまったく違い、このタイヤはやや硬めでグイグイとグリップを生み出してくれる。とくにコーナリンググリップは非常に高いものがある。

デュガスト系タイヤなら1.5〜1.8気圧ほどが基準になるところを、体重65kgほどの私の場合、このタイヤの場合は2.0〜2.2気圧ほどを基準空気圧とするのが良いように感じている。もっとも、タイヤサイドには「MIN 3BAR(=最低3気圧以上で使用すること)」という表示がある。

ヴィットリアCross XG Proチューブレスを装着したリドレーX-FireヴィットリアCross XG Proチューブレスを装着したリドレーX-Fire これはおそらくメーカーとして「タイヤがリムから外れない安全上のマージンを持った数値」であり、性能上の最適空気圧を示したものではないと思っている。つまり3気圧以下は自己責任での設定というわけだ。ちなみに3気圧入れるとオフロードでは跳ねてしまって使いものにならない。

このタイヤの性能がもっとも光る点は滑りやすいキャンバー(斜面)や芝、緩んだ土質の路面で強力なグリップを発揮してくれることだと感じた。多くのキャンバー走行を強いられた関西クロス第7戦・烏丸半島で実戦テストした際、多くの人が滑ってしまい乗れなかった土の斜面で、グイグイとグリップしながら走れたことは驚きだった。後輪は2気圧以下にすればクッション性は良くなるが、前輪は2気圧をキープしたほうが高いコーナリンググリップを活かした攻めの走りができた。

Cross XGのチューブラーバージョンのインプレッション記事で鈴木祐一さんがコメントしているように、このチューブレスタイヤも強力なグリップ力が際立つタイヤだといえる。空気圧を低く設定することで性能が引き出せるデュガスト系タイヤとはまったく性格が違い、高いグリップ力が必要な場面で実力を発揮するタイヤだと感じた。グリップ力勝負のコースでは間違いなく大きな戦力になると思う。

関西シクロクロス第7戦滋賀・烏丸半島を走るCW編集部・綾野。ぬかるんだ土とキャンバー走行を強いられたが、ヴィットリアCross XG Pro TNT チューブレスの高グリップに助けられた関西シクロクロス第7戦滋賀・烏丸半島を走るCW編集部・綾野。ぬかるんだ土とキャンバー走行を強いられたが、ヴィットリアCross XG Pro TNT チューブレスの高グリップに助けられた (c)Kei.Tsuji
チューブレスの特性から、やはり空気圧を下げても腰砕けしない、ヨレない、スネークバイトパンクしない、クッション性には満足できるという点で、チューブを使用するクリンチャーバージョンより格段上の性能を獲得できている。

また、その性能とこの高いグリップ力とを考えれば、クロス入門者でまだバイクの扱いが上達しきれていない人にはデュガスト系高級タイヤよりもコーナーで安心して攻めた走りができそうだとも感じた。チューブラータイヤの貼り付けやケアに面倒さを感じる人、その時間が取れない忙しい人には、これ一本でトレーニングとレース両方で使える性能を満たしていると思う。もちろんカテ1で上位を狙うとなると話は違ってくるが。

ぬかるんだ土系の路面でのグリップ力の高さに安心感が高いぬかるんだ土系の路面でのグリップ力の高さに安心感が高い シクロクロスシーズンももうすぐ終わり。そうなれば誰しもオフシーズンのCXバイクの活用法を考える時期だ。チューブラーCXタイヤではツーリングやトレールライドに不安が残り、スペアタイヤの問題もつきまとうため走りに行くこと自体が現実的でない。かといってクリンチャータイヤの性能には満足行かないというジレンマがある。このCross XG Pro TNTチューブレスタイヤなら性能的にも大満足で、サドルバッグにはスペアチューブを用意すれば良い。

高グリップが必要な路面に対応する決戦タイヤとして、あるいはトレーニングやツーリングに対応できる普段使いの高性能CXタイヤとして、非常に使い勝手のいいオールラウンドタイヤだと感じる。

約1ヶ月のテスト期間でパンクが1度あったが、Pit Stop TNT Evoを注入し直すと穴はすぐに塞がった。この点でもチューブレスの美点はある。シーラントを使用することの面倒さはあるものの、そこで得られるメリットは大きい。



ヴィットリア Cross XG Pro TNT (Tubeless)
サイズ:28”-32mm
ケブラービード、チューブレスホイールに対応した150TPI のTNTケーシング。
価格:¥5,959(税込)

マッド用2014年モデル Cross XL Pro TNT(Tubeless)

ヴィットリア CROSS XL PRO TNTヴィットリア CROSS XL PRO TNT (c)ヴィットリア・ジャパン
150TPI
サイズ:700x33c
重量:460g
価格:5,959円(税込)

ヴィットリア PIT STOP TNT EVO(シーラント剤)
注入量の目安:28”-32mmの場合50ml(タイヤ1本あたり)
内容量:200ml
主な成分:ナチュラルラテックス
価 格:2,993円(税込)
PIT STOP TNT EVOの使用法と製品紹介はこちら

ホイール組み立て協力:鈴木祐一(サイクルショップRiseRide
photo&text:Makoto.AYANO