2012年にデビューしたアンカーのフラッグシップロードレーサー、RIS9。その流れを汲むエントリーレベルのフルカーボンロードレーサーがRS8だ。過度な軽量化は追求せず、ハードユースにも耐え得る頑丈さを目指したというバイクの性能に迫る。

アンカー RS8 ELITEアンカー RS8 ELITE (c)MakotoAYANO/cyclowired.jp
ホビーライダーならば誰もが知り得るであろう、純国産ブランド、アンカー。ロードバイクに関してはカーボンからアルミ、そしてクロモリまで幅広いラインナップを誇っているが、現在最も需要が見込まれるエントリー層向けカーボンバイクに関しては存在が無かった。

そして2014年モデルとして、その穴を埋めるべくデビューしたのが今回インプレッションを行う「RS8」。フラッグシップレーシングバイクとして確かな実績を誇る「RIS9」をベースに開発された、エントリー〜中級ホビーレーサーをターゲットとしたフレームセット価格15万円台のフルカーボンバイクである。

シートチューブに記されたRS8のロゴシートチューブに記されたRS8のロゴ 上下ベアリング径はそれぞれ1-1/8と1-1/4だ上下ベアリング径はそれぞれ1-1/8と1-1/4だ フロントフォークはRIS9同様の造形とされ、シャープなハンドリングを演出するフロントフォークはRIS9同様の造形とされ、シャープなハンドリングを演出する


全てのモデルに通ずる、アンカーらしい質実剛健なフォルムを描くRS8。そのコンセプトは、価格を抑えながらレースに対応する機敏な走りを実現し、かつ長期間のハードユースにも耐え得るタフネスを実現することにある。基本設計はヘッド〜ダウンチューブの剛性を高めつつ、トップチューブ周辺でしなやかさを求めるというRIS9同様であり、トップモデル同様のシャープなフィーリングが追い求められた。

3ピース構造から成るRS8には断面積を増した大口径のフロント三角が採用されているが、その中でも注目はダウンチューブだ。ヘッドチューブ寄り部分は長方形断面だが、BB側に向かうにつれて正方形断面へと形を変え、プレスフィット式BBシェルを独自の形状で包み込む大ボリュームをもってチェーンステーへと接続されている。これは加速性と反応性を高めるという、RIS9にも通じるコンセプトに則ったものだ。

緩く湾曲したトップチューブはロングライドモデルRL8とほぼ同様だ緩く湾曲したトップチューブはロングライドモデルRL8とほぼ同様だ メンテナンス性を高める外装ワイヤー(Di2ケーブルはフレーム内蔵となる)メンテナンス性を高める外装ワイヤー(Di2ケーブルはフレーム内蔵となる)

BBはプレスフィット方式を採用しているBBはプレスフィット方式を採用している ダウンチューブがBBシェルを包み込むかのような形状だダウンチューブがBBシェルを包み込むかのような形状だ


ダウンチューブがそうして剛性を高めている一方で、しなやかさを生み出すトップチューブはアンカーのロングライドモデル「RL8」と同様の形状を導入している。トップチューブ付近で屈曲し、緩やかな弧を描くデザインは衝撃を和らげ、ロングライドや長距離レースでの余分な疲れを排除する役目を与えられているのだ。

リアバックの造形や、ジオメトリーもRIS9をベースとしたものだ。シートステーが細身であるのに対して、ペダリングパワー伝達の要であるチェーンステーはBB側を比較的断面形状の大きな角形とされている辺りには、アンカーの設計思想を見てとることができる。

エンドやハンガー、フロントディレイラー受けはアルミ製年、耐久性を高めているエンドやハンガー、フロントディレイラー受けはアルミ製年、耐久性を高めている Di2バッテリーの取り付け位置。箱形断面のチェーンステーはRIS9に準じたものDi2バッテリーの取り付け位置。箱形断面のチェーンステーはRIS9に準じたもの


今日のカーボンロードフレームにおいて、上下異形ベアリングのテーパードヘッドは欠かすことのできない存在であろう。当然の如くRS8もこの機構を導入しており、ベアリング径は上下でそれぞれ1-1/8と1-1/4。超大径ベアリングを使わないのは、軽量化という意味に加え、それを使わずとも必要な剛性を確保できているからだという。

実用第一に造り上げられたRS8のフレーム重量は、490サイズで1170g。巷のハイエンドモデルが600g台後半を達成している今日では決して軽量と言えないが、それはレース等での破損リスクに臆さず乗り込んで欲しいという開発陣からのメッセージでもあろう。アルミ製のエンドとFディレイラーハンガー、二重構造の鍛造ケーブルホルダーなども、その理念に通ずる要素の一つである。

リアブレーキのブリッジはオーソドックスな作りだリアブレーキのブリッジはオーソドックスな作りだ 下に向かうにつれて太くなるシートチューブ下に向かうにつれて太くなるシートチューブ ダウンチューブ下側にもANCHORロゴが入るダウンチューブ下側にもANCHORロゴが入る


数種類ある販売パッケージの中から、今回インプレッションに使用したのはシマノ6800系アルテグラをフルセット搭載した「RS8 ELITE」。ホイールは同WH-RS21で、完成車重量はカタログスペックで8.0kgだ。早速インプレッションに移ろう。



ーインプレッション

「日本人にマッチしたミドルスペックのレーシングバイク」江下健太郎(じてんしゃPit)

ハンドリングの切れ込みの良さが特徴的で、良く曲がるレーシングバイクでした。軽量バイクと比べれば重量がありますが、走りの鈍さには繋がっていません。しっかりと作り込まれているという印象があります。

「日本人にマッチしたミドルスペックのレーシングバイク」江下健太郎(じてんしゃPit)「日本人にマッチしたミドルスペックのレーシングバイク」江下健太郎(じてんしゃPit) フレームセットでの重量はカーボン素材にしては重めの1170gですが、乗り味に関しては、この重さががっしりと硬さを生み出しています。BBを包み込んでいるようなフレームの造形や、ハンガーシェルがアルミであることが、全体の堅さにつながっていますね。

通じて路面の振動をライダーへと素直に伝えてしまう性格がありますが、レーシングバイクであることを考えると許容範囲内だと言えるでしょう。どちらかと言えば重いギアでペダルを踏み込むような乗り方が適していると思います。

フロント周りはテーパーヘッドを採用することで剛性を上げていますが、フォークのクラウン部分とコラムの付け根が比較的柔らかいのか、フロントをこじるようなハードブレーキングの際には前後方向のたわみを少し感じます。

これによりオフセット量が少なくなるため、フロントに荷重を掛けてコーナーに進入する場合にはよりクイックなハンドリングが生じているかもしれません。

安定志向のバイクから乗り換えた場合には多少の不安定さを感じるかもしれませんが、慣れの範疇には収まっています。良く言えば俊敏ですから、狙ったラインに上手く載せられた際の気持ち良さはとても強かったです。

乗ってすぐスッと馴染む、日本人の体形に合うフレーム設計はさすがアンカーと言える部分ではないでしょうか。重心がバイクの中心部分にありますし、登坂などでプッシュして前乗りになった時にもバランスがとりやすく、コントローラブルであると思います。

RIS9の弟分、ラインナップ中のミドルグレードということもありますが、性能で見てもこれからロードバイクに乗り始めようとする人向けのバイクです。堅牢に作られたフレームですから、落車などによるバイクへの衝撃にも強いはず。段差やギャップなどを上手く乗り越えられなかったり、力任せに乗りがちなビギナーライダーにも適しているでしょう。「このバイクと共に上達していって欲しい」、そんなメーカーからのメッセージを感じます。ケーブルが全て外出し式となる点も、メンテナンスという面で言うととても親切ですね。

フレームが描くカーボンならではの曲線美や、カーボンレーシングバイクに乗っている、という所有欲も、このRS8はしっかりと持ち合わせていると思います。価格に対しての性能も十分ですし、コストパフォーマンスは高いと言えるでしょう。10代の学生や、これからロードレースにチャレンジしようという方にオススメの一台です。

流線型を描く曲線美を持っていることや、カーボンレーシングバイクに乗っていることが所有欲を満たすのには十分なフレーム性能を持っていて、コストパフォーマンスが高いです。ミドルグレードのこのバイクは、10代の学生からこれからロードバイクを始めようとする人にオススメの一台です。


「ロードバイクの基本を掴むのに最適な一台」小西裕介(なるしまフレンド)

目立ったクセがなく、非常にバランスが良く取れたバイクという第一印象です。バイク全体の剛性感が統一されていて、フロント周りとリア周りという前後の挙動がマッチしていることから挙動を掴みやすく、乗ってすぐに馴染める性格がありました。

フレーム自体は高剛性というイメージではなく、どちらかと言うとハイエンドピュアレーサーに対しては柔らかめに作られていると思います。個人的にこの部分はアンカーの特徴だと感じているのですが、ペダルを踏み込んだときに、バイクが一瞬たわんでペダリングパワーを吸収してから、その反発を活かし加速していくという乗り味を感じました。鋭い加速というよりも、スピードの伸びや持続力に長けているバイクですね。

「ロードバイクの基本を掴むのに最適な一台」小西裕介(なるしまフレンド)「ロードバイクの基本を掴むのに最適な一台」小西裕介(なるしまフレンド)
フレームの剛性バランスが良いという話をしましたが、これによりブレーキを強くかけてもストッピングパワーが逃げることがありません。剛性感がありながらも路面の凹凸を上手くいなしてくれる柔らかさも兼ね備えていました。レーシングスペックのバイクですが、一方で乗り心地も追求してあると思います。

このバイクは極端なハイケイデンスやトルク型のペダリングよりも、ノーマルなケイデンスかつパワーを掛けて走らせた際に一番バイクが進み、とこまでも走っていけるようなフィーリングがありました。登りではダンシングでハイパワーをかけながら一気に登っていくような短い急勾配の登坂より、ケイデンスを一定に保ちながら一定ペースのシッティングで登っていく、勾配が緩く長い登りのほうが向いていると思いました。

ハンドリングに関しては、狙ったところに切り込んでいくことのできるニュートラルステアです。軽すぎる不安定感や、直進性が強すぎるという感じはないですね。体重の左右への重心移動にバイクが素直に追従してくれます。

レースで使うとなると、ホビーレースから登録レースまで対応できるでしょう。レーシングスペックバイクですから、集団の加減速に対しても問題無く対応できるはず。ダンシングで休むことができるバイクですから、アップダウンの多いコースに向いていると感じます。

完成車パッケージからホイールを換えるとしたら、しっかりと芯のある高剛性ホイールが向いているはずです。しかし今回のテストバイクスペックでもそのままレースに対応できますから、これからレースにチャレンジしたい方はもちろん、初めての一台にもピッタリだと思います。基本はレーサーですが、柔軟性もあるため快適性にも優れており、ロングライドにも良いですね。基本に忠実なロードバイクですから、「基本」を掴んだり、習得するのに最適だと思います。

アンカー RS8 ELITEアンカー RS8 ELITE (c)MakotoAYANO/cyclowired.jp
アンカー RS8 ELITE
フレームサイズ:460-490-520-550mm
フレーム:3Pieces Carbon インテグラルヘッド、Pressfit BB
フロントフォーク:Carbon Monocoque、ストレート形状 スーパーオーバーサイズ
コンポーネント:シマノ 6800系アルテグラ
ホイール:シマノ WH-RS21
ステム、ハンドル、シートポスト:デダ
カラー:Racing REDほか、カラーオーダー可能
価格:295,238円(税抜)



インプレライダーのプロフィール

江下健太郎(じてんしゃPit)江下健太郎(じてんしゃPit) 江下健太郎(じてんしゃPit)

ロード、MTB、シクロクロスとジャンルを問わず活躍する現役ライダー。かつては愛三工業レーシングに所属し、2005年の実業団チームランキング1位に貢献。1999年MTB&シクロクロスU23世界選手権日本代表。ロードでは2002年ツール・ド・台湾日本代表を経験し、また、ツール・ド・ブルギナファソで敢闘賞を獲得。埼玉県日高市の「じてんしゃPit」店主としてレースの現場から得たノウハウを提供している。愛称は「えしけん」。

じてんしゃPit



小西裕介(なるしまフレンド)小西裕介(なるしまフレンド) 小西裕介(なるしまフレンド)

なるしまフレンド立川店店長。登録レーサーを経験し、メカニックの知識も豊富で走ることからメカのことまでアドバイスできるノウハウを持つ。レース歴は19年。過去ツール・ド・台湾などの国際レースにも出場するなど、トップレベルのロードサイクリストとして活躍した経歴を持つ。脚質はサーキットコースを得意とするスピードマンだ。



なるしまフレンド


ウェア協力:ビエンメ

text:So.Isobe
photo:Makoto.AYANO

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