昨日までの熱気は露と消え、翌日の滝沢牧場にあったのは、のんびりとした雰囲気と撤収作業にあたる工具の音。野辺山シクロクロス翌日の会場を訪ね、牧場を経営する滝沢恒夫さんほか関係者に話を聞いた。

多くのバイクが駆け下りたフライオーバー。分解して保管し、来年の出番を待つ多くのバイクが駆け下りたフライオーバー。分解して保管し、来年の出番を待つ
大会翌日もまた、抜けるような青空と、10℃に届こうかという暖かさ。その下ではおよそ20人のスタッフが会場の撤収作業にあたっていた。野辺山シクロクロスの会場として自転車乗りの間で有名になった滝沢牧場は、普段は八ヶ岳の東山麓、標高1375mにあるのどかな観光牧場だ。イベント中、小屋の中に収まっていた牛や馬たちは屋外に出て、普段の落ち着きを取り戻した牧場でのんびりとくつろいでいる様子。

あっと言う間に分解されていくゴールゲートあっと言う間に分解されていくゴールゲート 2日ぶりに外に出た動物たちは気持ち良さそう2日ぶりに外に出た動物たちは気持ち良さそう


「後片づけは大変だけど、あっという間だよ。設置するのには丸2日間かかったからね。」と語るのは、牧場を経営する滝沢恒夫さん。南牧村の商工会長を務め、周囲の人たちから「大将」と慕われる存在だ。日本で一番JOHN DEERE(ジョン・ディア:アメリカの農機具ブランド)のツナギが似合うであろう滝沢さんに、片付けの合間に時間を頂戴しお話を伺ってみた。



話を聞いた瞬間にやろうと思った

農場を経営する滝沢恒夫さん農場を経営する滝沢恒夫さん 本当に今回は天気に恵まれて良かった。気温も10℃ぐらいあったから、走る人たちはもちろん、設営も片付けもやりやすくてラッキーだよね。トップレーサーの人たちはもっとひどい状態のほうが満足だったかもしれないけれどさ(笑)。

「牧場は痛んでしまうけれど、皆の笑顔を見たら愚痴こぼしている場合じゃない」「牧場は痛んでしまうけれど、皆の笑顔を見たら愚痴こぼしている場合じゃない」 最初に矢野(大介:Rapha Japan代表)さんから大会をやりたいと言われたとき?うん、その瞬間に「よし、やろう!」って思ったね。古い村の人間からすれば矢野さんは新しく村に入ってきた人だから、「何言ってるんだ」って人もいた。でもそういうのは考え方が古いじゃない。この南牧村は昔からのしきたりに拘る部分があるけど、僕は新しいことをどんどんやりたいんだ。

地域にとって最高のイベントに成長した

地域にとっては野辺山シクロクロスは最高のイベントだし、個人的にも日本一の大会に育ってくれて、本当に開催して良かったと思っているよ。僕は「やるんだったら日本一」っていうポリシーがあるからね。

将来的には、この内容の濃さと盛り上がりのまま、別の会場でもやりたいと思っている。そうすればウチだけじゃなくて村全体が盛り上がるし、色々な需要も増えるはずだよ。

「みんなの笑顔を見たら、僕らの犠牲なんて関係無いんだ」

正直言って、牧場の敷地内でシクロクロスレースをやるなんて、牧場主の立場で見たらとんでもない被害だよ(笑)。牧草地は全部痛んじゃうし、泥の掃除は大変だし、通常の観光業務はほぼ5日間ストップさ。だけど地域の活性化とか、参加するみんなの笑顔を見たら愚痴こぼしてる場合じゃないよ。そんな犠牲なんてどうでもいいんだ。

もうシクロクロスをやる人の間では「野辺山」はブランド化してるそうだけど、一般的な視点でみたらまだまだだ。自転車に乗らない人でも知っているような大会にしたい。まだ地元でも知らない人がいるけれど、見に来てくれた人はみんな「凄い、凄い」と言ってくれるんだ。

スタッフに指示を出す滝沢さんスタッフに指示を出す滝沢さん 表彰台を運んだJOHN DEEREのトラクター表彰台を運んだJOHN DEEREのトラクター

缶コーヒーで一休み缶コーヒーで一休み ボランティアで参加した水野恭平さん。アメリカで自転車修行中のロードレーサーだボランティアで参加した水野恭平さん。アメリカで自転車修行中のロードレーサーだ


理想は、この野辺山シクロクロスに村の人たちがどんどん参加してくれるようになること。だから村民の参加は無料。まだ村からの参加は凄く少ないんだけれど、今後着実に増えてくれれば良いよね。

「だんだんと僕らのイベントだっていう実感が出てきましたよ。」「だんだんと僕らのイベントだっていう実感が出てきましたよ。」 地元で何かイベントを開催する上では、はやり商工会の協力無くしてはできない。でもイベントを開催して盛り上がるのは商工会の「商」の方。宿泊とか観光とか。だから「工」の部分にもメリットができるようにしないと、全会一致で大賛成、とはなかなか難しいよね。商工会長として、いろいろとその辺りは考えているんだ。

軽トラのダッシュボードに置かれたスタッフキャップ軽トラのダッシュボードに置かれたスタッフキャップ ー朝、作業にあたっていた商工会の方々に話を聞いたところ、「継続して開催するにあたって"僕らの大会"という意識が出てきたと思いますよ。設営や片付けも凄くスムーズになりました。」と言う。滝沢さんは難しいと言うが、着実に野辺山シクロクロスは、地域をあげたイベントとして定着してきているようだ。

野辺山を自転車の村にしたい

僕はこの大会をやるまで自転車のことを全く知らなかったよ。自分が乗らないから未だに良く分からないけど(笑)、でもこの野辺山には矢野さんをはじめ、中込夫妻(Sy-Nakキャビン)など自転車スポーツのプロがいる。だからそうった人たちを中心とした「自転車の村」みたいなものができれば良いと思っている。

「楽しかった思い出を、仲間に伝えてもらいたいと思うんだ」「楽しかった思い出を、仲間に伝えてもらいたいと思うんだ」 この辺りは隣の家に行くにも車を使っちゃうけれど、そこで自転車に乗り換えればみんな健康になるし、燃料代も食わないし。良いことずくめだと思うんだよ。アメリカのポートランドってのはそうなってるらしいじゃない。今は高原野菜で有名な野辺山だけど、自転車でも活性化させたいんだ。

天候も含めて、今回の内容ならみんな家に帰ったあと、仲間に「野辺山行ってきたよー!凄く楽しかった!」って言ってもらえると思うんだ。それが、僕が参加したみんなに期待すること。

特にシングルスピード仮装大会の盛り上がりは凄かったじゃない。最後にみんなで胴上げしたのなんて初めてのことだよ。そこで、みんなの気持ちが一つになっていたのを感じたんだ。嬉しかったね。



続く野辺山シクロクロスインタビューvol.2では、チェコから来日したUCIチーフコミッセール(審判)ミロスラフ・ヤーノ氏の談話を紹介します。UCIワールドカップや世界選手権など、世界の現場を知る彼から見た野辺山、そして日本のシクロクロスとは。世界の最前線で起こっていることとは?


text&photo:So.Isobe

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